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プレイヤー二十人でお送りする、異世界デスゲーム  作者: PKT
開始から一週間
27/39

ホタルとミカン 1

 早朝というほどでもない時間。ホタルは波の音で目を覚ました。

 寝袋からもそもそと体を出し、水を一口飲んでほぅと息を吐く。そして、精霊の姿がないことに気付いた。

 周囲を見渡すが、発光体は見えない。別に心配する理由も義理もないのだが、あったものが急になくなると、やはり気になる。

 とりあえず、外を探してみようかと水をバッグに戻そうとしたところで、底の方で何かが明滅しているのに気づいた。というか、精霊だった。まるで寝息を立てているかのように、規則的かつゆっくりと、体を明滅させている。

 とりあえず、精霊に気を付けつつ食料を取り出して、朝食をとることにした。土の壁を見ながら食事というのも味気ないので、空気と景色目当てに外へ出る。朝日を浴びながら大きく伸びをして、欠伸を一つ。そして、乾パンに似たビスケットを一齧りする。思ったより塩味が強く、少し顔を顰める。とりあえず、水を置いて出てきたことを後悔した。

 

どうにかビスケットを食べ終えたところで、精霊が外へと出てきた。ホタルの周囲をくるくると飛び回り、手の平を出すと、その上にちょこんと乗った。少し、可愛いと思った。重さは感じないが、僅かにひんやりした空気を発している。

 精霊も起きたことだし、島の散策をしてみようと荷物を取りに戻る。そして、リュックを背負って外へ出たところで、背後から声をかけられた。

「えっと、こんにちは?」

「っ!?」

 バッと振り向くと、そこにはぎこちない笑顔を浮かべた黒髪の女の子が立っていた。無人島と聞いていて、人がいるとは思っていなかったので、指輪はリュックの中だ。しかし、ホタルは直感でプレイヤーだと確信した。そして、背後と両脇に獣人と思しき人型を連れている。

「貴方、プレイヤー、よね?」

「ええ。そういう貴方もでしょ?でも、構えなくていいよ。私は話をしに来ただけだから。そっちがその気なら、この子たちに相手をしてもらうけど」

 会話しつつ、ミカンは相手の手の動きに注意を払っていた。不審な動きをしたら、すぐに合図を出して取り押さえてもらうつもりだったが、それは杞憂に終わった。

「そう。どのみち、この人数差だと戦うには不利だし、そのつもりもないしね」

 そう言って、ホタルは両手を挙げてみせた。

「それで?話をしに来たって言うのは?」

「まずは、この島に来た目的かな。そこにいる精霊さんに関わる事かな?」

 ”そこにいる”とミカンは言ったが、実際にはミカンには精霊は見えていない。これは、彼女なりのブラフだ。暗に、それが精霊だという事は分かってるし見えてもいると伝えることで、彼女が精霊を使って仕掛けを打ってくるのを牽制したのだ。

「それなら簡単。この子を、この島にあるっていうパワースポットに帰しに来たんだよ」

 ホタルは、疑うことなく言葉を飲みこみ、かつ自分の目的を明かした。

 ミカンは、ちらりとコンへと視線を向ける。小さな頷きの返事を得て、どうやら嘘は言っていないようだと仮定しておく。そして、さらに探りを入れていく。

「それを達成すると、報酬がもらえるとか?」

「ううん。ただの成り行きなの。私にとって得になることは何もないんだ。でも、なんだか見捨てておけなくて」

 そう言って、どこか照れた笑いを浮かべるホタル。ミカンにはそれが演技には見えなかったが、それでも完全には信じない。

「ねえ?貴方ならパワースポットって場所、わかるかな?わかるのなら、案内してくれると助かるんだけど」

 逆にホタルから質問を受けて、ミカンは少し考える。

「・・・私は知らないけど、後ろの子たちなら知ってるかも。で、パワースポットに精霊を返したら、貴方はどうするの?」

「うん?どうするも何も、また海を渡って帰るだけだよ?」

 ミカンは、ふと湧いた疑問に、内心で首をかしげる。船がこの島に来たという情報は、聞いていない。ネコフクロウ達には、空から島の巡回をさせているので、船のように目立つモノが来たら気づくはずだ。なら、彼女はいったいどうやって来たのか。

「貴方はいったいどうやってここへ来たの?やっぱり船?」

「ううん。特殊な術を使ってきたの。私も詳しくは知らないんだけど、それを使えば海の上を滑ってきたりできるの」

「それは、魔術とか魔法とかの類?」

「ちょっと違うんだ。自然術っていうらしいんだけど」

「ふぅん・・・」

 ミカンは心のメモに、自然術という単語を書き留めておく。

 ともあれ、敵意や害意はないらしい。ここは、さっさと要件を済ませてもらって、変な気を起こす前に立ち去ってもらうのがベターだろう。そう考えて、ミカンはコンに訊ねる。

「ねえ、コンはパワースポットってわかる?」

「例の滝壺の事かと思います。あそこは、水精が多く集まっていますので」

 そう人語を話して答えたコンに、ホタルが僅かに驚く。

「じゃあ、案内してあげる。道中で、その自然術っていうの詳しく教えてくれない?」

 さりげなさを装って、ミカンがそう訊いてみる。ホタルは、自然術の情報を与えるリスクを少し考えて、それでも肯定の返事を返した。

 そして、コンとミカンが先導する形で、一行は目的地へと歩き始めた。

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