舞い降りし救世主
新しいキャラの登場です。
ビオラと出会い、俺が特異能力を持つことが分かってから数日。
特にこれといった変化はなく、いつも通りの森に潜っては戦闘訓練を積んでいた。
今の状態でのこのことラリーの所に向かっても返り討ちにあうのが関の山。人の街に行けば容易く討伐されてそこでゲームオーバーとなる。
ならばもう少し強くなってから復讐をしようとなった。
ビオラには俺の私怨に付き合ってもらって申し訳ないと思うが、彼女も、わだかまりが残ったままというのはよくないと、協力してくれることになった。本当、彼女には頭が上がらない。
それで、今までと変わったことはビオラという仲間を得て、以前よりも効率的に魔物を倒せるようになったことと、ステータスが上昇したおかげで少しだが、魔物と接近戦で渡り合えるようになったことか。
ワンランク上がるとやはり今までとは全然違う。思いの外、力は出るし、スピードも速いので、慣れるのに少し時間がかかった。
元々、ステータスが上がると今までの体感と異なってくるので慣らし運転が必要なのは分かっていた。
戦闘に慣れたビオラもステータスのランクが上がって戸惑っていたのだから。
それでも上がって早々に順応していたのは流石としかいいようがない。
で、ビオラのステータスだが、彼女から見せてもらった所こんな感じであった。
ビオラ・オルクス
十八才
ステータス
筋力 S
体力 S
耐久 S
敏捷 S
魔力 C
魔素量 B
ステータスだけ見ると俺より強い。実際、今ビオラに襲われたらまず勝てないほどに。
俺は彼女の元のステータスが分からないのでどれほど上昇したのか判断が難しいのだが、ビオラ曰く全てのステータスがツーランクは上昇しているのだと。
そうなると血の盟主はとてつもない効果を持っていることになる。
何せステータスを常時二段階引き上げるのだ。それはもはやデバフの存在をバカにしているといっても過言ではない。
そして、血の盟主の契約条件は俺に忠誠心を持っていることだけ。
無闇に契約して反旗を翻されたら俺が危うくなる。勿論、俺から契約を破棄出来るので、危険と判断したら一方的に契約を破棄するわけだが。
とはいえ、相手を見て契約しなくてはいけなくなるな。自身の驚異となりうる存在は身近に居たりするのだから。
それは俺がよく痛感しているし。
で、ビオラの話しだが、彼女は魔法の才能はあまりなかった。というか、ダークエルフ、アビスエルフ全般は魔法が全然使えない。
使える魔法も限られており、使えても闇属性魔法くらいの物だ。
これがダークエルフとエルフの違いらしい。
この間も言われたがダークエルフは身体能力に優れるが故、魔素量が少なく、魔力も低いし、使える魔法も限られている。
対してエルフは身体能力は低いものの、魔素量が多く、魔力も高い。魔法も闇属性以外は問題なく使えるのだ。
この対照的な種族特性が両種族を対立させ、大きな溝を生む結果となっているのだとか。
元は共存していたのにいつしか対立するようになったのはとても悲しいことだと彼女は言っていた。
共同生活をする上で、問題が出てくるのは仕方ない。お互い、パーソナリティーがあり、主義主張があるわけだから。
それ故に悲しいすれ違いがあるもので、彼女の主張としては僕たるもの、出来るだけ主のお側にお仕えするのが義務ですと言う。
俺としては個人の時間も大事なのでそれぞれフリーなタイムを設けようと提案して一蹴される。
だから基本的に俺の傍にはビオラがいる事になる。トイレと水浴び以外。
そうなると年頃の男の子である俺はフラストレーションが溜まっていくわけですよ。
更に、時折何を思ったのか俺を抱き締めてくるからたまったものではない。
兎に角、柔っこい感触は気持ちいいのだが、俺のジュニアが反応してしまう。あまりにキツイし、恥ずかしい。本能には簡単に逆らえないのだ。
我慢出来なくなるので、やめてくれと言うと、アーク様成分を補充しないと暴走しますよ、と訳の分からない事をのたまって脅してくる。
溜まりに溜まったものが翌朝出ていた時は本当に焦った。シーツが僅かに汚れてしまって、もうどうしたらいいか分からなくてパニックになった。
まず、隣にはビオラがすやすやと寝ていたのでシーツを取ることが出来ない。ならば、正直に言うしかないが、素直に生理現象なのか、それとも嘘をついてお漏らししたと言えばいいのかと、どうしたらいいのか悩みまくった。
相手は女の子から女性へと成りかけの時期、異性に対する興味もあれば、恥ずかしくて仕方ないところもあるはず。下手な事は言えない。
ぐるぐると思考を回転させて答えが出ない迷宮へと突入する中、ビオラが起きてしまって俺の粗相を発見するとニンマリとしてくれやがったのは本当に辛かった。
これ、ネバネバしますねと言われた時には穴に入って封印されたかったです。
匂いを嗅がれた時はもう恥ずかしくて泣いた。てか、なんで嗅ぐよ。普通嗅がんでしょ。
なんか恍惚とした表情だったのは見なかったことにしよう。
とまぁ、中々辛い共同生活を送るも、なんとか頑張ってます。はははははは!
