第十二海路 決戦!カイナ島沖海戦!
「警告、敵陸戦、戦闘形態でこちらに接近中。残存戦力は神である当機ただ一つである」
そう言うと、アズールラッシュはゆっくりと海上を滑り出す。足元には小型のモーターボートが二隻あり、フロートを取り付けることでアズールラッシュの巨体を浮かせている。そのモーターを遠隔操作することで加速減速を可能としているようだ。
「これより異教徒どもの殲滅に移る。貴様は神の御使いとしての使命を果たすためにここで待機していろ」
その言葉を残し、ゆっくりと動き始めたアズールラッシュの細い横顔を見上げるのは、冥府の海賊団団長にて現在のパイレーツスパイト船長ダンクであった。
彼は海賊のように髭を蓄えているが、服装は古代ヨーロッパの宣教師のようである。
「異教徒どもよ。降伏せよ。さすれば幸福を与える。さあ、神たる我のもとに」
ゆっくり、ゆっくりと威厳を示すように移動を始めたアズールラッシュに対し、ダイシャークの動きは実に機敏なものだった。そして紅の機体はそのまま前に出ると、降服勧告途中のアズールラッシュに見事なまでの右ストレートを決めた。しかしそれは紙一重で回避されている。
「なッ、貴様、何を。我は神であるぞ。神に歯向かうというのか人間」
アズールラッシュを神として成立させている要素。それは人語を操りながら人ではないということだ。
「たとえお前が神であろうと、俺たちはこのカイナ島に危害を加える輩を見逃すわけにはいかないんで、な!」
その背後から、跳躍をした零号機の手刀が襲い掛かる。が、これもギリギリで回避するアズールラッシュ。機動性に関して、両機の間に大差はないことがここに証明された。
「躱した! なら」
ダイシャークを前方に大きく傾けスピードを出す六号機。左拳を大きく引き、追撃を試みる。
「何が残存戦力は当機ただ一つである。だ。ずいぶん余裕だな。神だかなんだか知らないが、俺は高圧的な奴が大嫌いなんだ。喰らいやがれ」
一閃、キレのある左ストレートが決ったように見えたが、アズールラッシュは無傷である。
その後も二機のコンビネーションにより、着実にダメージを与えていく。しかしどれも致命傷とはならない。
そしてもう一つ、不可解な事実がある。
「反撃が……来ない」
アズールラッシュは攻撃を避け続けるのみで、攻撃をしてこない。
「鮫島さん、何か変よ。一旦引いて」
クリスタが気付いた時には遅かった。攻撃を避けたアズールラッシュを追いつめ過ぎた零号機は既に、パイレーツスパイトの主砲射程圏内に足を踏み入れていた。
「ファッハハ。喰らえシャークフォース。これが俺たちの布教活動だ」
それは前時代的な大砲であったが、至近距離から撃てば、ダイシャークの足を吹き飛ばすことなど造作もない。その鋼の塊は宙を舞った後に、海に沈む。
「しまった。一旦離脱を」
体制を立て直すために距離を取ろうとする鮫島であったが、失ったものが大きすぎた。片足を失い、バランスを崩し水面に引き寄せられる零号機は鮫島の咄嗟の判断で巡行形態に移行し事なきを得た。
「浸水状況、赤です。後三分で、この船は沈みます」
ダイシャーク零号機コックピット内は赤いランプが点滅し、サイレンがけたたましく鳴り響く。
「総員脱出準備! 逃げ遅れるな」
その一部始終を、アズールラッシュは眺めている。攻撃するでもなく。
「鮫島!」
「こっちは大丈夫だ鬼丸。悪いが俺たちは離脱する。後は頼ん」
通信はそこで切れた。パイレーツスパイトの次弾が、脱出準備中のダイシャークに降り注いだのだった。動力だけでなく浮力も失ったダイシャークは、大きな泡を吐きながら海の底に沈んでいく。
鬼丸とクリスタはその様子を始めこそ見ていたが、次第に目を背けていく。いや、背けざるを得なかった。なぜなら現在目の前には、圧倒的な戦力がにらみを利かせており、一切の油断も許されない状況になっていたためである。
