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そこにカイロスはいるか?



 目を開ければ、そこは。

 真っ白い世界。他には何もない、寂しい世界。

「…………」

 体を起こすと、いつものメンバーが僕を心配そうに見つめていた。

「とりあえず、目を覚ましたわね」

「……先輩、大丈夫ですか?」

 ああ、大丈夫。何もない。僕にはもう、何もない。

「全員揃ったところで、まずはオメデトウだ。お前らはチャレンジをクリアしたんだからよ」

 死神さんが立ち上がり、拍手をする。殆ど音のない世界に、彼女の奏でる音がささやかに響いた。

「クリアしたのは良いんだけど、どうして私たちはここにいるのよ? また失敗したのかって焦っちゃったじゃない」

「わりーわりー、一つ伝えとかなきゃなんねーのを忘れててよ」

「……忘れていた? あなたは本当に適当ですね。先輩からも何か言ってあげてください。死ねとか」

 一応、こんなでも僕を何度も助けて、励ましてくれた存在である。

「そー言うなよチビ。大切な事だからな、二回ぐらい言っとかなきゃなんねーのさ。ま、単刀直入に言うとだ、今からお前らの記憶を消させてもらう」

「は?」

 明石さんが目を丸くした。

「だーかーらー、記憶。記憶を消すんだよ。お前らのチャレンジ中の記憶を全部消させてもらうって訳」

「……冗談、ですよね? だってそんなの一言も……」

「いや、言い忘れてたって言ったじゃん」

 あっけらかんと、悪気の一つすら見せず言い放つ死神さん。

「せ、先輩からも何か言ったらどうなんですか? 記憶が消えるなんて、馬鹿げてますっ」

「僕は何となく分かってたからなあ」

 チャレンジの記憶といえば、もうとんでもない事のオンパレードである。死後の世界が存在したり、そこには神様がいたり、世界が巻き戻ったり。覚えていても仕方ないが、ずっと心に秘めておくには難しいものばかりだ。人間にも、神様にも記憶が引き継がれるってのは色々と不利な事が多い筈。

「……今までの思い出がなくなっちゃうんですよ。先輩と仲直り出来たのも、一緒にチャレンジをクリアしたのも……泣いたり笑ったり、怒ったり私が先輩に力強く抱かれたりあんなところを優しく触られたりしたのも」

「後半妄想じゃないか」

 言いたい放題だなあ、本当。

「死神、冗談抜きで私たちの記憶は消えるのね?」

「おー、そーだよ」

「全て、綺麗さっぱりに?」

「……おー、そーだよ」

 溜め息が二つ。明石さんと七篠が漏らしたものだ。彼女らの気持ちは、僕にも少しは分かる。チャレンジをクリアした達成感、その過程で得たものは計り知れない。だが、記憶を消されれば明日からは元通り。何もなかった事になる。

 僕たちは、他人になる。

 ただの後輩、ただのクラスメート。チャレンジが終わった以上、そこからはもう発展しない。話もしないだろうし、顔も合わさないだろう。寂しいと、一言で片付けるにはあまりにも空し過ぎる。

「記憶が消えりゃ、お前らはお家のベッドでオヤスミ中って訳だ。チャレンジの事も何もかも、ぜーんぶ忘れて明日からは元通りの生活を送れる。嬉しいだろ?」

 勿論、嬉しい。生き返れるのだし、僕たちはずっとクリアを願っていた。だけど、だけど……。

「はっ、んだよ辛気くせーな。葬式じゃねーんだぞ。お前らは、ずっとチャレンジのクリアを目指してたじゃねーか、やり遂げたんだぞ。誇って良いんだ。泣く事なんか、悲しむ事なんか筋違いにもほどがあるだろーよ。笑えよ、笑って、明日に行くんだ」

