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テロリスト〈2〉

「誰だ?」

 テロリストが携帯をしまい、懐から銃を取り出す。喋ったのは僕だけど、ええいもう、少しぐらい声を出したって良いじゃないか!

「こちらとしては、見せしめに一人ぐらい殺しても構わないんだが」

 そっちの都合なんて知らないよ。うわ、こっちに来た。やばいやばいやばい、顔を合わせちゃ駄目だ。

 テロリストがこっちを向く瞬間、僕はさり気ない動きで俯く。掌には、じっとりと汗が滲んでいた。

 こつんこつんと、静寂を塗り込めた教室に足音が響く。

 こつんこつんと。

 その足音が、僕の近くで、止まった。

「お前だな」

「――――っ」

 声は出せない。息も吸えない。前も見れない。

 違う。違う違う違う、僕じゃない。僕じゃないよ。

「こっちを向け」

 体の芯まで凍て付かされるような声が降り注ぐ。

 無視を続けていたのだが、こめかみに硬く、冷たいものを押し当てられた。およそ生命の欠片すら感じられない、金属の感触。銃口が、こちらを見ている。

 僕はゆっくりと、顔を上げた。

「お前だな?」

 どうせ違うと言っても撃つのだろう。もう良い、諦める。

「ええ、そうです」

 笑ってやった。テロリストはマスクのせいで表情どころか顔すら見えなかったが、幾分か驚いているようにも見える。

 殺されても良い。やり直しの利く安い命だから。どうせなら、この人を精一杯おちょくって死ぬのも悪くはない。

「撃たないんですか、それ?」

 クラスメートの視線が妙に心地良かった。皆、息を呑んで僕の馬鹿な行動を見ている事だろう。ごめんよ、今から血とか脳味噌がぶしゃーって出る。目を反らしてもらえると助かるんだけど。

「冗談だと思っているらしいな」

「まさか」

 テロリストの指がトリガーに掛かる。

 次の瞬間、彼女は短く呻いている。銃を僕から下ろして、しゃがみ込んで脛に手を当てている。

 何が起きたのか分からないでいると、すっごく楽しそうに笑う明石さんを見て、全てを理解した。

 明石さんは、座ったままの体勢からテロリストの脛を蹴り飛ばしたらしい。やっぱり、起きてたのか。

「あ――お前……!」

 そう、だよな。安い命なんだよ。

 ここまで来ちゃったら、今は逃げる時でも、隠れる時でも、諦める時でもない。

 抗う時だ。

「容赦はしないから」

 明石さんは呟くと、立ち上がって自分の椅子を両手で持ち上げる。

「くっ」

 テロリストは立ち上がろうとしながら、片手で明石さんに狙いを定めた。させない。

 喧嘩なんてした事はない。した事はないけど、やり方なら知っている。覚悟なら決めている。僕は肩口からテロリストに突っ込んだ。

 僕の体格は貧弱なので、女性と言えどテロリストを押し倒す事は出来ない。だけどバランスぐらいなら余裕で崩せる。銃口がぶれ、狙いが反れた隙を衝き、明石さんは椅子を、

「死ねっ!」

 思い切り叩き付けた。

 しかも、明石さんはダメージを受けているテロリストに追撃を欠かさない。自分の机を蹴り、流れるような動作で僕の椅子と机も蹴り付ける。

 今しかない。もう知るか。

「逃げるよっ」

 僕は教室の右の扉から、明石さんは左の扉を開けて廊下に脱出する。外に誰かいたらどうしようかと思っていたが、この階の廊下には僕ら以外誰もいなかった。

「どうすんのよ?」

「状況を確認するんだっ、相手の人数、場所、少しでも情報が欲しい!」

「分かったっ」

 またもや僕たちは二手に分かれる。僕は二組の方、階段に近い方へ駆けた。追っ手は来ない。まだ倒れているのか。それとも残ったクラスメートに袋叩きに合っているのか定かではない。

 上手くいったのか下手を打ったのか分からないまま、走った。

「……なんだって?」

 その途中、思わず足を止めてしまう。明石さんを見遣ったが、彼女はとっくに三階の廊下から消えていた。いや、それはどうでも良い。

「どうして、空っぽなんだ……」

 僕らの隣のクラス、二年二組の窓は開いていた。中には、誰もいなかった。教師も、生徒も、テロリストだっていない。

 体育……じゃない。制服がない。着替えた痕跡なんてどこにもない。なら、どこへ? 特別教室?

