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部室〈2〉



 変な夢を見た。

 夢の中で僕は変な女の子に膝枕をされて、変な事を耳元で囁かれていた。

『……先輩は七篠歩が好き。先輩は七篠歩が好き。先輩は七篠歩が好き』

 何度囁かれていたか分からない。このまま眠っていると、何度囁かれるか分からない。

 だから僕は、目を覚ます。



「……う、うーん」

「……おはようございます」

 目を開けても、そこは真っ暗だった。ここはどこだろう。

「とんでもない悪夢を見た気がする……」

「おや、ビューティフルなドリームを見ていたのでは?」

 ただでさえアレなのに、ループしそうなワードを出すな。

 そんな愉快な事を言って僕を起こしたのは七篠である。

 いや、しかし凄いなこいつ。適当に隠れてたのに、本当に僕を探し当てやがった。

「僕がここにいるって、良く分かったね」

「……匂いを辿ってきましたから」

 冗談ですよね?

「今、休み時間か。ふあ、結構長い事寝てた気がする」

「いえ。今は四時間目です」

「へ? 四時間目なの?」

「……ええ」

 ん? じゃあ、七篠は授業に出ていない事になるのか。

「サボっても平気なのか?」

「……平気ではありませんが、先輩と一緒なら地獄も生活指導も怖くありません」

 地獄と生活指導を一緒にするな。

「保健室に行くとか、適当に誤魔化せば良かったんじゃないのか?」

「……あ。……いえ、誤魔化すなんて卑怯な真似は出来ませんから」

「今、あって言ったよな? あ、って」

「言ってません」

 絶対言った。

「まあ、良いけどさ。それじゃ早速だけど聞かせてもらおうかな。僕の教室はどうなってた?」

「……凄い事になってました」

 ……そうか。明石さんめ、滅茶苦茶楽しんでいるな。

「昼休みに狩りを行うとか、色々言ってましたよ」

「狩りって、学校で?」

「……勿論、狩られるのは先輩でしょうね。明石先輩が教壇で熱弁を振るっていましたよ。皆さん熱に当てられたのか、盛り上がっていました」

 すぐに飽きると思っていたのに。

 困ったな。これじゃあ明石さんを呼び出すどころか学校にすらいられないぞ。

「……安心してください。明石先輩を呼び出す事には成功しましたよ」

「え、そうなの?」

「ええ、首を洗って待っていろとのお返事も頂きました」

 えー。と言うか、僕何もやってないんだけど。明石さん、引くに引けなくなっちゃったのかな。

「まあ、良いや。じゃ、一足先に卓球部の部室に行っておこうか」

「……あの、先輩は何をするつもりなんですか?」

 写真を撮るつもりなんだけど、込み入った事は言えないな。

「七篠、お前はイレギュラーの存在を信じるか?」

「……イレギュラー、ですか」

「うん。実は――」



 かくかくしかじかで、まるまるうまうま。



「……なるほど、俄かには信じ難い話ですが。先輩の言う事に間違いはありませんね。信じましょう」

「そう言ってもらえると話が早くて助かるんだけど。もうちょっとこうさ、他人を疑う事を覚えた方が良いんじゃないのかな」

「……先輩以外の話は全て疑って掛かります。聞く耳を持ちません。安心してください、私は先輩の言葉を全て信じますから」

 嬉しい事を言ってくれるが、責任重大である。

「七篠、世界三大瀑布って、実は世界三大幕府だったんだよ」

「……もうやめてください」

 よしよし。

「イレギュラーについてだけど、そもそも存在すると思うか?」

「先輩がそう言うのならいるんでしょうね」

「じゃなくて、お前の意見を聞きたいんだけど」

「……私は、その……、私は、イレギュラーがいてもおかしくはないと思います」

 七篠は少しの間を置いて、はっきりと言い切る。

「へえ、どうしてそう思うんだ?」

「……世界をループさせる人もいるんですから、むしろ今までいなかった方が驚きです」

 言うじゃない。まあ、確かにそうかもね。何でもありの世界にはなりつつあるよな。

「でもさ、イレギュラーはどうして成功しないテロ活動を続けるのかな? ループしてるんなら、何か違う手を考えるのが普通じゃないか?」

「……それは、ばれるのが嫌なんじゃないんですか?」

 ばれるのが?

