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鋼女神話アサルトアイロニー  作者: ハルキューレ
海上編第二部~罪偽蒙妹~
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第十四海路 3 スクランブル! ヴリュンヒルド八型改

「婆やとの話し合いの結果、キルはしばらく特命本部預かりとすることとなった」


 八型の修理の目途が着いた新井が、婆やとの話し合いの結果を伝えに来た。時刻は午後三時。


「この島、防犯概念とかどうなっているの? それとも田舎ってどこもここみたいに脳内お花畑なわけ? 」


 半ば諦めたクリスタが文句を垂れる。この島に来た当初、本部通信室と病院以外にカギがないことを知ったクリスタは絶句した。鬼丸はこの島の様子で薄々感づいていたのか、そこまで驚いた様子は見せなかった。


「今更だろ、諦めろクリスタ」


 壁に寄り掛かったクリスタに、後ろを向いて声をかける鬼丸は座っていた。


「今更といえば新井、前から聞きたかったんだが?」


 声の主はこの建物の主、大将であった。


「なんで毎度毎度ウチの店でミーティングするんだアンタら」


 ここは腕寿司。大将の指摘も最もである。彼ら特命本部には、専用の建物がある。鬼丸達がこの島に来た日に見た通信施設がそこである。


「何故って」


「ここが」


「涼しいからよ」


 新井、鬼丸、クリスタの順に答える。


「あそこはエアコンが入っていないからな」


 眼鏡の位置を直し事実を語る新井。彼は続けて八型についての話を始める。


「次に八型だが、修理が終わり次第こちらに移動させる手筈になっている。幸い水に浮かせて牽引できるからお前たちの出番はないだろう」


 現在八型は修理工場から鮫島たちによって腕寿司近海まで運ばれている。


「急げ! ただし慎重にな」



「それからキルが乗っていたものだが、あれは間違いなく陸戦だろう。しかし戦闘の衝撃か墜落時のものかはわからないが損傷が大きく、使えたものじゃない」


「そう……」


 キルは少し寂しそうな顔をして、また一言呟く。


「イノセント……ごめんなさい」


 しかしその謝罪はあまりにも小さく、誰にも聞こえてはいない。

 何故なら直後、サイレンが鳴り、その声がかき消されたためである。


「陸戦警報、繰り返す、陸戦警報。キノ島周辺の島民は至急避難を!」


「不味い、まだ八型は着いてないぞ」


 鬼丸が警報を上書きするほどの大きな声で叫ぶ。新井はその声の中、扉の外に移動する。クリスタはその新井に届くように提案する。


「本部長、ダイシャークの出撃許可を!」


 しかしそれに新井は答えない。代わりによく響く愉快な声が答える。


「二人ともお待たせしました! ヴリュンヒルド八型、皆のピンチに颯爽登場!」


 巡行形態のダイシャークの口に咥えられた紐によって、腰からズルズルと引っ張られた八型が、海の向こうからやってくる。


「丁度よい。完全復活した八型の性能を試してくるがいい!」


 尻ポケットから扇子を取り出した新井はそれを開き、前に突き出す。


「鬼丸紅蓮、クリスタ・リヒテンシュタイン。直ちに出撃せよ!」


「「了解」」


 敬礼の代わりに足を動かす。鮫島の指示で、ダイシャークは橋替わりになるよう単縦陣を敷く。

 鬼丸とクリスタはその道を駆け抜け八型の元に急ぐ。甲板を鳴らす足音二つ。それは重たい音をしていた。


「あれは……イノセントの」


 八型の背中に視線を向けるキル。新井、大将、そして隼人は通信施設、通称作戦司令室へと向かう。急ぐあまり、不確定要素の観測を怠ってしまった。


「行かなきゃ」


 監視を逃れた水色の女性は、二人の後を追い鮫の道を渡る。



「鬼丸紅蓮、搭乗完了! また頼むぜ、八型」


 新井の粋な計らいにより、左右武装操縦席をスムーズに移動できるレールが増設されていた。


「こいつは、上々」


その利便性を確かめるべく鬼丸は足に力を入れ、床を蹴る。とても容易に移動が可能であることを確認した。


「クリスタ・リヒテンシュタイン、搭乗しました。ん? これは……」


 クリスタは自身が座る機長席の椅子を触り、感触を確かめる。


「前よりフカフカ。座りやすい」


 これも新井の計らいである。


