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鋼女神話アサルトアイロニー  作者: ハルキューレ
海上編第三部~海上神秘~
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第十八海路 1 危険領域

「キー1010010111101011……本当にそこにいるんだな……」


 空母赤城の上甲板にて、その白黒メッシュの髪を風に遊ばせる少年、黛 ユナは呟く。やや大きめなリュックを背負った背後では、大きな警告音が侵入者を詠う。

 ここは上空。高度約二千メートル。


「計算上、あと三十秒で落下すればピッタリなんだけど……」


 少年の膝は笑っていた。白いシャツの上に紺の制服。真新しいのか皺のない海軍第一種平常服に身を包んだ少年は、ぎこちない手つきで黒色の酸素マスクを口につける。


「ダメだ急に怖くなってきた……。こんなことならパイロットの誰かしらけしかけて海面近くまで飛んでもらえばよかったか? いやでもあいつらプライド高いし……。そもそもペンギンどもはバカばっかで役に立たないし……」


 そんなことを一人まくし立てるように喋っていると、腕の時計が大きな音を立てる。

 その音の背後から、迷彩柄の第二種戦闘服に身を包んだ屈強な男たちが、怒りを露わにしながら走ってくる。


「ヤバい、システムハッキングしたのバレた。どのみちここにはいられないとは覚悟していたけど……」


 背後を確認した後、彼は足元を見る。ペンキで番号を振られた滑走路に立つ自身の足。そのつま先の向こうには、一面の青が広がっていた。

 前門の虎後門の狼と言わんばかりの二つの恐怖が、彼に押し寄せていた。

 前に飛べば重力と引力。そして後方に下がればまたあの薄暗い独房生活。


「飛んでやる! ペンギンだって……ハッカーだって飛べるんだ!」


 虎に背を向け少年は手を広げる。そのまま彼は狼の顔を眺めながら、青の世界に背中を預け宙へと倒れこむ。突風が彼を包み込み、危険(デンジャー)領域(ゾーン)へと誘う。透明なゴーグルのお陰で、空の青さと太陽の白さがはっきりとわかる。

 体を反転させると、太陽の光を反転させるまた別の青が映る。

 海と風と太陽を、体全体で感じるユナ。彼は初めて味わう感覚に、全神経を集中させる。

 彼は背中から伸びる一本の紐を力強く引く。空と海の間に、白く小さな海月が泳ぐ。それにより姿勢を安定させたユナの視界に映ったものは、レーダーからは隔絶された最後の神秘だった。


「ビンゴ。ここには何かしらあると思ってたんだ」


 彼の予想は的中した。それはカイナ島。アレッサンドロの襲撃を受けた次の日であった。


「メインパラシュート展開……展開……あれ」

 彼は降下時から大切そうに左手で握りしめていた紐を引く。確かめるように何回も。しかし何も起こらない。


「オイ、どうなってるんだこれ!」


 海面が近づいてくる。パニックに陥った彼には、着地点を決めることも出来ない。


「嫌だ、嫌だ嫌だァー」


 大きな悲鳴は海に呑まれ、大きな水柱を建てる。


―――


「……なんだよ。文句あんのか」


 視線を感じた鬼丸は、低い声で問いただす。頭には包帯が巻かれていた。


「いえ、アタシは何も言っていないわよ。しいて言うなら……」


 同じく頭に包帯が巻かれたクリスタは、一呼吸おいて、わざとらしく微笑みながらこう告げた。


「似合ってるわよ、その姿」


 彼女の目には、いつもの鬼丸の髪の毛が映っている。しかしその青い髪の中に数本、左前髪の部分に赤いメッシュが入っている。


「腕のいい美容師みたいね。今度紹介してくれないかしら?」


「お前といい八型改といい、人が悪いにもほどがあるだろ」


 鬼丸は自身の赤い数本の髪を確かめながら続ける。

 八型改の名前を聞いて、小首をかしげるクリスタ。

 アレッサンドロとの激闘から一夜明け、病室のベッドから追い出された鬼丸達はハンモックで寝た。それまでは彼に変化はなかったが、今朝起きた時にクリスタの一言でその変化は認識された。


「……中二病にでもかかったの?」


 中二病とは大昔、第二次世界大戦と第三次世界大戦の間にあった安寧の時代に発見されたという奇怪な病である。突如髪の一部を染め上げるという症例に覚えがあったクリスタであるが、中二病は成人を迎える前後の人間への感染、発症リスクは極めて低いとされていた。

 彼女は勿論このことを知っており、あえて聞いたのだ。


「なんのことだ?」


 クリスタの指示に従い海面を覗きこんだ鬼丸を、赤いメッシュでキメた鬼丸が見つめている。


「な、ななななな、なんじゃこりゃ!」


 そんな出来事が今朝の事。クリスタはそれ以降、時報のようなタイミングで彼の髪を弄ってくる。

 時刻は午後一時。朝が遅かった二人は、遅めの昼食をとっていた。


「キルも似合ってると思う。兄さんの髪、キルとおそろい」


 自身の髪を掻き分けそれを主張し始めるキル。


「インパクトはあるよな、少なくとも」


「お前ら他人事だからって面白がりやがって……」


 既に食事を終えた四人は、腕寿司の机の上に突っ伏し、食後の小休憩をとっていた。

 その時、机の上に置かれた鬼丸の通信機器がなる。机に付したままそれを手にとった鬼丸は、それを耳に当てる。


「もしもし本部長?」


 鬼丸の通信端末を鳴らす相手は限られている。クリスタ、八型改、そして新井の三人のみだ。そしてその内クリスタは今彼の斜め向かいに、八型改はクリスタの端末を通じて雑談に加わっていたため、相手は新井と限られている。


「漁師が沖合で不審人物を水揚げした。お前らも来い」


 別に野次馬の誘いではない。鬼丸とクリスタ、そしてコルセアはヴァルハラで一通りの体術訓練を受けている。不審者への対応もこの島にいる民間人より慣れているためである。


「キノ島の港ですね。位置情報受信しました」


 新井は鬼丸との通信と並行し、八型改を通じて位置情報を送っていた。


「また? 今度は誰かさんの弟だったりしてね」


「これ以上身内が増えてたまるか。とりあえず行くか」


 通信を切り、席を立つ鬼丸に続き、三人も席を立つ。


これからも応援よろしくお願いします。下にある評価をしていただけるだけでも、有難いです。

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