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鋼女神話アサルトアイロニー  作者: ハルキューレ
地上編~聖域炎上~
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第二回路 戦闘訓練

 市街地での戦闘を想定した訓練も終盤。Cチームの護衛に用意された機体は、AB両チームがそれぞれ三機ずつ撃破。これにより勝負は最終局面までもつれこむ。


「お互いまだCチームの機体は見つけていない状況……。遠距離攻撃仕様の私達が優勢には立っています」


 接近戦を重視したAチームのヴリュンヒルドに対し、ライフルや爆発物を射出するカタパルトを備えて中~遠距離の戦闘を得意とするのがBチームの機体だ。


「ただ足は向こうの方が優秀ですよ。身軽だし、更に機関室は樋口のおっさんが見てるんだから、常に最高速度出し続けてもおかしくはないと思うよ」


 まあ、俺も負けないけどと若手機関手の真田が言う。


「上杉さん。この勝負、貴方のモニターに懸かっています。注意深く監視を続けてください」


「了解。勝ってお袋の最後を勝ち星で飾ってみせるよ」


 このリーダー、出産を控えているためにこのチームでともに戦うのは今日で最後だ。先ほど鬼丸のやる気の意味を伺ったのはこのこともあったが、単に鬼丸が常日頃から任務には不真面目な態度で臨んでいた結果でもある。


