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テロリスト〈3〉

「ふんじばって身包みを剥ぐのよ!」

『うおおおおおおおおっ!』

 何だか凄い事になっていた。

 テロリストに蹴りを放った後、テンションの上がった明石さんは委員長として陣頭指揮を執っている。一致団結。勇猛果敢なクラスメートたち(主に細山君)は何故か教室にあったロープを使い、テロリストをぐるぐる巻きにしていた。

 っていうかやり過ぎだった。

 流石のテロリストもこの人数を相手にするのは無理だったらしい。

「明石さんまずいよ。こんなに騒いでたら他のクラスから誰かが見回りに来るんじゃないの?」

「良いのよ。来たら来たらでそいつもぶっ倒すから」

「目的変わってるじゃないか……」

「なら、あんた一人で行ってきたら?」

 明石さん、目が据わってる。こんな時にサドっ気発揮しなくても良いだろうに。駄目だ。どうせ僕が何を言っても聞き入れてはもらえないだろうし、何より時間の無駄だろう。

「分かったよ。張り切り過ぎて死なないでね」

「大丈夫大丈夫。あんたの方こそ階段で転んで死ぬんじゃないわよ」

 馬鹿にされている。

 良いよ良いよ、そこでそうやっていれば良いじゃないか。僕一人でもミッションをコンプリートさせてみせる。



 と言う訳で、僕は教室を抜け出してこそこそと廊下を歩いていた。

 教室の扉も窓も閉めているんだけど、歓声や罵声が聞こえている。隣のクラスにいる筈のテロリストはこの状況を無視しているんだろうか。ま、好都合と言えば好都合である。

 きょろきょろと目玉を動かし、注意深く歩を進めていく。廊下からそっと顔を覗かせると、右側の階段には明石さんの予想通り誰もいなかった。と言っても油断は出来ない。左側にいて、右側にいない道理はない。ここから先は未知の領域なのだ。慎重に行かなければ。

 と、は、言っ、てもっ。

 階段を一段飛ばしで駆け下りる。心臓だけが妙に昂ぶっていた。冷静になれと言い聞かせる度、血液が全身を駆け巡っていく。

 多分、今、僕は楽しいのだろう。何故だかは分からない。こんな気持ちになるのは久しぶり、いや、もしかしたら初めてかもしれない。

 こそこそと、こそこそと。

 体育館までスニーキングミッションの開始である。ん、でも最初から学校にいた訳だし、潜入ではないのかな。

 そんな事ばかり考えていたら、あっという間に一階に着いた。さて、気を引き締めていこう。

 階段の陰に身を潜めて、顔だけをちょっとだけ覗かせる。右良し、左良し、僕に良し、あなたに良ーし。

 玄関までやってきた時、さっきまでは馬鹿みたいに高鳴っていた心臓が止まりそうになった。

 いる。

 銃を持ったテロリストが玄関の入り口で仁王立ちしている。今度は、牛。牛のマスクをしている、屈強な体格の男性だ。スーツがやけにこんもりしている。筋肉を付け過ぎ。

 幸い、彼は外ばかり見ているから気付かれる心配はない。僕がへまをしない限り。

 靴箱の陰に身を潜めて考える。どうしよう。体育館は外にあるから、校舎から出なくちゃいけない。玄関を出て行くルートが一番手っ取り早いのだけど、のこのこ出て行ったらデッドエンドまでも手っ取り早い。

 テロリストは動いてくれそうにないし、別のルートを探そう。

 ああ、そうだ。ゴミ置き場の方から回っていけば見つからずに済みそう。そうと決まれば善は急げだ。



 失敗した。

 ゴミ捨て場にもテロリストがいたのである。しかも二人もだ。こっちのルートの方が危ないじゃないかよ、もう。

 今回のテロリストは……羊と馬のマスク。体型からすると、羊が女性、馬が男性ってところか。

 これは一応挟まれた形になるのだろうか。戻ったところで、体育館までの道は増えやしない。玄関を抜けて正面から行くか、ゴミ置き場を抜けて裏から回るかの二つ。

 それ以外にもあると言えばあるのだけど、見張りのテロリストの位置、そこからの視野を考えてみれば、どうせどこから行ったってばれるだろうな。

 見たい。見たいなー。体育館の中が見たい。

 ゴミ置き場の見張りなんて一人で充分だろうから、これは裏口から脱出する生徒を見つける為だけの警戒体勢じゃない。体育館に何かあると考えて間違いないだろう。

 うーん、無理矢理突っ込んで行っても良いんだけど。多分、体育館の入り口にもテロリストがいるな。更に鍵が掛かっている可能性も高い。窓も閉め切られているだろうし、外からは中が覗けない。

