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テロリスト〈4〉

 目覚まし時計の鳴る五分前に目が覚める。いつもの事だ。

 僕はゆっくりと身を起こし、布団を跳ね除けベッドから立ち上がる。

「さて」

 テロリストにもう三回殺された。今回で四回目なのだが、不思議と辛くはない。繰り返す度に状況は進んでいるのだし、次回以降に繋げられるものも掴んでいる。完全な行き止まり、完璧な手詰まりではないんだ。

 だけど、一つだけ気掛かりな事がある。



「………………」

「ん」

 僕の横に、背の低い誰かが立った。

「……今朝は早いんですね、先輩」

「まあね」

 七篠歩。

 彼女こそが、現段階での気掛かりな事である。

 彼女が生き返りチャレンジにおいて、非常に邪魔な存在である事は否めない。

 僕がただ生き返るだけでは駄目なのだ。生き返って尚、昨日と変わらない明日を手に入れなければならない。何事もなく、何も変わらず、いつも通りの日常が欲しい。そこに人の生き死には不必要だ。

 チャレンジをクリアするだけなら、正直に言おう。方法は腐るほどある。何せ僕が生き残るだけで良いのだから。他者を盾に、あるいは剣にしていけばもっと簡単に事は進む。

 だが、チャレンジのせいで事件が起これば、様々な人が周辺で騒ぐだろう。新聞記者、警察、野次馬。たくさんの人間が僕に、僕に近しい人たちに好奇の目を向ける。

 そんなの耐え切れない。

 第一、自分以外の人間を食い物にして助かるやり方は向いてない。と言うより無理だ。

「七篠ってさ、足が速いよね」

「……私が陸上部だって知ってたんですか?」

 まあ、ね。

 七篠は放っておいたら死んでしまう。逃げ出して、撃たれて。彼女はテロリストが来たらどうするという間抜けな質問に、馬鹿正直にも逃げると断言していた事があった。大人しくしておけば命までは取られないのに。精々、数時間を無駄にするくらいじゃないか。