「えっと、何が?」

「ですから、私たちにイレギュラーがいると、そんな奴がいるんだとばれるのを嫌がっているのでは?」

「ええっと、どうして?」

「……ばれているよりは動きやすいからとか、そんな理由ではないですか?」

 うーん。新しい意見だな。

 僕たちに、イレギュラーの存在すら匂わせたくなかった、ねえ。そりゃ、いきなりテロリストが手法を変えたり、今までに何もなかったところで何か起こったら警戒はする。だけど、それでもずっと同じ失敗を繰り返すのか。それとも、繰り返してまでやらなきゃならない事が、理由があるのか。

「そんなの、普通なら有り得ないよなあ」

「……先輩、今から質問をします」

「え? ああ、どうぞ」

 七篠は僕から視線を反らし、跳び箱に視線を向ける。

「……先輩はマンションに住んでいます」

「いや、一軒家だよ。七篠だって知ってるだろ」

 何言ってんだこいつ。

「……先輩は眠れなくて、自宅のバルコニーに出ました」

「いや、僕の家にバルコニーはないんだけど」

「茶化さないでください。これは質問です。例えばの話です。次に茶化したりしたら、無理矢理キスしますよ」

 ごめんなさい。続けてください。

「……バルコニーに出て外を眺めていると、男性が女性を刀で刺し殺している現場を目撃してしまいました」

 何だ、そのトンデモな展開。

「先輩が慌てて携帯電話で通報しようとしたところ……」

 そこまで言い掛けて、七篠は僕の方を見る。ガン見である。

「どうした? 続けなよ」

「……先輩って携帯電話持っていませんでしたよね?」

「うん。持ってないよ」

「ちっ」

 えっ、何それ怖い。どうして舌打ちされなきゃならないんだよ。

「……話を戻します。先輩が通報しようと電話を耳に当てたところ、犯人の男と目が合ってしまいました。その男は先輩の自宅を指して、一定のペースで手を動かしています」

「うん」

「さて、男は何を伝えようとしたのでしょう? 何をしていたのでしょう?」

 うーん? 殺人犯がいて、僕は目撃者。犯人は目撃者である僕を指して、何か伝えようとしている。

「そこで待っていろ、次はお前の番だ、とか?」

「……そうです。普通の人なら、そう答えるでしょう」

「要領を得ないな。今のはどういった意味の質問なんだ?」

「先輩、今のは有名なサイコパスのテストです」

 さいこぱす?

「サイコパスって、アレか、あの路上で戦う、あの、悪の組織の総帥の使う……」

「それはサイコパワーです。私が言ってるのはサイコパスです。サイコパスというのは精神病質とも言い、いわゆる性格異常を指す医学的な用語なんですよ」

「あー、つまり、精神を病んでる人の事?」

「……いえ、精神異常ではなく、あくまで性格異常です。いや、詳しい説明は省きましょう。例えばストーカー、例えばシリアルキラー。この手の犯罪者の多くはサイコパスに属すると考えられています」

 ふーん。難しいけど、とにかくまともじゃない人を指すってので間違いはなさそうだ。

「何となく分かった。じゃあ、さっきの質問は僕がそのサイコパスかどうか診断する為のものだったんだ」

「ええ、その通りです。ちなみに、サイコパスはさっきの質問に、目撃者のいる階数を数えていると答えるらしいですね。目撃者にはコンタクトを取る気はなく、淡々と目撃者を消そうとするあたりがサイコです」

