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鋼女神話アサルトアイロニー  作者: ハルキューレ
海上編第一部~海賊領域~
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第七海路 未完成達の一撃

 波の音に、二人が走る音がセッションする。二人は海馬をたどり、無事最初に目が覚めた建物にたどり着く。幸いカギはかかっていない。

 中に入ると、窓の方から声がする。


「二人とも早く、北方五キロ近くに、ハッキングされた陸戦反応です。ウチも人のこと言えませんが、奴は陸戦のくせに水中を移動しています。けしからん」


 そう言いながら、八型は窓と位置を調整しつつハッチを開く。

「ナイス、八型!」


 走ってきた勢いでコックピットに飛び込むクリスタが叫ぶ。

「機関起動!」


 あとから飛び乗る鬼丸が叫ぶ。


「機関、既に回してる。該当海域まではウチが操縦するから、それまで作戦とか点呼とか、あとカッコいい名乗り考えておいてください」


 ハッチを閉じて後退し、進路を決めた八型が潜航を開始する。陸戦は、第二世代以降ほぼ全ての機体が潜航を可能としている。最新機である八型も例外ではない。


「点呼って必要か?」


 会話をしながら機体の損傷個所を調べ、それを考慮した作戦を練るなど、朝飯前の二人である。


「一応やっておこうかしら。数字数えていくのでいい? あと第七区画がそろそろ不味い。ダメージ多すぎて持たないかも」


「一、で終わりじゃねぇか。第七区画了解」


 鬼丸は一通り左武装の操作パネルを弄ると、立ち上がり右腕の操縦席に移動した。


「やっぱ左死んでる?」


「ギリギリすぎるな。使えて一回。流石にそれを使えるほど肝は据わっていない。攻撃制度は慣れない武装だから勘弁な」


 そこはかつての友、インテリの席だ。一通りの訓練を積んだ鬼丸にも、最低限使いこなせる標準的な陸戦ライフルだ。インテリはこのシンプル故の強さを気に入っていた。


「腕がいい奴ほどシンプルな機能を好むらしい。俺は逆だが。この銃、サポートが貧弱すぎるんだよ」


「私もそこまでシンプルなものは好まないわ。攻撃は鬼丸がするとして……アタシが操縦か」


 ぽつりと呟き、操縦席に座るクリスタ。


「八型さん、操縦代わるわ。機関調整と鬼丸のサポートに回って」


「ガッテン! 操縦代わります……あれ? 敵、陸地まで二キロ地点で止まってる」


 その報告と、クリスタが操縦桿を握った直後、モニターに外の様子とは別の窓が開く。


「電磁結界だ。それ以上奴は島に近づくことは出来ない」


 そこには中腰の新井が画面いっぱいに映っていた。その通信に気付いた八型が騒ぎ始める。


「うわ出た! てかなんでウチの回線開けるの? さては勝手に同期したなこのヘンタイ!」


「ヘンタイッ……だと? 貴様それ以上ごちゃごちゃ言うなら一度解体してネジ一本余らせた状態で組み立てなおすぞ八型モドキ!」


 やはり新井の眉間にはしわが寄っている。


「ともかくだ、いつまでも島民を恐怖にさらしておくのも良くはない。ついでに言うと電磁結界に攻撃が入るたびに特命本部の財布が電気代で軽くなる。早急に片をつけろ。これは命令だ!」 

 その命令を聞きながら、ライフル射程圏内に入った巨神は浮上する。その姿荒荒しく。局所的な大雨が降る。


ーーー


「魔人か……巨人か? でっかい女神だ……」

 

 避難をしている南の島の住人は、その姿に目を奪われた。


「準備が整ったら言え。一時的に結界を解除する。その後お前らは結界の外側でアレと戦ってもらう。解除前に電磁放射で奴を一時的に後退させる。そこを狙え」


 鬼丸はその説明を聞きながら、ライフルに弾を装填するよう操作する。


「クリスタ、解除直後に発砲する。終わったら潜航をしながら敵に突っ込んでくれ。そんで奴の背後をとるのはどうだ?」


 奴だのアレだの呼ばれているのは焔二式の後継機、焔三式である。二式以上のスペックと火炎放射器を備えている。大きさは八型よりも一回り大きい。クリスタは黙って鬼丸に頷きで同意を示す。


