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鋼女神話アサルトアイロニー  作者: ハルキューレ
海上編第三部~海上神秘~
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第三十二海路 9 降服勧告

 ヴリュンヒルド八型改の白く伸びた足が鋼を捉えた。しかしそれはジャックマークⅡの装甲ではなく、何処からともなく現れた、真っ赤な焔二式の体であった。


「何! コイツどこから⁉」


 水飛沫を飛ばしながらジャックマークⅡの盾となった焔二式はそのまま腰を海中へと浸ける。激しい戦闘の末、交戦地点は浅瀬に近づいていたことを、鬼丸達はここで認識をする。

 跳躍をする形で後方へと距離を取り、海面上にホバリングする八型改のコックピット内に、最悪の情報がなだれ込む。


「敵の増援だ! 理由はわからないが、結界が外部からの操作で停止されている!」


 新井の言葉を皮切りに、空から雨あられのように降り注ぐ陸戦の数々。それらは全て群れを成しており、どれも鬼丸達の記憶に新しい機体であった。


「アレッサンドロにコハク、他にも見たことある奴らがうじゃうじゃ降ってくるぞ! こっちは避けるので手一杯だ」


 ヘルと息を合わせながら、矢のように降り注ぐ多くの陸戦を交わす。コハクのように海中に機体が全て浸かってしまうほど小さな機体たちは、初めは他の機体同様ジャックマークⅡの周りを目指していたが、後続たちは着地点を陸地へと定め降下を開始する。


 一方狭く暑苦しい通信室では、隼人が島に設置されているカメラの画角を目まぐるしく変え、敵陸戦の出どころを探す。


「大将、新井さん! アレが母艦っぽい!」


隼人が拡大した画面の映像には、大空を浮遊する空中艦から、無数の黒点がばらまかれているのが確認出来る。


「船が空飛んでるだと! そんなバカな話が……ホントじゃねぇか! 空中戦艦なんて、ユナのホラ話とばかり」


「……」


 画面を覗きこみ仰天する大将に対して、苦い顔をしながら押し黙る新井は、胸のポケットから煙草を取り出し、火を点ける。


―――


「ま、不味いッス。俺達確実に、逃げ道失ってないッスか⁉」


「鮫島! そっちは危険だ! 早く戻れ!!」


 一方キノ島の陸地では、ユナ達が機体を失った新井達を庇いながら陣形を組む。

(元々逃げる気はないッスが、親方たちだけじゃあこの量……。数が違い過ぎるッス)

 キノ島周辺に集まった陸戦、その数五十以上。一機一機は弱くとも鬼丸達を苦戦させた機体たち。それらが束になって掛かれば、どうなるかは想像に難しくない。


「だからって、諦めるのは癪に障る!」


 そう言いながらユナは、クリスタが残した拡声器の電源を入れる。


「紅蓮さん、聞こえますか⁉ こっちは俺が何とかしますんで、海の方は任せましたよ!」


 一度拡声器から手を離し、イナバ百式黛カスタムを力強く前進させる。

進行方向には、距離を縮める敵陸戦の波。死の恐怖をかき消すようにユンボの先端を二度、開閉し金属音をかち鳴らすと、再び拡声器を手に、今度は後方にいる自分の同僚へ向け、背中で声をあげる。


「という訳ッス野郎ども! お嬢だが五十だが知りませんが、ここは俺が食い止める! 一騎当千の働きをもって、皆さんの退路位は確保しますんで、タイミング合わせてくださいよ!」


(彼らが逃げたところでどうこうなる訳じゃあないッスが、何かが起きるかもしれない。それに、民間人巻き込んだとなれば、軍人の名折れもいい所)


「ユナてめぇ何やってんだ!!」


「あ、あれ?」


 間髪入れずにユナへの怒号が飛び交う。今から死にに行く男の脳内は、すぐにその内容を理解するだけの余裕はなく、振り向くことしか出来なかった。

 そこには一糸乱れぬ陣形を維持しながら前進を始める同僚の姿があった。


「ガキがカッコつけてんじゃねぇぞ!」

「ユナの癖に無理しやがって。声震えてるぞ!」

「土方、舐めんなよ」


 陣形とは裏腹に、彼らの罵声はバラバラだ。皆声を荒げながら、ユナがいる最前線まで移動する。


「機体を失った俺が言えた義理じゃないが、君一人が気負う必要はない。この島の、カイナ島の皆を信じてくれ! ここに居る皆は、君の仲間だ!!」


 親方の機体に相乗りしている鮫島が、その力強い目力で訴える。その視線は、そしてその言葉は、孤独に戦い続けながらも、その寂しさをごまかし続けた少年の涙を誘う。


「お、俺……、海軍にいた頃も一人で。ここに来ればそれから解放されるって思ってて……死んでも知りませんよ! 仲間なんですから、俺のことも助けて貰いますが、いいんですね!!」


 目の前にあっても届かないもの。あの日の彼女と仲間達。ユナは今初めて、自身をもって仲間だと言える存在を手に入れた。


「ああそうだ! 代わりに俺達のことも信用してもらうぞ」


 親方が伸ばした拳に、ガラス越しで応じるユナ。

(コレコレこういうの! 一度やってみたかったッス!)

