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もう一度靴箱



 目を開ければ、そこは。

「おはよーからお休みまで、こんにちわー! いよー、気分はどーだアニマルキラー。いやー憎いねこのっ、動物に好かれる奴は心がピュアピュアマックスハートってか! 憎いね憎いねー、マジで死ねよボケ」

 もう死んでます。

「好かれてるんじゃなくて嫌われてるんですよ。そうでなきゃ死ぬまで噛み付かれる筈ないでしょう」

「んなもんどっちだって良いんだよ! てめーテロリストが終わったと思ったらあっけなく死にやがって……」

 悪いとは思っています。

「パッツンを見ろ! ショックがでか過ぎて大の字に寝転がってんだぞっ、パンツ丸出しだぞ!」

「あー、本当に丸出しですねー」

「しっかり見てんじゃねーよ! クソが最後の最後でヘマしやがって。これじゃ意味ねーだろ。もっぺんやり直しだぞっ」

 そんなの、改めて言われるまでもない。

「次は上手くやりますよ」

「ったりめーだろ! 畜生、やっとの事でボスを倒したってのによー」

「……ボス?」

 死神さんは、うがーと叫んで地面に体を投げ出し、足をばたばたさせている。こんなサイズのだだっ子初めて見た。

「テロリストの事に決まってんだろ。今までで一番手強いフラグだったじゃねーか。アレがボスでなくてなんだってんだよ」

 ボス、ね。確かに、チャレンジ中で一番……一番厄介な存在ではあった。手強い。いや、と言うよりも、一番毛色が違うと言うべきか。

「もうクリア目前だろあんなのっ、オレもお前もパッツンもチビ助も、皆ハッピーなグランドフィナーレ一直線だったんだぜ!? ぶっちゃけ食堂まで行った時点でスタッフロール流れてたなあ、ありゃ!」

 頭ハッピーな死神さんの言い分はともかく、ミスしたのは僕。言い訳をしたいとは思わない。

「もう一度やらせてください」

「やりたくねーっつっても首に縄括り付けて持っていくかんな。いーぜ、七転抜刀ずばーっとやっちまえ。おー、そーだ。頭にビーフジャーキーでも刺しとけよ、なんかおもしろそーだし」

 七回転んだら最後は刀抜いて力押しかよ。

「七篠」

 さっきからだんまりを決め込んでいた七篠に声を掛けてみる。やはり、彼女も僕に対して腹を立てているのだろうか。

「……なんでしょうか」

「ごめん。僕のせいで水の泡になっちゃった」

「気にしていません。先輩が謝らないでください。むしろ、謝るのは私の方です」

「どうしてだよ」

 謝るのは僕だけで良い。誤ったのは僕だけなのだから。

「……私は先輩が頭を齧られていた時、呑気にコロッケを齧っていたんです。くっ、やはり食堂で待たず、先輩に付いていけば良かったのです!」

 僕の頭とコロッケを一緒にするな。

「安心してください、先輩。次からは私も付いていきますから、どうか大船に乗ったつもりで。絶対に沈む事のない駆逐艦ですから」

「それを言うなら不沈艦じゃないの……?」

 まさか、危ないものは叩いて砕いていくつもりなのでは。沈む前に沈ませるのではないか。

「……とりあえず先輩の肉を私よりも先に齧った犬を屠らなくては気が済みませんね」

「あのあの七篠さん、僕は君を信用出来ないんだけど」

 こいつ、獣と変わらない思考回路の持ち主じゃないか。

 まあ、だが、獣と変わらないのは考え方だけじゃない。彼女の身体能力だってそこらの野良犬にも劣っていない。むしろ勝っている。情けない僕のボディーガードにしちゃ、有能に過ぎる。