「新井本部長! オッケーだ」


「了解した、結界解除だ」


 その直後、結界に張り付いていた焔三式の体は電磁放射でバランスを崩し、そのまま後退する。とっさの計算により、転倒は免れたかのように思われたが、直後、一発の弾丸が三式のボディーを押す。そのまま背中を下にして倒れこむ三式。しかし足の先に居るはずの八型の姿はない。


「結界を張りなおすぞ。急げ!」

 

 画面の向こうでは新井が大将と隼人に指示を飛ばす。

 そんな中、焔三式がゆっくりとその紅の体を起こす。そのまま何事もなかったかのように再び島への進撃を始める。

 しかしそこには新井が再び電磁結界を貼っており、その足は止まる。腰まで海水に浸かった焔三式は電磁結界の破壊を試みる。


「おい、このままだと赤字だぞ。具体的にはあと五回が限度だ。それ以降はお前らのメシでアレを維持していると考えろ」


 ソナー音と新井の声が、操作に追われた二人を鼓舞する。いくらクリスタと鬼丸が優秀だとしても、五人以上で初めてまともな活動が出来る機体を二人で回すのには無理がある。


「鬼丸、アンタ諦めては無いわよね?」


「諦めてたら両腕の武装を同時に調整とかしてないだろ」


 しかも、機体には損傷の数々。


「負けて……負けてたまるかです。機関は最新機の名に懸けて意地でも維持します」


 意地。もはやその領域だ。別に彼らにはこの土地に思い入れなどない。逃げることだって出来る。しかし彼らはそれをしない。


「鬼丸、浮上する。右腕代わるわ。三式なら股関節から攻める」


 負けてたまるか! その鋼の意志は、再び水平線を突き破る。ハッチ周りの装甲が重点的に強化されたその機体は、その少し突き出た胸部を海水から出した。


 その姿に、一人の少女がつぶやく。


「あの白いの、ちっちゃい。赤いのに負けちゃうの?」


 八型が海面から姿を見せた時、多くの島民は落胆した。突如現れた白いのが、自分たちを助けてくれるのではないのか、その八メートルを超える巨体で、この島を守ってくれるのではないか、と。現実は非情だ。大きく見えたそれは、意外にも襲撃者よりも小柄な機体だったからだ。

 襲撃者、焔三式は十メートルを優に超える。

 だが誰もそれは口にはしていない。してしまえばそれは落胆ではなく、絶望となってしまうからだ。だから誰も口に出さなかった。

 しかしこの少女は、幼いがゆえに、未完成であるがゆえに、絶望を知らない。


「頼むぜクリスタ。こっちは最後の攻撃の準備だ。痛いだろうが我慢してくれよ、ヴリュンヒルド八型!」


 ヴリュンヒルド八型は、最近の陸上戦闘機にしてはかなり大きいほうだ。しかし焔三式の大きさはそれを上回る。


「大丈夫、行けるよ」


 その左手の甲にある爆発物射出用カタパルトは多くのヒビが入っている。彼女は誇らしげにその手を海面から出し、太陽に見せつける。それを勲章と言わんばかりに。

 鬼丸の操作により、細かい角度調整が行われている中、右手に握られたライフルは絶えず火を噴いていた。


「コイツ、硬い」 


 その右股関節部を狙った攻撃は、クリスタによって行われている。彼女が攻撃に参加したことによって、この機体は棒立ちである。


「確かに時間を掛ければ赤字だとは言ったが、足を止めてどうする! ほら、奴がお前らに気付いて結界から向かってきたぞ。お前らがやられたら元も子もないことは理解しているのだろうな?」


 そう言いながら、新井は八型のモニターに焔三式のデータを表示させる。


「これを見ろ、今データベースから引っ張ってきた焔三式のデータだ。奴の同型機は右足にある燃料タンクに引火し爆発事故を起こしている。ただその後足の装甲は強化されている。あの機体もそうだと考えるべきだ」