「神に逆らうからだ。愚か者が」
アズールラッシュは腰に下げられたレイピアを構え、六号機に向き直る。
「貴様たちにはこの我が直々に手を加え、奴らと同じ理想郷に導いてやろう」
二人の額に汗が流れる。アズールラッシュはレイピアを素早く前に突き出す。それを今度は六号機がかわす。先ほどとは形成が大きく変わった。逆転されたのである。
「踊れ踊れ人間よ」
その姿は正に踊りと言っても過言ではない。
「一旦引くわ」
クリスタの判断により、バックステップで距離を取るダイシャーク六号機。その姿を、ダンクは舌打ちをしながら見ていた。
「チッ、布教砲の射程外かよ。オイ、機械神様。さっさと奴らを沈めてくれないか」
「わかっている。貴様は少し黙っていろ」
その鋭い眼光がダンクに向けられる。その威圧感に鳥肌が立つダンクであった。
「す、すまねぇ」
「わかればいいのだ」
「勿体ない!」
「どうしたんだ急に」
クリスタの大声に、鬼丸が驚く。
「あの人工知能、アズールラッシュをぜんっっぜん活かしきれてない。勿体ない! アズールラッシュが可哀そうよ」
大きく身振り手振りで鬼丸に訴えるクリスタ。
「活かしきれてないって、どういうことですか? 今でも十分脅威なのですが」
「いい? 八型さん。いいえ八型! あのアズールラッシュはコスト度外視で造られた高級な機体なのよ。その理由の一つがあの光沢あるボディ」
ボディ、に力を入れつつアズールラッシュを指さすクリスタ。鬼丸はクリスタの言葉が段々と速度を帯びてくることに、若干引きつつある。
「貴重なクイーンメタルを惜しげもなく使用することで生まれるあの色と質感!」
「クイーンメタルってあれか。イギリスにあるとかないとか言われてる世界一硬いやつ」
鬼丸とて、その名前を耳にしたことはある。ダイアモンドを超える高度を有した物体。マーリンズケイブから見つかったそれは、イギリスによって独占、秘匿され続けてきた。アズールラッシュが幻の機体であるのは単に生産コストによる生産台数の少なさだけではない。
「俺も技術部の奴から噂程度で聞いたが、未知の物体で造られた陸戦ってアズールラッシュのことだったのか」
鬼丸は技術部からの噂とクリスタから聞いた話がつながり、目を大きく開いた。
「てかそもそもなんでお前は知ってるんだクリスタ。お前、技術部どころか他の部署に知り合いいないだろ」
クリスタの自他ともに厳しい性格は、同期の鬼丸達以外からはあまり良く見られていない。その為彼女に友人と呼べる存在はあまりいない。
その言葉が図星だったのか、クリスタはビクッと体を震わせたあと、見上げるように目線を合わせてきた鬼丸から目をそらす。
「なんで目をそらすんだよ」
「アンタには関係ないわ」
少し震えた声で答えるクリスタに、鬼丸の疑いは深まっていく一方である。
「まあいいや。そんで、なんでそれが勿体ないんだよ」
今この件について追及したところで、目の前の敵を倒せるわけではない。鬼丸は質問を変えた。
「それだけ硬い機体なら、なんでわざわざ私達の攻撃を避ける必要があるのかしら? 」
「そりゃ被弾しないに超したことはないからだろう」
「何故あれは本気で攻撃してこないの? もしアズールラッシュの本気なら、アタシ達今頃ハチの巣よ」
「遊んでるだけじゃないのか?」
クリスタの問いに、鬼丸が答える。クリスタが今欲しいのは答えではない。
「だったら何故海賊に零号機を沈めさせたの?」
「……」
あまりに不可解な点が大きすぎて、鬼丸の口が閉まる。
「クリスタお前、何が言いたい」
鬼丸はこの手の答えが既にあるものに対しての問答が苦手である。現に彼の眉間は、日ごろの新井のようになっている。
しかしクリスタとて、意味のない問答を嗜むほど暇ではない。
