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鋼女神話アサルトアイロニー  作者: ハルキューレ
地上編~聖域炎上~
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第一回路 その男、鬼丸 紅蓮!

 執筆中に鼻血出して意識失いました。(実話)それだけの熱量は保証します。

 一人の男が聞いた。アイとは何か? その質問により、世界は三度目の闘いに身を投じた。

 二月某日、今日も場末の酒場に、三つの影。


「んでさ、俺は言ってやったんだよ。お得意の教科書は復習したかって。そしたらあの野郎、なんていったと思う?」


 背の高くない青い髪の青年が問いただす。


「大方、既に暗記してあります。貴方と違って。などと言われたのでしょう」


 住所不定のゴロツキが通うこの酒場において、酒が入っても敬語な眼鏡はとても異質だ。


「お、さすがインテリ。まさにその通りだよ。マスター、おかわり」


 たいしてこちらの女性はこの場に似合っている。ジョッキ片手に大声で話す様は、右目の眼帯と相まって、豪快な女海賊を思わせる。


「おいコルセア、何杯目だそれ。もしまた緊急で呼び出されたら」


 似合わない、と言えばこの青い髪もだ。人間離れした色をしている。


「お、なんだ、実戦の天才、鬼丸さんはアルコールに負けんのか? そんなんだからいつまでたってもウチのクリスタに勝てないんだよ」


 コルセアが煽る。瞬間、彼女のジョッキが乾く。


「オヤジ、俺にもそれ」


 この店恒例、鬼丸とコルセアの飲み比べが始まる。


「皆さま、本日も一口三百から始めましょう」


 インテリの一言で手堅くコルセアに賭けるもの、一発逆転を夢見て鬼丸に賭けるもの、陽気に音楽を奏でるもの、潰れたもの。様々な人間の声に、夜はふける。


―――


 翌朝、鬼丸は自室のベットで覚醒をする。


「気持ち悪っ。完全に乗せられた。なんで勝てないんだ畜生」


 近未来的でシンプルな部屋だ。


「おはようございます。昨日は災難でしたね」


 同室のインテリが二段ベットの二階から声をかける。彼も丁度今起きたのだろう。女性職員から好評の細い目が、彼が眼鏡をかけていないお陰でよく見える。


「だったらなんで止めなかった。チームメイトだろ」


 業務時間外でしたので、と肩をすくめるインテリがはしごを降りる。


「残業はいいぞ、インテリ君。なんたって組織に貢献できるんだからな」


「それよりいいのですか鬼丸君? そんなだらしない姿をクリスタさんに見られでもしたら」


「したら?」


 オウム返しに聞き返す。咳払いをし、喉仏に手を当てそれを押し上げ、インテリが可能な限り高い声を出す。


「頭を抱えながら、貴方ねぇ、仮にも今が戦時中ってわかってる? しかも私達軍人よ。これだから日本のサルは。などの罵倒を付け合わせに朝食を摂ることになりますよ」


 インテリのマネは似てこそいないが、実際にクリスタが言いそうなことである。ただ……。


「案ずるなインテリよ。奴は今頃ルームメイトであるコルセアのだらしなさに怒り心頭であろう。俺は今のうちに身支度を整えてくる」


 鬼丸はそう言うと自室から共同区画にある洗面所に向かった。


「さて、今日の一面はっと」


 インテリが日課の新聞チェックを始めて間もなく、隣の部屋から轟音が響く。


「鬼丸君の分析も捨てたもんじゃありませんね」


 隣の部屋は件のクリスタ、コルセアの部屋であった。


「何々、本日の一面はなかなか……」


 そこには、【人工知能との共存】と書いてある。


「世の中、そう上手くいけばいいのですが。まあ、実際うまくいっていないので私たちがいるのですが」



 三十分後、食堂にて。


「ねえ、鬼丸、アタシがなんでこうしてるかわかる? もしわかったら夕飯奢ってあげる」


 クリスタの右拳は冷や汗だらけの鬼丸の目の真横にあった。


「さ、さあなんででしょう? Bチームのお、俺がAチームのクリスタ様のご機嫌を損ねる行為がでっ出来るでしょうか、いえ、出来ません。つまり全く身に覚えがありません。サー」


