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食堂〈2〉

「………………」

「ん」

 僕の横に、背の低い誰かが立った。

「……今朝は早いんですね、先輩」

 七篠、か。

 二年以上も見ていなかったからか、今までの分を取り戻すように彼女と出会っている気がする。僕は別に取り戻すつもりはないのだけれど。

「いつもと同じだよ」

「……そうですか」

 七篠は僕に視線を向けず前を見たまま呟く。その視線は多分、何も捉えてはいない。自分以外のモノを射抜くような鋭いものに見えて、その実空っぽなのだ。誰かさんと同じで。

 さて、今朝はどんな話題を振ってみようかな。

「なあ、料理って得意な方?」

「……はい?」

「深い意味はないよ」

「分かりません」

 七篠の声がいつもより冷たく感じられる。

「……した事、ありませんから」

 やっぱり。

「今までに一度も?」

「はい。興味がなかったもので」

 信号が青に変わった。その瞬間、七篠は僕に背を向けて歩きだす。心なしか、いつもよりも早いペースだった。



 玄関で舞子さんと出会い、教室に行く。

 彼女にも料理の腕前を聞いてみたところ、意外にも出来るという答えを得られた。そういえば舞子さん、手先は器用だったっけ。



 ボールを避け、一時間目が始まる。

 ガラスにダンボールを貼り付け、二時間目が終わる。

 明石さんが仮病を使い、三時間目を途中で抜け出す。

「料理?」

 僕は彼女に肩を貸しながら頷いて見せた。

「うん、出来る?」

「はっ、誰に言ってるつもり? 料理の百や二百、余裕で作れるに決まってんでしょ」

「へえ」

 何だか分からないけど凄い自信である。

「何、もしかしてあんた、私の手料理が食べたいの?」

 明石さんは目を細めて僕を見る。意地の悪そうな光を放つ瞳が、猫みたいにくりくり動いていた。

「聞いてみただけだよ」

「あっそ。つまんないの」

「……作ってくれるの?」

「気が乗れば、作ってあげても良いわ。そん代わり、あんたも何か作りなさいよね」

 僕が? うーん、大したものは作れないんだけどなあ。

「肉じゃがとかなら」

「作れる訳……?」

 まあ、晩ご飯は一人で食べなくちゃいけない時が多いから、必然、ご飯も自分で用意しなくちゃいけないのである。僕はお腹が満たされればそれで良いから、凝ったものは作らないのだけれど。

