第三十二海路 11 号砲一発! 全員集合!
「しっかし。こんなもんで戦えるのかね?」
「今頃臆したのですか?」
「な訳あるか!」
各島の代表者たちは、続々と運び込まれるイナバ百式のスペアアンカーをまじまじと見つめながら会話をする。
「これハ、大きなショックで自動的にアクティブになりマス。皆様は、コレを敵に目掛けてシュート! オートマティックでスパークがボン! 一時的な演算負荷で、相手はストップ! 後はプロのお仕事デース」
黒板を使い、島民が行う足止めの説明をするトマス。
沖縄観光に向かう船から、一人放り出された彼は、ヴァルハラの庇護の下この島で暮らしていた。島民たちから忌み嫌われる部外者という存在でありながらも彼がこの島で穏便な生活を送れていたのは、彼がヴァルハラの研究室に籠りっきりで、害のない人間だと判断されたからだ。
「いいかお前ら! 襲撃に大切なのは、俊敏性と度胸だ。腕っぷしや操艦技術なんてのは一朝一夕に行くもんじゃねえ。ただコイツだけは、腹から声出すだけで割と何とかなるのよ」
実用性の薄い指導をするのは、アルタ達海賊である。元々この島は地図に登録されておらず、正規の治安維持部隊がやって来ることもない。
その為海賊といった非合法な集団が成長しやすい。仕方ないこととは言え、島民は皆基本的に海賊に嫌悪感を抱いている。
そんな彼がこの島でこの数週間生活出来たのは、彼が生活をパイレーツスパイト上で行い、不用意に島へと上陸しなかったためだ。
今まで絶妙なバランスで均衡を保っていたカイナ島の勢力が今、二人の少年少女の手によって打ち砕かれた。皆は心を一つにし、自衛の手段を見につける。
この時、アルタは確信した。このまま島民と上手く関係性を築けば、俺の子分になりたがる奴が出てくると。彼らをたくさん抱え込めば、コルセア帰還後あやふやになっていた、正式な船長の権限が自分に戻ってくると。
その時、トマスは信じていた。これだけ多くの人間がいれば、たくさんの兵器の開発、試運転が行えると。その功績から、機体を雑に扱うあの悪魔を、ヴリュンヒルドから引き下ろすことが出来ると。
二人の邪悪な笑顔が、夜の海に反射する。
「そろそろ頃合いだろう」
周囲を見回した新井は、端末を使い連絡をとる。暫くして現れたのは、酒瓶片手に上機嫌なコルセアと、クリスタに肩を支えられている鬼丸であった。
「げぇ、船長!」
「ミスターデビル!」
島民たちはざわめきだす。しかし、彼らを悪魔と呼ぶ声はもうない。
「なんで? なんで奴らがここに?」
一人の老人が、新井に問う。
「陸戦との戦いにおいて、彼らほどの専門家はいない。何か問題でも?」
今まで許されざる行為をしてきただけに、どう接すればいいのか疑問に思う島民たち。その壁を突き破り、マリンと相助が駆け寄ってくる。
「あれ? キルちゃんは?」
「ごめんな。疲れて寝てるって」
膝を折り、視線を合わせる鬼丸の姿に、彼らのどよめきは小さくなっていった。
―――
「そう、何事も基本が大事なの。基礎吹っ飛ばして戦術云々なんて、もってのほかね」
「いかに予想外の一撃を叩きこむかが、対人工知能で重要になる。基本戦術覚えるよりも、頭柔らかくしていけ」
「え? 必勝法? 酒飲んでりゃ何とかなるさ~」
鬼丸とクリスタは、互いに肩をぶつけ合いながら、島民に自身の兵法を説く。時折視線をぶつけ、意見をぶつけ、拳をぶつけ。
「新井センセー! 特別講師のお二人が、思いのほか役に立ちません。ついでにコルセアさんが吐きました」
「全く、アイツらは……」
資材の調整などをしていた新井に、ヴリュンヒルド八型改の報告があがる。メガネの位置を直し、煙草を吸うため一度はポケットに手をかけたが、何を思ったのかその手を止めた。
「……別にウチに肺はないんですし、吸ってもいいんですよ」
「まだ、死ねない。そう思っただけだ」
予想していた返答と大きく異なり、八型改は声を上ずらせながら話題を変える。