「やだもう。皆ったら」


 嬉しそうに頬を赤らめる姿が容易に想像できる。


「あ、居ました……。あ、あれAチームの! 向こうは我々に気付いていません」


 空気が張り詰める。訓練開始と同時に各モニターの周りは防音壁で囲われたため、相手チームの動向を掴むことは不可能である。


「つまり、奇襲のチャンス到来ですね」


 そう言ったのはこのチームのブレインにて狙撃手のインテリだ。


「奇襲ってまさかインテリ、先にAチーム片付けるつもりか」


 それ以外ありますかという顔をするインテリに、お袋が聞く。


「やれるの? 確かに向こうが気付いていない今がチャンスなのはわかりますが……」


「むしろ今しかないかと。Aチームが近くにいる状況でCを同時に発見したら、足で劣る我々に勝機はないかと」


 それと、と鬼丸が加わる。


「エリートどもを合法的に叩けるんだ。面白そうだろ。なあ皆」


 ヘッドセット越しに、笑い声が聞こえる。

 Bチーム。それは二番手を意味する。Aチームの次に凄い奴ら。彼らはその地位に甘んじてはいない、活気あふれる逆襲者だ。


「やっちゃいますか。ゴメンねクリスタちゃん。おばさん、負けず嫌いなの」


 笑い声に混じったお袋の一言で、方針は決まった。


「真壁……最後くらいいいわね。インテリ君、狙撃用意よ」


 訓練や任務中にお袋がインテリと呼んだのはこれが初めてだ。

 低姿勢になり専用ライフルを構えるヴリュンヒルド。その雄々しい姿は芸術品と言っても差し支えない。


「お袋、訓練って、実戦のためにあるんですよね?」


 ニヤニヤしながら鬼丸が聞く。


「ま、まさかアレ? まあ、実戦で使えるかを探るって意味なら訓練でしか出来ないわね。いいわよ。アレ、やりましょう」


「サンキュー」


 その一言で、鬼丸が担当するカタパルトが後方を向いた。


「真田君、射撃後すぐにエネルギーをすべて足に回してください。運転手は観測手からの情報をもとにAチーム機体へ全速力で突っ込んでください。接近後のエネルギーは……」


 ピリピリとした活気がヘッドセットを行きかう。そんな最中でもインテリの眼鏡はAチームのみを捉えて動かない。


 打てッ。


 鬼丸提案の作戦は、この一発から始まった。


―――


「発砲音? 動力を電磁シールドに回して」


 クリスタの咄嗟の判断で、インテリの一撃は防がれた。しかし直後、右手上方の森林地帯から土煙が上がり、爆発音がした。


「酒田、足に火を入れて。とにかく今はジグザグに走ってかく乱するの」


 任せな! と景気の良い声とともに、機体は軽やかに走り出す。


「観測手より報告、次弾、来ません」


 すぐに体勢を立て直したAチーム。しかしそれだけなら鬼丸達にも出来ることである。


「どうやらさっきのは流れ弾みたいね。あそこでBとCがやり合ってるんでしょうね。酒田、あそこの山に向かって。いつ遭遇するかわからないから警戒を怠らず」


 的確かつ迅速、それでいて定石を抑えた百点満点の指示である。


「観測手より報告。なんかデカいのがこっち飛んできてます」


 先ほどの山の上空とAチームの間に、炎をまとった塊が空を飛んでいる。


「それ爆弾よ。回避せずにシールドで防御。この距離でよけても結局爆風でやられる」


 再びAチームの機体を電磁シールドが覆う。


「爆弾、地面に弾着まで五、四……オイオイこれ爆弾じゃないぞ」


 Aチームが爆弾と判断したそれは、ライフルを構えていた。


「何? 何が降ってきたの? 観測手」


 爆風は来ない。代わりに雄々しい着地音が響く。


「ヴリュンヒルドです。Bチームが降ってきました」


「ハァ? 何考えてんのアイツら。とにかく接近戦よ。機体の特徴把握してないバカどもを切りつけてやりなさい」


 二つの巨人が向かい合う。

 ヘッドセットに響く接近戦の指示。腰に用意された太刀を引き抜くAチームの機体だったが、時

すでに遅し。


 打てッ。


「ザーコ」


 インテリの暴言。ついで次弾命中。ゼロ距離射撃。これが鬼丸考案接近射撃戦である。インテリの弾丸はしっかりと機関部を撃ち抜き、Aチームの画面には行動不能の四文字が映された。


「そんな……なによアレ」


 絶望で頭が真っ白になったクリスタを気にせず、喚起に沸くBチーム。その中心には鬼才、鬼丸の姿があった。


「とうとうやってやったぜ。マニュアルにはないよなあエリート共、爆風利用して距離詰めるなんて。ところでインテリ。射撃タイミングで人格変えるのやめてくれない? 普通に怖い」


 射撃の瞬間、インテリの性格が豹変するのは周知の事実である。しかしそれだとしても、だ。あの変わりっぷりは慣れることはないだろう。


「これは実践でも使えるの……かしら? とにかく大金星ね」


 Bチームの回線がヤッタの音声で埋め尽くされる。


「何とかなりましたね。射撃時のアレは……申し訳ありません」


 本人も気にはしている様子である。そんなインテリが申し訳なさそうに続ける。


「ところで皆さん。私たち、何か忘れているような……」


 インテリの警告の三秒後、敵機接近のアラームがけたたましく騒ぐ。


「あ、Cチームのこと忘れてた」


 激しく爆ぜる大金星。


―――


 三十分後、食堂にて。現在時刻は昼の一時である。


「痛たた……足が持たない」


「馬鹿だねアンタら」


「良い作戦だと思ったのですが……機体が持ちませんでしたか」


 膝、腰、腕をそれぞれ痛めた鬼丸、インテリ、コルセアの三人の姿があった。

 Cチームの接近に気づいた鬼丸達であったが、先ほどの無茶な作戦により各パーツに故障が生じ(シミュレーション上での話だが)普段なら避けられるCチームの攻撃の前に倒れた。

両チームに対し教官は罰として激しい筋トレを科した。


「にしてもずるいぜ。結局は失敗してるくせに、新しいことに挑戦するのは良いことだって筋トレ回数減らされるの」


 結果はどうあれ、鬼丸の作戦は武勇にあふれるもの、そして短距離ではあるが陸上戦闘機での飛行という前人未到の荒業を考案、それを実践ではなく訓練で行ったことを教官は高く評価した。


「気になったのですが、その後、クリスタさんは?」


「部屋でメシ食ってるよ。アンタらに負けたの、相当ショックだったらしい。なんか色々メモしてたから多分大丈夫でしょ」


 クリスタがAチームリーダーである理由。それは才能でも、運でもない。敗北を勝利に変える、その分析力にある。その点においては、彼女もBチーム同様反逆者である。ゆえに彼女に同じ技は二度と通じない。


「それを戦場でできればベストなんだろうけど。あの女、テンパる癖あるからな。お陰様で、今回みたいな前人未到の奇襲が成功しやすいんだろ」


 パスタをフォークに絡め、一気に口に運ぶ鬼丸。


「まあな。とりあえず、お袋の送別会には顔を出すようには伝えておくよ」


 ご馳走様。と景気の良い声で手を合わせたコルセアが席を立った。


「さてインテリ、お前から見て今回の作戦はどうだ」


 鬼丸はコルセアが居なくなるタイミングを見計らって、話を切り出した。


「やはり唯一にして最大の欠点は、機関が耐えられないということですね。計算上ですが、瞬間的な馬力に優れたAのヴリュンヒルドでも同じ結果でしょう。樋口さんにも聞きましたが現状のスペックであれを人が調整するのは無理だとか」