 うわ、怖い。

「けど、そのサイコパスとイレギュラーと何の関係があるの?」

「……先輩はイレギュラーの行動、理由に『普通なら有り得ない』と仰いましたね。でも、その普通はあくまで先輩の常識の範囲内、理解出来る中での普通なんです」

「つまり、イレギュラーはサイコパスって事?」

「そこまでは言っていませんが、やはり他人は他人です。他人が他人の思考を読める筈がない。私はそう言いたかったんです」

 なるほどね。いや、全く七篠の言う通り。肝に銘じておこう。

「ありがとう、参考になったよ」

「……いえいえ、お礼はハグで結構です。さあ、先輩っ、私の肉体を余すところなく抱きしめてください。私の肉を感じてください!」

「それじゃ、そろそろ部室に行こうか」



 相変わらずと言うか、卓球部の部室は汚かった。

 仕方ないので、明石さんが来るまでに窓を開けて換気したり、床を片付けておく。

「……何と言いますか、健気ですね」

「それ、褒めてるのか?」

「私が先輩を貶す事は有り得ません」

 そりゃどうも。

 そんなこんなで部室の掃除が粗方終わり、昼休みの開始を告げるチャイムが鳴った頃、

「待たせたわね!」

 明石さんがやってきた。

 やけに元気である。

「良かった、一人で来てくれたんだね」

「あんたこそ逃げずに待っていてくれたようね」

「……あのさ、とりあえず説明して欲しいんだけど」

 明石さんは小首を傾げる。何の事か本気で分かっていないんだろうか。

「僕をこんな状況に追い込んだ理由だよ」

 お陰でこっちはトイレから倉庫へ。闇に隠れて人に姿を見せられない妖怪人間じゃないんだぞ。

「ああ、何かテンパっちゃったのよ。そっちの方が面白そうだったしね」

 なっ、何を言ってるんだよ! 僕がどれだけ辛い目に遭ったのか! このサディスト!

 しかし、口答えは無駄だろう。彼女がこんな人ってのには前々から気付いていたし。と言う訳で、明石さんには謝罪よりも交渉を持ちかけてみよう。一応、こちらには言い分がある。約束を果たすのには良い機会だし、細山君の尻尾を掴むのにも、何より彼女に仕返し出来るのにも絶好の場面。ここしかない。

「明石さん、どうしてここに呼ばれたか分かる?」

「どうせ謝ってくれとか、皆の誤解を解いてくれって言いたいんでしょ。はいはい、私が悪かったわよ」

「誤解も解いてくれる?」

「わーかってるわよ。……そりゃ、その、私だって少しは反省してるわ。でも、引くに引けないって言うか、どうにもならなかったって言うか」

 言いたい事は分かる。思うに、明石さんは委員長である自分を守りたかったのだろう。それとこれとは話が別だけど。

「じゃ、和解といきましょう」

「あ、その前に一つだけ頼みを聞いて欲しいんだけど」

 明石さんは眉根を寄せる。明らかに不審がっていた。

「今までのお詫びだと思ってさ。お願いだよ」

「まあ、無理なお願いじゃなければね」

 掛かったぞ。

「実は、写真を撮らせて欲しいんだ」

「写真って、私の? なんでよ、気持ち悪いわね」

「駄目?」

「……変な事に使わない?」

 うん。少なくとも僕は。

「使わない。で、変な事って何?」

「へっ、変な事は変な事よっ! 変態! 変態!」

 誰が変態か。

「撮らせてくれるの?」

「…………部室、綺麗になってるわね。どうせ、最初からこのつもりだったんでしょ」

「否定はしないよ」

 彼女は大きな溜め息を吐いた。その動作はどこか演技過剰にも見える。

「……あんたなら良いわ」

「え?」

「――っ! あんたになら写真を撮られても良いって言ったの!」

 交渉、になっていなかった気もするけど、とにかく話は纏まった。ではカメラを用意しよう。

「七篠、良いぞ」

「へ? 七篠さん、どこに……?」

「……御前に」

 がたん、と、部室のロッカーから七篠が文字通り飛び出し、明石さんが情けない悲鳴を上げる。

「七篠、カメラの使い方は覚えられた?」

「……全て熟知。いつでもいけます」

「ちょ、ちょっと、七篠さんが撮るの?」

 うん。だって僕じゃカメラの使い方分からないんだもん。

「それじゃ、明石さんはここに座って」

 明石さんは恨めしげに僕を見る。だが、観念したようだ。椅子に座り、またもや溜め息を吐く。

「で、私は何をしたら良いの? 座ってれば良いのかしら?」

 そうだなあ、とりあえず撮ってもらおう。

「……では、まず一枚」

 カメラのフラッシュが部室を満たした。良し、約束は果たしたぞ。

「それじゃ、ご飯でも食べに――」

「――面白くないですね」

 何だって?