「どうだ二人とも、お前たちの機体は元通りに仕上がっているはずだ」


 モニターには新井の顔が映る。


「元通りってもんじゃねぇよこれは……」


 その他にも細部まで配慮された改造が施されたそれは、ヴリュンヒルド八型と呼ぶには勿体ない。


「どうですか、新生ウチは。これからはヴリュンヒルド八型改、とお呼びください!」


「改、ね。いいじゃない。行くわよ鬼丸」


 後ろを振り返り、声をかけるクリスタ。改になったことにより、機長席からも各部の操縦が可能となっており、先日までのように各部位の操縦席を行ったり来たりをする必要がなくなっていた。クリスタはメインコントロールを自身の手元に移すと、機関を回し始めた。相変わらず八型、もとい八型改の人間離れした調整により、安定をしている。


「こっちはいつでもいいぜ。鬼丸紅蓮!」


「クリスタ・リヒテンシュタイン!」


「鬼丸キル」


「ヴリュンヒルド八型改」


「「「「発進」」」」


 それぞれが名乗りを上げたことで、この場の違和感がはっきりとした。


「キル!? なんでお前ここに!」


 コックピット右奥、現在不在の通信手が座る席にすっぽりと収まっているキルの存在に、今の今まで誰一人気が付かなかった。


「兄さんが行くなら、キルも。それに……」


 彼女はそこで黙り込む。小さく、小さく呟く。


「イノセント……」


 しかしそれは運動を始めた八型改の機関の唸りにかき消された。彼女は発言に後ろめたさがあるのか、俯き始めた。


「今から引き返してでも降ろして……いや、放っておくほうが危ないか。クリスタ、キルは俺が監視するからこのまま出してくれないか?」


 鬼丸なりに思考を巡らせた結果である。このままキルを降ろしてしまえば、彼女が何をしでかすかわからない。そのため彼は自身の監視が行くところにキルを置いておきたかったのだろう。


「へー、お兄さんは可愛いい可愛い妹さんを戦地に連れていくのね。まあいいけど」


 じとっとした目で振り返り、鬼丸を怪訝な顔で睨みつける。


「なんか冷たくないですかエリート様?」


「何でもないわ。集中しなさい、間もなく戦闘海域よ」


 クリスタは視線をモニターに集中させ、鬼丸兄妹から視線を逸らす。


「へいへい。キル、下手に動くなよ」


 鬼丸は目の前のモニターを弄りながらキルにくぎを刺す。

 コクン、と小さく頷くキルを横目に確認すると鬼丸は、反対側のモニターに移動する。


「アルファレーザーに誘導弾、回避用のハンドブースターとは至れり尽くせりだな。カタパルトも修復されているとは。これは楽しみだな」


 修復されたカタパルトは腕の甲の装甲にカバーされており、戦闘時に傷がつきにくい設計となっている。本来カタパルトを搭載した陸戦は接近戦を想定していないためにこのような保護は不要だが、八型改はそうではない。

 指を鳴らし、自身の腕を確かめる鬼丸の一挙手一投足をじっと見つめるキル。


「二人とも、いや、三人か。敵の情報が判明した。今映像を送る」


 新井の代わりに映ったそれは、島の周りの空虚を攻撃し続けている。今回も電磁結界が仕事をしている。


「あれは……まさか」


 クリスタが腰を浮かしてモニターに近づく。彼女はその黒い機体を余すことなく目に焼き付けようとする。


「ハイ出番ですよ陸戦オタクさん解説お願いします」


 その姿を、以前は情報収集に熱心な姿だと感心していた鬼丸だったが、ただの好奇心であることがわかり、それに気が付いていることを知られた今は多少の呆れが混じる。


「あれはアレッサンドロね。イタリアのアレッサンドロ先生の力作。その黒い鋼はあらゆる攻撃を弾くことで有名よ」


「ようはディフェンスタイプってことか。八型改、お前はどう見る?」


 クリスタの捲し立てる声を聞いた鬼丸は顎に手をかけ自身なりの言葉でまとめる。彼の言葉は正しく、この機体は量産され、イタリアの重要文化財の護衛に就任していた。


「今のウチの武装で装甲を抜けるかどうか、微妙な所ですね。装甲を落として機関部を叩けば……」


「ほう、その装甲がどうすれば攻略できるかが課題だな。今回も電磁結界を解除してから戦闘に移ってもらう。タイミングは任せる」


 新たな力を身に着けた鋼の乙女は、黒き守護者に挑む。


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