部室〈3〉
苦しんでも苦しんでも、結局は無駄に終わるような事もある。
「は? 細山? あいつがイレギュラーな訳ないじゃないの。あんた馬鹿?」
苦労して、苦心して、心を砕いて。辿り着いたその先が行き止まりだって事も、時にはある。
「え? 何でって、だって直接聞いたもん。流石に遠回りに質問したけど、ループどころかチャレンジもクソもない素振りだったわよ?」
細山君はイレギュラーではない。
何せソースが他ならぬ明石さんなのだ。明石さんが彼から聞き出そうとして無理だったのなら、僕ではもうどうしようもない。
ここで一人候補から外れてくれたが、空しい徒労感だけが残った。
折角明石さんが、僕が何もしていないって言ってくれたのに、懐かしい教室、懐かしい授業の五時間目はもう覚えていない。ただただ疲れたとしか、もうそれだけしか言えない。
「……はあ」
「あら、どこに行くの?」
「トイレ」
「好きねえ、トイレ」
うるさいな。
五時間目が終わって休み時間。僕は約束を果たすべくここにやってきた。もう、約束を守る義理も理由もないのだけど、約束は約束だ。その結果、僕にメリットがなかったとしても守らざるを得ない。
「……『つみきちゃんは超サイコー』」
来たか。
「待ってたよ」
「そりゃこっちの台詞だぜ。なあ、マジでつみきちゃんの写真撮ってくれたんだよな? 俺のケータイに保存されてんだよな? 勝手にメールの履歴見たり出会い系に登録したりしてないよな?」
してないしてない。と言うか、勝手に他人のものを盗み見るなんて犯罪じゃないか。
「うん。それじゃ、投げて渡すよ」
「えっ? ちょっ、おい」
「ていっ」
キャッチボールは相手の胸元に投げるのが基本と聞く。だけど壁で胸どころか顔も見えない。最近の携帯電話は薄く、小さくなったけど頑丈だろう。多分。
「っと、あっぶねえなあ、おい」
「あはは、ナイスキャッチ。それじゃ、僕はもう行くよ。中身は、その後で確認してくれるかな」
「オッケーオッケー。そんじゃ、なんつーか、ま、ありがとな」
ありがとう、か。
「良いよ。こっちも中々の暇潰しになったし」
僕は個室のドアを開け、誰もいない空間を歩いていく。トイレのドアを開けて、廊下に出た。
『うおおおおおおおおおおおおおおおお!』
随分とまあ、喜んでくれているのだろうか。手段としてはゲスの極みではあるが、良しとしよう。何より、明石さんのあんな顔を見られたのは本当に僥倖である。
さて、状況を整理しておこう。
イレギュラーの正体を突き止めるべく奔走したが、結局のところ無駄足に終わった。僕に恨みを持っていそうな人物が怪しい。と言う事で、細山君に的を絞ってみたのだけど、どうにも上手くいかない。何せ、イレギュラーは絶対に僕を恨んでいるのだ。この方面から犯人を割り出すのはあまりにも絶望的で、あまりにも頭の悪い方法である。
ならば、残った道はほぼ一つ、一本道だ。一つしかやる事はない。
学校が終わり、地震をやり過ごした僕は玄関に向かった。
靴箱は倒れているが問題ない。靴は別の場所へ移動させてある。
「……お待たせしました」
「悪いな、七篠」
「とんでもない。それよりも先輩、ちゃんと靴を温めておきましたよ、人肌で」
あはは、気持ち悪い。
七篠に預けておいた運動靴を受け取り、履き替える。
「で、どこに行くのかしら?」
既に外靴に履き替えていた明石さんが退屈そうにあくびをした。
「イレギュラーの正体を突き止めに、だよ。卓球部の部室、使用許可はもらってくれたんだよね?」
誰も使っていないとはいえ、一応学校の施設である。昼休みに無断で使ったのは仕方ないとして、許可を取るのはやはり当たり前だろう。
「勿論。向こうから頭を下げてくれたわ」