 駄目だ。今は情報をもっと集めなきゃ。

 前を向いて走り出そうとしたら、乾いた音が鼓膜を貫いた。

「あ、ぐ……」

 痛い。熱い。

 この感触を僕は知っている。

 撃たれた……! 

 やられた、右足に穴が開いている。足を引きずりながら、廊下の壁に背を預けて傷口を確認すると、ああああ、血が止まらない。痛い。見るんじゃなかった。

「やって……くれたな」

 うげえ、テロリスト。もう復活したのか。クラスメートは案外活躍してくれなかったらしい。細山君なら何とかしてくれると思ってたのに!

 でも、他に発砲音が聞こえなかった事から、撃たれたのはどうやら僕だけらしい。良かった、誰も死ななくて。まあ、そのワリを食って痛い思いをするのは嫌だけど。

「もう一人はどこだ?」

「トイレにでも、行ったんじゃないんですか?」

 へーん、誰が言うもんか。

 あ、目の前まで来られて銃を突きつけられた。

「あっちです」

 僕は明石さんの走り去っていったであろう方向を指差す。だって怖いもん。

「本当だろうな?」

 何度も頷くと、情けない僕にやる気を失ったのか、テロリストは銃をしまった。

「ではそこで大人しくしていろ」

「……医者ぐらい呼んで欲しいんですけど」

「図々しい。自分でどうにかしろ」

 控えめに言ったのに。ま、この場で殺されるよかマシだな。

「あ、ちょっと待ってください」

 テロリストが背を向けたところで声を掛ける。どうせこの傷じゃ満足には動けないし、まともな処置も受けられないまま時間が経ったら死ぬのだ。だから、時間を稼ぐ。僕が情報を収集出来ない分、明石さんの負担をなるべく減らしたい。

「あなたたちの目的って僕たちの命ですか?」

 何ですか? とは聞かない。一番有り得ないであろうものをわざと選んで言った。

 テロリストは答えない。構わない。足を止めてくれているだけで充分だ。

「組織の名前は? どうして羊のマスクを被っているんですか? ああ、構成員も知りたいですね。学校を襲う時、参考にしたいですから」

 とにかく話を続けよう。

「あ、ラーメンの語源って知ってます? ラーメンのメンは麺の麺なんですけど、ラーって言うのは――」

 発砲音。

 その音を聞き付けて、クラスメートが悲鳴を上げていた。うん、一度目も上げて欲しかったなあ。

 つうか、痛い。今度は左足が撃たれていた。もう、血を見ても何とも思わない。

「喋るな。お前の声は嫌いだ」

「……そりゃ、どう、もっ……」

 声が嫌いときたか。僕はあなたの全てが嫌いだよ。人をぱんぱん撃つ人間なんて好きになれるもんか。

 痛くて痛くて、我慢出来ずに横になる。床には自分の血が広がっていて、制服を濡らしていくのだけど気にしてはいられない。あー、後どれくらい持つのだろう。

 ってあー、行っちゃったよあの人。僕の方など見向きもせず気にもせず。

 長くは持たないかも。とりあえず、二年一組の様子も見に行こう。

 廊下に血の跡がべっとりと付いてしまうが、仕方ない。這って這って、死に物狂いで辿り着く。教室の中は見えないけれど、人の気配も、物音もない。二組と同じような感じ。うーん、四組と五組はどうなんだろ。

 皆殺されちゃったって事はないだろうし、これだけ銃声が響いていればテロリストの仲間だって何事かとやって来るだろうし。本当にこの階には僕らしかいないのだろうか。

 あれ?