「……では先輩、始めましょうか」

「うん、よろしくね」

 明石さん、パンツ見せ過ぎ。



 目覚まし時計の鳴る五分前に目が覚める。いつもの事だ。

 僕はゆっくりと身を起こし、布団を跳ね除けベッドから立ち上がる。

 さて、いつも通りに起きてしまった。うーん、まだ時間があるとはいえ、早めに出た方が良いかもな。



 八時十分。

 ニュース番組を流し見てから、僕は家中の戸締りを確認して家を出た。途中、車を二回避けて、植木鉢を避けながら学校に辿り着く。

 が、今回も玄関には向かわなかった。

 向かうのは、この学校の駐車場である。


 そんでもって。


 僕は河原先生に襟を掴まれ、七篠が案の定また怒って、明石さんが風車とユウキちゃんを連れてやってきた。

 授業の方も、一時間目は前回と同じく遅れてしまったが、二時間目以降は全くもって今までと変わらない。何一つと言っても良い。実に良い。


 そんでもって。


 昼休みになると同時、僕は明石さんと、途中で七篠を拾って部室の前までやってきていた。

「七篠さん、あなたはここで待っていてくれないかしら?」

「……ああ? こほん。ではなく、どうしてですか?」

「あなたも良い性格してるのね。ここで待っていてと言ったのは、あなたが邪魔だから、ではないわ……あなたに、人を殺して欲しくないからよ」

 は? 今、明石さんはなんて言った? 何を言ったのか、全然分からないよ!