どうにも状況が掴めないが、快く許可を出してくれたのだろう。いや、うちの学校には良い先生が揃っていて助かるなあ。
「さて、と」
昼休みに少し片付けたとは言え、汚い事に変わりはない。出来るなら長居はしたくないのだが、それも結果如何によるだろうな。
「で、こんなところに何の用事があるの? この部屋、埃っぽいし嫌なのよね」
「じゃあ先に帰ってても良いよ」
「……と言うか帰ってください。邪魔です」
「じゃあ、帰らない」
明石さんは転がっていたパイプ椅子を引き起こすと、そこにどっかりと座り込む。
別に構わないけどね。
「用事ってのは、河原先生に関してだよ」
「河原? あいつがどうしたのよ?」
「だから、イレギュラーは河原先生に恨みを持っているでしょ。だから、ここで何か手掛かりがないかと」
「……だからの部分をもっと具体的に言いなさいよ。河原に恨みがある奴と、ここに何か関係があるの?」
ある、と思いたい。
「卓球部を潰したじゃないか」
「あの先生の事だから、恨みなら他所でも買ってそうじゃない。ま、本人は恨まれてるとは微塵も思っちゃいないでしょうけどね」
あの性格だもんなあ。敵が多いし、味方は少なそうだ。
「でも、少なくともイレギュラーは僕と先生を知っている人物だよ。僕は学校以外じゃ誰とも接点がない筈だし、やっぱり近いところから何か見つけるのが一番だと思う」
「……そして、可能性が高いのがここだと? ここに何かあると?」
「まあね。何かが見つかるとは限らないけど」
でも、もう手掛かりはこれぐらいしかない。やるしかないんだ。
「やらない善よりやる偽善。分かったわ、私も手伝う」
「ありがとう。それじゃ、手分けして探していこう」
さあ、鬼が出るか蛇が出るか。
部室を捜索し始めてから小一時間、部屋が狭い事もあってか思ったより時間は掛からず、面白いものが見つかった。
「……これは?」
「これは……」
僕たちが見つけたのは紙だ。長い間部屋の隅で放って置かれたのだろう、埃がこびり付き、所々が破れた薄い紙切れである。
「卓球部の連絡網ね。顧問は……河原」
「つまり、去年の連絡網なのか」
「そう。それで、卓球部最後の連絡網でもあるわね」
最後の、か。最後にさせられた、無理矢理終わらされた、とも言い換えられる。
「制服は汚れたけど収穫はあったね。ここに載っている生徒の内の誰かが、いや、誰もが河原先生に恨みを持っている。イレギュラーの可能性がある」
「あくまで可能性だけどね。ま、やれる事が増えたから良しとしましょう」
「……一年前だと私は知らない人たちばかりですね」
安心しろ、七篠。僕も知らない人たちばかりだ。
「明石さん、知っている人はいる?」
明石さんは連絡網にひっついた埃を剥がしながら、忙しなく瞳を動かしている。大きな目玉はまるで猫のようだった。
「破れてるところもあるけど、全部で八人。確か、一人は学校辞めてたから、今残ってるのは七人ね。ん、大丈夫。全員顔と名前は一致したから」
やばい。格好良い。対人スキルを持たない僕では一生言えない台詞である。
「辞めたのは芦辺って男子ね。あんた、心当たりある?」
「ゴマフアザラシの方なら」
「心当たりはなし、ね。良いわ、とりあえずは置いときましょう。問題は残った七人ね」
七、か。意外と少ないな。一人一人当たっていけばいつかは辿り着く。たとえ、全員がイレギュラーではなかったとしても。
「ちなみに、僕の知ってる人はいるのかな」
「いるわよ。まずは敷島と山崎の二人ね」
「……パン屋みたいな名前ですね」
突っ込めない。僕だって同じ事を思ったのだから。
「あれ? でも、あの二人って野球部じゃなかった?」
「卓球部がなくなってから野球部に移ったんじゃないかしら」
ふーん。
「あと、舞子さんね」
…………え?
舞子、さん?
舞子って、舞子眞唯子さん?