「あんた、他には何か作れるの?」

「手間の掛からないものは結構作るよ。気が向いたら暇潰しに難しいのにも挑戦してみるけど」

「……ふーん」

 何故か明石さんはあさっての方角を向いていた。

「ところで、明石さんの得意な料理って?」

「え? えー、あー、お、おにぎり?」

「握るだけじゃない、それ」

 猿でも出来るじゃん。



「お姉さまっ!」

 中華さんは実験室を飛び出していった。そろそろ三時間目が終わる、かな。

 明石さんは早々と器具の準備をしながら、憂欝そうに溜め息を吐いている。嫌な事でもあったんだろうか。

「お腹空いた」

「え?」

「お腹よ、お腹。あんたは空いてないの?」

「うーん、特に」

 僕は窓を開けながら返事をする。

「親子丼、食べたいなー」

「食べれば良いじゃないか」

「誰のせいで食べられなかったと思ってんのよ、間抜け」

 反論したい。だけど間抜けどころか僕のせいで昼休みが終わった事は否定出来ない。

「……あのさ、僕は誰に、何に殺されちゃったの?」

 だから話を変えよう。

「はあ? 気付いてなかったの?」

「あの時はラーメンで必死だったし、向こうじゃ死神さん怒ってて教えてくれなかったんだ」

「そういやあいつ、機嫌悪かったわね。生理かしら」

 もうその話は許してください。

「で、僕はどうして?」

「犬よ」

「はい?」

 明石さんは僕に流し目を送りつつ、ビーカーを机の上に置く。

「だから、あんたは犬に殺されたのよ」

「い、犬?」

 遂に僕は四足歩行の畜生にも手を掛けられたのか。く、屈辱……。

「学食に入ってきて、あんたを見た瞬間飛び掛かっていったわ」

「そこから見てたんなら教えてくれても良かったじゃないか」

 一部始終どころか僕が死ぬまでの始終全部見てたのに。

「あー、ごめんごめん」

 まさか、この人。

「ご飯を食べようとしてたでしょ」

 明石さんは僕から目を逸らし、準備室へ入ろうとする。こら、もう準備は終わったろう。

「僕の命よりも、親子丼を優先したんだね」

「……違うわ」

 だったら僕の目を見て即答して欲しい。

「まあ、済んだ事だから良いけど」

「やっぱりー? だよねー?」

 嬉しそうにしちゃってまあ。それとも安心してるのだろうか。

「明石さんと僕の立場が逆だったら、僕も同じ事してたと思うし」

「助けなさいよっ」

「横暴だよ!」

 しかし、犬か。どうやって助かれば良いんだろう。学食に行かない。七篠に会わない。どこを変えれば良いんだろう。



 四時間目、終了。

 今回も、舞子さんがアルコールランプを割った事ぐらいしかイベントは起こらなかった。

 昼休みの十分前に授業は切り上げられ、僕は実験室を抜け出す。学食にも行く。七篠とも会う。前回と同じ行動を取る。色々と考えてはみたのだが、下手に行動を変えるよりも、同じ行動を取っていた方が良いと思ったのである。何より、やられっ放しは気に食わない。

「……何か良い事でもありましたか?」

 廊下を曲がったところで声を掛けられた。

「別に」

「先輩と、同じ日に二度も会うとは思っていませんでした」

 僕もだよ。と言うか、一度だって会わないと思っていたのに。

「……運命を感じますね。デスティニーじゃなく、フェイトの方ですが」

 なんで悲しい方の運命なんだよ。

「ふっ、お前とは戦わざるを得ない定めにあるようだな」

「あの、何を言ってるんですか?」

 おぉーい! 折角僕がなけなしのノリを使ってやったってのに。七篠は何事もなかったかのように窓の外を見つめている。もう良い、話を進めちゃおう。

「あ、何か持ってるな、お前」

「……目聡いと言うべきか、鼻が効くと言うべきか。まるで犬みたいですね、先輩」

 僕を四足歩行に例えるのは止めろ。

「冗談です。……これは調理実習で作ったクッキー、みたいなものです」

「ふーん、食べられるの?」

「ええ、お腹は壊しませんよ」

 味や形や色については語らないつもりだな。しれっとした顔で言いやがって。

「良かったら、もらっても良いかな?」

「……良いんですか? じゃなくて、構いませんよ」

 七篠は僕に紙袋を手渡す。甘い匂いはするのだけど、

「黒い……」

 袋を開ければ、超臓器に悪そうな固まりが顔を出した。

「……あの、やっぱり捨てても良いですよ」

 これで僕が死んだら殺人者だもんな。でも、意を決して一つ口に入れる。ガリガリして、シャカシャカして、ザリザリしてて要は美味しくない。だけどやっぱり不味くもない。

「地方の珍味として扱えば売れるかも」

「……やっぱり捨ててください」

 七篠は無表情に、そう告げた。

「いや、もらうよ」

「ゴミと変わらない味ですよ」

「もらうよ」

 温かい。出来たてだからか、気持ちが籠もっているのかは知らないけど、この袋を抱えていたら、少しだけでも気持ちが温かくなる。

「ありがとう、七篠」

 僕の磨耗した心が、満たされていく気分だ。体の調子は悪くなりそうだけど。



 前回と同じく学食へ。七篠が申し訳なさそうに頭を下げるので(クッキーを食べた僕がお礼を言ったから、おかしくなったんだと思われたらしい)、学食でご馳走してもらうのだ。

「しかし、多いなあ」

 そこらに蠢くクラスメートたちを眺めながら、僕は溜め息を吐く。ここが、世界がもし百人の村だったら、僕はとっくに飢え死にしてるだろうな。

「……私が買ってきます。先輩は何が良いですか?」

 うーん、七篠の運動能力を知っているとはいえ、年下の女の子を戦地に送るのはやっぱり気が引ける。

「僕が行ってくるよ。何が良い? 日替わり定食、とか?」

「……ではそれで」

 任された。僕は同じ失敗は繰り返さない。あのミートウォールに正面から突っ込んでも無駄、ならば、比較的手薄な横合いから――殴り付けるように体を押し込むっ!