「……分かりました」

 分かっちゃうのかー。そっかー。

「あんた、河原に聞きたい事ある?」

「僕は何も」

 前回で粗方聞き出したし、大丈夫。

「そ。じゃあ、あんたもここで留守番ね」

「ねえ、先にご飯食べてても良いかな?」

「んな事許すつもりなら連れてくる筈ないでしょ」

 明石さんはとことんまで軽蔑しきったような目で僕を見る。

「前よりも早く片を付けてやるから待っててなさいよね」

「分かったよ。じゃ、あとはよろしく」

 彼女は軽く手を振り、河原先生の待つ部室の中へと消えていった。

「……本当に消えちゃえば良いんですけどね」

 勝手に僕のモノローグを読むな。

「しかし、明石先輩はどういうつもりなのでしょうね」

「犬をどうにかするつもりじゃないの?」

「……無視する手もあると思うんですが」

 んー、事実今まではそうしていたしなあ。だけど、不安要素がなくなるのなら、それに越した事はない。

「縄にでも括っておくんでしょうか」

「無理じゃないのかな。いや、そもそもあの犬はなんなんだよ。校長の、だっけ?」

「……はい。どうやら放し飼いにしているらしいですね」

 この学校は人に噛み付くような猛獣を放置してるのか。

「ですが、今まであのワンコに襲われた人はいないそうですよ。唯一、先輩だけが餌食になった訳です」

 餌食って言うな。

「はあ、どうして僕だけが。おいしそうな匂いでも付いてんのかな」

「……確かに、先輩の肉体はおいしそうですけどね」

「あのさ七篠、そこは否定してもらわなきゃ今後僕らの関係が変わってしまうと思うんだ」

 擦り寄ってくる七篠を追い払う。

「……つまり、恋人関係になると言いたいんですね。私は構いません、素晴らしいおしゃれ関係を作り上げましょう」

「お前とは金輪際無関係を装わせてもらうよ」

「……先輩、金輪際って強そうな名前ですよね」

 この人は時々意味の通じない言葉を発する。

「必殺技みたいですよね。コンっ、リンっ、ザァーイ!」

 そう言われればなんか強そうだ。いや、言い方一つだとは思うのだけど。

「人間万事、塞翁が馬っ!」

 へー、色々あるもんだな。そのポーズはどうかと思うが。ううん、くだらないと切り捨てても良いけど、暇潰しにはなる。

「禅問答や登龍門も技っぽいよな」

「ああ、さすが先輩ですね。良いところに目を付けます」

 なんだか褒められてしまった。

「……まあ、言い方一つなので結局何でも良いんですけどね」

「お前が言うなよ」



 七篠と必殺技っぽい響きの言葉を探してから数分、

「うわああああああんっ」

 部室から、河原先生が飛び出した。しかも泣いてる。容赦なく、これでもかと涙を流している。彼女は校舎の方へと向かっていったが、途中ですっ転んでいた。

「あのモンスターハウスでいったい何が……」

「……明石先輩が出てきませんね」

 嫌な予感がする。僕は扉が開きっぱなしになったままの部室に近付いていき、

「ヒイィィッハアアアァ!」

 引き返した。

「ちょっと、私の顔見るなり背を向けないでよ」

「あ、ああ、明石さんだったのか」

 てっきりテンションの高いお岩さんだとばかり。

「ねえ、ついさっき先生が走っていったんだけど」

「ほんの少しいじめてやっただけなんだけどね。教師って駄目ね、忍耐がないわ、忍耐が」

 なるほど、走っていったんじゃなくて明石さんから逃げていったのか。

「やっぱりあんたぐらいのマゾじゃないと、私の嗜虐的欲求も解消されないわ」

「……その点に関しては私も同意します。先輩の忍耐力にはそそるものがありますから」

 女の人って皆が皆こうなのだろうか。

「それじゃ、さっさと学食に行きましょう。もうお腹が空き過ぎて殺しちゃいそう」

「え? 明石さん、犬はどうするの?」

「犬はあんた一人で充分でしょ」

 誰が犬だ、誰が。

「そうじゃなくて、あのドーベルマンだよ。ほっといても良いの?」

「ドーベルマンがいるならドーベルウーマンもいるのかしらね」

「知らないよ! だったら、どうして僕たちを連れてきたのさ」

 明石さんは小首を傾げて、やけに真っ白な人差し指を顎に指す。彼女の事を何も知らなければ、素直に可愛い仕草だと思えたんだけどなあ。

「別にー、特にはないわよ」

「……まあ、冷静になって考えるに、校長の犬をどうこうしてしまう訳にはいきませんからね」

「二人がそう言うんなら、犬は諦めようか」

 女性二人の意見が同じなら、僕に決定権はないのである。



 親子丼超おいしいです。



 記念すべき、と言う言葉を生まれてから何度も聞いた事がある。

 記念すべき百巻到達。記念すべき十枚目のシングル。記念すべき創立五十周年。記念すべき一日。記念すべき第一回。

 さて、一体どこのどなた様が記念してくれるのだろう。僕は一切記念するつもりはない。良く分からないものを大々的に報じるなんて、一切理解出来ない。

 だけど、記念すべき五時間目の授業ならば、諸手を上げて歓迎しようじゃないか。何ならパーティーを開いたって良い。

 そう、遂にやってきたのだ。記念すべき五時間目という奴が。

 先生が授業に遅れる事もなく、テロリストなんてものの影は一切見えず、ただ、淡々と、あるがままに、普通に、普通に。社会の授業が開始されたのである。

 そうだ、これが学校生活だ。これが授業だ。これが僕の人生だ。

 変化はなく、何事もなく、僕は一心不乱に話に聞き入り、板書された事を全てノートに書き取っていく。ああたまらない、ああ最高だ。

「……ねえ」

「……何?」

 授業が始まって三十分経過した頃、隣に座る明石さんから声が掛かる。

「これって、やっぱり成功したって事なのかしら?」

「うん、成功したって事だと思うよ」

「私が、どうにかしたって事なのかしら?」

「うん、どうにかしてくれたと思うよ」

 今回に限っては明石さんの尽力の賜物によるものが大きいだろう。彼女がいなければ、チャレンジに参加していなければ、僕は今も死に続けている。テロリストに殺され続けている。欲を言えば、僕も七篠も情報収集などの面で頑張ったと思いたいけれど、うん、今回は明石さんに功を譲ろうじゃないか。

