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鋼女神話アサルトアイロニー  作者: ハルキューレ
海上編第一部~海賊領域~
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第八海路 海賊達の流儀

 翌日、午後一時、腕寿司にて。そこには鬼丸を筆頭に昨日の作戦に参加した面々が一同に会していた。そこにはマリンと相助の姿もあった。


「先生、本当にこれ全部食べてもいいの?」


 二人の前には、鬼丸達が食べる丼とは違った、豪華な丼が用意してあった。

「勿論だ。君達二人の助力が無ければこの事態を乗り切ることは出来なかった。深く感謝をしよう」


「本部長~。最前線で命張ってた俺らは賄いって、どんな了見ですか~」


 挑発的な口調で新井に問いただしながら、行儀悪く鬼丸が賄いをかきこむ。


「ちょっと鬼丸、行儀悪い。もしかして酒田は一回も注意しなかったの? 」


 鬼丸、コルセア、そしてインテリの三人がよくともに食事をしていたことは、本部の面々には周知の事実である。

 かく言うクリスタも先日同様物凄い勢いでかきこむ。


「「おかわり」」


 同時に丼をカラにした二人はその丼を隼人に差し出す。変わりを持て、と言わんばかりに。


「フードファイターかお前らは! これで五杯目だぞ。むしろタダでおかわりさせてやってるだけ有難いと思え!」


 二人の食べっぷりに初めは圧倒されていただけであった大将と隼人は、しまいには二人の限界が気になりノリノリで次の丼を持ってきている。


「賄いデラックスお待ち!」


 新井の顔がまた曇る。その表情は二人の胃袋へ向けられたものなのか、はたまた特命支部の財布を憂いたものなのか。




 数十分後。子供たちは礼を言って帰っていった。


「現在我々が対処しなければいけない問題を再度確認する」


そこでは新井を中心に、作戦会議が開かれていた。


「まず第一に人員だ。技術者は数こそいるが、お世辞にも練度が高いとは言えない」


大将や隼人など本部からこの島に派遣された人員の多くは、この島で比較的平和な日々を送っていたため、陸戦修理に関する技術力の低下が見受けられた。さらに不幸なことに八型の存在は秘匿されていたため、その多くが謎に包まれ、修理や調整をする際は手探りに近い状態である。