「何固まってんのよ。私たちと同じクラスの、ほら、あんたともそこそこ喋ってたじゃない。そこそこね」
「……許せませんね。私の知らない間に先輩に擦り寄るとは」
嘘、じゃないのか。どうして、舞子さんがイレギュラー候補になってるんだ。かもしれない、そんな状況ですら有り得ない。
「本当に、あの舞子さんなの?」
「あんなふざけた名前二人といないでしょ。住所も合ってるし、間違いないわよ」
「……先輩、顔色が悪いような気がしますが、何かありましたか?」
「いや、ちょっと疲れたのかもしれないな」
疲れてなんかいない。気分が悪い。何だか目眩が、視界がぐるぐるする。どうしてだよ。ただ、舞子さんがイレギュラーかもしれないってだけで、どうして僕が体調を悪くしなきゃならない。
「……先輩のお家に行きましょうか。収穫はありましたし、長居は無用かと」
「そうね、出ましょう。つーか、あんた本当に大丈夫?」
分からない。自分の体なのにコントロールが利かないんだ。頭が痛くて、苦しい。
「……先輩、肩を貸します。返さなくても良いですから、ほら、もっと寄ってください」
七篠に体重を預けると、少しは負担が軽くなった気がする。
早く出たい。が、
「あら?」
明石さんはドアノブをがちゃがちゃと鳴らすだけで開けてくれなかった。
「どうしたの?」
「開かないのよ。おかしいわね、鍵なんか掛かってないのに」
「……誰かが押さえ付けているのでは?」
誰かが?
「誰かって誰よ。……あ、まさか……」
この状況で僕らを部室に閉じ込める人間。生憎と、一人しか思い浮かばなかった。
「イレギュラーだ」
「……まずいですね」
「ま、大丈夫でしょ。ほら、窓があるんだし」
いや、いやいや待てよ。おかしい。イレギュラーにしては何かおかしい。
「……では、こっちから出ましょうか」
「待つんだ七篠。多分、窓は危ない」
窓の近くに椅子を運んだ七篠は、きょとんとした顔でこちらを見遣る。
「どうして、イレギュラーは窓を、逃げ道を残してるんだ。やる事が半端過ぎる」
「……そこまで考えが至らなかったのでは?」
至らない筈がない。僕らを煙に巻き、嘲笑うかのようにチャレンジを失敗に追い込んだイレギュラーだぞ。確かに、色々と手緩い部分もあったが、馬鹿じゃない。相手が何か仕掛ける時は、確実に僕らの内の誰かが死ぬ。
「一理あるわね。イレギュラーってのが本当に存在してるなら、私ほどじゃないにしてもそこそこ頭は良い筈よ。閉じ込めて、唯一残った逃げ道、選択肢に罠を仕掛けてるなら、かなり嫌らしい奴ね」
「……しかし、このままじっとしている訳にはいかないでしょう」
助けを求めるにしても、ここは使われていない部室である。誰かがわざわざやってくるとも思えない。動くか、動かないか。
「詰んでるわね。正直、油断してた。あんたの家の時にしても、まさか形振り構わず仕掛けてくるとはね」
「死んでみるのも一興かもね。本当に罠が仕掛けられていたなら、僕たちはどれくらいの力量をした人を相手にしているのかどうか確かめられる」
「……では、私が行きます。この中で一番肉と体が優れているのは私ですから。先輩方はここで相手の正体を見極めてください」
異論はない。どうせ死ぬなら少しでも足掻き、時間を稼いで次に繋げてやる。
「……では、行きます」
窓は普通に開いた。さあ、何が来る?
銃か、刀か、また紐か。
「……何も来ませんね」
七篠は窓よりも頭を下げた状態で訝しがる。
「気を抜かないで、時間差かもしれないわ」
「出た方が早いですね」
「ちょっ、おいっ」
僕の制止を聞かず、七篠は窓の外へと体を躍らせた。
「……って、何もありませんよ」
え? そんな馬鹿な。僕は窓の外を見てみる。と、肩透かしを食らった七篠がいるだけだ。
「からかわれたのかしら。全然関係ない生徒が中にいた私たちの話し声を聞き付けて閉じ込めた、とか」
「かもね。七篠、扉を塞いでるものを退かしてくれないか?」
「……アイアイサー」
七篠が僕の視界から消えて行く。
「せんぱーい、机と椅子が積み重なってますー!」
「そうか! 頑張れ!」
「私一人でですか!?」
肉体労働は僕の色じゃない。ついでに言えば、明石さんは『労働なんて私には似合わないからー』とでも言いたげにしている。
「さて、ここを出たらどうしようか」
「ん? 決まってるじゃない、とりあえずあんたの家に行くわよ」
「え……また来るの?」
「あら、嫌そうな顔。良いのかしら、そんな顔を私に見せても」
嫌そうな顔、してたかなあ。
「どういう意味だよ?」
「授業は真面目に受けたいでしょ?」
「……別に、嫌だとは言ってなかったけどね」
明石さんは愉しそうに微笑んだ。ああ、くそ。
と。
乾いた音が響いた。床と何かがぶつかったような音である。
「んー?」
「何か落ちたのかしら?」
何だ、こりゃ。転がっているのは小さなリンゴ、みたいな物体だ。こんなもの卓球に使うのか?
