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鋼女神話アサルトアイロニー  作者: ハルキューレ
海上編第三部~海上神秘~
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第二十九海路 1 キルは本の虫

「兄さん、この漢字、何て読むの?」


 睡眠から目覚めたヘルはヘルではなく、キルであった。彼女は自身が持ち帰った書物を読み漁っている。


「兄さん、桃から人間って生まれるの?」


「ファンタジーに一々ツッコミ入れてたら進まないぞ。その世界では生まれるんだよ」


 その奥では新井、クリスタ、コルセアの三人が話を続けていた。始めは鬼丸とキルもその場にいたが、キル自身が話に飽きたこと、そして彼らがキルとヘルを完全に信用しきれていないために距離をあけることにした。

 その後今のように読書を開始したが、事あるごとに鬼丸の袖を引っ張り質問をし、そのたびに彼らの話し合いが中断していたため、鬼丸は諦めてキルのお守を始めた。


「ますます怪しい。少なくとも今は逃走の意思はなさそうだが……」


「禁忌の存在、ねぇ。でもキルとヘルは別人なんだろ。ならいいじゃないか」


 話の深刻さに、ギブアップ寸前のコルセアは今にも匙を投げだしそうに頭の後ろで腕を組む。


「いつまでもこの議題じゃ埒が明かないわね。本部長、ヘルが言っていた必要不可欠な存在ってどういうことですか? もしかして皆を集めた理由とも?」


 新井に視線を向ける。彼は軽く頷き、何枚かの写真を机の上へと取り出す。


「なんだコレ? 黄色い石か?」


「場所は……もしかして八型改内部?」


 その写真は八型改に新井が付けたスラスター内部。そこに映っていたのは黄色く濁り、いびつな形をした結晶体であった。

 周囲と比較し大きさを推測すると、一㎡ほどはあるだろうか。


「今トマスさんがこれを解析している。アレッサンドロとの戦いで生じた過剰なエネルギーの供給源だと推測しているが、お前たちが乗っていない間にそれだけのエネルギーは生まれなかった」


 この結晶体に何かしらの秘密があると踏んだ新井は、それを調べるために職員たちと共に八型改を動かそうとした。しかしクリスタが発生させたような過剰なエネルギー噴射は行われず、八型当時と同じ馬力しか出なかった。


「何より飛行能力を失っていた。あの機体が過剰なエネルギー噴射と飛行を行い出したのは、キルが搭乗して以降だった。この時点で私達はこの結晶体とキルに、何かしらの関係があることを仮定づけた」


 新井はキルの方を見ながら語る。本部からカイナ島までの飛行は八型の脚力、爆風、上空に流れる強い風によって行われた。

 また焔三式との戦い、そして海賊達との戦いでは飛行能力が発言していないため、当然の仮定と言えよう。


「あの翼、如何にもエネルギーで出来た翼って感じしてたもんな。そしたらこの結晶体、とんでもない力を持っているんじゃないか? もっとないのかよ」


 結晶に莫大なエネルギーが眠っているかもしれないことに気付いたコルセアは、話に興味を持ち始める。身を乗り出し、新井とクリスタの顔を交互に見合わせたコルセアは、意気揚々と野望を語る。


「その黄色い結晶パイレーツスパイトに積み込んで、空飛ぶ海賊船なんてイカすじゃないか! で、それは何処で取れるんだ?」


「残念ながら、初めて見る物体だ。言うなれば新発見の物体と言っても過言ではない。その為何処で取れるかもわからない」


 眼鏡を直し、冷静に回答する新井。視線を落とし不満そうな顔をするコルセアに、呆れた様子のクリスタが追い打ちをかける。


「話聞いてた? キルがいないとただの石ころよそれ」


「じゃあキルをウチの船に乗せて……」


「誰が八型改飛ばすのよ? わかったらアライニウムが実用化するまで待ってなさい」


 そうか、と肩を落とすコルセア。その隣で焦り、困惑した新井。


「おい待て、何だその珍妙な名前は⁉」


「新井さんが発見したのだから当然じゃないですか? 良かったですね」


 その結晶体は後にその色から一時的に、黄結晶(きけっしょう)と名付けられた。

 数日後。


「お、キル。今日は何を読んでるんだ?」


「推理小説。でもこの探偵はなんで犯人がわかったのに捕まえないの?」


「証拠を集めて裏を取ってるんじゃないのか?」


 さらに数日後。


「兄さん聞いて。今日読んだ本、マダナイって名前の猫が主人公なんだけど……」


 さらにさらに数日後。


「光源氏より兄さんの方がかっこいいと思う」


「無理な勝負よ。アイツと空想上の人物比べたら、いつか絶望するわよ?」


 その間に、キルと黄結晶に関係があることが発覚した。相変わらず結晶本体は謎が多いが、キルがスラスター近くの操縦席に座り、人格がヘルと変わった時のみ、安定した飛行が可能となった。

 その実験の合間、彼女は立派な本の虫へと成長し、日夜様々なジャンルの本を読み漁るようになった。


「どうだキル。今日の本は面白いか?」


「うん。どの作家の作品でも、呂布は作中最強」


 そう言い彼女はその歴史小説を閉じ、机の上に置いた。


「兄さん。今のキルなら多分、どんな本でも読める。兄さんのおススメ教えて」


 自信に満ち溢れた彼女が、鬼丸を見上げながら聞く。

 彼女の読書量は島一番のものとなったという話を、鮫島経由で聞いた鬼丸は申し訳なさそうに答える。

「俺あんまり難しい本読まないからな~。あんまり期待に応えられないと思う」


 頭をぼりぼりと掻きながら周囲を見渡すと、ちょうどクリスタが通り掛かる。


「あ、クリスタ。なんか読みごたえのある本知らないか? キルが読みたがってて」


 鬼丸が言い切る前に、クリスタは大判の書物を鞄から取り出した。その表紙には大きく重々しい文字で『世界の陸戦百選2170年版』とあった。

 その表紙から内容を察した鬼丸兄妹は、無言でその場を後にした。その背後から物凄い勢いで近づいてくる笑顔のクリスタを無視して。

いつもご愛読ありがとうございます。皆様に支えられてこの『アサルトアイロニー』、なんとなんとの100話目です! これも皆様がいつも読んでくださっているお陰です。ありがとうございます。

そろそろ年末。年末年始の更新予定はTwitterのほうでお知らせしてまいりたいと思いますので、よければこちらもよろしくお願いします。

長くなりましたが、これからもハルキューレと『アサルトアイロニー』をよろしくお願いします!

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