「流石に設計図無いもの直したり強化するのは時間がかかるわな」


自嘲的に笑う大将は、椅子の背もたれを前にして体重をかけている。


「二つ目に、ゴッドアップルと名乗ったあの人工知能についてだ。今朝あの八型モドキの記録データを見てわかったことがあった」


 八型が見たものは内部データとして保存してあり、いつでも再生、閲覧が可能である。

 朝早く新井は八型を工業用ハンマーで脅し、記録を開示させていた。


「結論から言うと、ゴッドアップルは私が想定していた人工知能とは別物だった。だが奴の言動からして、いずれ君達に復讐しに来るであろう」


 その話を聞いた鬼丸は椅子に胡坐をかきながら質問をする。


「てことは別の親玉が居るってことか?」


「ああそうだ。少なくとも私が追っているヤツはあそこまでの無差別爆発が起こせない」


 視線を落とし、声のトーンも比例させる新井はどう見てもこれ以上この話を語りたくないようだが、クリスタは質問をする。


「その敵の名前は? 目的は?」


 エリートといえ鬼丸とクリスタは一兵に過ぎず、自分たちが戦っている相手についての情報はあまり知らされていない。


「知っていたら話しているさ。目的はわからないが人類が抵抗しないと全滅するのは明確だな」


 更に暗くなる新井にやっと気づいたクリスタが身を引く。新井本人もクリスタと同じ疑問を日々抱き続けていた。しかしそれを知るすべはなかった。

 話の流れと気分を多少なりもどした新井が続ける。


「そして三つ目は戦力だ。現状八型モドキは使い物にはならない上、たとえ修理が出来たとしてもパイロットが足りなすぎる。少なくともあと三人くらいは必要だ」


本来五人以上で操作をすることを前提として作られたヴリュンヒルド八型を鬼丸とクリスタが二人で扱えていたのは奇跡に近い。


「そうね。毎回毎回あのような戦いをしていては身が持たないわ」


「クリスタにしちゃ珍しく弱気じゃないか。まあその通りだけどな」


「まあこの島の住民は陸戦の操縦だけならできるものも多い。ド素人を鍛えるよりかはましだろう。志願兵でも募集してみるか」


その後、新井は口に手を当て暫く考え込んだ後、席を立ち店を出る。


「急用を思い出した。お前たちは昼寝でもしていろ」




「挑発して、メシ食って昼寝して。本当に愉快な奴らだ。なあ本部長」


 三十分後、椅子に座りながら爪楊枝を使い歯の掃除をする大将が、店に戻ってきた新井に話しかける。


「もう少し落ち着いて欲しいものだがな」


 溜息をついて、続ける。


「せめて安心できる寝床ぐらいは用意してやりたいんだがな」


 焔三式を撃破した二人は、そのままつい先ほどまでコックピット内で深い眠りについていた。あれだけの死闘を繰り広げたので当然といえる。


「そんな金も場所も、皆目見当が着かない。しばらくはコックピットで寝泊まりしてもらう他ないだろう」


 この場所は閉店後、隼人や本土から先行して来ていた技術者たちが使う。

 つまり二人は、生活拠点が無いのである。


「ところで大将、三式の引き上げの方はどうなっている? 使えそうなものがあればいいのだが……」


 物資不足の特命本部は、撃破した焔三式のパーツに目を付けた。勿論人工知能は昨日のうちにボートで乗り込んだ新井によって破壊、消去されている。


「割と綺麗なパーツが多かったんだ。かなりの儲けだ」


 海上に浮かぶカイナ島において、水中での活動も可能な陸戦は、自家用車のように生活に溶け込んでいる。それらは工業用などの目的で作られたため装備こそ貧弱だが、この島の生活に必要不可欠となっている。そのため綺麗な部品は高値が付く。


「ただ武装は取り換えだな。カタパルトは修理不可能なぐらい壊れているし、あのライフルは人の手に余る。本当にアレを使っていた奴がいたのか?」


 人の手に余る。確かに、あれを使うためには瞬間的な演算能力が求められる。


「彼らの話では、な」


 そう言って新井は席を立つ。喫煙のためである。


「怖い顔して、本部長も優しいねぇ」


 そう大将が呟く。この店は、時代遅れなまでに分煙が進んでいない。机には必ず灰皿とマッチがおいてある。しかし新井は寝ている二人を気遣い、外に出た。


「外で吸うのも、悪くないな」


 カモメが今日も、太陽に点を落とす。




 二人が目を覚ました時は、太陽が沈みかけていた。

 サイレンだ。しかし昨日のものとは違う。二人は聞いたことのないサイレンに戸惑いつつも立ち上がり、店を出る。

 そこには異様な光景が広がっていた。島の至るところでたいまつが焚かれている。

 この島は、東にある発電施設から電力が供給されているため、島中に紐でつるされたタングステン電球で夜市のような独特な明るさがある。なのにたいまつだ。

 さらに言えば昨日は怯えていた島民たちが、意気揚々と槍やら弓やらを用意している。


「起きたか、全く、タイミングがいいのか悪いのか」


 二人の前を、大量の槍を抱えた新井が通り掛かる。その後ろには、杖を突いた老婆がいた。


「本部長、これは一体……」


 事態を飲み込めないクリスタが説明を求める。すると、新井の代わりに老婆が答える。


「祭りだよ。食うか食われるかのね」


 ニヒヒッと笑い、続ける。


「あのふざけた陸戦に乗ってたのがまさかこんなガキとは。本当にありがとうね。ただし今回は手出し無用。と言うか、本土のお子様には刺激が強すぎるかもねぇ」


 クリスタの整った顔ギリギリに杖を突き付け、魔女のように笑う老婆。彼女は高笑いをしながらどこかへ消えていった。


「あの人は婆やと呼ばれる、原住民たちの統治者だ。まああれで協力的だから安心しろ」


 槍を一旦床に置いた新井が説明を始める。


「祭りというのは婆やの悪い冗談だ。忘れろ。この警報は近海に海賊が現れた際に用いる。生身のお前らには身が重すぎる。大人しく八型モドキの中で事が過ぎるのを待て。これは命令だ」