「……意外です。先輩は私の事なんて忘れてるんだと思っていました」

 彼女を助けるにはどうすれば良い。逃げないように注意を促すのか? 逃げられないように足を痛め付けるのか? 分からない。なんで、逃げようとするんだよ。

「失礼な奴だな。忘れてないよ。僕の記憶力を馬鹿にしてるだろ」

「……そういう意味で言ったのではないんですけど」

 駄目だ。七篠の言葉が耳に入ってこない。

 信号が青になっても歩き出そうとしない僕を見て、七篠は何か言いたそうにしながらも、先を歩いていく。

 僕は、あいつをどうしたいんだろう。



 一時間目、二時間目、三時間目、四時間目が終わっても、ろくな考えは思い付かなかった。

 僕じゃ、七篠を救えない。



 正直会いたくはなかったのだが、何かの糸口を掴めるかもしれないと思い、僕は七篠とエンカウントしていた。

「先輩と、同じ日に二度も会うとは思っていませんでした」

 僕もだよ。

「……運命を感じますね。デスティニーじゃなく、フェイトの方ですが」

 こうしてやる気もなく、無表情で憎まれ口を叩いている癖に、必死になって逃げちゃうんだもんなあ。

「あ。七篠、何持ってるんだ?」

「……目聡いと言うべきか、鼻が効くと言うべきか。まるで犬みたいですね、先輩」

「生憎、僕は爬虫類派なんだよ」

「……? これは調理実習で作ったクッキー、みたいなものです」

 クッキーと口にするのもおこがましいとは思うんだけど。

「ふーん、食べられるの?」

「ええ、お腹は壊しませんよ」

 しれっとした顔で言いやがって。

「良かったら、もらっても良いかな?」

「……良いんですか? じゃなくて、構いませんよ」

 七篠は僕に紙袋を手渡す。その中身は、やっぱり黒かった。一生黒いんだろうなあ、もう。

「……あの、やっぱり捨てても良いですよ」

「いや、もらうよ」

「ゴミと変わらない味ですよ」

「もらうよ」

 強く言うと、七篠はそれ以上何も言わなかった。



 学食は惨憺たる有り様だった。

 ここ最近はのんびりとご飯を食べていたから、ちょっと残念。

「……私が買ってきます。先輩は何が良いですか?」

 七篠の運動能力を何回も見て、僕はその力がとんでもないものだと知っている。だけど、年下の女の子を戦地に送るのはやっぱり気が引ける。

「いや、僕が行く。七篠は……日替わり定食で良いよな?」

 彼女は少しだけ目を見開き、その後でゆっくりと頷いた。ふふん、僕をエスパーか何かだと思っているだろうな。

 良し、テロリストと何度も戦ってきた経験を活かすとしよう。同じ轍は踏まない。良い言葉だ。良い言葉は決して、なくならないっ!

 比較的人の少ないところから体を押し入れ、強引にねじ込んで、ねじ込んで、ねじ、ねじ、

「うわーっ」

 吹き飛ばされた。

 でもちょっとだけ惜しかった気がする。

「……やはり先輩には任せておけませんね」

 七篠は僕を見下し、仕方なさそうに息を漏らした。

「先輩は何が食べたいんですか?」

「うーん、日替わり」

「……お揃いですね」

 そう言って、七篠は微笑を湛える。

 あれ? 

 こいつって、こんなに可愛く笑うんだっけ?



「……お待たせしました」

 帰ってきた七篠はトレイを僕に渡し、さっきまでほぼ空を飛んでいたというのに、何でもないような顔をしていた。

 僕はお礼を述べ、確保していた席へ彼女を誘導する。

「……先輩にしては気が利いていますね」

 七篠は席に座るや否や、不躾にそう言った。

「それぐらい僕だってやるさ」

「見直しました。先輩も一応人間だったんですね」

「人間で思い出したんだけど、ラーメンの語源って知ってる?」

 突拍子のない台詞に怪訝な顔をしながら、しかし七篠は頷いてくれる。

「……ええ、知っていますよ」

「え、知ってるの?」

 勉強は出来ないのにどうでも良い事は知ってるんだな。その事実は僕もつい最近知ったばかりなんだぞ。

「ラーメンのラーは中国の言葉で引っ張るという意味だそうです。ほら、ラーメンって叩いたりして伸ばすでしょう?」

 合ってる。ま、まあ、それぐらいは知ってるか。

「……ちなみにカレーという名称は、元々インドにはなかったらしいですよ」

「マジで!?」

 うっそ、そうだったのか。絶対インド人もびっくりだよそれ。

「……カレー、好きなんですか?」

 冷めた目で見つめられ、急速にテンションが萎んだ。

「いや、別に」

「先輩はつまらない話が好きと見えます。もっとつまらない話をしましょうか」

 七篠はコップの水を飲み、相変わらずの無表情で口を開く。

「……関西の方はマクドナルドをマクドと略すらしいですね」

「なんだ、何かと思えば。それくらいは知ってるよ」

「では、ドナルドの本名を知っていますか?」

「ドナルド・マクドナルドってふざけた名前だったっけ」

 ラカン・ダカランみたいな感じだった気がする。

「……本当はロナルド・マクドナルドと言うそうですよ。可哀想ですね、日本人では発音し難いから名前を変えられるなんて」

 なっ、そうだったのか!