 って八方塞がりじゃないか。四方六方八方手詰まりである。

 ……いや、待てよ。ある意味目的は達成出来たかもしれない。体育館の様子を見るのが目的だった訳で、実際ここには何かがあると分かっただけで収穫ではないだろうか。

 そうと決まれば戻るとするか。どうせだから盛り上がっているクラスメートに付き従って四組を落とすのも悪くはない。テロリストを二人も捕まえれば新たな話が聞けるかもしれないし、ああ、明石さんならばとっくのとうに有益な話を聞き出しているかも。拷問とかで。

 ぐずぐずしていて見つかったら大変。この場からきびすを返そうとした瞬間、足音が聞こえてきた。一人分じゃない。何十人もいるだろうと思わせる、人の空気も感じた。

 その場に留まっていると、波が押し寄せるように、静謐な空気が割れていく。

「……あれは……」

 テロリストだ。羊のマスクを被っている。

 その後ろには三、四十人程度の生徒たちが連れられていた。誰も彼もが死にそうな表情を浮かべている。……ちょうど一クラス分の人数だな。

 やっぱり予想は当たっていた。体育館には生徒が閉じ込められているらしい。今現在でどれくらいの人数が収容されているかは知らないし、必要もなさそう。良し、戻ろう。

 どうせ僕一人じゃ助けられないし、今のところ、助けても得られるものもない。あのクラスを焚き付けて、全員で外を目指せば何人かは逃げ出せるだろうけど、何人かは殺されてしまう。それは困る。死者を出すのは望むところではない。

「なっ、待て!」

 びくりと体が震える。まずいばれた!

 思わず、撃たれると思ってしゃがみ込む(とんでもない愚考と言える)。が、何も起こらない。

 起こっているのは向こう側、怒っているのはテロリストの人たちである。目を凝らせば、連れられていた生徒の内の一人が逃げ出していた。

 逃げたのは女子生徒のようである。……いや、と言うか早いな。彼女に誰も追い付けない。ぐんぐんスピードは伸びていき、後ろ姿はどんどん遠くなる。

 あわや脱出成功かと思った時、聞き覚えのある高く、うるさく、乾いた音が何発も響いた。

 僕は耳を塞いで目を瞑る。

 あ、倒れてる。女子生徒は体育館の入り口近くに倒れていた。遠目からでははっきりしないが、まだ息はある様子。だが、地面には大量の血液が流れ出している。

 持たない、な。

 どこを撃たれたかは知らないが、当たったのが一発という事はないだろう。致命傷と言っても過言じゃない。

「失敗かあ」

 声に出すと、俄然虚しくなった。言った傍からこれだもん。余計な事をしてくれたよな、全く。

 まあ、気概は買おう。普通の精神構造なら、この状況下で逃げ出そうとは思わないもんな。顔ぐらい見取って、死に際ぐらい看取ってあげるのも悪くはない。

 何もかもがすっかりどうでも良くなった僕はひょいひょいと進んでいく。生徒もテロリストもまだ僕を認めていないらしかった。

「おい、お前も動くな!」

 やっと気付いたのかよ。もう遅い。僕は倒れている生徒の傍にしゃがみ込んだ。

「……あ」

「っ、せん、ぱい……?」

 何となくだけど予想はしていた。

 規格外に足の速い女子生徒なんて、この世の中に、少なくともこの学校にそうはいないだろうから。

 撃たれて死にそうになっていたのは、七篠歩。僕の幼なじみで、妹みたいな奴で、生意気な後輩でもある存在。

 彼女は僕の顔を見て、少しだけ笑った。ぎこちない動きが妙に痛ましく思える。

「一人で逃げようとするからだよ、罰当たり」

「せ、先輩が……無事、で良かっ……た……」

「……? ああ、無事だよ」

 お前が逃げる事と僕の無事が繋がるとは思えないけど。

 でも、僕一人無事でもしょうがない。

「逃げて、くだ、さい……」

 途切れ途切れの七篠の言葉は聞き苦しい。良く分からないけど心配しないで大丈夫。この世界はもうすぐ消えるから。痛みも苦しみも何もかも、全てなかった事になる。僕と明石さん以外の全てが。

