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鋼女神話アサルトアイロニー  作者: ハルキューレ
海上編第一部~海賊領域~
25/200

幕間 嵐の前の静かな朝に 新井本部長の苦悩編

お待たせしました。と言ってもまだ幕間ですが。今回から試験的に書体や文字数を少しずつ変えていきたいと思います。もしご意見等ございましたらご報告お願いします。また感想も随時お待ちしておりますので何卒宜しくお願い致します。兎にも角にも、これからも『アサルトアイロニー』をよろしくお願いします。

「全く、ふざけいているにもほどがある」


 そうぼやくのは、特命本部部長、新井源治である。彼は工業用陸戦を使い、先程クリスタと鬼丸が吹き飛ばした陸戦の元へと趣く。


「旦那も素直じゃないねぇ」


 そうからかうのは、同乗者の大将である。今から二人は、先程の陸戦に搭載されていた人工知能の破壊に向かう。

 二人の(主にクリスタだが)怒りが込められたジャイアントスイングによって水没した二機の陸戦に搭載された人工知能は、浸水によって機能を一時的に停止した。操縦者たちは事前に鮫島やアルタたちによって捕縛されている。


「なんの話だ」


「貴様らに出来ることはない、黙って寝ていろ。なーんてぶっきらぼうに言っちゃって。本当は二人のこと、休ませてあげたくて俺を呼んだんだろ」


 その回答が図星だったのか、新井は更に眉間に皺を寄せる。


「そういや何がふざけているんだ旦那? 」


「それはこれを見ればわかる」


 そう言い新井はハッチを開き外に出る。目の前には二機の陸戦が海に浸かっている。

 新井はぎこちない動きでその片方に飛び乗る。その後ろを軽々と追従する大将。


「コイツは教育用AIを無理やり工業用に積み込んだジャンクだ」


 腰から携帯端末に似たデバイスを取り出し、手慣れた操作でそれを起動した。次に彼はそのデバイスが発する光を陸戦の頭部に当てた。

 基本的に陸戦は頭部に思考回路が配置してある。これは人工知能の多くが人間の脳を元に研究開発されたため、人間と同じ位置にあることで発生するメリットが多数存在する。しかし多くの企業がそれを秘匿しているため、新規参入企業の中には理由もわからないままセオリー通りに頭部に思考回路を詰め込んでいるという事実がある。


「対してこちらは脚本家AIだ」


 新井は助走をつけ、腰を引きながら隣の陸戦に乗り移る。再び起動されたデバイスの分析は、その人工知能の用途を語る。


「教育用に脚本家? それがなんで神名乗ったり、アズール何とかに化けてたりしたんだ? 」


 話の全容が掴めずに困惑する大将に、新井は大きなため息をついた後に説明をする。


「私の見立てではこの二機、暴走状態に陥りながらも互いに情報共有をしていたようだ。その結果、自身たちを神としてふるまい、自分たちを発見した海賊達を啓蒙し、手下のように扱っていたと推測できる」


 新井のこの発言は、捕縛した海賊達の証言も判断材料となっている。自身らの神が二つの人工知能だと知っていたのは、一部の乗組員のみだった。


「つまりなんだ。神様の芝居をしていたってことか。じゃあアズ何とかに化けたのはなんでだ? 」


「大方知名度の低い機体なら神秘性が出ると踏んだのだろう」


 そう言うと、新井はポケットから小型のモニターを取り出し、デバイスに取り付けた。そしてそれを再び陸戦の頭部にかざす。


「それが人工知能を殺すヤツか」


 大将はその機械を見て呟いた。新井が手に持っているものは、人工知能の思考回路を分析し、それを的確に破壊する電波を発生させる。


「まあ、そんなものだ」


 しかしそれを扱うには、一定以上の知識と技術が必要である。人工知能の思考回路は全て、二進数で表示されるため、それを解読し、必要な電波を発生させる数字を打ち込まなければならない。さらにそれを、停止した人工知能が再起動する前に行わなければならない。

 新井はこの装置の構造を熟知しているため、慣れた手つきで一つ目の人工知能の反応を消滅させる。


「なあ旦那、一つ聞いていいか? 」


 大将は新井に声をかける。


「なんだ」


 のこりの作業を黙々と進めながら、ぶっきらぼうに答える。


「なんで俺に声をかけた? この作業なら旦那一人で十分だろう。旦那に限って、話し相手が欲しかったってことはないだろうが」


 新井は少し黙る。その間に、二つ目の人工知能を葬った。デバイスをしまうと、目線を合わせずに答える。


「大将はあの二人、どう見る? 」


「一口に言えば天才だな。初めて乗るダイシャークを二人で操るなんて前代未聞だ」


 新井は目線を変えずに喋る。


「ああ、天才にもほどがある。あの機体をたった二人で動かしてきたという話もうなずける。だが……」


 そう言って、新井は視線を上げる。


「だが……他の乗組員は何処に行った」


「そりゃ脱出前に死んだって……」


 珍しく新井が周知の事実を見逃していることに驚いた大将は、すかさず補足を入れる。その補足に食い気味に新井が入る。


「彼らが一度でも、その乗組員を悔やんだことがあったか? 弔ったことが、気に留めたことがあるか? 」


 彼らは一度だって、かつての仲間に思いを馳せない。そんな二人は、たとえ軍人だとしても、おおよそ人としての何かが欠けている。

 そんな二人は今、八型の中で寝ている。多くの死地を乗り超えた二人は寝がえりを打ち、互いに寄り添うように寝ている。


「端的に言うなれば、アイツらは本当に人間か? 」


 煙草の煙が、新井の表情を隠す。

人工知能が人間以上の力を手に入れた現在、果たしてそれらの線引きは、一体何をもって行われるべきか。それは、神のみぞ知る。

新井の頭上、遥か空の先に、一筋の流星が通過する。


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