 命令をつけなければ、二人は戦うことを選ぶ。先の戦闘で新井はそれを学んでいる。


「こればっかりは畑違いだ。黙ってひきこもるぞクリスタ」


 鬼丸はそう言い、正義の味方になろうとしていたクリスタの手を右手で掴み、足元から槍を二本、左手で拝借する。


「安心してくれ本部長。これはあくまで護衛用と観賞用だ」


「ちょ、ちょっと鬼丸」


 クリスタはまだ納得していない。しかしそれを鬼丸が強引に引っ張り、始まりの建物まで歩き出す。


「護衛用の槍など聞いたことが無いぞ。全く」


 二人の背中を、新井が見つめる。その目には、少しの懐かしさが見られる。


「クリスタ、お前は教科書に載ってる英雄譚しか知らなさそうだから教えておく。賊ってのは手負いを狙うって相場が決まっているんだ」


 そこでクリスタは理解する。自分たちが守るべきもの。気絶寸前まで機体を動かし、出来るだけこの島に近づけてくれた存在は、今は手負いだ。


「ゴメン。あとありがとう。そうだね。今度はアタシ達がコルセアを守ろう」


 二人は並んで、走り出す。




「や、槍」

「リール」

「る、る、ルーマニア!」


 ここはヴリュンヒルド八型のコックピット。島民たちは対海賊に、最後の調整を行っている。中には陸戦を持ち出すものもいるが、武装はうまく使えていないようだ。


「麻」

「サル」

「る、る、るるる……ルーン!」


 陣頭指揮をとるのは先ほどの老婆である。その群衆のなかには、大将と隼人の姿もあった。


「ハイ、八型の負け」


「これで五回目よ」


「いやクリスタ、お前がる責めするからだろ」


 しりとりの必勝法、それはるで相手に返すことである。


「また……負けた……」


 気の抜けた声で会話が行われていた。

 始まりは八型の語彙テストだった。それが今や悲しき戦いとなり果てている。

 外では今まさに、電磁結界の内側で闘いが繰り広げられている。一進一退の攻防が繰り広げられる中、人海戦術を用いる島民側は、戦いに慣れているであろう少数精鋭に善戦以上の成果を出している。

 その中には、流石に子供たちの姿は見えない。


「槍の扱いに関してはDチーム以上だな」


 外を見た鬼丸が呟く。


「ええ、それを筏の上や小型の船の上で行っているのだから、かなりレベルは高いわよ」


 今夜の海は荒れている。激しい波に呑まれる者も少なくはないが、皆岸や船まで自力で復帰をしている。


「確かにこれは身が重すぎるな。特にクリスタには」


 左腕武装操縦席に全体重を預け、だらけ切った鬼丸が言う。


「金槌で悪かったわ」


 クリスタは操縦席に姿勢正しく座り、外の様子を注意深く見ている。


「クリスタさん、何か近づくものがあればウチが報告するから休んだら?」


 しりとりをしていても、その目は休んでいなかった。


「ありがとう。でも大丈夫よ。今のうちに相手の動きを見ておきたくて」


 彼女の脳内で、彼女は既に二十回近く死んでいる。そうしてようやく、一人の海賊を戦闘不能にしたところだ。


「……やっと、か」


 そう呟き、クリスタは観察を続ける。

 しかしある一時を境に、戦況が大きく変化した。海賊の数が一気に増え、時折島に黒い塊が降ってくるようになった。


「敵増援を確認。たった一隻だけど十分に大きいガレオン船と判明。多分このままじゃ……」


 八型のレーダー探知機にその海賊船は捉えられた。


「ここに居る分には安心……というわけではなさそうね」


 次第にこちらに向かってくる人影が増える。二人がこの島で最初に目を覚ました建物はこの島唯一の病院であった。その病院を死守するために、島民が必死の抵抗をするが、既に防衛線が瓦解し始めている。