 でも、そう考えると、さっきの人は僕らのクラスを放ったままで良いのかな。脱走者とか出ちゃうんじゃないのか。いや、これはチャンス。次回以降に繋げられるかも。

 とか思ってたら、四組の扉が開いた。

 羊のマスクを被り、スーツを着て、銃を持った、恐らく男のテロリスト。

 彼は僕の姿を見て驚いていたのだろうか。どっちでも良いけど。

 うーん、じゃあ今のところ、一、二組には誰もいなくて、三、四、五組には人がいるって事か。もしかして、どこか別の場所へ移動したのかもしれないな。

 生徒を一箇所に集めるのが目的なら、運動場か、もしくは体育館ってとこだろう。

「う……」

 まずい。もう駄目。でも、おかしいな。もう少しは生きていられると思ったのだけど。

 眠い。眠い。意識が、薄れて、い――



 目を開けば、そこは真っ白な世界だった。

 白以外には何もない、まっさらな世界。

「グッモーニンエブリワン! いよう、調子はどーだ?」

 最悪だ。

 僕は死神さんに返事をしないでゆっくりと体を起こす。傷跡なんて残っていない。そもそも撃たれた事になってはいないと、分かってはいるんだけど確認してしまう。

「良いじゃん良いじゃん、オレ好みの展開になってきたなー、なー?」

「同意を求めないでください」

「でもだっせーよな。あんな弾ぐらい避けろよ、ノロマ。知ってるか? ハリウッド映画じゃな、主役にはぜってー当たらないんだぜ」

「ハリウッドじゃないし、僕が主役じゃないからでしょう」

 第一、現実が二時間ちょっとの映画みたいに上手くいくわけないだろう。序破急なんてどこかに置いてきたような世界なんだから。

「つまんねー。やられるだけやられてるだけじゃんよ。全然抵抗もしなかったろ、お前。もっとこう、悔しいとか腹立つとか思わねーの?」

 あんまり。

「死ぬ度に悔しがってたら身が持ちませんよ。それより、今回はどうして失敗したんですか?」

「あー、パッツン説明してやれよ」

 死神さんはノートで自分を扇ぎながら、へらへらと笑った。

「……別に」

「いや、何が別なの?」

 明石さんはぶすっとした顔で僕を見ている。

「ちょっと油断しただけよ。あーあ、後少しであいつを殴れたのに」

 そうか、死んだのは僕じゃなく明石さんだったのか。時間稼ぎは意味なかったってところだろう。ま、想定内である。

「何か情報は得られた?」

「は?」

「は? じゃないよ、お願いしたじゃないか」

「ああ、忘れていたわ」

 なっ、なっ、なっ!?

「あー、パッツンは廊下の角を曲がった瞬間テロリストと鉢合わせたんだよ。しかも相手は二人。んで挟まれて死んだ」

「挟まれただけで、ですか?」

「んな訳ないでしょ。ナイフでやられたのよ。あー、ムカつく。ねえ、殴って良いわよね?」

 ああ、だから発砲音がしなかったのか。

「パッツンの抵抗も虚しく、前と後ろから刺されてさー、なんか黒髭危機一髪みてーだったぜ、ひゃっひゃっひゃっ」

「鬼ですか」

「死神だよ。で、今回は無駄死にだったのか?」

 全くの無駄ではないけれど、大したデータは得られなかったのは確かである。

「仮説ですけど、生徒は一ヶ所に集められていると思うんです」

「へー、どうしてそう思うのよ?」

 腕を組んで、値踏みするような視線を向けてくるのは明石さんだ。

「一組と二組には誰もいなかったからね」

「四組五組にはいたわよ。通り過ぎただけだから、ハッキリとは言えないけど」

「一組二組の人たちはいなかった。けど、生徒をむやみに殺すのはテロリストだって好ましいとは思っていない、と、思う。だから、とりあえずは別の場所に連れていかれたってのが自然じゃないかな」