 そ、と拳を引っ込めたクリスタを見て、鬼丸が安堵の表情を作った瞬間、今度は左拳が鬼丸の真横をかすった。


「じゃあ質問を変えるわ。昨日の夜、どこにいた」


「そ、それは業務時間外であるからして……と、というか何故それをお前に言わなければならないんだ。お前は俺と同期だろ」


「いいから、答えろ!」 


 とてもドスの聞いた声で問いただす。モデルと紹介されても難なく信じられそうな長い足、身長は百六十五センチはあるだろう。男で同い年の鬼丸ともさほど変わらない。


「いつもの酒場にいた。コルセア、インテリも一緒だ」


「ここまで言ってもわからないの? 貴方ねえ……」 


 クリスタが頭を抱えた。


「仮にも今が戦時中ってわかってる? しかも私達軍人よ。これだから日本のサルは。貴方の所属と業務内容、言ってみなさいよ」

(流石はインテリだ。バッチリ内容言い当ててやがる。)

 そんなことを口には出さず、鬼丸はわざとらしく敬礼をして声を張る。


「我々民間軍事企業ヴァルハラは政府や自治体らの要請を元に暴走する人工知能から市民や建造物を守る、令和最後の企業戦士であります。サー」


 そう答えるとクリスタは天使のような微笑みを見せた。

(誰だコイツ)


「お待たせしました鬼丸君、おや、クリスタさん。なにか良いことでもありましたか?」


「いいえ、ところで真壁くん。貴方も昨日飲みに行ってたらしいわね。今アタシ達がおかれている状況がわかっていての行為? それともこの馬鹿みたいに脳が機能していないのかしら?」


 真壁、とはインテリの本名だ。真壁純一。ただ名前が堅苦しいとコルセアにインテリとあだ名をつけられ、次第にそれが浸透していった。

(ただこの女は別だ。頑なに苗字呼びだ。何をお高くとまっているのだか。ついでに言うと俺の業務に朝っぱらからプライベートなことで同僚から文句言われることは入っていないはずでは)


「いえいえクリスタさん。私は一滴も飲んではいませんよ。事実勤務時間外と言ってもいつ出動要請があるかはわかりませんから」


 クリスタ・リヒテンシュタイン。ドイツ生まれの二十歳。赤髪ロングと先述したプロポーションで入社当初、多くの男性職員を虜にしたが、そのきつい性格か、変な噂が立ったことがない。


「……まあいいわ。そこは分かってるみたいね」


 カツカツと音を立てながらその場を去るクリスタの死角で、舌を出して煽る鬼丸。


「アンタって本当に下品ね」


 驚いて舌を引っ込める鬼丸と、クリスタの背中を興味深そうに見送るインテリ。それもそのはず。鬼丸の位置は、どう見てもクリスタからは死角である。驚く二人を気に留めず、クリスタは便所へ向かって足を進める。


「朝メシ前に怒ったり排泄したり、マニュアルエリート殿の朝は忙しいですな」

「あ、アンタって本ッッ当に下品ね。東京湾に沈みなさい」


 小さいころから日本にいたおかげで、クリスタの日本語はネイティブの鬼丸達となんら遜色はない。ただ一点、罵倒が時々古かったり的外れだったり。


「行きましょうか、鬼丸くん」


 クリスタに背中を向けて、食堂へと向かう二人。朝食の皿を手に取り、席に着く。


「今日はパンにジャム、それからソーセージ……おいインテリ、これって」


 ヴァルハラの朝食は日替わりだ。そして定期的に各国の料理が出されることがある。ちなみに今日の献立にソーセージはない。代わりにあるのは……。


「なんでもドイツはソーセージではなくブルストと呼ぶらしいですよ鬼丸君」


 バツの悪そうな顔をする鬼丸に、インテリが追い打ちをかける。


「ドイツ風朝食~現地っ娘の罵倒を添えて~」


 無音の三秒間が過ぎる。


「アンタって本当に下品ね」


 呆れた鬼丸のフォークが動く。


―――


 数時間後、シミュレーションルームにて。そこには、クリスタをリーダーに優秀な人材が集められたAチーム、クリスタに次いで成績の高い鬼丸が所属するBチームのメンバーがあった。


