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鋼女神話アサルトアイロニー  作者: ハルキューレ
海上編第二部~罪偽蒙妹~
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第十三海路 1 偽りだらけのモラトリアム

「皆さん、おはようございます」


 八型の声を合図に、ハッチが開き光が差し込む。操縦席で睡眠を取っている鬼丸、クリスタは目を覚ます。


「痛たたた……」


 腰を抑える鬼丸は、未だ起きることのないクリスタを見つける。彼女はこの過酷な睡眠事情を少しでも改善するため、日中ヤシの葉を使いアイマスクのようなものを作り、それを使用している。鬼丸はそれを乱雑に取り外す。


「起きろ。朝だぞ」


 その後鬼丸はクリスタが動いたのを確認すると、ハッチから外へ出る。


「もうあんな思いはゴメンだ」


 鬼丸がそう呟くのには、理由があった。



 時を遡ること三日前。鬼丸達が焔三式を撃破した次の朝。今日と同じく二人は八型のコックピット内で寝ていた。

 朝を知らせる八型の光を受けて、先に起きたのは鬼丸だった。

彼はまだ夢から覚めていない同乗者に声をかける。


「起きろクリスタ。朝だぞ」


 小動物のような鳴き声を上げたそれは目をこすり始めた。しかしその直後、その握りこぶしは鬼丸に向かい飛ぶ。


「おわっ」

 

 咄嗟の出来事だったが間一髪、顔面すれすれで受け止めることに成功するが、次は彼の胴体をクリスタの足が狙う。


「ちょっと待て待て待て」


 寝起きの人間には、何を言っても通用しない。そのまま鬼丸は、大きく後方へと飛ばされ、壁に激突する。


「……今の音、何……」


 クリスタが少女のような声で目を覚ます。



「コルセアの奴、あの寝相知ってて逃げやがったな」


 昨日の戦いによって、アルタ達のもとに旗艦パイレーツスパイトは帰還した。しかしそれは多くの箇所を負傷しており、航海に出ることは出来なかった。

 そのため彼らはこの島に残り、島で働きながら船の修理をしている。昨日のうちになんとか安定して浮くようになったために、海賊達はそこに寝泊まりをしている。元船長であるコルセアも、現在はそこで寝泊まりをしている。



「おはよう鬼丸。相変わらず早いわね」


「早起きは三万の徳って言うだろう」


 コックピットから体を出したクリスタに、鬼丸が振り向きながら答える。

「アンタって本当にバカね」

 その遠くの空を見つめる顔は、穏やかなものであった。



 数十分後、腕寿司にて。修理のためにミナ島へと向かった八型と別れた鬼丸達。彼らは基本ここで朝昼晩の食事を摂る。寝巻として使用しているジャージを店の奥で脱ぎ、制服に着替える。暖かな気候が一年を通して続くカイナ島では、一日も待たずに洗濯物が乾く。


「一応言っておくけど」


「ハイハイ見ませんって」


 距離を取り、背中を向けて着替える二人。効率を重視したこのやり方を提案したのは、クリスタだった。

 別にクリスタが羞恥の感情を持ち合わせていないとかそのような背景はなく、単に朝の彼女は何においても、朝食を優先するためである。



 二人は朝食の焼き魚定食を待ちながら、会話をする。


「訓練がないと、これだけ朝が平和なんだなって。鮫島にはああ言ったが、結局平和が一番だったりするんだって、ふと考えちゃうよな」


 戦うことしか知らない。そう言った鬼丸にも、平和を愛し、それを享受する資格はある。しかし、それは仮初に過ぎない。視線をそらし、同意をしないことで、クリスタは無粋な発言を回避する。


「焼き魚定食二つお待ち!」


 隼人によって目の前に出されたそれは簡素なものであった。


「「いただきます」」


 手を合わせた二人は箸を持つ。たとえ簡素であろうと、栄養は十分に採ることが出来る。

 四人がゆったりと座ることのできるこのテーブルに、二人は対角線上に座っている。

 しばらくすると、店の扉が開く。


「ここに居たか」


 鬼丸が振り返った先には、新井がいた。日が登り、島が熱を帯びているにも関わらずこの男は、スーツに白衣を着ている。


「「おはようございます」」


 二人は箸を置かず、挨拶をする。その様子に、眉間に少ししわを作る新井は鬼丸の隣、クリスタの正面に腰を掛ける。


「現在、お前たちの陸戦の修理と同時並行で武装を技術部にいくつか造らせている」


 口の中のものを飲み込んだクリスタが水を一口飲み、新井に聞く。


「そんなお金、特命本部にあったのですか?」


 その疑問は最もだ。この島に来た当初、新井はしきりに資金不足を嘆いていた。


「そもそも機密事項の多い最新機体だぜアレ。たとえ金があったとして、直せるのか? 」


 その疑問は、鬼丸のものである。


「どちらとも心配は無用だ。まず金銭に関してだが、昨日沈めた海賊船から多くの略奪品が見つかっている。お前たちの仲間が陣頭指揮を執りながら奴の子分達が今も引き揚げ作業をしているだろう」

 

 夜明けまで戦場となっていた海域には、島から提供された工業用陸戦を使い引き揚げ作業を進めるアルタ達と、それに檄を飛ばす手漕ぎボートに乗ったコルセアの姿があった。


「次に直せるか、とのことだが、前も話した通り、私はアレの開発関係者だ。代用パーツを見繕うなど朝飯前といっても過言ではない。ただ元通りとは行かないがな」


「「ごちそうさまでした」」


 二人は定食の味噌汁を飲み干す。


「とりあえずお前たちにはこれを渡しておく」


 新井は二人が完食するタイミングを見計らい、板状の物体を二つ、机の上に置いた。


「旧型の通信端末だ。こちらから連絡する際は必ず応答しろ。使い方は、多分わかるだろう」


「え、マニュアルは?」


 クリスタは驚きのあまり、敬語を失う。咳払いをし、咄嗟にごまかそうとするが、二人は特に気にしていない。


「陸戦の操作が出来るお前たちに、今更そんなものは必要ないだろう」


 新井はそう言うと席を立ち、店を出る。


「本部長、どこ行くんだ?」


「八型モドキの修理だ。終わったらそれで呼ぶからそれまで自由にしていろ」


 その間もクリスタは慌てふためいている。彼女は根っからのマニュアル人間であるため、このような状況には滅法弱い。しかし新井はそのことを知らず、単に優秀な人材としてしか見ていない。

 本来五人以上での操縦が基本の第七世代型に属するヴリュンヒルド八型を、全力ではないとは言え、たった二人で動かしている人間が、古い通信端末の操作方法がわからないなどとは微塵も思っていないのだろう。

 鬼丸は新井の背中を見送ると、手元の端末に目をやる。そして次に、もう一台のそれと睨めっこをしているクリスタに目を向ける。彼女は、難解な数式を前にするかのような顔をしていた。最も彼女にとって、難解な数式はほぼ存在しない。


「多分ここが電源か?」


 鬼丸は側面にあるへこみに力を入れる。次の瞬間、光を放つその端末は振動した。


「クリスタ。横のボタン押してみ」


 情報ソースが信頼できないのか、はたまた先に起動した鬼丸に対する対抗心か、彼女は怪訝な顔をしながら側面のボタンを押した。


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