「……面白くないと言ったんです。こんな写真を見て誰が喜ぶと?」

「そんなの決まってるじゃない。写真が欲しいって言った奴でしょ」

「まあ、面白みに欠ける構図と表情だよね」

「なっ、あんたが椅子に座れって言ったんじゃない!」

 椅子に座って、おまけに無表情。幾らファンでもこれではがっかりするだろう。

「……私は撮り直しを要求します」

「良し、そうしよう。じゃ、どういう風に弄っていこうか」

「ちょっと、私は良いって言ってないわよ!」

 椅子を蹴飛ばし暴れる明石さんだが、まだ約束は果たしていない。君の要求は通らないぞ。

「……とりあえず露出を増やしましょう。サービスカットです、サービスサービス」

「よし来た。じゃ、ブレザーから脱いでくれる?」

「脱がないわよっ、しかもからって何よからって、まさか他にも脱がせる気じゃないでしょうね」

「……ご安心を。最終的には乳首に絆創膏以外オールヌードです」

 七篠は平然と、当たり前だろ? ってな感じに言い放つ。

「ぜっっっったいに嫌! 馬鹿じゃないのあんたたち!?」

「うーん、そこまでは望まないよ。見たくないし。だから、とりあえずブレザーを脱いでくれないかな?」

「それはそれでプライドが……」

 面倒な人である。

「本当にブレザーだけで良いのね?」

 何だかもうどっちでも、どうでも良くなってきた。

「嫌ならブレザーじゃなくてスカートでもパンツでも良いよ」

「そっちのが嫌よ!」

 明石さんはブレザーを脱ぐと、さっきまで自分が座っていた椅子に掛けた。

「ほら、これで良いんでしょ? 撮るならさっさと撮りなさいよ」

「それじゃ七篠、任せるよ」

「……お任せを」

 そう言うと、七篠は携帯を手に明石さんへ近付いていく。

「早く撮ってよね」

「……仏頂面はやめてください。ほら、笑って笑って」

「どうして笑わなきゃいけないのよ」

「誰も喜びませんよ。ほら、笑顔笑顔。スマイルスマイル」

 笑えと言っている七篠は一切笑っていない。シュールな光景である。

「こ、こうかしら?」

「……ぎこちない笑顔ですね」

 それもそうだろう。明石さんが本気で笑うのは他者をいじめている時に見せる、あの嗜虐的な、ある種動物的な笑みなのだから。

「委員長スマイルで良いんじゃないかな。あれなら騙せると思うよ」

「どういう意味よ?」

 だから他意はないって。

「じゃ、はい」

 話が進まないと思ったのか、明石さんは仕方なくと言った具合に笑みを見せる。とりあえず言っておこう。出たー、委員長スマイル!

「……裏のありそうな笑顔をありがとうございます」

 フラッシュが焚かれる。やれやれ、これで終わったか。

「それじゃ、お昼を食べに行こ――」

「――まだ足りませんね」

 えー。無駄な職人根性を見せなくて良いよもう。

「今のは充分可愛かったじゃないか」

「かっ、かわ……!?」

「? 明石さん、どうかした? 頬っぺたが赤いけど」

「なっ、何でもないわよ!」

 ? 変な明石さん。

「……先輩。今の写真を見せられてどう思いますか?」

 どうって。いや、特には何も。ただ、明石さんファンは喜ぶんじゃないかな。

「……この写真の女の子が、本当に明石先輩であると断言出来ますか?」

「はあ? ちょっと何言ってんのよ?」

 なるほど、確かに。最近の技術の発展、進歩はめざましい。僕らは実際に写真を撮る現場を見ているが、写真だけなら捏造の疑い、疑惑の眼差しも向けられかねない。

「七篠、君の言う通りだ。確かに断言は出来ないな」

「はああ!?」

「……そこで、私はついさっき画期的な方法を発見しました」

 聞かせてもらおうか。

「どうやら、携帯電話には写真だけでなく、動画を撮る機能も搭載されているようなのです。これがどういう意味か、お分かりになりますか?」

「そ、そうだったのか。うん、動画なら写真よりも信頼性が高まるな」

 凄いぞ携帯! やったぜ携帯!