 ダメか~と肩を落とす鬼丸。


「また次の作戦を考えましょう。とにかく今は数です」


 相手の親玉が人工とはいえ思考する以上、クリスタ同様に同じ技は対策されがちになる。人類は今、人工知能の学習スピードを上回る進化を求められている。



 その後、食堂にてお袋の送別会は穏やかな雰囲気で終わった。クリスタもいつもと同じように綺麗な顔をして別れを惜しんでいた。


「意外だな。お前、お袋と仲よかったんだ」


 お袋との会話は、鬼丸とするものとは違い、とても優しいものだった。


「私が新人だったころにお世話になってね」


 送別会のあと、片付けをしながら二人は会話を交わす。


「ところで、昼のアレ、考えたのもしかしなくてもアナタ? 何食べたらあんな作戦思いつくの? もしかして脳の作りが違うとか?」


 表情を作らずクリスタが問う。勘違いされがちだが、冷静なクリスタはあまり嫌味などを言わない。つまりこれは……。


「お前もっと上手く人褒める練習した方がいいぞ。俺じゃなきゃ第四次世界大戦始まってたぞ。三次よりひどい奴」


「そう……留意しておく。それよりお袋さんの後任って決まったの?」


 第三次世界大戦。きっかけを覚えている者は既に死んでいる。ただそれにより人類対AIの構図がはっきりしたことはここに居る誰もが知っている。


「インテリが今のところ兼任するらしい。あと一週間もすればちゃんとした人が来るらしい」


 二人は送別会会場であった食堂からそれぞれの自室に足を向けた。


「それまでその人が……」


 言葉を止めるクリスタ。ヴァルハラはこれまで、AIと激しい戦いを幾度となく繰り広げてきた。その際に幾つか、AIに学習されている。指揮系統や機体スペックなどは新しくすればいいが、一つだけ、どうしようもないことがある。


「その人が生きてれば、の話だけどな」


 生身の人間ではそもそも奴らが操る陸戦や重機に対抗できない。AIは、その状態の、力のないパイロット候補を見つけ出し、殺す。人的供給は絶望的である。


「補給路を断つ、なんて作戦を学習したんだろう。そう考えると奇跡だな」


 養成所とこの本部は、車で十五分足らずの距離だ。奴らはその短い時間で、輸送車を襲う。


「たった十五分を同じ車内で生き延びたくらいで奇跡感じてたらこのご時世、大変じゃない? それにあそこには真壁君や酒田もいたわけだし」


「それもそうか。とりあえずまた明日だな」


 部屋の前に着いたお互いは珍しくお休みを言う。普段は二人だけで話すことも無いためである。


「今日のクリスタ、なんか変だったな。インテリ……いないのか?」


(きっと明日からの段取りをリーダー同士打ち合わせているに違いない。なんせ明日からは仮にもリーダーだからな)


「全く、二人とも遠く行っちまったな……。よし、寝る」


 軽い眠気の中、どれだけの時間が過ぎたか曖昧な中で鬼丸は考える。


(いや、当たり前か。機体についての知識でインテリに勝る奴なんていないし。クリスタの努力

は才能以上のものだし。二人がリーダーになるのは……)


 妙に胸騒ぎがする。急いで身を起こす鬼丸。


「じゃあなんでクリスタはさっきまで俺と? いや逆だ。何故インテリがここにいない? 一体どこに?」


 爆音。それは案外鈍く、骨に染みた。体が内側から震える。

 悲鳴。耳が痛い。高い声だ。頭が痛い。

 警報。乾いた声で他人事のように鳴く。

 鬼丸は急いで部屋を出る。幸い制服のままだ。


「鬼丸、なんだ今の音。それと悲鳴」


 クシャクシャのシャツと下はジャージで声をかけてきたのは隣の部屋から慌てて出てきたコルセアだった。


「わからない。それよりインテリ見てないか。いないんだ。今の事故に巻き込まれてなければいいが」


 首を横に振るコルセアの後ろから、ピンクのもこもこがふにゃふにゃした声を出しながら部屋から出てくる。緊張感がない。


「酒田ぁ~今の何ぃ~。朝はまだでしょ……お、鬼丸?」


 世にも珍しい、寝起きクリスタである。


「この……この変態」


 切れのいいビンタが、鬼丸を襲う。


―――


 火の手が上がる格納庫。唯一原型をとどめた白い戦乙女の表面に、眼鏡の光が反射する。


「愛って、面倒ですね。デリートしておきますか……いえ、それをしては私の存在意義が……とにもかくにも、待っていてくださいね。すぐ助けますので」


 再度、爆発が起きる。


 第三回路へ接続しています……。

Now Lodng


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