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保健室

 目覚まし時計の鳴る五分前に目が覚める。いつもの事だ。

 僕はゆっくりと身を起こし、布団を跳ね除けベッドから立ち上がる。

「ふあ……」

 今後の指針が決まった僕に怖いものはなかった。

 だけど、気になる事がまた一つ。

 七篠歩。僕はまたしても奴の事で悩んでいる。

 果たして、彼女はチャレンジについての記憶を持ち越しているのかどうか、だ。もしも忘れていたのなら、今回は七篠の為、棒に振ってしまうかもしれない。

 僕は構わないのだけど、死神さんと明石さんがうるさそうだ。元々、あの二人は七篠がチャレンジを受ける事に肯定的ではなかったし。あらを見つけてはそこをいびるかもしれない。

「うーん……」

 まあ、悩んでいても仕方ないか。僕なんかじゃ彼女らに太刀打ち出来ないのは決まり切って分かり切っているのだから。なるようになるだろう。



「………………」

「ん」

 僕の横に、背の低い誰かが立った。確認するまでもない。七篠だ。

 しかし、彼女は本当にチャレンジの事を覚えているのだろうか。夢だとは思っていないだろうか。

「おはよう」

「……おはようございます、先輩」

 何ら不審な点は見受けられない。チャレンジの事、しっかり覚えているのでは。もしそうなら助かるな。

「あの、さ。七篠、お前ってさ」

 ああ、しかし切り出し辛い。言い出し難い。

 信号が変わっても尚、僕は確認を出来ないでいる。

「……先輩、行かないんですか?」

 促され、戸惑いながらも足を踏み出す。

「テロリスト、なんとかするんでしょう?」

「あ、ああ」

 なんだ、しっかり覚えているじゃないか。これでチャレンジには支障をきたさないで済むな。

「……安心してください。向こうでの事も、前回の事も覚えていますよ。しっかりと」

「へえ、頼もしいな」

「ええ、それはもうしっかりと」

 引っ掛かる言い方ではあったが、詮索するのは止しておこう。嫌な予感しかしない。

「……それより先輩、何か考えでもあるんですか。私を加えたとはいえ、それだけでテロリストをどうにか出来るとは……」

 あー、本人には言えないけど、七篠を巻き込んだのは彼女の勝手な行動を防ぐのが目的であって、チャレンジにおいてプラスにはならない。マイナスが消えて、ようやくゼロに、スタートに立てたという感じなのである。