「テロリストの考える事なんて分からないわよ。本当に死んじゃってんじゃないのー」

 その可能性も否定出来ない。否定する材料がない。

 でも、そうなると僕の目的は達成出来ない。ここは無理矢理にでも、皆生きていると信じるしかないな。

「全校生徒を収容出来る場所は限られてる。次は体育館を確認しよう。いなくなった生徒がどこにいるか気になって仕方がない」

 多分、生徒は全員が同じ場所にいる筈。そっちの方がテロリストだって管理も監視もしやすいだろう。

「体育館、ね。なら、次は二人一緒に右側から下りましょう」

「左には敵がいるんだっけ」

 そうよと頷いてから、明石さんは手のひらをぽんと打った。

「忘れてた。テロリストのマスクなんだけどさ、種類がありそうなのよ」

「種類? 羊だけじゃなくて?」

「今度は二人ともが馬のマスクだったわ。妙にリアルな。スーツは着ていたから、違ってたのは被りものだけね」

 どういう事だ? どうしてマスクを揃えない。まさか羊のマスクが足りなかった訳じゃないだろうし。統一性に欠けると言うか、何だか妙に気に掛かる。

「ま、大した事ないと思うわよ」

「うーん。そうだね、出来る事からやっていこう」

 今は話し合うほど詰まっちゃいない。もっと、もっと先を見たい。新しい展開を知りたい。

「あー、もう良いか? んじゃ、再チャレンジといくか」

「あ、はい」

 最近になって気付いたのだけど、死神さんは僕と明石さんが生き返りチャレンジについて話している時、滅多に割り込んでこない。つまらない雑談だったら嬉しそうに飛び付いてくるんだけど。もしかして一線引いているんだろうか。

 人間と死神。

 プレイヤーとゲームマスター。

 生きている者と死を告げるモノ。

 ……チャレンジに関しては距離を取るのが当然か。

 あ、いや待てよ。けど僕が一人の時はもっと色々と世話を焼いてくれていた気がする。うーん、謎だ。



 ふっ、ふっふっふっ、はっはっはっ、あーはっはっはっ!

 僕は遂に見つけたっ、文化の神髄を!

「ねねね、ラーメンのラーって何だと思う?」

 来た、来たよ、待っていたよ。今日はこれだけを楽しみにやってきたんだから。

 今は昼休み。僕は前回と同じように過ごし、舞子さんとご飯を食べている次第である。

 だけど、前回とは違う部分もあるのだ。それは簡単、知識だ。知識である。イッツジーニアス、ビバノウレッジ!

「ああ、ラーメンのラーね」

「うんうんっ、知ってる?」

 キラキラした瞳が実に眩しい。失明してしまいそうだ。

「うーん……」

 知ってる、知ってるよ! でも焦らす。何だか楽しくて仕方ない。舞子さんは相変わらずこちらを凝視し続けていた。

「実はね……」

「うんうん」

 そろそろ言ってあげよう。こういった駆け引きは苦手である。彼女を怒らせてしまうかどうかの境界線が分からないのだ。

「あ、犬」

「へ?」

 舞子さんの視線の先には、食堂の扉をかりかり引っ掻いているドーベルマン。鍵を掛けておいたから入れないのだろう。

「あは、可愛いなー。ねね、入れたら駄目なのかな? ラーメン食べないかな?」

 ちょ、ちょっと待って。奴を招いたら僕死んじゃう。

「や、やめといた方が良いんじゃないかな。ほら、犬が苦手な人がいるかもしれないよ」

「えー。あ、君は犬が苦手なのかな? そいでもって、もしかしてもしかすると君は猫派なの?」

 いや、僕はどっち派でもないんだけれど。

「もし君が猫派なら戦争だね。犬派を集めてどっちが可愛いか勝負だよっ」

 びしっと指を差される。

「えーと、戦争、なの?」

「そうだよー」

 えへーと笑われた。さすが舞子さん、敵にまでスマイルをくれるなんて器が大きい。

「どうやって勝ち負けを決めるのさ」

「ペットの写真を持ち寄ってー、うちの犬はお手をする時の顔は超可愛いんだよーっとかで自慢し合うのっ」

 随分と和やかな戦いだな。

「悪いけど、僕は犬派でも猫派でもないんだ」

「あは、そうなんだー………………はっ、第三勢力!?」

「へ?」

「犬派猫派に続く三つ目の派閥は君だったんだね! ワニ? トカゲ? イグアナ? それともニシキヘビ? 首に巻いちゃうの?」

「巻かないし、どうして爬虫類ばっかりなの!?」

「あは、何だか似てるなーって」

 目が冷たいとか鱗があるとか体温が変わっちゃうとか卵を産むとかそういう事か!