 先ほどまで意気揚々と各防衛線の善戦を告げていた放送は、鳴りを潜め、代わりに救助要請の怒号が響く。その中に時折、鮫はどうした、鮫はまだかという声が聞こえる。


「どうやらあの後続に指揮官でも乗っていそうね。兵の指揮が一気に上がってきてる……ねえ鬼丸、あれって」


 メインモニターに映った海上の映像を鬼丸に回す。


「少なく見積もっても十隻はあるな。艦隊レベルの増援かよ。これ不味くないか?」


 さらに無数の海賊船の増援が海を埋め尽くす。それらは最初の一隻と比べると見劣りするが、十分に脅威になりうる。


「八型、エンジン回して。多分あの艦隊をどうにかする位ならギリギリ持つはず」


 八型の修理はまだ終わっていない。そんな八型は、申し訳なさそうに答える。


「ゴメン、今機関を本部長にロックされてて……」


 その直後、ノイズ交じりに新井の声が聞こえる。


「そういうことだ。今貴様らが行っても海が汚れるだけだ」


 邪魔だ! と新井が叫び、野太い声が悲鳴を上げる。直後、鈍い音とともにその汚い声は収まる。


「もしかして本部長、戦いながら通信してますか……? 」


 恐る恐る尋ねる鬼丸の姿勢は、自然と正されていた。


「ん? お前らも陸戦で戦いながら通信位するだろう。何を今更」


 それとこれとは勝手が違う、と言おうとしたクリスタを遮り、新井が続ける。


「安心しろ。海の艦隊の方は鮫が何とかする。それよりお前らは眼帯女を八型モドキに収納しろ。そろそろそこも危険だ。邪魔だと言っているだろうがこの低能が!」


 直後、新井との通信が新井の怒号で切断される。


「……最後の絶対海賊に当たり散らしてたよな?」


「通信しながらの戦闘といい当て身と言い、なんなのあの人?」


 二人が身内に怯えるなか、八型は思考回路を全力で回していた。


「お二人とも、今すぐコルセアさんのもとに向かってください。海賊が来ます」


 その言葉とともに、ハッチを開けた八型。その言葉を二人は疑わなかった。

 開いたハッチは窓に接続され、二人はそのまま部屋の中に前転受け身を取りながら侵入し、コルセアが寝ているとされる隣の部屋に向かう。その直後。


「誰だ、動くんじゃないよ」


 その声は、隣の部屋の暗闇から聞こえた。

 そこには声の主、コルセアが壁に手を着き立っていた。その姿と、その声に、二人は安堵をした。


「よかった。目が覚めたかコルセア。話は後だ。今はとりあえず八型に逃げるぞ」


 鬼丸とクリスタは戸惑うコルセアを無理やり八型に詰めた。




「じゃあなんだい。アタシャ一日半寝てたのかい。その間に二人は戦って、今度は海賊の襲撃と」


 コルセアを八型に押し上げながらかいつまんで説明するクリスタ。なんとかコルセアが乗り終わり、鬼丸とクリスタが乗ろうとしたとき、銃器を持った海賊の一人が病院の扉を足でけり飛ばし入ってきた。


「てめえら動くんじゃねえ! 手上げろ」


 生身の二人は言葉に従い、両手を頭の上にゆっくりとあげる。


「オイ、こっちにガキが二人いるぞ。しかも片方は女だ。これは高くつく。日に焼けてないなんてレアだしな」


 声を張り上げ仲間を呼ぶ海賊。その言葉に、クリスタは動じることなく涼しい顔を崩さない。何かを待つように。鬼丸は既に、入ってきた海賊に奇襲をかける算段を練り始め、険しい表情を作る。

 次の瞬間、二人の背後から野太い声が聞こえる。


「不敬である。人間。我を誰と心得る!」


 その言葉に、海賊は腰を抜かした。何故ならそこにいる誰もが、口を開いていないためである。


「……兄ちゃん姉ちゃん、腹話術使えたり?」


 驚きのあまり口調が崩れる海賊に、首を横に振る二人。


「我が見えぬのは当たり前。我こそは神、海賊神である」


(海賊神、聞いたことあるか? クリスタ)

(あるわけないでしょ)