「何か……あの機体、何か変なのよ。でもその何かがわからない」
自身だけでは完成させられないパズルのピースを、鬼丸に共有することで、彼女は答えを出そうとしている。
その真意に気付いた鬼丸は、顎に手を当て脳内回路を回す。
電流が、いくつかの箇所で途切れたことを確認する。
「奴の基本スペックは?」
「アタシが見たのは昔だからそんなに覚えていないわ。一秒間に五突きが出来る程度しか……」
記憶の回廊をめぐり出したクリスタに、鬼丸が待ったをかける。
「今お前“見た”って言ったか?」
首を元に戻し、目つきが鋭くなる鬼丸。
「しまった。今のナシ」
物凄い勢いで発言をキャンセルしに掛かるクリスタだが、鬼丸はそこを離さない。
「何処でだ。それがわかればこの違和感を解消して、アイツを倒せるかもしれない」
その直後、大きな音とともに、パイレーツスパイトの主砲が煙をあげる。
「鬼丸、捉まって」
体を左に大きく旋回させ、回避行動をとる。
大きな音とともに、鉛の塊がダイシャークの横腹に当たる。もし回避をしていなければ、一撃でこの機体は沈んでいただろう。
大きな揺れが二人を襲う。被弾時のダメージが大きかったために、多くの機能が死んでいる。
非常用電源に切り替わり、コックピットは赤く染まる。
舌打ちをした鬼丸は腕部の操縦桿から手を離し、立ち上がるとクリスタの肩を持ち力強く訴えた。
「フェッ」
いきなりの出来事に、変な声が出るクリスタ。彼女の顔は、赤い。
「頼むクリスタ。お前のその知識が必要なんだ」
身長差があまりないため、二人の目線は水平な線で結ばれる。
「近い近いこのバカ! あ、アンタは大手コンビニチェーンか何かなの?」
「いいから早く!」
近すぎる、もしくは密集し過ぎている、と言いたいらしい。しかしそこに突っ込む暇もないほど、危険な状態である。
何かを覚悟したかのように鬼丸の手を肩から下ろし、手で顔を仰いだ後、クリスタは斜め下を向きながら重い口を開く。
「……データベースに……ハッキングして……カタログだと乗ってない機体も多いから、あそこならと思って……」
「それってヴァルハラのですか! バレたら懲戒免職処分じゃすまないですよ!」
ことの重大さに驚いた八型が声をあげる。
「だから言いたくなかったのよ!」
そう言い彼女は頭を抱えしゃがみ込む。
「最悪よ。もうヤダ……なんでこんなことに」
それを聞いた鬼丸が、新井との回線を繋げ始めた。その目には鬼神が宿り、髪は紅く燃えている。
「ちょ、鬼丸君流石にそれは……」
その動きを見たクリスタが不機嫌そうに喋る。
「そうよね。アンタの目的はアタシを倒すことだったもんね。良かったわね夢がかなって」
鬼丸は以前、クリスタに対し必ず超えると大見得を切ったことがある。それ以降二人の衝突は日常となった。
「すまない。海岸に流れてきた海賊の対応に追われて通信を切っていた。戦況はどうなっている」
なにも知らない新井が通信に答える。画面に映った顔には、疲れが見える。
「いや何でもないんです本部長」
不必要な衝突を回避するため先に会話の主導権を握ろうとする八型の声は、鬼の轟きにかき消される。
「本部長! 今すぐ」
「アーアー聞こえないー。ウチは何も聞こえないー」
必死の努力で回避を試みる八型。放心状態で鉄の床に背中を預け、鋼の空を仰ぐクリスタ。
しかしそれは杞憂であった。
「今すぐデータベースからアズールラッシュのデータを引っ張ってくれ」
「な、なぜ前線部隊であったお前がその名前を」
アズールラッシュ、その名前を聞いた新井は眉を大きく上げた。
「なんとなく、だ!」
背もたれに身を預け、腕を組み堂々たる姿で叫ぶ。その言葉には根拠もなければ力もない。しかし鬼丸には一切の迷いはない。クリスタは、その大きな背中を見つめる。
「何故それが必要なのだ」
「アレは偽物かもしれない」