 でもここで興奮したら馬鹿にされているようで気に食わない。

「へー」

 平常心平常心。

「……メイヤーチーズマックはいつ帰ってくるんでしょうか」

 うわー、懐かしい。つーか良く知ってるな、こいつ本当は何歳なんだろ。

「……関西の方はロッテリアをどう略すんでしょうか」

 話題を変えてきたな。

「そりゃロッテとか、テリアじゃないのか」

「ところで、先輩は世界三大詩人を知っていますか?」

「豪快に話を変えるね、お前。……えーと、ダンテ?」

「……正解です。残り二人はペトラルカとボッカッチョらしいですよ」

 聞いた事がないな。

「ボッカッチョの代表作、デカメロンなら聞いた事がありますよね?」

 デカ、メロン? あー、名前だけなら、何となく。

「……大きなメロンを想像しているなら、私は先輩を侮辱します」

「しっ、してないよ!」

 声は裏返って震えていた。

「……ではバカメロン先輩」

 早速侮辱されている。言い返せないのが悔しい。

「モヘンジョダロをモヘンジョだろ? と誇らしげに語っていた先輩、世界三大料理は何かご存じですか?」

「昔の事を掘り返さないでよ。七篠だって信じてたじゃないか」

「……そうでしたか?」

 都合の良い記憶力をしてるな、こいつ。

 僕は日替わり定食ってあんまり好きじゃないなと思いつつ、三大料理とは何かに思いを馳せる。

「カレーとラーメンとチャーハンかな」

「……先輩の味覚は小学生で止まっているようですね」

「だったら何なんだよ?」

「筆頭はフランス料理でしょうね。格式高いテーブルマナーを伴った、芸術の域にまで高められた高級料理……」

「面倒臭そうじゃないか」

「……私もそう思います」

 こいつ何がしたいんだ。

「二つ目は中華でしょうね」

「ん? だったらラーメンってのもあながち間違いじゃないな」

「……本場のラーメンを食べても同じ事が言えるでしょうか?」

 意味深に言うじゃないか。

「中国は広大ですから、その分地域によって料理に差が出るんです。点心と麻婆豆腐を同じ店で食べられると思わない事ですね」

「まあ、日本に来たものは日本人好みに味付けされてるってのは分かるけど」

「…………そうですね」

 七篠が窓の外を眺めながら、分かりやすく退屈そうにしている。

 いやいや、そっちが振った話だろうに。

「……つまらない話をしていたらつまらなくなってきました」

「自爆してんじゃん。だけど残念だな、僕はこういうのが大好きだったりする」

「……つまらない人ですね」

 うっわー、投げやりだな。何が投げやりってもう投げやりになる事ですら投げやりになっているところがだ。

「そんなんじゃ友達出来ないぞ」

「……地球上に生きとし生ける生物の中でも、特に先輩に言われたくありません」

 そりゃそうだろうけど。

「昔のよしみとして心配してやってるんじゃないか」

「……友達なんていりません」

「肩肘張ってると疲れるぞ」

「同情もいりません」

 頑なな奴である。まあ、こう言ってる僕も好んで友人を作ろうとしていないのだから、七篠の事をどうのこうのと言えないだろう。

「……足を引っ張られるのは好きじゃありませんから」

「だったら、僕もいらないんじゃないの?」

 そこで、彼女は初めて表情を変えた。驚いたような、悲しんでいるような、腹を立てているような。僕では分からない小さな変化。

「……先輩は、先輩ですから」

 七篠はふいっと顔を背けると、水のお代わりをもらってくると言って席を立った。

「全然分かんないや」

 死神さん、明石さん、舞子さん。あの人たちも扱いづらいが、七篠は群を抜いて分からない。全く読めない。



 昼ごはんを食べ終わり、部活のミーティングがあるらしい七篠と別れ、僕は教室の、自分の席で寝そべっていた。

 考えるのは七篠の事ばかり。どうしたら、彼女を死なせずに生き返りチャレンジをクリア出来るかの、その一点。

「……無理だよな」

「何が無理なの?」

「うわっ」

 独り言を聞かれていた事に驚いて飛び起きると、僕の前の席に腰掛けている舞子さんと目が合った。

「あは、寝てたー?」

