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鋼女神話アサルトアイロニー  作者: ハルキューレ
海上編第二部~罪偽蒙妹~
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第十五海路 4 大地に足を、空に翼を

「して兄上よ。この銃剣とやらで、奴を止められるのか?」


 キルはその赤い前髪を首の動きで振り払う。


「さっきから気になってたんだが、兄上って俺か?」


「それ以外誰がいる。兄上は冗談が好きだな。記録しておこう」


 目を閉じたキルは、数秒後、素早く目を開く。その様子、口調、そして雰囲気を不審に思った鬼丸とクリスタはキルを凝視する。一人分の席を分け合っているために二人の肩は常にふれあい、熱が互いに循環している。


「……どうした、兄上?」


 先ほどから、キルの言動に不審なところはあった。しかし二人はそれを見落としていた。無理もない。極限状態での命のやり取りの最中であれば、誰しもがそれを見落とすであろう。


「いや、なんでもない」


 ではなぜ二人は今になって、キルの異常性に気が付いたのか。考えられる理由としては、コルセアの帰還であろう。


「ところで、アイツを止められるかって話だったな」


 しかし今は、それどころではない。


「それなら安心だ。この俺に任せておけ。なんせ俺は……」


 鬼丸紅蓮。ヴァルハラ本部でその名は、少し特殊な二つ名を持っていた。


「戦の天才! 鬼丸紅蓮だからな!」


 自身の拳を胸に当て、力強くキルに笑いかける。出血は未だ止まない。きっと彼は今も、その危険信号と戦い続けているのだろう。


「なら安心だな」


 真顔で応えるキルの声に、幼さは感じられない。彼女の目には、旌旗堂々とした鬼の顔が映る。そしてその横で、不満そうにその鬼を睨むものの姿も。


「あら、そんなもので安心できるなんて、さぞ平和ボケした世界に居たのね、アナタ」


 クリスタ・リヒテンシュタイン。彼女の名を呼ぶものは、皆こぞってこう頭につける。


 人ならざる者、人間演算機、そして天才、と。


鬼丸に対する「戦の天才」という二つ名は、完全なる天才、クリスタ・リヒテンシュタインとの対比による皮肉である。しかし幸せなことに鬼丸本人はそれに気がついていないようだ。

「安心しなさい。こんな男の出る幕もないまま、一突きで終わらせてあげる。だから」


 彼女はその華奢な体を鬼丸の膝に預ける形であおむけになる。華奢とはいえど、しっかりとした芯を感じることが鬼丸には出来た。


「だから安心して突撃するわよ。八型改」


「了解です。コルセアさん。攻勢に転じましょう」


 八型改は回避ルートをコルセアに提案し続けており、そしてコルセアはそれを実行しアレッサンドロから距離をとり続けていた。

 しかしそれもここまでである。


「全速前進。さあ勝負と行こうかね」


 コルセアの威勢の良さに、コックピット内に活気があふれた。


「おい操縦士。滑空をするぞ。勢い逃すなよ」


 キルは二本ある操縦桿を互いに近づけると、それを自身の体ごと前に倒す。その動きに連動した翼は縮まり、機体は前へと傾く。


「三十二秒後に敵と接触。盾は健在です」


 アレッサンドは始め、距離を詰めてきた八型改に攻撃の意思はないと判断したのか、迎撃態勢をとっていた。しかしその後、彼らの殺気を感じ取り、瞬時にその場でとどまり防御態勢をとる。背後の装甲は接続部が先ほどの攻撃で溶け落ちているために機関部が露出している。

 その機関部からは黒煙が盛んに立ち煙る。

 視線が合う二機の陸戦。片方は大地に足を、片方は空に翼を。


「ジャマよ」


 距離わずか数メートルまで接近した八型改。勢いそのまま岩盤に踏み込み、右足を前にスラスター噴射にて更に距離を詰める。クリスタは右手に構えた銃剣を左腰に引きつけた後、勢いよくそれを右上へと薙ぎ払う。

 両手で構えられた盾であろうと、この勢いに耐えられることはなく、守護者の弱点を超えて空へと吹き飛ばされる。


「これで丸腰ね。これじゃあどっちが本体だかわからないわね」


「そんなに大事な盾なら、家にでも保管しておくんだな」


 冴えわたる皮肉は、二人が奏でる勝利のファンファーレ。祝砲代わりに小銃は、右斜め後ろに銃口を向けたまま射撃を開始する。


「クリスタ、そっちの操作で照準あわせろ。アレを拝借しよう」

 

 鬼丸の瞳は、アレッサンドロの誇りであったものが映る。


「……まさかアンタ、跳弾狙ってないでしょうね?」


 そう叫びながらもクリスタは宙を舞う盾に照準を向け、発砲中の突撃銃を構える。


「そのまさかだ! 弾けろ」


 鬼丸の言葉を合図に、対象の頭上を通り越した弾丸は、盾に当たり彷徨いはじめる。

 右に逸れるもの。潰れるもの。弾けた先で別の弾に弾かれるもの……。

 アレッサンドロにとってそれは自身の弱点、背中にある危機そのものである。しかし鬼丸はあくまで盾に向けて発砲しているため、それを攻撃として認識出来ていない。たとえ認識できたとしても、その乱数を計算する間に自身の身が停止する。


「行け……。行けーーーーー!」


「一発、一発でもいいの。当たって」


 鬼丸とクリスタは残弾数を見ていない。それが尽きてしまえばここまでの努力が海の泡と化す。

 一発、彷徨える銀の弾丸が黒煙の元に惹かれ、一直線に貫く。それは機関部に着弾し、表面に穴をあけ潜航する。

 直後、盾を吹き飛ばされたことにより立ち往生をしていたアレッサンドロは、その顔を下に落とす。背後の黒煙は蝋燭の火のように激しく発煙した後、力無く消えていった。


「アレッサンドロ、反応ロスト。爆発前にスリープモードに入ったようです。ともかく、任務完了お疲れ様です」


 八型改のアナウンスが、真実を高らかに告げる。

ここまで読んでくださりありがとうございました。この作品が面白ければ、高評価や感想、レビューなんかをお願いします。ファンアートも随時募集中です。

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