「なんですって!」
あまりに唐突に現れたパズルのピースに、クリスタは驚き身を起こす。
「まず第一に、奴はどうして動かない。俺らが距離を取ったら普通踏み込んでこないか? 見る限り飛び道具もなさそうだ」
鬼丸の指摘通り、アズールラッシュにおおよそ飛び道具と呼べるものはついていない。
そして行動範囲が限られているのも指摘通りである。
「それは単に自身の有利な土地で戦うためでは? 向こうには海賊船もあるのよ」
「なら次だ。何故海での戦闘に特化しているダイシャークの攻撃を避けられるだけの機動力を有している。あれはどう見ても即席の海上装備だろ」
足元を拡大する鬼丸。あの巨体を支えるだけのフロートが付いていれば、いくら動力替わりの船が高性能だとしても抵抗が大きすぎる。
「確かに。もう少し抵抗があっても……というかあれ、どうして海賊船より高性能なのかしら?」
「戦力を集中させたのだろう。なんらおかしいことは無いように思えるが」
二人の議論に参加をする新井。そこに八型も加わる。
「そもそもあの足のボートは何処から?」
「奪った、もしくは引き上げだろう」
さらにその議論に、二人の男の声が加わる。
「待て鬼丸。カイナ島近海で、あそこまでの大きさのボートは存在しない。あの大きさのボートを作るなら、陸戦を造った方が効率的だからな」
「奴らに盗品改造する技術もないと考えていい。つまりあの足のボートは偽物だ」
その声は先ほど沈んだと思われていた鮫島とアルタのものであった。
「生きてたのか鮫島!」
「勝手に殺すな。後ろで待機していた彼らに助けられてな」
更にまた一人、通信に加わる。
「元気かい、ヘンテコ陸戦の坊主たち」
「貴方は確か……婆やさん?」
鬼丸の後ろからクリスタが声を出す。
島の中央にある塔から双眼鏡を覗きこみながら婆やが続ける。
「あの陸戦がいる位置。あそこは比較的浅瀬になっているんだよ。教えてあげられる情報はこれだけ。あとは若い奴らで頑張りな」
一つ、また一つ、ピースが二人のもとへ集まる。
「アルタ。お前の言う通りじゃ。奴の足はあの船を貫いておる。スパイトの穴も塞がってはおらんかった」
五号機に乗るハルカスの声である。
「どういうことだ」
机を叩く軽い音とともに、新井の声が聞く。それに少しだけ恥ずかしそうな声で説明をするアルタ。
「スパイトは奪われる直前、座礁したんだ。そこに穴が空いてたんで逃げることが出来なくてな」
「穴が空いてる船って浮かないだろ普通」
鬼丸の放った当然の問いかけは、確信をついていた。
「そう。あの船も、機体も、ただ浅瀬に佇んでいるだけだ。大方夜のうちに騙し騙しの修理をしながらここまで運んで、黒い布で夜に隠していたのだろう」
アルタに続き、クリスタがピースをはめる。
「じゃああの船は動けないってことでいいのね」
立ち上がり、彼女は総舵輪を握りなおす。それに気が付いた鬼丸は、腕を操作するために変形後から機能する操縦桿を握り臨戦態勢になる。
直後、サブモニターには一機の陸戦の情報が映し出された。その情報はすぐにブラックアウトし、代わりにトップシークレットの文字が現れた。
「ええい邪魔だ。少しは空気を読めデータベース風情が」
新井が声に怒りを込めてタイピングをする。その直後、画面は再びもとに戻り、アズールラッシュの情報がこと細かに表示された。
「本部長!」
「マスターキーパスを使った。ただ時間制限もある。一分すればロックがかかる。急げ!」
このチャンスを逃すまいと画面に食いつき情報を集めようとする二人だが、パイレーツスパイトの砲撃が邪魔をする。黒い煙を捉えた二人はデータから目を離し、着弾に備える。
「データ照合はウチが行う。二人は回避を!」
八型に分析を任せた二人にとって、前時代的な攻撃をかわすことは容易である。
「ねえ鬼丸、奴らの砲撃間隔、妙じゃない?