「い、意外ですね……そういえば、ヘルちゃんの話は聞きましたか?」
「災いに似た狂気。正体の検討もつかないが、この講習会後にそれぞれの配置を伝えるつもりだ」
鬼丸がダーヴィンに触れ、気を失っている際に、ヘルが八型改と新井だけに伝えた予感。その正体が、ジャックマークⅡと、復讐に燃えるゴッドアップルであったと知るには、あと少しだけ時間が必要である。
新井は帳簿を動かすと、その下にカイナ島全体の地図があり、細かく人員配置が書き込まれている。
「彼らは後詰め。鬼丸の言う通り、予想外の一撃だ」
「確かに。武装船とは言え、人間が生身で陸戦に挑むなんて、前代未聞ですもの。それに、ウチにはアレもありますしね」
「わがままは今回切りにしてもらいたいものだ。あんな改造、鮫島にバレたらなんと言われるか」
癖なのか、胃薬を飲み込もうと水を灌ぐ新井だったが、それを自室に置いて来ていることを思い出し、ヤケ酒のようにその水を飲み干す。
アレとはもちろん、ヴァルキリア・シャークの事である。突発的に見えたあの合体は、新井の協力があってこそであった。
「ずっと疑問に思っていたんです」
唐突に、八型改が切り出す。視線を帳簿から逸らさず、新井は耳を傾ける。
「人工知能に作られた人工知能。一種の特異点であるウチが、こうも都合よく開発者がいる島にたどり着けるなんて。それに破壊出来ないはずの人工知能を破壊して気絶する鬼丸クン。空から降ってきたキルちゃんやユナ君。未知の結晶の力を引き出すヘルちゃんが、こうも都合よく一つの島に集まりますか……なんちゃって。考えすぎ、ですね」
「全ては私が仕組んだこと、もしくはこの島自体に秘密がある、と言えば、お前は満足するのか?」
新井は続ける。
「考えすぎだ。神秘のような安っぽい言葉で片付けておけ」
新井は立ち上がり、その場を去ろうとする。そんな彼に、端末の八型改が声をかける。
「神秘……思考放棄を嫌う貴方がそんな言葉を言うなんて、意外ですね」
八型改は再び、鬼丸の端末へとアクセスする。そこには島民置いてけぼりで議論を始める鬼丸とクリスタ。彼らに呆れながらも自分たちの仕事を全うする鮫島やアルタ達。酔いが醒めたといい、まだ必要のないアンカーの運搬を始めるコルセア達の空気に釣られ、笑顔を取り戻す島民の姿があった。
「でも、神秘も少しぐらいはいいですね!」
―――
「あ、あー。聞こえますか鉄くず諸君。俺達は、この島を守るために立ち上がった、カイナ海賊団だ! この島でコイツ等と戦ったこと、後悔させてやるよ。神秘の島の海賊は、一味違うぜ~」
そして今! 八型改の言う神秘が、続々と現れる。その中にはマリンや相助、見慣れた顔たちもあった!
「キルちゃん! 私も一緒に戦うよ!!」
「マリンちゃん危ない。身を乗り出さないで」
「ヘイミスターデビル! どっちが多くの敵を倒せるか、バトル!」
「フ、キルの友人か。あんなに小さな体で」
「うおっ。鬼丸に突っかかってきた金髪ドリル技術者! とあれは!」
その数、七十以上! 神秘の海賊達の旗艦は、勿論パイレーツスパイト。元主との再会を果たしたこの船が、彼らの先陣を切り、主の援護へと駆けつける!
「キャプテン! この戦いが終わったら、俺が正式にこの船の船長ってことで、問題はねぇよなぁ!」
号砲一発。アルタの指示で放たれた砲弾は、見事ジャックマークⅡを取り巻く一機に命中し、それを海中へと沈める。
「おーい本土の軍人さんやー」
八型改へと接近し、手を振る老人の姿に気付き、クリスタは鬼丸の肩をつつく。
「憶えてる? 森の管理人さんよ! あの時はお世話になりました!」
「こちらこそ! いつも島を守ってくれて、ありがとうな~」
八型改を通じて礼をする鬼丸達。今にもよろけそうなその老人は、隼人の手によって支えられていた。
「隼人!」
「待たせたな紅蓮! これでやっと、お前と一緒に戦えるって訳だ」
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