 憧れに手を届かせた彼は鼻息を荒くする。そのガラスの向こうで、親方たちがハンドサインで何かに話していることには、当然気付けない。


「ユナ、さっそくで悪いが、俺らを信じてくれよ……」


「なんスかなんスか? 仲間の為ならなんだって」


 その瞬間、親方のダイナマイトのように大きな声が響く。


「全軍、ユナ残して、後退ィーー」


 勢いよく振り返り、一目散に蜘蛛の子散らすように何処かへと消えるイナバ百式の数々。その姿が夢幻のようで、理解が追い付いていないユナは動きが止まる。


「……え?」


 その真横、彼らが居た位置に斉射されるコハクのガトリング砲。照準は勿論、ユナへと移り変わった。


「卑怯者卑怯者―!」


 嵐のようなガトリング斉射を紙一重で躱し続けながら、ユナは大声で泣く。反撃などできるはずもなく、多くの敵陸戦の照準を一手に引き受けたユナは、周囲を縦横無尽に駆け巡る。

 しかしユナの行き先に、大きな盾を構えたアレッサンドロが先回りをしており、その影に呑まれたユナは引き笑いを繰り返す。


「あ、アハハ。一番の敵は、人間だったなんて、皮肉ッスよ。そんな不幸な俺を、見逃してくれたり……」


 交渉するべき相手は見極めなければならない。アレッサンドロがそんなことで動くはずもなく、その盾は無慈悲にも振り下ろされる。

 その時!


「第一射、よぉい! てぇーー」


 その掛け声とともに飛んできたのは、四、五本の鉄骨であった。アレッサンドロはその機能通り、鉄骨を防ぐためユナへの攻撃を取りやめ、その隙にユナは脱出を果たす。


「今のは!」


 地平線の彼方から歩いてくるのは、鉄骨や角材を引きずりながら戦線を押し上げる、イナバ百式の群れがあった。


「待たせたな!」


「親方! 皆!」


 その一団へと駆け寄ると、皆がユナを守る形で輪形陣をとり始める。


「騙すようで悪いな。ただ俺達にとって陸戦ってのは、建材持ってナンボなんだよ。やっぱり武器はないとな」


 輪形陣の内側、ユナの周囲には、現場組以外の面々もおり、皆手には金槌やのこぎりなどを握って不適な笑みをユナへ投げる。


「それに、忘れたのか? アイツらの存在を!」


「ッ……そういえばそうッス。この島にはまだ、心強い援軍がいるッス!」


―――

 所変わってキノ島近海。ジャックマークⅡの周りにも、続々と陸戦が集まっていた。それらは生きた盾となるように、八型改の弾丸を身で受け止める。


「アイツか。頼んでいないものを! 恩でも売ったつもりか」


「クソ! 攻撃が届かねぇ」


「だからと言って接近は禁物! 近づいたら数で包囲されて終わりよ!」


 攻めに本腰を入れられないと見るや、ジャックマークⅡは後方で待機している焔三式を自身の前へ立たせ、攻撃の間を縫って押し飛ばす。


「コイツ、仲間を!」


 吹き飛ばされた焔三式は、生きた弾丸として八型改へと向かう。反射的に回避を行ったが、八型改の真横を通り過ぎた焔三式は反転し、ジャックマークⅡと挟み撃ちにする形で攻撃を開始する。


「始めからこれを狙いで⁉ 鬼丸、後ろ!」


 ハンドブースターを右手だけ点火させ、振り向きざまに回路のある顔面へと拳を叩きこむ。周囲の装甲は思いのほか薄く、その焔三式はすぐに機能を停止した。


「また来る! 躱さず迎撃」


 間髪入れずに次の弾が発射される。いくら鬼丸が戦の天才と言っても、反応速度には限界がある。

 時間が経つにつれ、被弾が増える。次第に背後へと通過してしまう陸戦も増え、常に挟撃を受けながらの戦闘を余儀なくされる。


「つまらないものだな。数の利も、地の利も、そして性能の利もこちらが圧倒的に上回った。大人しく投降しろ」


 諭すように、陸戦を突き飛ばしながら言うゴッドアップルに、鬼丸は啖呵を切り返せるだけの余裕がないのか、何も言葉を発しない。

 現在はクリスタも攻撃に周り、誘導弾の発射などを手伝っているが、彼女もまた、声をあげない。

 彼らが声をあげない理由が近づいてきていることに気付かず、ゴッドアップルは手をあげる。それをきっかけに、攻撃の手が止む海上の陸戦たち。


「時間をやる。その小さな頭でよく、考えるのだ」


 クリスタは、コルセアの足を見る。既に痙攣を始めているそれが、気合であと少しぐらいは持つことに賭け、彼女の片目と同意をとる。

 次に振り向き、ヘルと視線を合わせる。理解出来ないことだらけのこの島で、一番のブラックボックスに近い彼女の顔は、疲れに満ちながらもなお、薄ら笑いを続ける。

 次にモニターを確認する。先ほどまで真っ赤だった機体の各所は、ゴッドアップルの降服勧告を受けた瞬間、緑に変わった。これを彼女の意思と受け取ったクリスタに、鬼丸が視線を合わせてくる。


「弾薬はまだまだある。それに俺らには、この八型改がまだある。答えは一つだろう。相棒!」


 伸ばされた拳に、彼女の開かれた手が覆いかぶさる。


「フ、アタシの勝ち。アンタが相棒なら、ここは地獄か何処か? 悪くないわね」


「ずいぶんと言ってくれるな。ならアイツらはさしずめ、獄卒艦隊ってとこか?」


 鬼丸が指を指した方向から、最後の頼みがやってきた。


ここまで読んでくださりありがとうございます。この作品が面白ければブックマーク、感想やコメントを何卒宜しくお願い致します。

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