「本日の訓練は実戦形式で行う。といってもシミュレーション上だがな。Cチームの操作する機体を先に撃破したチームの勝ちとする。また、今回は技術部が開発した自立思考戦闘なんたらも導入し、Cチームの護衛に就かせる。以上だ」


 シャツからジャージに着替えた鬼丸が手を上げる。


「教官、そのなんたらってなんですか」

「俺が横文字弱いこと知ってんだろお前。まあ、なんか凄いらしいぞ。いいから始めるぞ。各リーダーは点呼を行い次第、訓練を開始せよ」


「Bチーム、編成発表とともに点呼とします」


 Bチームリーダーは三十代の女性だ。クリスタと違い、温和な性格からお袋と呼ぶ人も少なくない。


「機関手、真田。狙撃手、真壁。爆撃手、鬼丸……」


 名前を呼ばれたメンバーが力強く答える。


「Aチーム、本日の編成は観測手に野口。機関に樋口、通信は朱里。今回はあまり仕事はないわね。それから……で、運転手は酒田ね」


 酒田雪。あだ名をコルセアと言う。


「Aチーム、戦闘準備」

「訓練とはいえ、皆さん気を引き締めて参りましょう。Bチーム、行きます」


 それぞれが用意されたシミュレーションマシンの前に座った。


「よし真壁、おさらいだ。お前らが実践で使う機体の名前と特徴を答えよ。動作確認をしながらでいいぞ」


「機体名はヴリュンヒルド八型。特徴は七型まで主流であったデジタル操作から一変して多くのシステムをアナログに。比例して搭乗可能人数の増加と機体の肥大化、でよろしいでしょうか? 」


 上出来だ。と答える教官。この教官はこのように実技中に座学の抜き打ちテストをしてくる。


「次、鬼丸。ヴリュンヒルドは陸上型戦闘機の中でも名機とうたわれている。何故だ、答えてみろ」


 陸上戦闘機。わかりやすく言うなら人型ロボットとかメカの類だ。


「えーと確か、なんかがすっごい便利だったような……あ、あれか。汎用性だ」


 始まりは明治の終わり。突如空中に現れた人類の敵、翼人との闘いに備えて開発、実戦投入されたのが陸上戦闘機。その名を火の鳥。その後翼人が消えた令和の今日まで、災害派遣や国土防衛のためさまざまな陸上戦闘機が開発された。


「六十点だな。リヒテンシュタイン、補足行けるか?」


 元は未知の力に立ち向かう力の象徴であった陸上戦闘機だが、今ではその多くが人類の生活を脅かす。

 多くの無人陸上戦闘機は暴走した人工知能にハッキングされ、殺戮の限りを尽くし自爆する。


「はい。ヴリュンヒルドは左右の武装の換装が容易であることにより汎用性に優れているのは勿論、アナログ操作であるため搭乗員の腕無限大の可能性を秘めた機体です」


 各国が血眼になり競ったAI競争。そのゴールはあまりにも悲惨なものだった。AIに自我を持たせたのが間違いなのか、そもAIそのものが間違いだったのか、今になっては誰にもわからない。


「百点満点だ。総員、準備はいいな」


 人類を守るために作られた人工知能が下した判断は、人類の終末だった。

 のちにセカンドラグナロクと呼ばれるこの過激な闘いは人類の歴史の最後の一頁となる。


「鬼丸君、ドンマイです」


 にこやかなインテリと対局に、鬼丸は鬼の形相である。


「インテリ、今日の俺は多分最もこの訓練で勝ちたいと思ってる。力貸してくれ」

「あら、鬼丸君、訓練なのに妙にやる気ね。その心は? 」

「お袋、そりゃあのマニュアル女の涼しい顔吹き飛ばすために決まってんだろ! 」


 青い空はもう見えない。空にあるのは無数の恐怖。これは、過去の物語。人類が、若者たちが歩いたデータ。


「リーダー、向こうなんか必要以上に盛り上がっていますよ」

「うしゃ、クリスタ、うちらも気合入れるぞ」

「酒田、画面に集中して。遊びじゃないのよ」


 赤い血が仲間を覆う。そこにはもう何もない。これは、未来の予測。明日の風を感じる新たな神話。


「模擬戦闘、始め!」


 第二回路へ接続しています……。

Now Lodng

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