目を開ければ、そこは。
「ステンバーイ……ステンバーイ……ステンバーイ……ゴー!」
「うわああっ!」
耳元で怒鳴られた!
「ぎゃははは、やっと起きやがったか。どうだよ、気分は? 最高だろ、こんな美人に起こされるなんてよ」
死神さんは相変わらずマイペースと言うか、歪みなく自分を貫く人である。
「さてさて、今回のびっくりでドッキリな死因はー? じゃかじゃん! 爆弾でしたー!」
「……爆弾、ですか?」
「そうよ」
「うわあっ」
あ、明石さん。起きてたのか。と言うか、後ろからいきなり声を出さないでもらいたい。
「あの形状、梨地仕上げの本体の印象……M67破片手榴弾、通称アップルグレネードで間違いなさそうね」
何だって? M78星雲なら知ってるけど。
「ちなみに、手榴弾は爆発よりも爆発して飛び散る破片が主なダメージ源よ。爆発自体に大した威力はないわ」
「……詳しいね」
「ええ、手製の爆弾を作ろうとして調べた事があるのよ」
どうして? とは聞くまい。
「でも、手榴弾って、そんなの……」
「テロリストが銃持ってるんだから、爆弾の一つや二つ出てきてもおかしくはないと思うけど?」
「じゃあ、やっぱりアレはイレギュラーが投げ込んだのかな」
「その可能性が大ね。さて、それよりもイレギュラーについてだけど……かなり嫌らしいわね」
同意見だ。相手は下手すれば僕らよりも上手である。
「後手に回るのはいつもの事だけど、相手の意図が気になるね」
明石さんも頷く。多分、考えは一致している。
「何故、あそこで私たちを殺したのか。そこが疑問ね。わざわざヒントを与えなくても、その気になればいつでも私たちを殺せた筈よ」
「あんなもの持ってるんだもんね、教室なり、自宅を狙っても構わないのに」
いつでも殺せる相手にヒントを、時間を与える理由は?
「イレギュラーは私たちを馬鹿にしてるのよ。挑発してるんでしょうね。見つけられるものなら見つけてみろってところかしら」
「それとも、飽きてきたかだね。イレギュラーがいつからループしてるのかは分からないけど、もし僕と同時期なら、相当の繰り返しを経験した事になる」
二百回以上も、ずっと。
僕には最初から死神さんがいてくれた。明石さんも、七篠もいてくれる。でも、イレギュラーはどうだろう。何が何だか分からない世界に飛ばされ、終わらない一日をやらされ、誰も傍にいてくれない。たった一人で。ずっと。
「構って欲しいんじゃないのかな……」
「ま、分からなくもないけど。だとしたら、相手はガキね」
詰めが甘い。どこか脆い。イレギュラーは子供、か。確かに、僕もそう思う。
「じゃあ、やっぱり例の七人の中にイレギュラーが?」
「どうでしょうね。私たちは河原に恨みを持ってる奴が怪しいって思ってるけど、イレギュラーにそう思い込まされていたとしたら? 最悪よね、一からやり直しだもの。でも、その可能性はゼロじゃないわ」
「それでも、やるしかないんだ。仮にその七人が外れでも、候補から七人外せる。全くの無駄じゃない」
「気の長い話ね」
自分でもそう思います。
しかし、死んだのは無駄じゃなかった。イレギュラーの性格、性質が少しでも見えたんだし。イレギュラーはずばり挑発的で子供っぽい。
「あ、武器はどうやって調達してるんだろ。さっきの手榴弾って、簡単に手に入るものなの?」
「……まさか。米軍の標準装備だけど、日本の、それも一般人に手に入るものだとは思えないわ」
手榴弾だけでなく、テロリストの装備も人数分用意していたし、よっぽどのお金持ちなのだろうか。
「只者じゃないわね。第一、信じらんないのよ。ねえ、幾らループしていて記憶を引き継いでいるからと言っても、限度があると思わない?」
「……限度?」
「どうやって物資を集めたのか、よ。仮に私が集めるとして、どうすれば良いのかまるで見当が付かないわ。時間だって足りないに決まってる」
確かにそうだ。もしイレギュラーが学生なら朝起きて、学校に行くまでの間に準備を終わらせなければならない。でないと、他ならぬ僕たちに怪しまれてしまう。しかし、猶予は何時間だ? 何時間あれば足りるんだ? 銃火器を数十丁も集めるのにどれくらい掛かるんだ?