 ストレートを軽々とド真ん中に投げる人だな。失礼過ぎて逆に爽やかさを感じてしまうよ。

「……ま、温かみがないのは確かだと思うけど」

「あは、すねないでよー。そういうんじゃなくて、かっこいいなーって思ったの」

 かっこいい? 僕が?

「あたしワニとか好きなんだ。クールっていうか、うん、何があっても動じなさそうなところとか。ほら、君みたいでしょ?」

 爬虫類かー。でも、舞子さんの人柄からか、悪意は感じられなかった。

「褒め言葉として受け取って良いのかな?」

「プレゼントフォーユー!」

 うわー、楽しそう。

「あたしの最高級の褒め言葉なのさっ、皆に自慢して良いよー」

「そりゃ光栄だよ」

 自慢する人はいないんだけど。



 楽しい時間はすぐ過ぎて、楽しくない時間は中々過ぎない。

 二時五分前、僕らの教室には相も変わらずテロリストがいた。

 ここまでは前回と同じように進んでいる。が、次に声を発して気を引かなければならない。

 目だけで明石さんを見ると、彼女も寝たふりをしながらこちらを見ていた。分かってる。僕にやれって言うんだろ。

 うーん、だけど前回は予想していなかった、ある意味不測の事態だったからなあ。どうせならもっとマシな方法を考えておけば良かった。体育館の様子を見るだけなら、近くに隠れておけば良かったのである。

 それでもやるしかないんだけど。まあ、下手に展開を変えて死ぬのも嫌だから。

 いくぞっ。

「あっ」

「………………」

 あれ、反応しない。テロリストは携帯を見たままで、顔すら上げてくれなかった。声が小さかったのだろう。ならば。

「すみませんっ」

「……何だ?」

「……へ?」

 返事してくれたよ。まずいぞこれも予想外だ。

「…………………………」

 隣からえげつない視線が突き刺さる。

 とにかく、テロリストを油断させたまま明石さんの射程距離に入れなきゃ。

「何だと聞いている」

「あ、その、お腹が痛くて……」

「我慢しろ」

「で、出来ません」

「好きにすれば良い」

 何だ、こっちの方が上手くいくんじゃないか。僕は席から立ち上がり、扉に手を掛ける。

「待て。勝手に動くな」

「……好きにしろって言ってくれたじゃないですか」

 それは即ちトイレへ行く為に自由に、好きに動いても構わないって事じゃないのか。

「我慢するもしないも好きにしろと言ったんだ。我々の許可なく行動出来ると思うな」

 冷たい声だ。そういえば、この人たちって素の声で通している。マスクを被っているからくぐもった声になってるけど、ボイスチェンジャーとか使わないのかな。

「出るなと言った、席に戻れ」

 困る。ここで上手く展開させなきゃ、後で明石さんに何を言われるか分からない。

「出ます。もう限界ぎりぎりです」

 テロリストは業を煮やしたのか、苛々した足取りでこっちに向かってくる。

「いい加減に――――ぐあ……!?」

 やった。誘導成功!

 明石さん渾身の爪先が、テロリストの脛に突き刺さる。攻撃を食らった彼女は蹲っている。油断大敵、注意一秒怪我一生、チャンスはもらった。

 明石さんはテロリストの下がった顔面を蹴飛ばす。委員長のスカートが翻り、細山君のテンションが上がる。

「死ねえっ!」

 しかし口悪いなー。良いんだろうか、化けの皮剥げまくりだけど。

 テロリストの顎が上がったところで、明石さんは更に椅子で追撃。やり過ぎ。細山君のテンションは更に上がり、うひょー! とか奇声を発している。駄目だこのクラス。

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