 ゆっくりと、波をかき分け、距離を詰める焔三式。接近して敵重要拠点を炎上させる目的で開発された焔系列の機体は、遠距離攻撃手段を持たない。


「なのでここは比較的装甲の薄い股関節部分をライフルで破壊するべきだ」


「もうやってる! でも出力不足で貫けない」


 三式の爆発事故は勿論クリスタは知っていて狙っている。すぐに他の操作に移れるように、座らずに作業をしている。


「距離千、八百! どんどん近づいてる! 電磁結界は守れたけどこれじゃあ……」


 八型のその声で、はっと何かに気付く鬼丸。


「おいおっさん!」


「だから私はおっさんではない! で、何だ」


 急いで新井に鬼丸が聞く。


「さっきの結界を一度消してまた張りなおせるか? そのタイミングで奴を結界の真上に誘導して結界の再展開で奴を叩く。攻撃を防いでいたんだ。それくらいの力はあるはずだよな! 今の火力じゃそれが限界だ!」


 クリスタの弾は三式の関節部に挟まり、一時的に動きが止まる。その距離わずか三百メートル。


「……」


 何かを考えて黙り込む新井。ライフルの射撃で奴の装甲を貫くことも、押し返すことも出来ていない。しかし電磁結界を消した際、奴はバランスを崩した。ならば勝機は結界にしかない。


「それしかないか……。わかった。その作戦にかけよう」


 その一言を聞いたクリスタが、再び操縦席に戻る。


「五分、いや三分だ。それまでにすべての準備を整える。それまで死んでくれるな。これは命令だ!」

 三式は関節部に挟まった弾丸を排除することに成功し、再び歩み始める。八型は、その歩みに合わせて後退する。カタパルトは常に維持したまま、八型は機関への負担を減らすために攻撃の手を止めた。

 もともとそこまで俊敏な動きを得意としない八型は、ゆっくり、ゆっくりと後退する。

「白いの、逃げちゃうの?」


 先ほどの少女が、体を小刻みに震わせ、嗚咽交じりに呟く。島民の祈りの中で、彼女は恐怖と絶望を感じ取ってしまった。その後ろで、二回りほど大きく、先程から祈りを捧げない一人の少女がいた。ここは洞穴の中。


「皆、祈っている暇があったらもっと奥の島に、中央とかに避難しようよ。そっちの方が絶対安全だよ」


 その言葉に、一人の年老いた男が怒る。


「お前、何を言う! この場所をワシらに簡単に捨てろと言うのか、みなしご!」


 その言葉で、少女は下を向いて黙ってしまう。

 その空気をかき消すサイレンが、島中に鳴り響く、しかしそれは先ほどのものとは違う音色で奏でられ、その後島民には聞きなれた声が聞こえる。


「死んだ奴はいるか? いるなら声あげな」


 その声を聞いた島民は皆、婆やだ、と顔を上げた。この島を治める、婆やの声である。


「今先生から結界を攻撃に使うよう提案が来た。ただここからじゃあ操作は出来ない。誰か、キノ島に残っているバカで行ってくれる人はいないかね?」


 多少の調整なら、島の中央から可能である。しかし今回のように何度も消滅、再展開を短時間で繰り返すとなると、リミッターが働いて操作が出来ない。


「場所と操作方法はここから先生が指示するから安心しな?」


 日に焼けた顔に決意を満たし、少女は走る。その姿を、島民はただ見つめることしか出来ない。


「あれは、みなしごの……」


 島中央にある比較的立派な建物から、婆やが双眼鏡でその姿を捉える。

 彼女の向かう先は二体の巨人の足元だ。島の末端、そこに結界を操作する端末がある。


「よく来てくれた。いいか、君はそこのレバーを合図と同時に倒すだけでよい」


 新井が少女に指示したそれは、さび付いていた。




「鬼丸、結界の方どうなってる?」


 一方ヴリュンヒルド八型内部では、一瞬の油断も出来ない状態であった。近づきすぎれば業火の餌食だ。本部脱出の際の跳躍で負荷がかかり、電磁シールドも使えなければ耐火性能も格段に落ちている。