「心配ない、どうにかするさ。そうだな、昼休みに明石さんも呼んで話すよ」

「……今からでは駄目なのですか?」

「時間もないし、今までと違った行動は極力避けたいんだ。流れが変わると、新しい厄介事も起こり得るからね」

「分かりました。チャレンジに関しては先輩に一日の長がありますからね、指示に従います。では昼休み、私はどこに向かえば良いのでしょう」

「食堂にしよう」

 七篠は素直に頷いた。うんうん、こうしてると、こいつの腹の中が真っ黒だとは誰も思わないだろうな。



 靴箱まで来たところで七篠とは別れ、僕はいつも通り舞子さんと合流する。

「あは、今日は何か良い事あった?」

 いつも通りの眩しい笑顔。

「え、そう見えるかな?」

「うんうん、好きな子とお話でも出来たのかなー?」

「さあ、どうだろうね」

 いつも通りの貧しい返答。

「あは、照れてる照れてる」

 からかわれるのにも慣れてきた。



「……おはよう」

 机の上に鞄を置いて、隣の席の明石さんに声を掛けてみる。

「……………………おはよ」

 今の間はなんだ。

「僕が挨拶したらおかしいかな?」

「……あー、その……」

 非常に言い辛そうである。ああ、もう良い。答えを聞くのが恐い。

「人間って驚いたら声が出なくなるのね。初めて知ったわ、ありがとう」

「ふうん。あ、今日お昼一緒に食べない?」

 まあ、僕だって理由もなく明石さんへ声を掛けた訳ではない。これから先のチャレンジ、つまりテロリストを打開する為に話す必要があるのだ。

 と、思ったのだけど。

 何故だか明石さんは元々丸い目を更に丸くしていた。

「……え、と?」

 彼女はゆっくりと指を動かし、自らを指す。うん、君にしか話し掛けていない。

「私と、あんたが、お昼を……?」

 声を小さくする明石さん。

「そのつもりだけど」

 と、そこで気付いた。そうだ、明石さんはいつも他の女子とお昼を食べていたっけ。どうしよう。チャレンジは大事だけど、彼女の友達付き合いを邪魔をしちゃ悪いなあ。何しろ、僕には全く分からない世界なのである。

「あ、やっぱり嫌だったら別に……」

「べっ、別にっ!」

 ――しん、と。

 委員長の大声に教室中が静まり返った。何事だろうとこっちを見る、クラスメートたちからの好奇の視線が実に痛い。

 特に、某細山君からの視線が。とてもじゃないが直視出来ない。

「あ……、その、ごめんなさい。何でもないのよ。皆、邪魔してごめんね?」

 出たー、委員長スマイル!

「良いよ良いよー、こっちこそジロジロと見ちゃってごめーん」

 しかし皆騙される。細山君に至っては机に頭を擦り付けている始末だ。訳が分かる筈もない。

「……ちっ、頭パーのくせに私を見るんじゃないっつーの」

 声、低っ。

「あー、その、昼休みの事なんだけど……」

「良いわよ。受けて立とうじゃない」

「受けて立つほどのものでもないと思うんだけど」

「うるっさいわね」

 僕から顔を背けると、明石さんは教科書を捲り始めた。心なしか、彼女の雰囲気が柔らかいものに思えたのは、気のせいだろうか?



 一時間、二時間、三時間。

 過ぎていく時間に焦りを感じながらも、僕はじっと我慢する。

「ほら、早く実験室行って下級生しばくわよ」

 三時間目が終わっても尚元気いっぱいの明石さんに付き従う僕。

「しばくのは君じゃないか」

「じゃあ、あんたもやってみる?」

「……ペン回しを勧めるような気楽さで言う台詞じゃないよ」

「そう? 結構気持ち良いわよ?」

 前々から思っていたのだけど、中華さんを説得するのに叩く必要はあるのだろうか。頭脳明晰才気煥発な明石さんなら、もっとスマートに事を運べそうなんだけど。

「あの子のほっぺた柔らかくて、叩いた手が少し跳ね返ってくるのよ。まるで極上の霜降り肉ね」

 ああ、地が邪魔してるのか。



 ――パシン!