 全て、死神さんの言うとおりだろう。

 けど、各人納得するまでには時間が掛かって、

「……そうですね」

 やはり、時間さえあれば納得する。

「……今までの時間を忘れてしまったとしても、今までにあった気持ちまで失う事はありません。私は、ずっと先輩を好きでいたし、これからも好きでい続けるのですから」

 最初に口を開いたのは七篠で、彼女は全てを受け入れ、また、諦めてしまったかのように言葉を紡ぐ。

「分かってるじゃねーか。そーさ、オレが消すのはあくまでチャレンジ中の記憶だけだ。お前らが今までに積み上げてきたものには手出ししねーし、誰にもさせねーよ」

「それに、記憶を消されても嫌な事ばかりではないですしね」

 そう。チャレンジでは楽しい事や嬉しい事もあった。が、同時に悲しい事や辛い事もあったのである。誰かを傷付けたり、傷付けた記憶。覚えていなくても良い事、忘れたい事だってある。

「……これで、もう一度スタートラインに立てるんですから」

「七篠……?」

 七篠の足が、消えていく。白い世界に、白い光が生まれていく。

「ちょ、ちょっと? 七篠さん、平気なの?」

「ええ、問題ありません」

「慌てんな。これが、記憶を消すって事なんだ。この世界からは消えて、この世界にいたという事実も消える。そーだな、順番的には後からこっちに来たチビから消えるのが普通だわな」

 こちらで過ごした時間、チャレンジを過ごした時間が短い人から、明日に戻れる。日常に、普通に再び埋没出来る。

「……先輩。最後ですから、一つだけお願いを聞いてくれませんか?」

「ああ、僕に出来る事なら」

 七篠は涙を拭いながら、気丈に口を開いた。

「抱いてください。エロい意味で」

「さっさと帰れ!」

 最後の最後までこいつは!

「……冗談です。それでは先輩、また明日」

「……ああ、また、明日」

 彼女は手を振ろうとしたが、それは叶わない。七篠の体は殆ど消えかけ、僕らの網膜に残ったのは、彼女の儚げな笑顔だけだった。

 それだけを残して、七篠は消えてしまう。この世界から、僕らの前から。一足先に、あちらへ帰ってしまったのだ。

「あんな後輩でも、いなくなったら寂しいものね」

「すぐに会えるさ」

 明石さんはその場に座り込み、愛しげにこの世界を撫でる。

「色々あったけど、結構、楽しかったわね」

「うん」

「何だか、クリアしたって気がしないわ」

 それは、僕も同じだ。

「何かの終わりって、私が思っていたよりも寂しいのね。小さい子が読むような絵本のハッピーエンドみたいに、単純にはいかないんだって初めて分かった。私たちが大人になったのかしら?」

