第三十八空路 3 七将
「どいてくれ、フィリップさん」
「申し訳ありませんが、致しかねます」
笑顔のまま銃口を隠すこともしないフィリップに、オーマとは別の恐怖を憶えていると、彼の背後に、乗組員と思われる男女が現れた。彼らは正しい姿勢で短機関銃を構えながら部屋へはいると、フィリップから引き継ぐ形で鬼丸達に狙いを定めた。
『ビショップ! 早く来てよ!! 君がいないと出撃出来ないじゃん!』
突如、廊下の奥から響き渡る少年の声。その声になんとも言えない表情をしたフィリップは、そのままオーマに一礼してからその場を後にした。
「……それで、俺達が出る必要はないってのはどういうことですか」
「言葉通りの意味だ。立ち話も何だろう。かけたまえ」
銃で狙われている以上逆らうことは出来ず、二人はソファーへと戻った。頭が短機関銃に狙われた状態では、そのソファーの柔らかさに落ち着くことすら出来ない。
オーマはゆっくりと、机の端にあるくぼみに指を入れると、それを持ちあげる。するとそこには、小型の画面が現れる。
「見たまえ、これが、このワイルドハント艦隊の有する精鋭」
画面に光が灯り、格納庫のような場所が映される。
「ちょっと待て、おいクリスタ、これって……」
「八型改……いえ、所々違う。それに、こんな小さな機体を、人が扱えるはずない。せいぜい乗れて一人」
そこに映されていたのは、全長三メートル前後の小さな陸戦。画面に映った五機それぞれが、特徴的なカラーリングを施されており、精鋭ということが一目でわかる。
「そう考えるのが、普通。敵もまさか、陸戦を人間一人で動かすとは、思わないだろう」
「そんなの……そんなの不可能です! 一人で操縦なんてそれこそ、人工知能のサポートがあっても無理です!」
口調を強めるクリスタに、強い視線で同意を示す鬼丸。ソースは彼らの激戦。八型改に着いた、直されない小さな傷の数々も相まって、彼らの意見は一致して揺るがない。
「なら見識を改めるといい。君達の出る幕は、無いのだと」
低い声で告げられた直後、その小さな陸戦の正面が大きく開かれる。そしてそこへ乗り込んでいくパイロットスーツ姿の男女の中に、鬼丸は見覚えのある人物を見つける。
(あれは……フィリップさん?)
ーーー
「来た来た! 君がいないと、面倒になるんだから」
黄色いパイロットスーツに身を包み、頭の後ろに手を回す少年。その幼い顔には、菓子クズと思われるものが付着していた。
「もう。ルークったらまた口の周りに。今取ってあげるから、動かないでね」
薔薇色に金のラインが入ったスーツを着用した女性が、足音を立てながら現れる。彼らの周りで作業をしていた人間は、そのエレガントな美しさに見惚れ、皆手が止まってしまう。
「遅くなりました……クイーン、またルークの世話ですか。飽きませんね」
「可愛いからつい、ね。もしかしてビショップも甘えたい?」
ビショップと呼ばれた爽やかな顔をした男は、明るい緑色をしたスーツを纏っていた。
「遠慮いたします」
「相変わらず、つまらないのね」
「ねえねえ。僕、ビショップがやってるあそこ行ってみたい! ゲームに勝てば美味しいお菓子、いっぱい貰えるんでしょ」
「いや、それはやめておいた方がいい」
突如、三人の会話に入った男がいた。三人よりも年を取っているように見えるその男は、群青色に銀のラインをあしらった、落ち着いた色のスーツを着ていた。
「え~! いつもクイーンだって行ってるじゃないか! 僕だって行きたい行きたい!」
「君はまだ若い。あそこにはまだ入れない。これは、ルールだ」
その一言で、地団駄を踏んでいたルークはピタリと動かなくなった。
「わ、わかったよぉ。キングがそう言うなら、従うけど」
不満な顔をしたルークの頭を、しゃがんだクイーンが優しく撫でる。
「うんうん。ルークは良い子。また私が、お菓子沢山とってきてあげるからね」
「ホント! やったぁ! クイーン大好き!」
そのやり取りのなか、ビショップは左右に忙しく首を振り、誰かを探していた。
「……何か不安か? ビショップ、お前ともあろう男が」
「いえ、キング。アレは、どこでしょう」
ビショップがそう言うと、その空間に大きな規制が響き渡る。
「離せェ! アアァ! ヤメロ」
その声の主は、両脇を男性乗組員に抱えられ、抵抗虚しく運ばれる初老の男。その目に光はなく、髪や髭はだらしなく伸び切っていた。
「乗りたくない! 俺は、オレハァ!」
「少しは静かにしろ!」
男性職員達が、露骨に嫌そうな顔をした。それを見たビショップは溜息をつきながら、彼らの前へ足を運ぶ。
「ア、アアガガ。オ、お前」
「ちょっと、静かにしましょうか」
そう言うと、男が来ていた黒いスーツを避けるよう、首元になれた手つきで注射を打ち込む。すると先ほどまで暴れていた男は、意識を失ったかのように静かになった。
「すぐ乗せてください。また騒ぎ出すと厄介です」
男は男性職員達に、そのスーツと同じ色をした陸戦に乗せられた。
「あ! ナイト乗ったね。もう出ていいよね」
黄色い機体へと走り出すルーク。それを合図にそれぞれが、自分のスーツと同じ色をした陸戦に乗り込んだ。
『我ら七ツ、出撃準備完了した』