 四時間目が終わってすぐに実験室を飛び出した。

「遅い」

 階段を駆け下りていくと、不機嫌な明石さんが僕を出迎えてくれる。びっくりするくらいに嬉しくない。

「えーと、ごめん?」

 蹴りを食らった。

「……だって、明石さん教室出るの早いんだもん」

「は、早くないわ。いつもと同じじゃない」

 そうかなあ。起立から礼までの号令にタイムラグを感じなかったような……。

「うるさいわね、細かい事を気にしてたらハゲるわよ」

 別に気にしないけど。

「そんなに急がなくても食堂は逃げないよ」

「時間は逃げてくの」

「席も取ってもらってるし、大丈夫だよ」

「…………は?」

 って、急げって急かしたり急に立ち止まったりで、明石さんは何がしたいんだ。



「……先輩、こちらです」

 食堂に入ったなり、席を取っていてくれた七篠が手を振ってきた。

「ああ、良かった。行こうか、明石さん」

「……ま、そんなところだと思ってたわよ。ええ、思ってたっつーの」

 何故か不機嫌な明石さん。

 とりあえず、僕たちは七篠の対面の椅子を引く。

「……先輩、遅かったですね」

「そうかな?」

「はい。そこのめぎつ――明石先輩と何かしていたんですか?」

「何もしてないよ」

「ねえ、今私女狐って言われた気がするんだけど」

「……気のせいでしょう。それより、話があると聞いたんですが、ご飯は食べても良いんですか?」

 そのつもりでここに集まったんだけど。腹が減っては負け戦も出来ないからね。

「そうだな、先に何か買ってこようか」

 立ち上がる僕。

「……では私も」

 立ち上がる七篠。

「あ、私きのこスパゲティとサラダね」

 踏ん反り返る明石つみき。

 ある意味予想通り。

「まあ、君らしいと言えば君らしいよね。分かった、そこで待ってて」

「早くしてよね」

 ひらひらと手を振る明石さんに見送られ、僕と七篠は戦場へと足を向ける。

「どけえぇぇぇぇ!」

「うおお――――!」

「邪魔だあぁぁぁっ!」

「クレアァアァァァァ!」

 うむ、これよ。これこそが戦の臭いよ。帰りたい。

「……先輩。私は一応あなたの後輩に当たるのですから、先輩に選択権を委ねますよ」

「この際食べられれば何でも良いよ」

「……分かりました」

 頼もしい後輩を持って僕は幸せだ。宙に舞う七篠を見て、僕は改めてそう思う。



 さてと、雰囲気は気まずいが、話を切り出さなくちゃ。

 パスタを不味そうに啜る明石さん。トンカツを難しい顔で頬張る七篠。

 話をするには最低ランクに近い状況だけど関係ない。

「食べながらで良いんだけど、話を聞いてもらえるかな」

 返事はない。

「テロリストについてだけど、今回は素直に殺されようと思うんだ」

 案の定、訝しげな視線が二対。

「何か作戦でもある訳? そうでもないと私は納得しないから」

「その前に、明石さんはどうすればテロリストをクリア出来ると思う?」

「ぶっ倒す」

「七篠はどう思う?」

「……逃げ切れば良いのでは?」

 なるほど、二人とも考えてはいるんだな。でも、僕の考えとはまるで違う。そもそも前提からして違う。

「僕はね、テロリストが出てくる前に叩くのがクリアへの近道だと思うんだ」

 出てきてからでは遅い。そうなる前に先手を打ち、フラグ自体を叩き折る。これが僕の考えだ。

「あんたさ、言いたい事は分かるけどね。でも、あいつらをどうやって潰すってのよ?」

「うん、一つずつ確認していこうか。……まず、彼らはどこから来ていると思う?」

「……難しい質問ですね。先輩、少し良い気になっていませんか?」

 何だか、七篠に睨まれるのは久しぶりだなあ。

「言い方を変えるよ。テロリストはどうやって、どこから学校に入り込んだのか、に、しよう」

「さあ? でも、あんたの考えは読めたわ。あいつらがどこから来るのかを見つけて、そこに罠を張って叩きのめすって寸法でしょ?」

「いや、多分無理だよ」

「……ヘリコプターで屋上から?」

「さすがに音で気付くよ」

 もっと冷静に考えれば分かる事だよ。

 テロリストは五時間目にやってくる。つまり少なくとも、幾ら遅くとも、昼休みには校内に入り込んでいると見て良いだろう。

「外部の人間が簡単に学校に入り込めると思う?」

「……そう言われれば。複数の人間が誰にも気付かれないで学校をうろつけるとは思えませんね」

「ま、そうね。隠れる場所も、なさそうだし。ふーん、つまりあんたはさ、内部の犯行って言いたい訳?」

 僕は水を一口飲んでから頷いた。

「そっちの方が自然だよ。内部犯と決め付ければ、他にも幾つか辻褄も合うからね」

「へえ。例えば、相手がへぼ過ぎる点に関して……とか?」

 明石さんはようやく事態が飲み込めてきたのか、楽しげに口元を歪める。

「うん。本物を見た事はないからどうにも断言出来ないけど、彼らがプロだとは思えないんだ」

「……ああ、前に先輩が私の胸の感触を楽しんでいた時に言っていましたね。やる事がずさん過ぎる、と」

「………………」

 そうなんだけどさ、余計な口まで利かなくて良いんでない?