「うわー」

 負かされた。すっごい痛い。やっぱ無理。

「……私が行きます」

 七篠は僕を見下し、仕方なさそうに息を漏らした。

「僕ラーメンが食べたい」

「分かりました」

 頷くと、七篠は戦場へ向かう。と言うか跳んだ。彼女は不揃いな髪の毛とプリーツスカートを宙に舞わせながら、集団のど真ん中に着地する。

 やっぱり、静御前ってよりは牛若丸だよな。



「……お待たせしました」

 帰ってきた七篠は、トレイを僕に渡し、何でもないような顔をしていた。

 僕はお礼を述べ、確保していた席へ彼女を誘導する。

「……先輩にしては気が利いていますね」

 七篠は席に座るや否や、不躾にそう言った。

「それぐらい僕だってやるさ」

「見直しました。先輩も一応人間だったんですね」

 こんな事で僕を人間として見直すな。しかも一応かよ。

「……食べないんですか?」

「いや、食べるよ」

 僕は割り箸を持って何気なく学食を見回す。と、奥の方に明石さんが一人でぽつんと座っているのが見えた。彼女は何故か何も持っていない。何をしに来たのだろう。あ、目が合った。でも反らされる。

 ん。しばらくすると、明石さんの方へ数人の女子が向かっていく。あー、なるほど。席を取っていたのか。確かに、彼女には人混みでもみくちゃにされているのが似合わない。それにしても、親子丼を前にした彼女は嬉しそうである。

「……先輩?」

 学食の入り口は開いていた。そろそろ、か。

 僕は箸を置き、ゆっくりと息を吐く。

 やってやろうじゃないか。

 立ち上がり、入り口へと向かう。

 ――かちり。

 うん、ドア閉めれば良いんだ。学食が狂乱に包まれている今ならば誰にも気付かれない。幸い、中から鍵が閉められるタイプの引き戸だったので、僕は何食わぬ顔で鍵を閉める事に成功した。

 と、同時、窓の向こうから犬が走ってくるのが見えてしまう。

「黒っ」

 色が黒くて、体付きはすっごいシャープで、何だか、どこかで見た事のある犬種だなあ。

「……ドーベルマンですね」

「うわっ」

 いつの間にか、七篠は僕の後ろにいた。

「って、ドーベルマン?」

 ドーベルマンって、あの、警察犬とかに使われてる犬?

「他にも、軍用として使われていますね。何でも、訓練されたドーベルマンには人間は勝てないそうですよ。それぐらい強いって事なんでしょうね」

 そりゃ、僕みたいなモヤシとアレが戦ったら死んじゃうよな。モヤシが。

「そんな凶暴な犬が何で学校にいるんだよ?」

「……校長が飼ってるんじゃありませんでした?」

「校長が?」

 聞いた事がないぞ、そんなの。

「……先輩が聞いてないだけでしょう。この犬、うちの生徒に可愛がられているんですよ」

 まあ、扉を引っ掻いているドーベルマンが今は滑稽に見えるけど。あはは、くーんくーん鳴いてる。でも僕、こいつに殺されちゃったんだよなあ。

「とりあえず、締め出しておこう」

 もしかしたら、誰かが気付いて開けちゃうかもしれないけど。

 僕はそれよりもお腹が減った。当座の心配さえなくなってしまえば、後はもうどうにでもなる事は経験済みなのである。



 泣きそうになった。

 まさか、ラーメンで、しかも学食の、二百五十円のラーメンで感動してしまうとは思いもしなかった。

 ああ、食べ終わるのが勿体ない。この麺、このスープ、この温かさ! 素晴らしい世界!