「いや、考え事」

 嘘だ。何も考えていないし、もう何も考えられない。

 そもそもが、人格のある、意思のある人間を自分の思うままに操作するなんて不可能なんだ。不可侵、と言っても良い。

「君ってさー、いっつも何か考えてるような顔してるよね」

「え?」

「あれあれ? 自分じゃ気付いてなかったの?」

 僕、そんな顔をしてたのか……? いや、そう言えば明石さんにも言われたっけ。

 けど、驚いているのは舞子さんの台詞である。自惚れとか、そういうものじゃない。ある種危機感。

 いつも。

 いつも。なんだ? いつも見ていたって事なのか? 分かんない。僕には分からないよ。

「あは、深い意味はないんだけどね」

 ……そういう人だったっけ、舞子さんは。あんまり気にしないでおこう。

「何を考えてるか、当ててみよっか?」

「……当ててみてよ」

 舞子さんは自信ありげに、誇らしげに胸を張って僕を指差す。

「ズバリ、好きな人の事を考えていたでしょ!」

 声が大きい。皆こっちを見てるじゃないか。明石さんがいなくて助かった。彼女が聞いていたら、さぞかし面白おかしくて仕方がないと言った具合に弄られちゃう。

 まあ、人の事を考えていたと言えばそうなるのだけど。でも七篠の事は別に好きでも嫌いでもないんだよなあ。

「半分当たりだよ」

「あれ、じゃあ君が好きだったのは人間じゃないのかー。もしかして両生類とか」

 当たっているのはそっちじゃない。誤解を招く発言はよしてくれ。

「僕を何者だと思ってるのさ。考えていたのは人の事だよ」

「あは、只者じゃないとは思っているけどね。にしてもー、そっかー、好きな人の事じゃなかったんだ」

 好きな人なんて、いない。今までも、これからも、多分、一生出来ないだろうし、そうも思えないだろう。

「でも、そういう顔してたよ」

「……そういう顔って、どんな顔?」

 失明したと思う。恐らく、心の目とかが。

「あは、好きな人の事を考えてる顔だよ」

 僕に向ける舞子さんの笑顔は、そんじょそこらのひまわりより、ひまわりらしかった。



 五時間目、開始。

「先生、やっぱり来ないね」

「は、やっぱり殺されてるんじゃない?」

 明石さんは物騒な事を平然とした顔で言い放つ。こと、生き返りチャレンジにおいては有り得ない話じゃないのに、だ。

 時計の針が時を刻んでいく。教室内も俄かに騒々しさを帯びてきた。やれ自習だの、やれ早く帰れるんじゃないかと、期待を込めて皆は口を開いている。ごめん、そうはならないんだ。

 ――コツ、コツ。

 廊下側の窓にシルエットが映り、乾いた足音が響く。

 来た。

「明石さん、分かってると思うけど」

「ええ、ボッコボコにしてやるわよ」

「……分かってないじゃないか」

 と言うか、今回に限っては明石さんとまともに話し合っていない。

「前に死んだのはあんたなんだから、あんたが何とかしなさいよ」

「僕、一人で?」

「あんたの事だから、どうせ助けを求めちゃいないんでしょ?」

 良く分かっていらっしゃる。

 そうだ。まだ、手詰まりじゃない。明石さんに救援を求むのはまだ早い。まだ、やる事が残っている筈。

「私は前回と同じように動くからね」

 僕が頷くより先、廊下の足音が鳴り止み、扉が開かれた。教室は一瞬にして静けさを取り戻し、入ってきた人物を見て再び音を取り戻す。

「黙れ」

 羊のマスクを被ったテロリストは開口一番、銃を見せびらかしながらそう言った。



「ふんじばって身包みを剥ぐのよ!」

『うおおおおおおおおっ!』

 楽しそうな明石さんの図。

 彼女を尻目に、僕は教室を抜け出した。向かうは、体育館――いや、七篠のところである。

 もう行き先にいるテロリストの数も位置も把握しているから、どきどきはしない。足取りは軽いが、気持ちだけは妙に重かった。

 何故ならば、まだ七篠をどうやって助けるかを考えちゃいないからである。



 前回と同じく、テロリストの死角に陣取って機会を窺う。いや、待っている。何も出来ないまま、何も出来ないだろうと分かっていながら、口を開けて馬鹿みたいに待っているんだ、僕は。