「じゃあ、私のおかげって事なのね」

 僕は迷わずに首肯する。

「じゃあ、何か見返りがあっても良いわよね。わがままを言っても良いのよね」

「いつも言ってるじゃないか」

「……言ってないわよ」

 絶対言ってる。確実に言ってる。わがまま星から来たわがまま姫が今更何を言い出すかと思えば。

「第一、見返りって何?」

「私は何かちょうだいって言ってます」

 そう言われても、僕が明石さんに渡せるものなんてなさそう。高価なブランド品、車、家、秘伝の奥義、プレミアの付いたグッズ。そういったものに興味を持っていないのだ。

「じゃあ、少ないけど……」

 僕は鞄から財布を取り出す。

「違う」

 スパァン! 景気の良い音が鳴り渡った。僕の手の甲から。そして見逃さなかった、明石さんが素早い動きで三十センチ定規をしまったのを。

「え、何の音?」

「何々?」

 ほら、言わんこっちゃない。クラスメートがざわざわし始めたぞ。

「放っておけば良いのよ。それより、私はお金が欲しい訳じゃないの」

「じゃあ、何が欲しいの?」

「……何か思いつかない訳?」

 明石さんが欲しいもの?

「地位と名誉?」

「欲しいけど、あんたがそれをくれるの?」

 ごめんなさい、無理です。

「私はね、あんたに何かを求めてるの。あんたから何かが欲しいのよ」

「僕から?」

 うーん。うーーん。うーーーーん。うーーーーーーん。

「……こりゃ七篠さんも苦労するわ」

「え、何か言った?」

「何も」

「良いわ、放課後までに考えておいてよ」

 今思い付かないのに、幾ら考えても駄目なものは駄目なんじゃないのだろうか。

 とは言うものの、

「分かったよ」

 得てして、正直過ぎるのは問題になりがちなのである。



 五時間目、何事もなく終了。

 これで残すところは六時間目と七時間目の二時間である。二時間耐えれば、家に帰る。帰る事が出来るのだ。

「暇ね」

 明石さんの呟きが恐ろしい。彼女は何を求めているのだろう。生き返りチャレンジという非日常に神経を麻痺させられているのだろうか。

「暇なのは素晴らしいよ。僕はそう思うね」

「私だってそう思うわよ。だけど、こう静かだと緊張感がなくなるって言うか」

 弛緩しているのは否定出来ない。だけど、テロリストという大波を越えたばかりなのだ。一息入れたって罰は当たらないだろう。

「気持ちが切れそうで恐いのよ。もしも次に今まで以上に手強いのが出てきたら、私耐えきれないかも」

「君の弱みを見たのは久しぶりな気がする」

「あら、私はいつだって弱い女よ」

 しれっとした顔で言う明石さん。

「……望んでなくても、また忙しくなるんじゃないのかな」

 言わば、今は台風の目。すぐに死はやってくる。僕らを殺そうと、その時を今や遅しと待っている。



 しかし六時間、七時間目が終わっても、何もなかったのだ。いや、何もなかったからこそ、六時間目と七時間目が終わったのだとは思うのだけれど。

「……暇ね」

 まあ、明石さんの呟きには同意せざるを得ない。ここまで何もないと、休息もクソもない。嵐の前の静けさと言うか、いやがうえにも覚悟してしまう。

「暇なのは素晴らしいよ。僕はそう思うね。ついさっきまではの話だけど」

「学校、終わっちゃうわね」

 そうだ。残すところ、後はホームルームだけなのである。しかも、あの河原先生の事だから、一分と掛からずに終わってしまうだろう。

 今は七時間目が終わったばかりの、四時二十分。ホームルームが終わっても、三十分を回らないのは目に見えている。遂に、ここまで来た。チャレンジにおいて初めて、学校が終わるところまでやってきたのである。