 さて、どうだろう。もしかしたら、チャレンジを通して成長したと呼べる部分はあるのかもしれない。だけど、それも全て消えてしまう。

「明石さん、君には迷惑を掛けてばかりだったね」

「ふふ、そうね。あんたったら愚鈍愚鈍、愚鈍が具現化したような奴だったから」

「謝っても謝っても足りない。ありがとうって、何度言えば良いのか分からないよ」

 本当に、君にはそれだけの事をしたし、してもらった。

「七篠にもたくさん助けられたけど、明石さんにはそれ以上に助けてもらった。正直、君がいなければチャレンジはクリア出来なかったんだよ」

 明石さんは僕を見つめ、優しく微笑んでくれる。

「一つ、決めた事があるの」

「え?」

「あんたが誰を好きでいようが、誰と付き合っていようが関係ないって。……私は、あんたに返せないぐらいの貸しを作ったわよね」

 あ……。

「明石さん、足が……」

「作ったわよね?」

 彼女は消えつつある自らの足を一瞥しただけ。僕は思わず、頷いた。

「あんたが誰のものになろうと、誰をものにしようと関係ない。忘れないで、あんたはずっと、ずーっと私のおもちゃなんだから」

「……うん。忘れない」

「明日からも、絶対に好き放題弄ってやるんだから」

「うん」

 明石さんの下半身が完全に消失する。もう、残り時間はないだろう。

「それじゃ、また明日ね」

「うん。また、明日」

 彼女はにっこりと笑い、僕からは顔を背ける。良く見えなかったが、明石さんは泣いていたのだと思う。

 そうして、明石つみきもチャレンジをクリアした。この世界から、完全に消えてしまった。

 残されたのは僕と、

「青春だな。いや、オレにも昔はあんな青い時期があったんだと思うと懐かしくて涎が出るぜ」

 この、ふざけた死神だけ。

「ま、よーやく二人きりになれたんだ。色々言いたい事とか、聞きたい事あるだろ? いーぜ、出血大サービスだ。何でも聞いてやんよ」

「舞子さんを、どうしたんですか?」

 死神さんはかっかと笑い、どっかりと胡坐をかいた。

「なあ、どーだったよ?」

「……何が、ですか?」

「チャレンジ。楽しかったか? 悲しかったか? 辛かったか? 腹立たしかったか?」

「全部、ですよ」

 嘘偽りない。人間が凡そ表現出来るような感情は、全て経験し、体験したと思う。

 僕は、様々な人と出会い、触れ合い、傷付け合い、協力し合った。

「勉強になりました」

「人間は弱い。一人じゃ、しんどかったろ?」

 迷う事はない。力強く、頷く。

「ありがとうございましたって素直に言いたいんですけど」

「急かすなよ。オレだって、チャレンジを受けさせるなんてのは滅多にない経験だ。人間と触れ合う機会なんて滅多にないんだからよ。別れん時ぐらい、目一杯使わせてくれや」

 まあ、そう頻繁にチャレンジを受けさせる訳にもいかないし、そんな人ばかりではないのが当たり前だろうしな。

「お前はマジに頑張った。過去最高のチャレンジャーだと思うぜ。多分、将来天国だか地獄だかの教科書に載る勢い」

 あはは、嬉しくない。

「さっきも言ったが、オレは頑張ってる奴が好きなんだ」

 あ、ちょっと待てよ。

「あの、どうして向こうに来れたんですか? と言うか来たんですか?」

「んー、理由が欲しいか?」

「そりゃ、あんなとんでもな真似されたんですから」

「理由はー、ないっ。強いて言うならオレがすっげー凄い存在だからって感じ」

 語彙力に乏しい理由をありがとうございます。

「そうだなー、オレばっか喋るのもアレだし、何か聞きたい事とかねーか?」

 色々あり過ぎて困る。

「……それじゃあ、まずは一つ。ここは、どこなんですか?」

「はあ? 何言ってんだ、ここは死後の世界だって言ってんだろ」

「じゃなくて、本当は、ここはどこなんですかって聞いてるんです」

 やっぱり、確信はない。確証なんてない。

 が、死神さんはにたりと笑う。実に嫌な笑みだった。

「へえ、あんだよ。お前も気付いてたのか?」

「僕、も?」

「パッツンだよ。あいつはな、大体のトコ分かってたと思うぜ」

 明石さんが?

「答えは教えてやらなかったけど、確信ぐらいはしてんじゃねーのかな」

 つまり、僕にも答えを教えてはくれないって事か。

「ここはな、どっちつかずの、中途半端な、曖昧な、裏表のある、そんなどーしよーもない奴らが集まる場所なんだ。つーか呼び寄せてるっつーか。ぎゃはは、オレだってそーなんだしよ。やっぱし仲間は欲しいじゃねーか」

「死神さんも?」

「おー、そーだよ。人間たちにごっちゃにされて、良く分かんなくなっちまったのがオレなんだ」

「じゃあ、やっぱりここは死後の世界ではないんですね?」

 死神さんは首を横に振る。

「いや、似たようなもんだと思うぜ。実際お前は死んでたし、死んだ奴が来るところなんて死後の世界に決まってら。……なあ、生き死にを操ったり司る神様ってのと、時間だったり機会を司る神様ってのに違いはあると思うか?」