「……先輩、私もう行きますね」

 丼から顔を上げると、七篠は退屈そうに僕を見ていた。どうやら、彼女はもう日替わり定食を食べ終えてしまったらしい。

「早いんだな」

「先輩が遅いんです」

 七篠は綺麗になった食器をトレイに載せ、席を立つ。

「ああ、付き合わせて悪かった、のかな?」

「……付き合わせたのは私です。先輩が食べ切るまで待ちたかったのですが、今から部活のミーティングがあるんです」

 昼休みだってのに、部活に入ってる奴は大変だな。

「うん、気にしないで。ありがとな、七篠。ごちそう様」

「いえ、こちらこそ」

 七篠はふいっと顔を反らし、カウンターまでトレイを持っていく。僕は何となく、その姿を見届けていた。



 僕の学校の昼休みは五十五分。五十五分しかない。五十五分もある。このどちらを思うかによって、その人の学校生活のレベルが知れると言うものだ。ちなみに、基本的に僕はお昼ご飯を食べたらする事がない。何もないと言っても過言ではないし、そう言われても強く否定は出来ない。大概の場合、教室か、図書室かで眠るか、本を読むしかなかったりする。

 今の時刻は一時五分前。あと、三十五分も残っていた。暇で暇で仕方がない。

 が、僕にはそんな瑣末な事、大して苦痛ではなかった。本来なら半年近くも何もないところで過ごさなきゃいけなかった僕には三十五分なんて一秒と同義語なのだ。ごめんなさい嘘吐いたかもしれない。暇なものはやはり暇なのだ。

「……ふあ」

 ちょっと眠い。出来るなら人の少ないところでゆっくりしたい。

 そんな訳で、学食を出た僕の足は自然と屋上に向かっていた。ちなみに、あのドーベルマンは姿を消していたのである。諦めてどこかへ行ってしまったらしい。だけど、死んだ訳じゃない。あの犬が校長の飼い犬である以上、そして、僕がこの世界を敵に回している以上、もう一度どころか後二、三回は現れてもおかしくない気がする。

 油断は出来ないな。だけど注意していても、襲われたら一たまりもなさそう。



 僕の学校の屋上は立ち入りが禁止されている。

 別段珍しくはないだろう。最近では、開放されている方が珍しいんじゃないのかな。

 昔自殺者が出た。危ないから。校長が何か隠しているから。屋上の鍵をなくしたから。理由は諸説あるが、僕が入学する随分と前から屋上は閉ざされていたらしい。だから別に、なんとも思わない。

 とある生徒の話だと、学校の屋上が封鎖されていたら何のイベントも起こらないじゃないか。昼休みに女の子とのランチタイムが起こらないじゃないか。と言う事で凄まじい抗議活動があったらしいが、実にどうでも良い。

 しかし、屋上には出られなくても、そこの踊り場めいたスペースには需要がある。

 屋上の扉の前はちょっとした空間があり、そこには使われなくなった椅子やら机、備品等の物置き場、兼、生徒が持ち込む私物等の隠し場所となっているのだ。僕はどうしようもなく暇になった時や眠たくなった時、ここにやってくる。特に、教室が集まっている棟ではなく、実験室などの特別教室が集まっている棟の屋上には人が滅多に来ないし、僕が体を伸ばせるくらいのスペースが充分に確保されているのだ。ちょっとした秘密基地感覚である。

「よ……っと」

 僕は屋上のスペースに私物を持ち込んだりしないが、他の生徒はここに色々と持ってきているらしい。現に、雑誌やお菓子の袋が転がっている。最近では、どこから持ってきたのか知らないが、たくさんの机を重ねて、その上に毛布を載せた簡易ベッドが配備された。誰が使っているか知れたものではないが、僕はそういう事に頓着しない。使えるものは使うし、使えないものは使わない。それだけだ。

 簡易ベッドの上に仰向けになった僕は目を瞑る。

 思えば、ここに来るまで、昼休みを迎えるまでに色々な事があった。車に轢かれたり、植木鉢に頭をぶつけたり、バットやボールやナイフで死んだり、爆発したり窓から突き落とされたり犬に殺されたり……ろくでもないなあ。