「そう言えば、僕たちはいつまで頑張れば良いんだろうね」

「は? いつまでって、そりゃ生き返るまでに決まってんでしょ」

「じゃなくて。今日を生き延びればチャレンジはクリアなんだよ。じゃあ、今日っていつまでだろうって」

 死神さんはどうにも、説明が好きではないらしい。今になって気付く僕も愚かと言えば愚かだろうが。

「例えば、目が覚めてから二十四時間なのか。それとも日付が変わるまで、つまり午前零時までなのかって事だよ」

「ああ、そういう事ね。ま、私には察しが付いてるけど」

「え、そうなの?」

「ええ。あんたさ、今朝は何時に起きた?」

 どういう意味だろうか。

「七時三十分には起きてたと思う」

 けど素直に答える僕。

「私は六時前に目が覚めて、七時ちょい過ぎには学校に着いてるの」

「へえ、早いんだね」

「……そういう意味じゃないわよ。だから、私とあんたは目が覚める時間も、学校に着く時間もばらばらなの」

 そんなの当たり前じゃないか。同じ人間とは言え、同じ時間に同じ行動を取るとは限らない。

「勿論七篠さんだって私たちとは違う時間帯に行動している筈よ。だから、チャレンジのリミットは、午前零時ね」

 なるほど。各々の目が覚めてから二十四時間じゃ、クリアするタイミングがばらばらになっちゃうもんな。僕なら明日の午前八時頃。明石さんなら六時前、と言った具合に。

「でも、都合が良い話だね。僕たちにとっては嬉しいけど、一緒くたにまとめてクリアさせちゃ、世界にとっちゃ損だと思わない?」

「かもしれないわね。けど、クリアしようがしまいが関係ないんじゃないの? 私らが喧嘩売ってる世界様とやらは、要はチャレンジってものがなくなっちゃえば良いんだと思うけどね」

 それもそうか。人間が一人死のうが死ぬまいが。人間が三人死のうが死ぬまいが。世界からすれば小さな話だろう。問題は、生き返りチャレンジが引き起こす時間の逆行、歪みなのだから。

「まあ、詳しい話は向こうで死神にでも聞けば良いじゃない」

「明石さん、また向こうに行くつもりなの?」

「う。いや、今のやっぱナシね」

 明石さんの推測が当たっているのなら、クリアまでは残り八時間か。既にチャレンジが始まってから九時間は経過している。あれ、何か簡単だな。二十四時間生き延びると言ったって、目が覚めるまでの数時間は見逃されているのだから、実質は二十時間もないんだ。

「なんだかいけそうな気がしてきた」

「当たり前でしょ。ここまで来たんだもの、きっちり生き返らせてもらおうじゃないの」

 テロリストが終わってから、少しずつではあるけれど、僕らに風が吹いてきている。流れが傾いてきている。そんな気がしてならない。



 予想通り、河原先生のホームルームは短かった。いつにも増して短かった。明石さんの話によると、今までの最短記録を大幅に塗り替えたらしい。多分、早く家に帰ってユウキちゃんに会いたいんだろうな。

「で、どうしてくれるのかしら?」

「はい?」

 とりあえず家に帰ろうとした僕は靴箱で靴を履き替えていたのだが。

 腕を組んで仁王立ちする明石さんに掴まってしまう。

「えっと、何の話?」

「放課後までに考えておくって言ったじゃないの。忘れたの?」

「……うーん?」

 何の事だろう。全く覚えがない。

「私に何かくれるって話よ」

 ああ、そう言えばそんな事を言っていた気がする。

「ええっと、思い付かなかったんだけど」

「あっそ。なら罰ゲームね」

 うわあ、明石さん凄く愉しそう。

「ゴミがお金に見えたり、視界をモザイクで塞いだり、自分の心音を死にたくなるまで響かせたりね」

「嫌だよ、そんなの」

「じゃあここはポピュラーにマインドクラッシュとか?」

「だから、闇の罰ゲームはやめてよ!」

 僕がそこまでの事をしたのか!

 心の中で叫んだその時である、ぐらりと、地面が揺れた。視界が揺れた。体を支えようと、靴箱に全体重を預ける。

「きゃああっ!」

 地震だと、そう気付いた時にはもう遅い。

「……え」

 僕の背よりもかなり大きい靴箱が倒れてきたのだ。一つだけじゃない、隣のも、後ろのも。目に見える範囲の靴箱がこっちに向かって倒れてくる。

 ああ、罰ゲームにしては酷すぎるんじゃないか。

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