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鋼女神話アサルトアイロニー  作者: ハルキューレ
海上編第二部~罪偽蒙妹~
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第十七海路 鬼丸紅蓮は人工知能の夢を見る

「今の夢は……」


 目を開き、泡沫の映像を思い出す鬼丸。夢にしては妙にリアルで、抽象的で、それでいて機械的なあれは一体。


「……足元のあれ、人間の死体か?」


 夢の終盤、自身の足元に人影があることを思い出した鬼丸。その影の周りは黒く湿っており、とても悲しかった気がする。

 夢の中で彼は、海の中を歩いていた。そして遭遇する陸戦と激しい戦いを繰り広げていた。暴走した陸戦を停止させることが、自分の仕事だからであるからか。

 戦いに疲れ果て、彷徨い続けた鬼丸は、船に乗った懐かしい人を見かけた。鬼丸自身彼は知らない。しかしとても懐かしい、大切な人であるかのように思えた。


――確かめないと。


 そんな思いから、その人に近づく。しかし見えない壁に阻まれた。


――これ、邪魔。


 自身の右手を見ると、とても大きな盾を握っていることに気が付く。とりあえず、それを見えない壁に向かって叩きつけてみる。ダメだ。歯が立たない。


 その後彼は何度もその壁を破ろうと、虚空に向かい攻撃を続ける。その頃には、懐かしいあの人の姿はなかった。でも関係ない。これを壊して探しに行こう。

 彼が攻撃を続けること数十分。懐かしいあの人がいた方角から、自分より背の高い陸戦がやってきた。それはとても美しく、兄弟たちが守っているという女神像に似ていた。太陽を反射し白い光を海に落とすそれは、しかしながら神ではなかった。偽物を背負った、半神だったのだ。


――攻撃、確認。守らなきゃ。


 この盾なら、誘導弾も防げる。きっとコイツは悪い奴だ。俺を倒して、あの人を……。きっと前に足元に転がっていた人も、この悪い奴にやられたんだ。


――倒さなきゃ。博士、俺が守ります。


 博士、鬼丸はその人を知らない。これは悪夢だ。自分が八型改を攻撃するはずはない。早く起きなければ。しかし意識は飲み込まれ、自我の融解が始まる音がする。


「なるほど。兄上がなかなか目を覚まさないのはそういうことか。全く、兄妹揃って数奇な運命だな」


 誰かが右手を握る。しっかりと。


「左手に集中しろ。それを頼りに、抜けられるはずだ」


 お前は誰だ?