「……では、もう一度やり直しましょうか」

「よし来た。明石さん、ブレザーを着てくれないかな?」

「嫌よ」

「おやおや、どうやら明石先輩は露出狂の素養をお持ちのようで」

 見え透いた挑発だが、どっちにしろブレザーを着ない理由はない。明石さんは不機嫌そうにブレザーを着直すと、どっかりと椅子に座った。

「良いわよもう、ほら、好きにしなさいよ」

「……先輩、どうしますか?」

「七篠に一任する」

「はっ、有難き幸せ!」

「馬鹿じゃないの?」

 僕もそう思う。

「……では、撮りますよ」

「はいはい、どうぞ」

 七篠が携帯を片手に明石さんに近付いていく。ズーム機能とか付いてないのかな。

「……まず、簡単な自己紹介をお願いします」

「え? え、えっと、あ、明石つみき。十七歳、です」

 カメラが回っているからか、何故か敬語。そしてどこか緊張した様子の明石さん。

「スリーサイズは?」

「ひっ、秘密です。他の質問なら答えられるけど……」

「……好きな男性のタイプは?」

「えーっと……」

 ん。何か今、明石さんと目が合ったような……。

「好きな人が、好きなタイプです」

「……優等生らしい反吐の出そうな回答ですね。では、シャツのボタンを二つ、外してもらえますか?」

「はい?」

 七篠さんのネジが飛んできた。

「上から二つ、外してください。ほら、サービスサービス」

 逆らっていては終わらないと思ったのだろうか、明石さんは七篠の言いつけ通りに動く。まずはリボン。ゆっくりと、彼女の白い指がついとシャツを這う。

「二つだけね」

 リボンが外れ、第一ボタン、第二ボタンが外された。明石さんが動く度、少しだけ露わになった胸元から鎖骨が見え隠れする。

「……良く見たら。意外と胸、あるんですね」

「どうも」

「では明石先輩、初体験は何歳の頃ですか?」

「はあっ!?」

 こいつ、馬鹿だ。

「……ここ最近で一番興奮した事は? 週に何回するんですかっ? やっぱりシャツも脱いでもらえますか!? パンツを脱いでもらえますかっ!?」

「ふざけんじゃないわよ! 調子に乗り過ぎ!」

 明石さんは椅子を蹴っ飛ばして七篠に襲い掛かる。

「いやああっ、先輩! せんぱーい!」

「あんたがパンツ脱げば良いじゃないの!」

 お腹減ったなあ。



 結局、今までのデータは削除されました。最後に一枚だけ、と言う事で撮影は続行です。

「……破壊力のある一枚が欲しいですね」

「もう任せるよ」

 明石さんは乱れた髪を手櫛で整えていた。いや、凄まじいバトルだった。

「……ああ、良い事を思い付きました。明石先輩、『大好き』と言いながら良い笑顔をください」

「いや、写真に声は入らないじゃないか」

「こういうのは気持ちの問題です。明石先輩、好きな人へ笑い掛けるのを想像しながら『大好き』と言ってもらえますか?」

「好きな人?」

 七篠は頷く。僕には何の事か分からないが、まあ、それで上手くいくなら良いだろう。

「ま、それぐらいなら良いけどね。――しっかり見てなさいよ」

 言って、明石さんは体を伸ばした。

「うん。これでようやくお昼ご飯を食べられるね」

「……あ」

「ん、どうした、七篠?」

 七篠は珍しく何か考え込んでいる様子である。

「……先輩は出て行ってください」

「へ? どうして?」

「……落とされるかもしれないですから」

 はあ? 落とされる? 僕は城か。

「とにかくっ、出てってください!」

「うわ、ちょ、おい!」

 扉に無理矢理押し付けられ、開けられ、外に出される。

「何なんだよ、もう」

 本当もう、何だってんだよ。

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