「しんどいだろ、もう寝とけ」

「……て、て」

「て? ああ、手か。手がどうしたの?」

 七篠は僕に向かって手を差し出した。その手は、思っていたよりも随分と小さい。

「にぎ…………て」

 言われた通り握ってやる。こうしてると、七篠がまだ小学校に入学する前の時分を思い出すな。こうやって手を握って、僕は本を読んで、昼寝に付き合ってやったっけ。

「お休み、七篠」

「…………うん」

 機会があるなら、また会えるさ。次の世界じゃ、君は死んだ事すら覚えていないんだから。

 ああ、温かいや。いずれこの手も徐々に冷たく、固くなるんだろうけど。

 しかし、次回はどうしようかな。放っておいたら、七篠は何回も、何度だって死んでしまう。恐らくは前回もこうして殺されたのだろう。彼女を止めるには何をすれば良い。

 やっぱり、テロリストを相手に死者を出さないなんて無謀なのか。僕が甘かったのだろうか。今までで一番のフラグ。これを叩き折るのは至難の業としか思えない。一つ問題を解決すれば、すぐに次の問題がやってくる。嘲笑うように、茶化すように、こちらの都合なんてお構いなしだ。

「こっちへ来い」

 後頭部に硬いものを押し付けられる。銃、か。

「撃てば良いだろ」

「……脅しだと思うか?」

 うるさい。

「撃てよ」

 世界よ、さようなら。



 世界よ、こんにちは。

 目を瞑ったまま、ごろりと寝返りを打つ。考える事は山ほどあるのに、塵ほどの精神力だって残っちゃいなかった。眠い、ような気がする。

「……シッ! シッ! シィッ!」

「あめーぞパッツン! そんな温い蹴りじゃ世界なんか取れねーよ!」

 死神さんと明石さんの声だ。何をしてるんだろう。でも、確かめる気力はない。

「もっと! もっと速くだ! もっと迅速に! スピーディに!」

 言ってる事同じじゃん。

「良いぞパッツン、前髪を切り揃えてるだけはあるじゃねーか! 良いぞ、その調子でいけ! あっ、違うダメだそーじゃねーよ!」

 どっちだよ。何だかいつにも増してうるさいな。

「さっきからガタガタうっさい。そんなに言うなら見本見せなさいよ、見本。あれだけ生意気な口を利いてたんだから、出来ない訳ないわよね?」

 挑発的な口調の明石さん。触らぬ彼女に祟りなし。ここは寝たふりを続けよう。

「やってやろーじゃねーか! おい、おいっ、起きろ!」

 ぼ、僕!?

 まさか僕を実験台にするつもりではないだろうな。

「狸寝入りしてんじゃねーよ、おらっ起きやがれ! ベンハーの泣き所蹴っ飛ばしてやっからよ!」

 弁慶の、だろ! 嫌だ、そこまで言われて誰が行くか。目を深く瞑り、全ての音をシャットダウンしてやる。

「起きろって、金玉踏み潰すぞコラ」

 うわー、うわー、もう何かこの人最低過ぎるよ。

「……起きてるから、潰さないでください」

 こっちの世界で死ぬのはごめんだ。仕方ないので体を起こす。

「お、ちょっと立ってみろよ」

「?」

 言われるがままに立ち上がると、脛に鋭い痛みが走った。耐え切れず、再び寝転がる。な、何が起こったんだ?