「突然ですね。でも、やっぱり違いはあると思いますよ」

「そーか? でもよ、結局のところやってる事は同じなんだよな。やっぱり、人間の人生、命に関わるところを背負っちまってる」

「それでも、直接的間接的と違いはあると思いますけど」

 いきなりどうしたと言うのだろうか。急に真面目になるなんて。

「死神さん、まさか、あなたは――いや、あなたが……」

「それ以上は言うんじゃねーよ。超つまんねーし、興ざめって感じがしねーか?」

 確かに、そうなのかもしれない。明石さんが黙っていた事を、僕みたいなのがわざわざ掘り返すのもどうなんだろうと、そう思う。

 第一、全て死神さんの言うとおりだ。

 僕は死に、彼女がこの世界に拾い上げてくれた。

 ここがどこだったとして、彼女の正体が何だったとして、何か不都合があるだろうか。

「ええ、そうですね。僕はあなたに感謝している。それだけで充分なんでしょうね」

「おー、そーだな。そー言ってくれると、オレも頑張った甲斐があるってもんだ」

「頑張ったって、何を?」

「お前に付き合ってやったろーが。それを頑張りと言わないで何を頑張りと言うんだっつーの」

 違いない。笑って返そうとしたが、その時、僕の体を淡い光が包んだ。

「……と、時間だな」

 爪先が光に包まれて、消えていく。こうして、いざ自分の番になると少しは驚いたが、痛みはない。何も感じない。ただ、頭の中に詰め込まれていたモノが失われ、軽くなっていく。

「これが、記憶を失うって事なんですね」

「あ、言い忘れてた。あのプッツン女の事だけどよ」

「いや、別に言わなくても良いですよ」

「あ? あんでだよ? お前、向こうじゃめちゃくちゃ怒ってたじゃん」

 何となく、分かった。分かっていた。

「どうせ彼女も無事なんでしょう?」

「ありゃ、バレてたか。ま、安心しろ。あいつもお前らと同じように記憶を消して送ってといてやったからよ。けどな、言っとくがこれはサービスだかんな。お前があんまりにも頑張ってたから、ちっとばかしオレもズルしちまったんだよ」

 足が、もう消えちゃうな。

「最後になるし、僕も七篠みたいにお願いしちゃおうかな」

「お? 何々、オレとしたいのか? 抱かれたいのかー?」

 ゲス! 下品!

「そんな訳ないでしょう」

「だよなー、そんなに早くちゃ向こうでパッツンやチビやプッツンに嫌われちゃうもんなー。男として失格だもんなー」

「もう良いです」

「だーっ、冗談だって、冗談!」

 冗談だとしても性質が悪過ぎる。最後に交わした会話がこんなんだったら嫌過ぎる。

「名前、教えてくださいよ」

「んー?」

 死神さんは困ったように頬を掻いた。

「つーか、言ったじゃん。オレの名前はー」

「死神、ではないですよね」

「あー?」

「良く思い出してみれば、あなたは自分の事を一度だって死神とは言わなかった。死神みたいなものだ、とか。そんな感じだ、とか。曖昧にして誤魔化すようにしていた。違いますか?」

 改めて考えてみれば、死神さんは嘘を吐くのが絶望的に下手過ぎる。素直と言うか、性根がまっすぐなのだ。だから彼女は、自分にとって不利なところ、難しいところは断言せずにお茶を濁していたのだろう。

「そもそも、あなたの正体が死神ではないんですから、死神って名前はおかしいでしょう」

「えー、そんなにオレの名前が知りたいのかよー」

「どうせ忘れちゃうんだから良いじゃないですか」

「……仕方ねーなー。じゃ、ちっと目ぇ瞑れ」

 目を瞑る必要はないと思うが、まあ、なんだ。恥ずかしい名前だったりするのだろう。骨皮筋右衛門とか、ルンルンとか、髑髏林何とか丸みたいな。

 どうせ、最後の最後に知りたい事なんて思い付かないし、思い付いてもすぐに消されてしまう記憶だ。

「はい、どうぞ」

 目を瞑り、死神さんの要求に応える。

「ん、じゃあ言うぞー」

「早くしてくださいよ。もう胴が……」

 消えかけている。そう言おうとしたところで、何かが僕の鼻をくすぐった。

 髪の、毛?