「へーっ、堅物だと思ってたけど。楽しんでんのね、あんた」

 めっちゃ爪先踏まれてるんだけど。痛い痛い痛い痛い。

「明石さん。誤解だよ」

「あと、五回?」

 五回も踏まれたら死ぬわ。

「あー、そもそもテロリストが僕たちの学校を狙う理由がないよね。ただの公立校、お金だって溜め込んでる訳でもなし。どこかの国の王子さまが留学してる訳でもなし」

「分かんないわよ。もしかしたら王子さまがいるかもしれないじゃない」

「いたとして、白昼堂々押し掛けるのは無駄過ぎるんじゃないかな」

「一々否定するわね。王子さまがいたって良いじゃないの」

 ありゃ、明石さんって意外とメルヘンチック。

「……ですが先輩、現にテロリストはこの学校を襲っています。何かしらの理由があると考えるのは当然かと」

「うん。でもさ、この際理由は後回しにしよう。大事なのは、彼らがテロリストになる前に、その愚行を阻止する事だよ」

「なる前? 彼ら? あんた、何か知ってるのね?」

「まあね。それじゃ、行こうか」

 僕は詳細を語らず席を立つ。

 何だか、優越感と言うものはこういうものなんじゃないかと思ったりしちゃった。



 昼休みも残り二十分。少しばかりゆっくりし過ぎただろうか。

「で、こんなところまで私たちを連れてきたのには理由があるんでしょうね?」

 こんなところと言うのは、保健室である。

 以前、僕が殺された場所でもある。この事実は、僕しか知らない。今までずっと隠し通してきたのだ。

「開けてみてのお楽しみって奴だよ」

 鍵は掛かっちゃいない。

 戸を開いた時、恥ずかしながら、少しだけ興奮した。

 手が届き掛けている。もう何度も、何遍も殺された。

 でも、クリアまでもう少し。真実は要らない。この先の結果が、一秒先の未来が、きっと僕らを待っている。

 だから。

 保健室、死後の世界にも似た、真っ白な空間が僕らを包み込む。

「……誰もいませんね」

 いや、いる。いる筈なんだ。

「何もないじゃない。ちょっとあんた、ここまで引っ張っといて空振りってのは……」

 いや、ある。ある筈なんだ。

 保健室を見回せば、先生の机と椅子、流し台、外へと繋がる窓とドア、カーテンの引かれていないベッドが二つ、あとは大き目の長机と丸椅子が数脚。

 人影どころか人の気配が殆どしていない。そう、殆どだ。

 記憶を手繰り寄せ、僕は隣の部屋に向かう。扉に付いた窓から覗くと、その部屋にはベッドが三つ。その内一つにカーテンが引かれていた。

 こっちの部屋にもベッドがあるのに。何故か、近い方のベッドを使わずに、わざわざ奥のベッドを誰かが使用しているのだ。

 誰かがいる。まず、間違いない。そして、多分、その誰かさんは、誰かが見られたくない誰かなのだ。

 では、隠れている誰かとは?

 隠している誰かとは?

 決まってる。

「開けるよ」

 一息に、扉を開けた。



 一つずつ、確認していこう。

 ずさんな襲撃。これは、まあ、今までの流れを振り返ってもらえれば分かる。

 僕たちのようなイレギュラーは考慮出来なかったとして。何百人といる学校なんて厄介なところを、真昼間から襲うなんてどうかしているんだ。助けを求められたら? 誰かに逃げられたら? そもそも学校を襲う目的は?

 ……次に、テロリストの格好についてだ。

 馬と牛、羊のマスク。スーツ。銃。

 問題はないように思われる。って言うか、最初は驚くのが先で何とも思えなかった。でも今は違う。だって、曲がりなりにも今からテロを仕掛けるんだぞ。

 スーツって、おかしくないか?