 明石さんは羨望の眼差しで死神さんを見つめ、見つめられている死神さんは口元を意地悪く吊り上げていた。

「やるじゃない! あんなのプロの挌闘家だって打てないわよ!」

「はっ、やーっとオレの凄さが分かったみてーだなパッツン。良し、気分が乗ったところでもう一発いっとくか。おい、もう一回蹴るから立ってみ」

「嫌に決まってるでしょう! 馬鹿ですかあなたたちは!」

 明石さんの頭が悪くなっている。やめろ、そんな目で死神さんを見るんじゃない。

「良いから蹴られなさいよ。私はキレのあるローキックを習得しなくちゃいけないんだから」

「そんなの必要ないってば。それより、テロリストについての情報を得られたの?」

「ふんっ!」

「あっ――!」

 脛、痛い。

 僕はのた打ち回って地面を這いずり回る。

「おっ、今のは良かったぜ」

「でも、足の甲が痛いかも。連発は無理ね」

「あー、だったら脛か踵で蹴ればいーんじゃねー?」

「……なるほど、その手、いや、足があったわね。甲よりも硬い分ダメージも上がるわ」

 ないよ! そんな手ないし足もない! わざわざ言い直さなくても良いから!



 ダメージから回復した僕は胡坐をかいてどっかりと座り込んだ。もう、誰も信用しない。

「おいおいおいおい、機嫌直せって、あんなの冗談じゃねーかよ」

「冗談? 冗談ですって? それこそ冗談じゃないですよ」

 冗談みたいに痛かったんだぞ。

「明石さんは僕の言う事を無視してるし、死神さんは馬鹿みたいに馬鹿だし」

「てめー誰に向かって口利いてやがんだ!」

「うわあっ、殴らないでっ。もうっ、そうやってすぐ暴力に訴えるところが馬鹿って言ってるんですよ!」

 ここで受けた傷跡や痛みは、向こうにも引き継いでしまうんだろうか。もしそうなら、本格的に死神さんの事を馬鹿にする必要がある。

「ちょっと、私なら仕事したわよ」

「へ?」

 死神さんに襟元を掴まれた状態で、僕は素っ頓狂な声を上げた。

「明石さん、もしかして何か分かったの?」

「当然じゃない。私を誰だと思ってるのよ」

 誇らしげに言うと、明石さんは髪の毛をかき上げる。洒落た、ともすれば小生意気なポーズだったが、様になっていた。

「あの女を縛り上げた時に携帯電話を奪っておいたのよ」

「おー」

 素直に感心して、思わず拍手をしてしまう。

「流石明石さんだね。ごめん、さっきは馬鹿にするような事を言っちゃって」

「あ、あー。あのさ、携帯にロック掛けてなかったからメールを覗いたんだけどね、殆どが消されちゃってたのよ。多分、メールを確認したら逐一消してたんでしょうね」

 ある意味注文通り。最初っから、テロリストが無駄な痕跡を残すとは思っていなかった。

「でも、殆どって事は」

「ええ。二通読めたわ。受信メールと、送信メールが一件ずつね」

「内容は覚えてる?」

「当然。まず送信メール。つまり、羊のマスクを被った女が誰かに送ったメールね」

 誰か? アドレスを登録していれば普通、そういうのって相手の名前が出るんじゃないのかな。

「一応、名前はあったんだけど。馬A、だったわ」

 呼び名かよ。被ってるマスクの動物で呼び合ってたのかよ。

『羊さん羊さん、今から学校へテロ仕掛けましょうよヒヒーン』

『メー、分かったわ馬さん』

「ぎゃはははは! リアル動物の森じゃねー!?」

 僕と同じ事を想像して爆笑する非人間が一人いた。無視しておこう。

「……何て書いてあったの?」

「『了解』」

 は? いや、了解したのは分かってるから、何が書かれていたのかを教えて欲しい。

「じゃなくて、『了解』って一言だけ」

「それだけ? じゃあ自慢げに当然とか言わないでよ。僕にだって覚えられる内容じゃないか」

 ちょっと賢い猿にだって覚えられそうじゃないか。あ、駄目だ。言ってて情けなくなってくる。

「話は最後まで聞きなさいよ愚鈍男。問題は、受信メールの方よ。良く聞いてなさい、分かった?」

「『了解』」