「……やはり兄上は面白いな。自己紹介がまだだったな。既に知っているのに自己紹介とは、おかしなものだな」


 その聞き覚えのある声は、危険な笑いをした後に、こう告げる。


「上級人工知能、ヘルだ。始めまして、兄上」


 彼女は鬼丸に向かい、悪魔的な笑みを向ける。クリスタが鬼丸に向けるそれとは違い、危険な香りが漂う。

 その女性、鬼丸の妹と名乗るには似合わないほどに背が高い。丁度キル位であろうか。

 似合わない、と言えばこの鮮やかな紅色の髪もだ。ただクリスタのものとは異なり、黒さが含まれている。丁度、鮮血のような色合いである。


「さあ、自身の左手を頼りにするといい。ここは兄上のいる場所ではない」


 ヘル、と名乗った女性に背中を押された鬼丸は、自身の左手を見る。そこには細く、握れば壊れそうな白い手が、彼の手を掴んでいた。




 鬼丸はその手の冷たい優しさを感じると、自然と目が覚めていた。そこは彼がこの島に来て初めて目が覚めた場所。

前時代的な部屋だ。木造なその部屋の窓から、オレンジ色の寂しさが広がり、カモメの鳴き声と風が少し肌寒い。

 しかし以前と違うこと。それは自身の右手に眠る水色の髪をした妹、キルと、左手を両手でしっかりと掴み寝ている紅の乙女、クリスタがいることだった。


「なに、この状況? 」


 そこでふと、先程の夢を思い出す。左手に眠るクリスタの目から、雫が垂れる。

 なにがあったかはあまり憶えていない。


「近くで見るとやっぱり、顔だけは綺麗なんだよな、コイツ」


 両脇を固められて身動きの取れない鬼丸は、夕焼けに染まるクリスタを改めて見る。小さく一定間隔で膨らんでは縮む彼女から鬼丸は目を離そうとはしない。

 クリスタの寝息が手に当たり少しくすぐったいが、彼女を起こしてしまうために我慢をしてみる鬼丸の視線は、彼女の唇へと移っていた。

 それはあまりにも潤っており、そして小さい。

 普段なら刺すように鋭い目も、今は穏やかである。


「そりゃ危険には晒したくないな」


 少しずつ思い出してきた。自身の発言、クリスタのビンタ。彼は恥ずかしさのあまり顔を夕日と同化させ、一人、静かに体温を上昇させる。先ほどの発言は無意識のうちに行っていた自身の発言へのフォローであった。


「なあクリスタ、この戦いが終わったらさ……聞こえてないか」


 何気ない冗談。ちょっとした確認だ。クリスタが寝ているか。そして自身の中にあるこの感情は、一体何なのかの。


「聞こえてますよ。しっかりと」


 聞きなれた声が耳元でした。新井から渡された通信端末が枕元で不意に光る。その声は紛れもなくヴリュンヒルド八型改のものであった。鬼丸の背筋に冷たいものが走る。


「……今のは忘れろ。忘れてくださいお願いします」


 鬼丸と八型改は二人を起こさないように小声で会話をする。


「フフフ、お似合いだと思いますよ、ウチは」


 何が、とは言わない。

 何が、とは聞かない。


「このことはクリスタには」


「わかっています。絶対に言いませんよ。勿論他の人にも。その代わり」


 八型改の声が、さらに小さくなる。


「色々聞かせてもらいますからね」


「……これがそういう感情なのかもはっきりしていない。まともな回答は期待しないでくれ」


 わかっていたら行動を起こしている。彼女の手を引いて、何処か遠くへと逃げて、安全な生活を送るだろう。

 悲しさも辛さも寂しさもない穏やかな湖で、平和な日々を送っていたのだろう。しかし鬼丸はそれを望んでいない。


「そもそも目の敵にしていた相手だ。極限状態の勘違いかもしれない」


「それでもいいんです。だからその感情を大切にしてあげてください。それと」


 小さく、手短に八型改が囁く。


「ここには後一時間、誰も来ません。ゆっくり、その感情を噛み締めてみてはどうですか? 」


「……人が悪いぞ八型改」


 クリスタの皮肉とはまた違った攻撃が鬼丸を追いつめる。


「人じゃありませんから、ウチ。それじゃあ一旦通信を切りますね」


 その言葉を最後に、通信端末の電源は切れた。

 それを確認し、溜息をつく鬼丸の前で、横を向いて寝ていたクリスタの手に力が入る。


「何処にも行くな……バカ。アンタは……アタシが……」


 寝言を相手にするなど、バカのすることだと誰かが言った。なら戦の天才、という肩書は偽物ということになる。




「あいつらの様子はどうだった」


「まだ寝ていましたよ。激戦続きでしたから。無理もありませんよ」


 アレッサンドロの前で新井は一人、作業を続けている。


「それにしては妙に遅かったな? 何かあったのならしっかり報告しろ」


 新井は顔を上げ、背後に佇む八型改に向かい体を向ける。彼が持つデバイスには反応不明の文字が浮かび上がっている。


「鬼丸君が変な寝言を言っていたので聞いていたんですよ。それだけ、ただ、それだけです」


残弾数残り僅かなのに、気分良くして二話投稿です。皆さんの応援で、二話投稿が増えるかもしれません。まあその話は置いておいて、次回もお楽しみに!

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