 逆に距離を取り過ぎてしまえば、奴が島に引き返してしまう。


「新井本部長からはまだなにも……」


 鬼丸はそこで、震えながら操縦桿を握る白い手を見た。

 本部爆発から今に至るまで、訓練を受けたクリスタはよく事態に立ち向かっている。しかし、限界だ。

 蓄積された恐怖が、今にも爆発しそうだ。クリスタは肩で呼吸をしている。


「本部長大変! 操縦席のクリスタちゃんの脈とか呼吸とか、異常な数字! さすがにこのままじゃ倒れちゃう。どうにかして」


「それは貴様の仕事だろ八型モドキ! こちらも問題が発生している。リミッター解除レバーがさび付いていて操作をしに行った少女では動かせない。今自転車で隼人が向かっている。それまで耐えてくれ」


 隼人が抜けた穴を、新井と大将が必死に埋めようと奮闘している。

 婆やは再度サイレンで島民に協力を仰いだ。しかし完成された大人は、恐怖に撃ち負けた。誰も向かおうとはしない。

 しかし、未完成が一また人、完成品からはみ出る。世の中はいつだってそうだ。完成されたもののみが認められる。確かにそれだけなら問題はない。しかし、完成しているということは、それ以上の進歩がないことを言う。

 そんな未来の無いもの達は、こぞって未完成の未来を笑い、毛嫌いし、あざ笑う。


「マリンちゃん、今行くよ! 僕も!」


 しかしどうだ。現に今最前線で命を張っている者たちは皆漏れなく未完成だ。ボロボロの機体に金なし軍隊。力不足に人手不足。そこを意地と気合、そんな未完成な感情で補い、戦っている。


「クリスタお前、大丈夫……なのか?」


 何と声を掛ければよいのかわからない。鬼丸のこの質問から、そんな思いが感じ取られる。


「どうにかってところ……」


「そうじゃなくて……お前……震えてるから、その」


 慎重に言葉を選ぶ。ガサツな鬼丸にも、繊細さは雀の涙ほどだが持ち合わせていた。


「……アンタに心配されるとかちょっと心外」


 先ほどまで震えていた手は、深呼吸の後に操縦桿を力強く握っている。


「安心して。主席の名誉にかけて、ここは持ちこたえてみせる。だから、その……」


 小さく、五文字を綴る潤った唇。その言葉は、その顔は、鬼丸には見えていない。

 クリスタ・リヒテンシュタイン。メンタルが不完全な彼女を、ソレが支えて戦う。

 今までだってそうだった。鬼丸に負けまいと、追い付かれまいとする一心が彼女を前に進ませる。

 圧倒的実力の前に敗れた鬼丸は、彼女を追いかけた。結果彼女がより大きくなる。未完成な二人は、ぶつかり合いの繰り返しで強くなった。何というアイロニーだ! 肩を並べ戦う今この時にも、その激突は健在だ。


「やっぱりデカいな。クリスタは」

「アンタがちっちゃいだけでしょ」




 結界のリミッターに奮戦する少女の名をマリンと言う。健康的な日焼けから、長くこの島で暮らしていることがわかる。

 文化レベルが比較的貧弱なこの島で生活していれば、イヤでも力仕事が付いて回るため、同世代の少女よりも筋肉が発達している。しかしそんな彼女でも、物理法則の前には敗れ去る。

「マリンちゃん!」


 全力で走ってきたのか、その少年は息切れをしていた。


「相助君! ちょっと手伝って。これ、硬くて動かない」


 相助と呼ばれたマリンと同世代のような少年は野球帽をかぶっていた。

彼ははそのまま、マリンの背後に回り、レバーに力を加える。しかし、それでも不足している。動く気配はない。


「私が……カイナ島を……皆を守るんだ!」


「マリンちゃん……」


 みなしご。その意味を彼女は理解していた。しかし悲しむことはなかった。島民は基本彼女に優しく接していたため、島民が彼女の家族のようなものだった。

 しかし多少の溝のようなものはある。そのため、彼女の家族は完成しない。例え罵倒されようが、彼女はそれは一時的なものだと思い、そんな島民を思い家族になろうとする。

 そんな二人の背後から、軽い音が聞こえてくる。


「お待たせ! マリンちゃんに、相助君?」

 

「あ! 隼人お兄ちゃん」


 隼人である。彼は自転車を乗り捨てると二人とは反対側から力を掛ける。


「鬼丸が踏ん張ってるんだ」


 三人でもそのレバーは動かない。しかし、彼らは諦めない。隼人が大きく声を出す。


「ウオォォォ、鬼丸、今助けるゼェェェ」


 その言葉によって生み出された力を、未完成だと笑ったものがいた。有事の際にしか発揮できない力など使えない、と。

 その力を、人は火事場の馬鹿力という。その不確実な力は思いを載せ、とうとうレバーを倒したのだ!