 無言で脛を蹴られた。

「『弟がどうなっても良いのか』、よ」

「弟だって?」

 随分と私的なメールである。僕たちに銃を向けて脅かしている間、そんな事をやり取りしていたのか。余裕綽々だなテロリスト(その後逆襲に遭ってたけど)。

「ちなみに、受信メールの方が先に来てたわ」

 と、すると。

 馬Aから『弟がどうなっても良いのか』と問われた羊さん(テロリスト)が『了解』と返した訳か。

「どうしよう、それがどうしたのって感じなんだけど」

「あんた真性の馬鹿?」

「いや、こいつは仮性だぜ」

「僕の下半身を指差さないでください!」

 しっしっ。全く、油断も隙もない死神である。

「……仮性」

 明石さん、こっちを見ないで。せめて今だけは。

「良いじゃんよ。これが終わったら仮性から脱出出来るぜ。生き返りチャレンジを成功する事で一皮どころかずる剥けて男になりましたってなー!」

 火星に行って凍え死ねば良い。色だけで火星を熱い星だと勘違いしていそうな死神さんにはおすすめの最期だと思う。

「ねえ、仮性ってさ」

「もうその話は良いじゃないか! 僕は馬鹿だよ、真性の馬鹿で良いから話を進めてよ!」

 僕だって羞恥心ぐらいは持ち合わせているのだ。正直、辛い。男の尊厳が土足で踏み躙られるのに耐え切れない。

「あ、ああ、そうよね。えーと、何を言おうとしてたんだっけ……あ。そう、そうそう。メールの内容よ。あんたは何も思わない訳?」

「うん」

「言い切るな。――羊は脅されてる。こうは思えないかしら?」

 テロリストが、テロリストに?

 考えられなくはないけど、考えられなくはないけど……。

「弟を人質に取られて、仕方なくテロリストの片棒を担いでいるって線はどう?」

「あ、それ面白い」

 だけど、こうも考えられないだろうか。

「あの文章が暗号って線はどうかな。メール一つにも気を払うような連中だよ。暗号ぐらい使ってもおかしくはないと思うんだけど」

「……またそうやって自分の好きな方向に持っていこうとするんだから。多分だけど、あんたが思ってるよりも、うんとあの連中はヘボいと思うわよ」

 だろうね。一度目は何も見えなかったけど、二回、三回目となってくるにつれ、テロリストのやる事なす事の荒さが浮き彫りになり始めた。穴が隠し切れていない。彼らは結局力押しに頼っていた。少なくとも、そんな印象を受ける。

 銃を使った脅迫は効果的だろう。が、あくまでそれは一般人相手に対してだ。生き返りチャレンジを受けている人間が、襲撃する学校の生徒に混じっているとは想定していないだろうし、そもそも存在自体を知らない筈である。

 つまりが、何度でもやり直せる僕らには効果が薄れ始めているのだ。そりゃ初見では怖かったし驚いたけど、そろそろ見慣れてくるってものだろう。

「うーん。他には何かないのかな?」

「あ、そういやマスク引っぺがしてやったんだっけ」

「そっちの方が重要じゃないか!」

 そうだよ忘れてた! 相手の顔さえ分かっていれば、そこからパーソナルなデータだって割り出せる。ビバ文明の発達した世の中。

「けど忘れちゃったのよね。おっかしいな。興奮し過ぎちゃったのかしら」

「……仕事、あんまりしてないよね」

「はあ? だったらあんたはどうなのよ? しっかり体育館まで行けた訳?」

「うん。それと僕が言っていた仮説も当たっていると思う。体育館の周囲には見張りが何人もいたし、クラス単位で行動させられていたからね。多分だけど、余計な混乱を起こさない為に順番で連れてかれるんだよ」

 黙る明石さん。

「そ、それじゃ、どうして今回はミスった訳? 上手くいってたじゃないの」

「あ、僕が撃たれちゃったんだよ」

「あんた馬鹿でしょ。どれだけ撃たれりゃ気が済むのよ。この、ドマゾ! 鉛弾食らって興奮してる場合じゃないっつーの」

 してないよ!

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