 そりゃ学校に爆弾を置くだけ、ぐらいなら構わないけど、実際乗り込んでくる彼らは動き回らなきゃならない訳で。なのにスーツってのは得心しかねる。

 マスクだって、やっぱりどこか変だ。顔を隠したい意図は見える。だけど、どうしてパーティグッズ程度のマスクをしているんだ? もっと他に何かあったろう。明らかに機能性を度外視している。

 何もかも、粗い。準備も充分でないし、計画も練られていない。いや、そもそも目的が見えていない。……計画するほどの意味はなかった。学校を襲うのに理由なんて必要ない。目的なら、もう何度も達成されていたのだから。

 忘れてはならない。僕らが敵に回しているのは世界なのである。生き返りチャレンジを邪魔する為なら、何を起こしたって不思議じゃない。



 カーテンの引かれたベッドの前で立ち止まる。やはり、躊躇してしまったのだ。

「……先輩?」

「早く開けなさいよ」

 やっぱり、恐い。

 カーテンを引く事がじゃない。引いた後、潜んでいる何かに殺される事でもない。何度もやり直せるから、死に対して恐れる筈もない。でも、そこに何もなかったら。僕の考えが間違っていたら。

「……私が開けましょうか?」

「いや、僕がやるよ」

 ここは、僕がやるべきだろう。

 良いさ。鬼が出ようが蛇が出ようが、どうせ僕たちの存在は向こうにばれている。その上で何も反応がないのなら、とりあえずすぐに死ぬ心配はないだろう。

 意を決してカーテンに手を掛ける。願わくば、ここで全てが終わりませんように。

「……あ」

「うわ」

 ベッドは、眠る為に使われる。だからそこで誰かが眠っているのは当たり前なのだろう。

「誰、これ?」

 思わず呟いてしまった。

 ベッドには、知らない女の子が眠っている。死んではいない。目を瞑っているし、規則的に呼吸しているから、多分。いや、しかし本当に知らない子だ。

「へえ、結構可愛いじゃない」

 確かに。幼いながらに顔立ちは整っている。年は、十歳ぐらい、かな。

「スカート……でも制服じゃないわね。生徒にも見えないし、どっから入ってきたのかしら」

 入ってきたと言うか、連れてこられたんだと思うけど。

「……先輩」

「何?」

 振り向くと、七篠はきつい眼差しで見据えてきた。

「……先輩が私たちに見せたかったのはこの子ですか?」

 返答に困る。結果的にはそうなるんだけど、しかし、この女の子が僕の求めている答えに繋がるかどうかは断定出来ない。

「あーあ、髪の毛染めてんのね。もったいない。この年から染めてたら痛んじゃうのに」

 明石さんは女の子が眠っているのを良い事に色々といじくっていた。

「髪の毛ふわっふわしてる。あはは、なんかムカつく。ね、誰かハサミ持ってない?」

 持ってても出さない。

「……ここにあります」

「出すなよ!」

「……では早速髪とかを切り刻みましょう。若い芽を摘み取るのも我々の役目です。決してふわふわした髪の毛に嫉妬している訳ではありませんので」

 思ってても口に出すな。

「……ん、んぅ?」

「お」

 女の子が目を覚ましつつある。そりゃ、すぐ近くで騒がしくされたら誰だって起きちゃうだろうな。

「ほら七篠、ハサミ貸せ。こんなの持ってたら、この子が起きた時に怪しまれるぞ」

「……封じるから構いません」

「何を封じるんだよ! 口か、口なのかっ」

「ちょっと見なさい、ほっぺたぷにぷにしてる。ぷにぷにしてる!」

「良いからよこせって!」

「いやっ、私の胸に触らないでくださいっ」

「胸なんか触るほど付いてないじゃないか」

「……え?」

 言ってからやばいって気付いた。

「死なばもろとも……っ!」

「うわああっ!」

 ハサミを振りかざす七篠。

 必死で抵抗する僕。

 女の子をいじるのに飽きて隣のベッドで寝ようとする明石さん。

「ん……」

 完全に目を覚ました女の子。

「あ」

 僕と女の子の目が合う。

「う」

 その時の僕は七篠を組み敷き、奪い取ったハサミを高々と突き上げており、

「うおおおっ!? 人殺しだああっ!」

 まあ、甘んじてその汚名は受け入れようと思う。

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