 奇跡を。不思議を。あるいは、本当に機会を。

 ま、結局は出たとこ勝負なのだ。色々と試してみよう。それで失敗して他人の死に様を見せ付けられるのは非常に嫌なのだけど。

「……と」

 足音が聞こえてきた。一人分じゃない。何十人もいるだろうと思わせる、人の空気も感じた。

 その場に留まっていると、波が押し寄せるように、静謐な空気が割れていく。

 玄関から現れたのはテロリスト。その後ろには三、四十人程度の生徒たちが連れられていた。誰も彼もが死にそうな表情を浮かべている。……ちょうど一クラス分の人数。七篠の、クラス。

 心臓が痛い。

 さあ、どうするんだ。

 群衆の中から見つけた七篠は、もう走り出そうとしている。彼女の先にあるのは死、だけ。止めなけりゃ、また同じ事の繰り返しだ。

 ……あいつを、止める? どうやって。どうやって止めるんだ。いや、もしくは、手助け、か?

「こんにちはっ!」

 ――手助け。

 咄嗟に判断した僕は、テロリストの注意を引くべく大声を上げた。

 銃口が一斉にこちらへ向く。もう慣れたと思っていたけど、幾つも同時に来られるのは予想外。まだ無理。

「動くな!」

 動く気はない。

 五秒。いや、一秒でも良い。それでも、七篠が玄関から外に逃げるまでには充分な筈だから。テロリストの目がこちらに向けば向くほど、彼女の脱出は容易となる。

「分かりました!」

 わざとらしく叫んで、手を上げて、注意を向けさせてやった。

 もう、大丈夫だろう。

 これだけ稼いだのなら――。

 とっくに遠くなってしまった、もしくは消えてしまったであろう七篠の後姿を横目で確認しようとして、僕は固まる。

 おい。おい。何をやってるんだ。

「お前も動くんじゃないっ」

 当初の予想通り、期待通り七篠は走っている。ただし、方向だけは期待外れ的外れ。彼女は、銃を突き付けられている僕を目指しているように見えた。

 つまりは、彼女は戻ってきていたのである。しかも全速力で。

「何してんだよっ、折角逃がしてやろうと思ったのに!」

 努力が誰かの気紛れ一つで水泡に帰す。やり切れなくて、むやみに声を荒げた。

「……あ」

 テロリストに捕まった七篠は、安心したような表情で僕を見つめる。

 それが、どうにも気に食わなかった。

「お前は何がしたいんだよっ、逃げようとしたり戻ってきたりっ」

 挙句の果てには二人揃って捕まる始末じゃないかよ。

「……先輩こそ、どうしてこんなところにいるんですか?」

「今は関係ないじゃないか」

 誰かが黙れだとか言ってるけど、僕の耳には入ってきそうにない。

「先輩のせいで脱出のチャンスをふいにしてしまいました。責任を取ってください」

「戻ってきたのは七篠だろっ、僕のせいにするな。恩知らずの罰当たり」

「……お怪我、ありませんか?」

「はあ?」

 衆人環視の中、いつもみたいな会話を交わす僕たちはおかしいのだろうか。いや、とっくにおかしくなっているんだろう。

「いきなり痛い事聞いてくるなよ。お前は僕のお母さんか」

「……怪我はないんですね。なら、ひとまずは良しとしましょう」

 駄目だ。さっぱり分からない。七篠の言っている事には脈絡がない。意味すら感じられない。

「くそっ、こいつらも体育館に連れていけ」

 僕と七篠はテロリストに引っ張られたまま、至極非生産的な会話を繰り広げ続けていた。

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