……一日じゃ無理じゃないのか?
恐ろしいコネクションでもない限り、一介の学生には銃の一丁すらお目にかかれないだろう。
「明石さん、心当たりはないかな? 家がすっごいお金持ちの人とかさ」
「……んー、そんな奴がいたら私が見逃してる筈ないわね。悪いけどお手上げよ」
だったら、やっぱり一人一人当たっていくしかないのかな。
「随分困ってるみてーだな。オレが知恵を貸してやろーか?」
えー? 死神さんが?
「そういう台詞は知恵のある奴が言うのよ。あんたはあっちで枝毛でも探しときなさい」
「ありえねー! マジでありえねー! お前らおかしいよ、最悪だよ! 折角手伝ってやるって言ってんだからさあっ、素直に好意を受け取れっつーの!」
うがーと奇声を上げながらじたばたする死神さん。うるさいからやめてください。
「でも、死神さんが手伝うなんて、そう言い出すだけでも珍しいですね」
「てめーらがあまりにも哀れだからよ、ここはオレの出番だと思ってな。つーか、このままじゃ話が進まねー。だらだらした展開は見てても読んでてもつまんねーっての。兵は神速でかっとぶって奴だ」
「かっとんでどうするんですか」
それを言うならかっとぶじゃなくて尊ぶだ。
「行き詰まってないと言えば嘘になるわ。そうね、助け船をお願い」
「最初からそう言えってんだパッツン。あんな、前から思ってたんだけどイレギュラーが誰だとか、金持ちとか、銃がどうのとか言ってっけどよ、んなもん当人捕まえてから聞けばいーじゃん」
いや、だから、捕まえるは抜きにしてもイレギュラーの正体を明らかにする為の話をしていたんですよー。
「お前らは前提条件とかを忘れてんだよ。良いか、イレギュラーにせよ何にせよだな、こっちに連れてくるには条件があるだろーが」
「条件って…………あ、僕、ですか?」
「おー、そーだよ。こっちに来られるのはてめーの近くで死んだ奴に限られる」
「それプラス、死神さんがミスした時ですよね」
「うっせー馬鹿!」
理不尽である。
「私や七篠さんも、そうやってここに来たものね」
「だから簡単だろ。こいつが死んだ時近くにいた奴が怪しいんだ」
「そんなの覚えてないですよ」
自慢じゃないが二百回以上死んだり殺されたり死んだりしてるから、一々覚えちゃいないのだ。
「……もう一つ、絞れるわね。イレギュラーはあんたが死んだ時近くにいて、尚且つ昼休み以前のフラグに限られる」
「えっと、どうして?」
「昼休み以降だとテロが起こっちゃうじゃない。テロを引き起こすのはイレギュラーなんだから、昼休み以前にイレギュラーになりそうな奴じゃないと辻褄が合わないのよ」
あー、なるほどなるほど。
「纏めてみると、僕が昼休みより前に死んだ時近くにいて、河原先生を恨んでいる人物って事だね」
「で、どーなんだよ、覚えてんのか?」
「さすがに覚えてるわよね?」
「全然」
しこたま殴られた。