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プレイヤー二十人でお送りする、異世界デスゲーム  作者: PKT
それぞれの初日
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近藤秋乃の初日

 睡眠から覚醒するような感覚で、アキノは目を開いた。

 視界が開けると同時に、呼び込み合戦による喧騒が耳を叩いた。

 ここは、コンラード島東部の交易都市メルカル。

 武器や防具をはじめとして、珍しい魔道具や触媒。あるいは食料品や日用品、家具や雑貨まで何でもそろう商業都市でもある。

 化身という存在から一通りの説明を受けた後、どこからスタートしたいかと問われて、アキノは物資が豊富そうなここを選んだ。


 現地へ直接転移させると言っていたので、周りの人達からすれば突然アキノがそこに現れたということになる。・・・はずなのだが、周囲の人間に大きな動揺はなかった。

 高位の魔術師であれば、転移魔術くらいは難なく使えるため、突然人が現れたくらいでは驚愕などしないのだろう。

 化身によって、直接脳に書き込まれたこの世界の知識から、アキノはそう判断する。


 改めて自分の姿を確認する。服は転移前まで来ていたものではなく、この世界の標準らしいそれへと変わっていた。普段着ることのなかったワンピースというのが少し不満だったが、見慣れない格好をして注目を浴びるよりマシと納得する。

 肩掛けのポーチの中身を確認してみる。この世界の金貨と銀貨、合わせて十万ペカ。

 ペカはこの世界のお金の単位で、おおむね日本円と同じ感覚で使える。


 まずは今日の宿を探すべく、宿場の集まる地区の方へと歩を進める。

 この辺りは露店の立ち並ぶ地区となっている。

 その内の一店の前で、アキノの足が止まる。

 それは食材店だった。魚を始めとした海産物が並んでいるらしい。

 アキノの目には、どれが鮮度の良いものか、より栄養価が高いか、そして美味であるかがなんとなくわかる。これが目利きの効果なのだろうと、確信するアキノ。こちらの世界でも、存分に料理を楽しめそうだと僅かながら興奮する。


 アキノは、他のプレイヤーを殺してでも勝ち残ろうという気概はない。異世界を旅行感覚で楽しみつつ、安全な市街地で他が脱落するのを待つ方針だ。

 彼女は暴力を好まないし、ましてや人の命を奪うなどと考えたくもなかった。

 その為、最も自由度が高く実力が全てである冒険者という道は、ハナから考えていなかった。

 アキノの予定としては、料理店で働かせてもらうことで生計を立てるつもりでいた。

 異世界の料理を勉強できる上、お金を貰えるなんて天国だと思えた。

 アキノは、母の意向により家事を一通り仕込まれている。洗濯や掃除に楽しみは見出せなかったが、唯一料理にだけは情熱を傾けられた。

 食材一つ一つが、自身の手により料理へと変わっていく事に、何とも言えない楽しさを感じるのだ。

 そして、それを家族や友人が美味しいと言って食べてくれる姿が、また好きだった。


「お嬢さん、どうです?どれも獲れたてですよ」

 店主から声をかけられ、ハッと我に返る。自分はどの程度の時間物思いに耽っていたのか。恥ずかしく感じると共に、店主の言葉の嘘に気付いた。

 獲れたてという割には、いくつかの魚は鮮度が大きく落ちている事を、スキルが教えてくれる。

 どうやら、商業都市だけあって商魂の逞しすぎる部分があるらしい。しかし、目利きのスキルの便利なこと。いっそ、二ホンに戻ってもそのまま使えないかなと思ったりしてみる。


 その後は、特に足を止めることもなく宿を探す。

 周囲の建物が、商店から徐々に宿へと変わり始め、雰囲気も宿場町の様相を呈してきた。

 年季の入った建物から、新築らしい石造りのモノまで様々だ。

 アキノが選んだのは、新築の綺麗な宿だった。ただし、最新ではなく建築から一年程度経過したものだ。

 理由は、古いモノだと盗人に入られやすく、最新だと費用が高いと考えたからだ。

 また、商業地区からやや離れた宿を選んだ。商業地区の傍の便利な立地の宿は、さぞかし値段が高いに違いないという考えからだ。

 選んだ宿は、一日四千ペカ。二階の部屋でドアは鍵付き。家具はベッドと机と椅子のみ。

 調理場がないのは残念だったが、料理の欲求は職場で解消することにして、当面の住処をここに定めた。


 おかみさんに今日と明日の分の代金を渡し、再び商業区方面へと繰り出す。

 目的は、夕食と働き口を探す事だ。ここまで歩いている間にも、いくつかの食堂などを見止めている。

 こちらの食堂はどんな作りなのだろうか?厨房の中は?どんな料理を提供するのか?

 アキノは期待に胸膨らませながら、スキップしそうなほど軽やかな足取りで、先程来た道を引き返していった。

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