 でも、何だかんだでここまで来れた。この先も何とかなるだろう。

 目を瞑っていると、睡魔が緩やかに僕を侵食していく。

「ふあ……」

 あくびをすると、加速度的に睡眠欲が僕に襲い掛かった。うーん、あと三十分あるし、良いや、眠っちゃえ。どうせ誰も来ないだろうし、来てもよっぽど豪胆な奴じゃない限り、寝ている僕を見かけたらどこかに行っちゃうだろう。それに、それに、それに……ぐー。



「う?」

 目が覚めたら、知らない天井が見えた。

 あ、いや、知ってる知ってる。学校の天井だ。どうやら僕は屋上の、この簡易ベッドで眠っていたらしい。いや、案外寝心地良いなあ、これ。

 ところで今何時だろう。僕は時計も携帯電話も持ち歩かないので、時間を確認出来るものを持っていない。

 まずいなあ、遅刻どころか、学校が終わっていたらどうしよう。

 僕は体をゆっくりと解し、ベッドの上から飛び降りる。恐る恐る階段を降っていくと、学校内はやたらと静かだった。特別教室の棟だから元々人は少ないんだろうけど、ちょっと怖い。

 とりあえず三階まで下りて、手近な教室を覗いてみる。壁に掛けられた時計の短針と長針を確認すると、

「……あう」

 あー、やってしまった。午後一時、四十五分。僕の見た時計が壊れてさえいなければ、僕は五時間目を十五分もボイコットしていた事になる。なんてこったい。理由もないのに授業に遅れるなんて、初めてだ。それもこれも生き返りチャレンジのせいだ。もう!

 今から教室に戻らなければいけないのだが、絶対入り辛いよ。辛いよー。……死んだらやり直せるんだよな。

 いや、駄目だ。駄目だ駄目だ僕! 折角ここまで来たんだから頑張らないと。

 僕は気合を入れて、こそこそと渡り廊下を目指す。

「おい」

「はい?」

 渡り廊下に出ようとしたその時、僕は誰かに声を掛けられて、咄嗟に振り向いてしまった。

「……はい?」

 僕に声を掛けたのは、スーツを着て、やたらリアルな羊のアニマルマスクを被って、片手に拳銃を持った(どうせ模型か何かだろう)、声から察するに多分、男の人である。

 って、改めて見たら凄い格好だなこの人。今から仮装パーティーにでも行くんだろうか?

「何故外に出ている?」

「あ、寝過ごしちゃって。今から教室に向かいますから」

 もしかして、いや、もしかしなくてもこいつ不審者だろう。こんな人、生徒でも教師でもいない。いる筈がない。いたら嫌だ。部外者が簡単に入り込んでいる事に、この学校のセキュリティに一抹の不安を覚えながらも、それよりも何よりも関わっちゃ駄目だ早く逃げなきゃと僕の頭の中で警告音が響いている。わーにんわーにん。

「逃げるつもりではないだろうな?」

 自分の格好を鏡で見てから言って欲しい。羊のマスク被って銃握ってるようなハイセンスな人から逃げない道理はないだろう。

「僕急いでますから」

 そう言って、僕は渡り廊下に足を踏み入れた。

 その瞬間、乾いた破裂音が僕の耳朶を強く打ち据える。気付いたら、僕は体を痙攣させて倒れ込んでいた。

「疑わしきは罰するだ。悪いな、坊主」

「……はい?」

 あ、熱い。お腹が熱い。

 あ、痛い。お腹が痛い。

 そっか、血が流れてるから、僕は怪我をしちゃったんだな。

 ……なんで、怪我しちゃってんの僕?

 その疑問には誰も答えてくれない。誰も答えをくれない。

 僕の意識は薄れ、視界はぼやけ、体は震え、神経だけが痛いと訴えていた。どうやら今回の生き返りチャレンジはこれにて終了のようである。意味が分からないが、僕はもう死んじゃうからそうなのだろう。あーラーメン美味しかった。

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