「待たせたな二人とも、電磁結界、いつでも行けるぞ」 


 新井の言葉が勝鬨をあげる。目標を指定場所に移動させる行為、突撃は、鬼丸が得意とする一つだ。 

 勿論クリスタはそれを知っている。何度もそれに苦しめられ、助けられているからだ。

 席を立ち、操縦を鬼丸に代ろうとするクリスタだったが、何を思ったか再び腰を下ろした。


「突撃の極意、教えて」


 操縦を代わるために席を立っていた鬼丸に鋭い視線を上げながらそう伝える。


「いいぜ。しっかり覚えろよ」


「誰に向かってモノ言ってるの?」


 髪を払い、得意げに言い放つクリスタ。


「そうだったな」


 一本取られたように笑い、操縦席の背もたれに右腕を置き、クリスタの横に身を乗り出す。


「極意って言うからにはやり方は知ってそうだな」


「しっかり研究済みよ。形だけなら何とか」


 クリスタは、鬼丸の突拍子もない突撃になんども頭を悩ませていた。そのため彼女がそれを研究し、そして模倣出来てもなんら不思議ではない。


「なら最後の一手だ。まずは突っ込め」


 右手の甲を青い空に向けたまま、八型は焔三式の懐に潜り込む。


「上々だ。なら次は突っ込め。更にだ」


 黙って操縦桿を倒すクリスタ。それに合わせ体で焔三式を押し続けるヴリュンヒルド八型。その様子を見ていた島民たちは、口々にこう言った。


「……相撲だ、おい、あの白くてちっさいの、赤いのに相撲挑んでるぞ!」

「行けー! 押し切れー!」

「のこった! のこった!」


 あまりに八型が接近をしているため、焔三式は自慢の火炎放射器の狙いが定まらない。


「いい調子だ。いいかクリスタ、最後が肝心だ。最後の詰めは勿論……」


「「突っ込め!」オーバーブースト発動!!」


 息を合わせた二人。クリスタはそのまま操作パネルの赤いボタンを顎で押す。

 背中のスラスターから炎を吐きながら、焔三式を一気に押しとばしたヴリュンヒルド八型。その炎はまるで大きな翼のように見えた。

 焔三式が押しとばされた先、それは島からそう離れてはいない、焔三式が元居た場所だ。


「結界、展開」


 団扇を前に出し、満を持しての新井の号令で、結界が再展開される。真上にいた焔三式はものの見事に真っ二つだ。


「すごい、すごいぞ白い女神様! 白い女神様万歳!」


 なにもせず、ただ怯えていた大人たちが口をそろえて言う。しかし、大人なんて大体そうだ。胃薬を流し込む新井が特別な存在なだけだ。


「お二人とも、見事な押し出しでした。大金星ですよ! 」


 島民が喚起に沸く中、三人の不完全な者達が力尽きて天を仰ぐ中、機関調整のために会話を控えていた八型が声を出す。


「貴方もありがとう、八型さん」


「ホント、一時はどうなるかと思ったぜ」


 表情が緩んだ二人。やっと一息がつける。


「ところでお二人さん。戦闘前の名乗り、してませんよね?」


「ま、まあ緊急事態でしたし……」


 発言の意図をあまり理解していないクリスタが戸惑う。


「必要なんです! テンションとか、見せ場とか! ウチの知ってるロボットアニメの先輩方は皆そうしてるんですぅ」


「お前アニメとか見るのかよ」


 おおかた、ゴッドアップルが知的好奇心で見ていたものだろう。依然として八型はコックピットに向かって声を荒げ続ける。


「だからせめて勝利のセリフを! はい三、二、一、キュー」


 無茶ぶりである。しかし、出来もしないのに無茶ぶりに答えてしまうほど、二人は先ほどまで極限状態だった。

 二人は打ち合わせもせず、慌ててヴリュンヒルド八型のマイクを使用して一言。


「「ごっつあんです」」


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