「あまりに間隔が長い。他の船の二倍はあるぞ」
華麗にその一撃を避けた二人は、その疑問が頭に浮かぶ。
鬼丸はその疑問を解決する為に、パイレーツスパイトにカメラを向け、拡大をする。そこには必死に砲弾を運ぶ、ダンクの姿があった。
「オイオイ。海賊の船長って、あんな下っ端みたいなことするのか? てか他の乗組員は?」
鬼丸はそのカメラを動かし、人影を探す。その時、八型が声を出す。
「おかしい、おかしいです。データによると、アズールラッシュに搭載された人工知能は攻撃に重きを置いています。でもあれはどちらかというと回避を重視しています」
「本来ダメージ上等な機体が攻撃を喰らうことを恐れている?」
「更に全長は三メートルと出ています。そしてこのダイシャーク格闘形態もピッタリ三メートル!」
八型の声を聞いたハルカスが声を出す。
「それはおかしい。同じ大きさならあの浅瀬に着いている足はどう説明するんじゃ」
頭の高さが同じなら、足の先も同じ高さにないとおかしい。
その疑問に気付かれまいとするかのように、パイレーツスパイトの砲弾が飛んでくる。
「つまりあれはアズールラッシュではありません!」
「向こうに船長以外の人影はない。クリスタ。機体を回転させながら右に三十センチ。砲弾弾き返すぞ」
「了解。よくもアタシを騙してくれたわね」
フィギュアスケート選手のように、腰を低くし綺麗なターンを見せるダイシャーク。その回転の力を使い、後ろに引かれたダイシャークの荒々しい右拳は砲弾を捉える。
「ゲ」
その姿を見たダンクは顔を青くした。
「その正体、白日の下にさらしてあげるわ!!」
全体重を使い、操舵輪を全力で回すクリスタ。
「ハアアァァァ」
全筋力を使い、手前に引かれた操縦桿を押し倒す鬼丸。
「「行っけー!」」
激しい怒りによって真反対から力が加わった砲弾はアズールラッシュに向け、一直線で飛んで行った。
「やめろ、ヤメテくれぇ」
ダンクの叫び虚しく、その砲弾はアズールラッシュを貫通した。
「当たってない、だと」
「鬼丸よく見て。あの足元」
アズールラッシュを通り抜けたそれは海に着弾し、大きな波を起こす。その波によって、アズールラッシュの脚部だと思われていたものがあらわになる。
「あれは、ちっさい陸戦? それも二つだ」
そこにはおよそダイシャークの五分の一もないような工業用の小さな陸戦が二機あった。その頭部には、プロジェクターが積まれている。
「つまり今まで俺たちが見ていたのは、アズールラッシュの映像?」
その事実を飲み込めない鬼丸の後ろで、クリスタは小刻みに揺れている。
「なるほど。船に人がいなかったのはあの陸戦の操作とアズールラッシュの投影に人手を割いていたためですね。なんと馬鹿馬鹿しい」
八型の声が、最後のピースをはめる。それによって浮かび上がる結果はただ一つ。
「今だ! 俺たちでダンクを抑えるぞ。機械神なんていなかった!」
「アイアイサー!」
三号機、五号機は巡行形態のままパイレーツスパイトに潜航しながら接近。目の前で勢いよく飛びあがりダイシャークごと船に乗りあげる。
「ヒ、まだいたのか」
砲弾を懲りずに持ち上げようとしていたダンクは驚きにより腰を抜かす。
「野郎ども、相手は一人だ。乗り込めぇ」
アルタの号令で大きく口を開く二体の鮫。口の中から血気盛んな海賊が押し寄せる。
奪われたものを奪い返す。アルタ達の目的は、ここに果たされる!