 甘い香りと、暖かい息が僕のすぐ傍にある。と言うか、目の前にある。

「オレの名前は……」

 あ、やられた。

「んっ……」

 唇に、柔らかい感触が。

 不覚である。一生の不覚である。僕は今、ずっとこうしていたいと思ってしまった。死にたい。

「んー」

 つーか、初めてだったのに。初めてだったのに。得体の知れない女の人に奪われてしまった。

「お前さー」

 もう、目は開けている。と言うか開けていられるか。

「女みてーな唇してんのな。男ってもっとガサガサしてんじゃねーの?」

「……知りません」

 あー、腕がー。肩がー。僕が消えていくー。早く消してくれー。

「ぎゃっはっはっ、そー簡単に名前なんて教えねーよ」

「き、キスする意味なんてあったんですか……?」

「ないっ。オレがしたかっただけだ!」

 わー、あっさり。

「うん、お前の事は正直言って好きだったからな。勿論、人間として」

「はあ……」

「ま、チャレンジをクリアしたご褒美だと思っとけ。くれぐれも光栄にな!」

「犬にでも噛まれたと思って諦めますよ」

 ちょっと嘘を吐いた。強がりである。

「あー、それとな、お前からは見えてねーだろーけど、多分、もう消えるわ」

 僕が?

 と、言おうとしたところで声が出ていないのに気付いた。恐らく、想像したくはないのだが口元はとっくに消えている。

「……そいじゃあな。オレは、また明日なんて言わねーぞ。お互い、また会う事はないだろーし、こんなところで会いたくないしな」

 ご尤も。次に会うとしたら、本当に僕が死んだ時である。いや、それもどうなんだろう。ここが死後の世界ではないんだとしたら、もう、この人とは……。

「ま、ちょいちょい様子見ぐらいには行ってやっても良いかなー、とか思ったり思わなかったり。出会ったとして、どーせ覚えてないだろうけどな」

 あ、もう。僕は。

「また明日とは言わねー。けど、また、いつか、な」

 ええ。また、いつか。

「元気でな、オレの――」

 お元気で、僕の――。

「――――」



 意識が消える。

 世界に溶ける。

 記憶が、なくなっていく。

 最後の最後に掻き集めた僕の意識。僕の記憶。

 チャレンジは終わり、ループは終わり、僕には明日が待っている。僕の明日が始まる。

『――――』

 彼女は、最後に何を言ったのだろう。僕と、同じ事を言ってくれたのだろうか。

 時を、機会を操る神様。死神もどき。胡散臭い適当女。

 いや、どれも違うな。僕にとってはどうでも良い。例えそうだとしても、例えそうだったとしても、僕にとって彼女は、相棒、だったのだから。

 温い言葉だとは思う。だが、生憎と言葉を知らない。それ以外に僕とあの人の間柄に似合う言葉を知らなかった。

 だから、それで良いのだと思う。

 彼女は、僕の相棒は、確かにそこにいたのだから。

 全部が全部上手く行き、丸く収まった訳ではないけれど、こうして僕は目的を達成し、そこそこの達成感をも得られた。

 うん、充分、満足である。惜しむらくは記憶だけれど、それもまた、一つの道で、選択で、結果で、人生なのだ。多くを望み過ぎて、大切な事を見失うよりはマシだ。

 うん、そうだな。

 これで、僕の話は終わり。物語は終わり。チャレンジは、終わり。

 この先にはもう何もない。『今日』を生きた僕はいない。『明日』からは、また新しい僕が始まるんだ。

 それで、全て――。

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