 そのねっとりとした機械音は、八型から発せられていた。しかしそれがわかるのは鬼丸とクリスタだけである。


「海賊神……。聞いたことがある。私掠船時代から海賊を守り続ける神。ま、まさかそいつが、こ、ここに?」


(聞いたことあるのかよ)

(あったみたいね)


 見る見るうちに海賊の顔が曇る。そこに先ほどの声を聞いた仲間が押し入ってきた。


「呼んだかアルタ。なんか変な声が聞こえたが」


 ざっと数えて五人以上は居た。


「か、海賊神だ。ここに海賊神がいる! ワシら全員皆殺しじゃ!」


 アルタ、と呼ばれた男は仲間に恐怖を伝える。


「と、とんずらじゃ。ワシは逃げるぞ」


 アルタはそのまま扉から出ようとしたが、同様に海賊神の名前に怯えた仲間たちがパニックを起こしているため、出ることが出来ない。


(結構有名なのか? 海賊神)

(地母神の可能性が高いわね)


それを海賊神が呼び止める。


「待つがよいアルタ。貴様なぜまだ海賊などやっている? しかもこんな外道に近い行為で」


 鬼丸とクリスタは海賊神が放った言葉のなぜ、という部分が引っかかるが、口を開かない。


「なぜってそりゃ……。誇りのためだよ。キャプテンから貰った大切な船取られてなければ悪徳海賊なんてもうやめてるさ!」


 アルタは頭に巻いてあるバンダナをほどき、頬をなぞる海水をふき取る。それに釣られて彼の仲間も男泣きをする。中には女性の姿もあるが、これは紛れもない男泣きである。その空気に乗り切れない鬼丸とクリスタは終始蚊帳の外であり、手を下げていいのかわからず少しずつその高度を下げていた。

 その空気を、一瞬にして神が破壊する。

「え、なに? あの船、パイレーツスパイト奪われたの? マジ?」


 その一言で、全員の時間が止まる。そうして二人の後ろで八型のハッチがゆっくりと開く。そこには眼帯を外し、右目から紫色の瞳を輝かせる女、コルセアが腕を組み座っていた。

 その顔をみて、海賊たちはすぐさま地に頭をつけた。俗に言う土下座だ。


「あ、あんたは……」


 アルタは視線を上げ、その名を呼ぶ。


「海賊の中の海賊、キャプテンコルセア!」


「よお、久しぶりだなお前たち。船長のツレに手を出すなんざ、そもそも一般人に海賊行為するなんざ、どういう了見だ? アタシ達の誓い、海賊からの海賊行為はどこ行った!」


 そのまま、コルセアが問いかけた。


「大方足洗って漁してたところ襲われて、船を人質に取られたんだろ。悔しくないのか?」


 よくよく見ると、彼らは全身が海水で濡れていた。船を奪われたという発言から、おおよそ彼らは使い捨ての鉄砲玉として前線に駆り出されていたのだろう。


「悔しい、悔しいです。キャプテン。大切な船を奪われ、海賊以外は襲わないの誓いも破らされた。でも船がないんじゃどうしようも出来ないんじゃ」


 口々に悔しい、悔しいと呟く海賊たち。総勢十人。

 ただ、それも今日で終わりだ。


「だったら顔をあげるんだな。それにホラ、船ならあるだろう。しかもたくさん」


 船を持たない彼らは、海賊としては未完成である。なればこそ、完成を目指しもがき続ける。


「キャプテン、あんたまさか……」


 そこに、救いの神は現れる。


「今日の獲物は奴らの艦隊そのものだ。復帰記念にデカブツ頂戴するよ! 」


 伝説は、蘇る。


「あ、あ……」


 海賊たちは、体を小刻みに振動させる。


「アイッ! 」


 その声は、自分自身に響くように。


「アイッ! 」


 その叫びは、獲物へ布告するように。

 そうして彼らは立ち上がる。そのタコだらけの手を勢いよく額へかざす。


「アイアイサー! キャプテンコルセア!」


 それは、忠誠を誓うあるじに聞こえるように。


「いいじゃないか。コルセア海賊団の復活だよ。お前たち、気合入れな!」


「ヨーソロー!」


 その声はあまりにも大きく、鬼丸とクリスタは耳を塞いだ。突き上げられた拳が、一人の女に集まる。


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