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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

影買い人

作者: 雪河馬

午前1時、終電を逃してしまった。


クリスマスの深夜は寒い。コート、手袋、マフラーの重装備でも路上で朝を迎えるのは難しそうだ。

ネットカフェで朝まで時間を潰そうかと思案し、人通りの途絶えた裏路地をとぼとぼ歩いて行く。


「あの、ちょっとよろしいですか。」


突然の声に驚いて振り向く。

そこには灰色のスーツを着た中年男性が、名刺を私の方に両手で差し出しながら立っていた。


「私、こういうものと申します。」


私があまりにも呆然としていると、その男はさらに言葉を続けた。


「決して怪しいものではございません。」


いや、思いっきり怪しいんですけど・・・・・。


私は早足で立ち去ろうとした。

交番はあたりにないし、少しでも人がいそうな表通りに出よう・・・・。


男は後をついてくる。


「すいません、ちょっとだけでもお話を聞いてくれませんか。」


しつこい勧誘のようだ。

私はとうとう走り出したが、ヒールを履いていることもあり、どうしても逃げきれない。

気がつくと、背後からついてきていたはずの男が前に立ち、名刺を私の方に差し出していた。

その異様な迫力に押されて、思わず立ち止まり名刺を受け取ってしまう。


”ナラン商会買取担当 マツモト”

名刺にはそう書かれていた。

やっぱり怪しい・・・・・。


「突然で申し訳ないのですが、実はあなた様にお売りいただきたいものがございまして。」


この人、押し売り?でも、売って欲しいって言ってるし。


「わ、私、たいしたものは持ってません。」


男は人差し指を立てて、私のほうを指差した。


「そんなご謙遜を、あなたは立派なものをお持ちだ。私はそれを是非買い取らせていただきたい。」


「い、いったい何を買い取りたいっていうんですか・・・・。」


男は私に向けた指を下の方に向ける。


その影を一枚分だけ分けて欲しいんです。もちろんタダとは申しません。


男は内ポケットから札束を取り出した。


「これくらいでいかがでしょうか?」


私が戸惑って黙っていると、男はさらにもう一つ札束を取り出した。


「わかりました。これではいかがですか。流石にこれ以上はちょっと・・・。」


これはなにかの悪戯なのだろうか。

誰かがビデオ撮影していて、私がうんと言ったら、いたずらですと種明かしをするとか。

そして動画サイトにアップされて皆の笑い者になるんだろうか。


でも、お金をくれると言ってるんだし、話に乗ってみるのもいいかもしれない。

少しくらいは出演料としてお金がもらえるかもしれないし。

そうだよね、うまくリアクションしよう。

私は笑顔をつくった。


「わかりました。お売りしましょう。でも、どうやって影を売ったらいいんですか。」


男は微笑みながらカメラのようなものを取り出した。


「ご心配なく。これで一枚()()だけです。一瞬ですみますよ。」


カシャ・・・・・・・!


一瞬ストロボのようなものが光り私は目を閉じたが、すぐに目を開く。

何が身体中を撫でたような気がするが、錯覚だろう。


「はい終わりました。ありがとうございます。これはお約束の代金です。」


男は私の手にお金を握らせて、嬉しそうな顔で去っていった。


あれ・・・・・・。

それからしばらく経っても何も起きない。

てっきり『冗談ですよ〜〜!』とか言ってカメラを持った人が出てくると思っていた。

それが夢でなかったことは。私の手の中にある札束が証明している。

一体あれは何だったんだろう。


少し気持ち悪いけど、まあいいか。

どう見ても偽札ではないようだし、動画にアップされたとしてもギャラとしては充分すぎるくらいだ。

これくらい貰えるならあとで笑い者になったってかまわない。

ちょうど欲しかった服があったんだよな。

私はタクシーで家まで帰ろうと大通りへ出て駅の方へ歩く。


大通りに出ると、まだカップルや酔っぱらったサラリーマンがちらほらと歩いていた。

カップルは駅から反対の近隣のお洒落なホテルにむかっているし、サラリーマンは私と同じようにタクシー乗り場へと向かっているようだ。

何組かのカップルにすれ違い、何かおかしいことに気づく。

私とすれ違う人全てが皆ギョッとした顔で顔をみるのだ。

『あれってマスクだよね・・・』と呟いている声も聞こえた。

私は立ち止まり、ビルのガラスに自分の顔をうつしてみた。


鏡に写っていたのは、私の服を着た人体標本だった。

そこにはあるべきはずの皮膚がなく、筋肉と血管が剥き出しになっている。

私が叫ぶと、その人体標本も口を開けて叫ぶ。

目を閉じたくてもまぶたがなく閉じれない。

私は絶叫し、そのまま意識を失い倒れ込んで行った。



宇宙船の中でマツモトは地球人の偽装をとき、触手を伸ばしてくつろいでいた。


今回も良い皮が手に入った。

地球の動物の皮はいまブームだし、その中でも地球人の皮は特に高額で売買される。

今回の皮は若いメスのものだし、きっと高値で売り捌けるだろう。


昔に比べれば随分取引もスマートになった。

以前は殺して臓器を取り出してから剥製をつくってたものだ。

たまに落とし物をしたりしてキャトルなんとかとか騒がれたこともあったな。

惑星生物保護団体の連中もうるさかった。

地球人が羊という生物の毛を刈るのを見て、この商売を思いついたボスはすごい人だ。

これなら殺すこともなく目的を達成できるし、保護団体の連中も文句を言わない。

影一枚分の皮を失うだけだし、それに見合う対価もちゃんと支払っている。

なんて平和な方法だろうか。






風邪を引いて寝込んだのと、他の作家の方の作品を読んでいると止まらなくなりまして・・・。

久々の投稿です。

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