第十四海路 4 二人の呼吸が重なる時
最近活動報告もしていますッス。そちらもぜひ。
「3,2,1、電磁結界、解除します」
隼人の合図で、一時的に出力を上げる電磁結界は、例のごとくアレッサンドロを後方三メートルまで吹き飛ばしたが、アレッサンドロは倒れず再侵入を試みる。
その時、その自立戦闘回路は危険を察知し、すぐさま右手に構えた盾を構え、足を止めた。
「今だ! 結界を張りなおせ」
「ガッテン。やるぞ隼人」
「任せろ! 紅蓮、頼んだぞ」
その隙を狙って、隼人と大将、そして数人の技術部の者達は慣れない手つきで結界を再展開させる。
黒い壁に阻まれ爆散する熱源誘導弾。アレッサンドロが構えた盾は、機体同様かなりの強度を誇り、通常兵装でこれを抜くことは不可能に近い。また以前のように結界の上に誘導し、そのエネルギーでの攻撃を行ったとしても効果は薄いだろう。
「ただ足止めくらいは出来るわよ。アレッサンドロはその頑丈な機体を最大限発揮するために攻撃を感知すると防御態勢に入るわ」
「その時奴は動けない、言うなればでくの坊ですね。そんな奴、ウチらの敵じゃありません」
「おうよ。動かないって言うんなら……」
「「「殴りたい放題」」」
鬼丸は左右の操縦席を目まぐるしく移動し、可能な限り拳でのラッシュを叩きこみ、八型改はそれに追いつくだけの機関調整、申し訳程度の頭部機銃攻撃、そして鬼丸の攻撃とはまた別のテンポで繰り出されるクリスタの操作する膝蹴り。
それを正面に構えた盾を用いてひたすら耐え続けるアレッサンドロ。その盾はアレッサンドロ自身をも隠すほどの大きさである。八型改と比べると一回り小さなアレッサンドロであったが、この盾はその差をも埋めるほどの大きさと存在感を放つ。
「てめぇの四角い盾を丸くしてやるよ、アレッサン」
「アレッサンドロ! 変な名前つけないでよ。アンタのことおまるって呼ぶわよ」
激しい攻撃の間に繰り広げられる口論は、盾から発するものと同じレベルの激しさを持つ火花を放つ。しかしそれは常に一定の場所から動かない。
「まあ予想は着いていたけれど、やっぱり硬いわね。一旦距離をとる」
攻撃の手を止め、横に回り込む形でアレッサンドロの背後をとる八型改。その途中、岩のように微動だにしなかったその目が、赤い光を放つ。
「来る」
キルの一言の直後、アレッサンドロは自身を守っていた盾を持ちあげ、真横に薙ぎ払う。当然それは八型改を直撃し、鋼の機体は後方約五メートル先まで吹き飛ばされる。
「うわっ。クリスタ、キル、無事か?」
本来ならあれほどの衝撃を受ければ中の鬼丸達も無事では済まない。しかし何故か三人の体に傷は見られない。
「なんとかね……。本当、あの人何者よ? 陸戦にエアバックつけるとか正気の沙汰じゃないわ」
激戦を想定した新井は、更にいくつかの細工を八型に施した。その一つがこれだ。
「今まともな戦力はお前たちだけだ。それを雑に扱えるほど余裕がないことくらい理解しろ」
その声は少し困り気味であり、画面の新井は扇子で顔全面を隠している。
「本部長ったら、照れ隠しが下手ですよ。何かあれば最優先で二人を守れって、しつこかったんですから」
「うるさいぞモドキ」
「あー、酷い。ちょっと前は八型ってちゃんと呼んでたのに」
いじけたような声を出しながら、ゆっくりと姿勢を戻す八型改に、ゆっくりと近づくアレッサンドロは、再びその盾を構える。
「鬼丸、熱源誘導弾であいつの動き止めて」
「任せろ。二番、発射!」
腕に突貫工事でつけられた誘導弾を咄嗟に発射する鬼丸。これにより、アレッサンドロは攻撃を中止し、盾を自身の前で構える。
その間に、体重を後ろに傾けて距離をとる八型改。金色で縁取りされたまるで芸術品のような盾に、鬼丸が放った誘導弾は阻まれる。
「距離はとったものの、どうすれば……」
一切ダメージの入らない黒き防人。奴は頑なにその盾を離さず、背中を見せない。
「まさかアレッサンドロの単騎性能がここまで高いなんて……これは意外ね」
「どういうことだクリスタ、今お前の趣味に付き合っている暇はないぞ」
防御態勢を解き、再び距離を詰めるアレッサンドロ。その姿をクリスタは興味深そうに見つめていた。
「バカ、節度くらい……」
「クリスタ、よだれ」
呆れてものも言えない鬼丸に代り、キルが淡々と指摘を入れた。
「アンタが居たの忘れていたわ……と、とにかく今はそれどころじゃ」
操縦桿を後ろに倒し、距離を計るクリスタ、その時、一つの疑問が生まれた。
「ウソ……なにこの距離?」
一つの疑問。それは鬼丸からすればクリスタにあり得ない操縦ミス。クリスタ本人にとっては自身の力加減が効かないことへの疑問である。
少しの回避を試みたものの、二体の巨神の間には、おおよそ十メートルほどの青い海が見える。その先に、盾を空振り、体勢を崩すアレッサンドロの姿がある。
「まさかこれって……本部長!」
声の主は白き鋼の乙女である。彼女は驚きと希望に満ちた声色で、普段口論を繰り返す相手に問いかける。
「全く、自身の出力位把握も出来ないのか? やはり貴様はモドキだな」
その顔は、その口角は少し上がり、挑発的な顔をしていた。
「ちょっと、何が起きてるんだ? 説明してくれ」
事態が飲み込めず困惑する鬼丸、その顔を心配そうに見つめるキル。そんな兄妹とは対照的に、クリスタの目は輝いていた。
「この数値……見たことない」
彼女が覗く画面には、八型を改たらしめる数値が、陸戦の基本スペックを脳内に焼き付けたクリスタでさえ見たこともない数値が映し出されていた。
「鬼丸、キル。ちょっと掴ってて」
口角を上げ、腕の操縦権限を自身の元に移したクリスタが告げる。その声は目の前に大型のカブトムシを見つけた夏休みの少年のような無邪気さがあった。
「おいクリスタ、お前何する気だ?」
「さあ、何でしょう?」
鬼丸にそう笑いかけると、彼女はエネルギー噴射の準備を始めた。
「エネルギー、マックスです。いつでもどうぞ」
その声とともに、腰を下げ獲物を狩る狼のような風格を醸し出すその乙女は、自身の左腕を海底につき、足を開きバランスを三点でとる。その姿の前には、海中の抵抗を受けながら進むアレッサンドロの姿があった。一直線に。
「ドライ……ツヴァイ……アインス……」
クリスタの目は、奴の手に持たれた黒い壁を捉え離さない。彼女自身も八型改と同じ体制になり、二人の呼吸が重なる時、キルの背後にある機関が大きく唸りをあげる。それに驚き軽く飛び上がるキルだが、鬼丸は緊張感から、そしてクリスタは集中から気がついていない。
「ヌル!」
一気に前に飛び出し、強固な漆黒へと突撃する二人の乙女は、音を、光を置き去りにした。
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