「貴様らはこの船の……なめやがって」
崩した体勢から拳銃を抜き構えるダンク。しかしそれは未遂に終わる。
アルタの光を超える早打ちにより、ダンクは手に傷を負った。
「アルタ、貴様ぁぁああアァアァ」
「キャプテン仕込みの早打ちに、勝てると思ってんのかマヌケが」
「ダンク様、今我らも加勢に」
工業用の陸戦を操作する海賊達が、アルタ達にその腕のユンボを伸ばす。しかしその腕は、紅の腕に掴まれる。
二機のユンボを両腕で掴んだ紅い機体の中で、クリスタの顔は真っ赤に燃えていた。
「へぇ、考えたものね。アズールラッシュなんてレア機体を投影して神を語れば、士気も上がるでしょうね。すごくいい作戦だと思うわ。ええ、とても。でもね……」
目を瞑り、一呼吸置くクリスタ。八型はあえて、その様子をハッチを開き海賊達に見せつける。
腕を組み、怒りの波動を放つクリスタの足元では、皮肉な笑みを作る鬼丸。彼は歯を食いしばりながら、その腕の操縦桿を力いっぱい握りしめる。
みるみるうちに顔を青くする海賊達。まるで、このあと自分たちに何が起こるかがわかるように。
目を見開き、組んだ腕を大の字に広げたクリスタが大きく叫ぶ!
「このアタシ! クリスタ・リヒテンシュタインの目にそんな小細工が通用すると思ったら大間違いよ! 悔い改めるといいわ、神モドキ!」
肘を曲げ、操舵輪を握り赴くままにそれを左に回す。その動きに連動し、回転を始めるダイシャーク。二機の陸戦は腕を掴まれたたま振り回される。
「取り舵いっぱい。高速回転開始!」
この状況を楽しむかのような八型の声が、恐怖に満ちた海賊達を煽る。
「相手が悪すぎたな。せいぜいこのメリーゴーランドを楽しみな」
回転に耐えながら、鬼丸が海賊達に言い放つ。
遠心力によって生まれた竜巻は、ダイシャークを青い海から青い空へと誘う。その小さな機体は地上の重力に反旗を翻し、空へ舞い上がる。
「「吹っ飛べェェェェェ!」」
勢いをつけて陸戦を振り回す腕は、二人の叫び声とともに開かれる。海の遠く彼方まで吹っ飛ばされた二機の陸戦の姿は、水柱とともに海に消えた。
再び重力に捉えられたダイシャークは足を開き、片手を水面に着く形で着水を決める。背後には消えゆく青い水柱と赤い太陽によって創られた虹がかかる。
ここまで読んでくださり、ありがとうございました。ただいま第二部を全力で執筆中ですので、しばらくお待ちください。もし待ちきれないという方は、もう一度はじめから読み返してみてはどうでしょう。作者が喜びます。とにもかくにもこの『アサルトアイロニー』がここまで執筆出来たのは、今この文章を読まれている皆様のお陰です。本当にありがとうございます。そしてこの作品の宣伝に協力してくださった皆様にも、感謝してもしきれません。
最後に、この作品のネタ出しに協力してくださった友人にも、感謝をいたします。
長くなりましたが、ここで後書きを終わりとさせていただきます。ご愛読ありがとうございました。