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「おい! あっちに逃げたぞ!」
「くそ! 誰だよ檻の見張りサボってたの!」
「仕方ないだろ! 魔物に囲まれたんだから! てか、お前も怯えて逃げたろうが!」
「んなん今はどうでもいいだろ! 今はあいつを捕まえることに集中しろよ! 鬼族のメスであんな上玉、逃がしたなんて知られたら俺らの首が飛ぶぞ! 物理的に!」
後ろから男達の声が聞こえる。必死に走っているのに突き放せないのはボクのステータスが低いからか。
鬼族は基本的に身体的ステータスが高い。けど、どういわけかボクはステータスの上昇が悪く、仲間内から煙たがられていた。
そして、ステータスが低いことが災いして、人間共に捕まってしまう。
結局、落ちこぼれのボクはこんな役しか回ってこない。お父様の領では力の無い私は蔑みの対象でしかないからと、魔族領外れの辺境の村に預けられ、食料を取りに森に行けば人間共に拐われる。
良くて戦闘奴隷だけど、人間共の話しを聞く限り私が行き着く先は完全に性奴隷だ。
見た目だけなら確かに自信はあるけど、それが人間共の琴線に触れたのだろう。
どうやら鬼族は中々捕まらないそうで、希少価値はかなりあるらしく、しかもボクはメスの子供。
好事家が高値をつけるのは確実だそうだ。
お先は真っ暗で、望みなんてないと思っていた。けど、この森の横を通りかかった時、私を運ぶ馬車は魔物の群れに囲まれて、魔物に食い殺されて終わりなんだと覚悟した。むしろ慰み物にされずに済んで良かったとすら思いもした。
でも、幸運な事に、ボクが入っていた檻に魔物が攻撃してきて檻が歪んだおかげで脱出して今に至る。
だからこのチャンスを逃す訳にはいかない。ここで逃げ切らないと、ボクは終わる。
止まらず兎に角走り続けろ、でなければ捕まるから。奴等は直ぐ後ろに迫ってるから。
「いた! おい! まてこら!」
「はぁ! はぁ! はぁ! 」
「はっはぁ! 逃げられんぞ!」
男達が真後ろから手を伸ばしてくる。少しでもスピードを降ろせば捕まれる距離。
縮まることはあっても離れることはない。でも諦められない。絶対に。
「ここまでだなぁ!」
「ううぅぁぁぁ!」
もう駄目だ。もう逃げ切れない。なんでボクはこんなにもステータスが低いのだろう。
魔素量ばかり多くてもなんの役にもたたない。こんな奴等にすら力で負けるのだから。
あぁ、本当、最悪だなぁ…………。
「ガウ?」
「え?」
「へ?」
「は?」
「ほほ?」
目の前に黒くて大きな魔物がいた。
顔は醜い魚のようで、コウモリの翼を生やし、鋭い爪はおぞましく、恐怖を覚えさせる。
大きさはボクの数倍。それどころか大人の倍はあるだろう。
見た目は噂に伝え聞くドラゴンだ。もしこれがドラゴンならばボクは、いや、ボク達は終わりだ。
ドラゴンはまさに災害。死を振り撒く生きた災害。対抗出来るのは魔族の伍魔皇か天族の五天支、それと人間の特級冒険者達くらいか。
とてもじゃないがこの場にいる者達でドラゴンに太刀打ちなど出来ない。
そうか、ボクはどちらにしても助からないのか。性奴隷に堕ちて汚されて一生を過ごすか、この森で殺されて尊厳だけは守るかのどちらかだったんだ。
であればボクは神に感謝せねば、尊厳だけは守られた。この身を汚される屈辱だけは回避出来たのだから。
「くっそ! 逃げるぞ! こいつジャバウォックだ!」
「うっうわぁぁぁ!」
「ひぃぃぃ!」
「あっ……」
人間達は皆一目散に逃げていく。それはそうだろう。こんな化け物を目の前にしたら逃げるしかない。
ボクも逃げたかったが、それは救いの道ではない。逃げてもその先は絶望だけ。
だったらいっそのこと、ここで死んでやる。
「ガルルル」
ドラゴンはボクを見ながら近づいてくる。口からは鼻が曲がりそうな悪臭が漂う涎を垂らしながら。
最早ボクの事を食料としてか見ていないようだ。こうなれば助かる望みはない。
諦めて大人しく食べられてしまおう。一生を凌辱されて生きるよりもずっと救いがある。
スモーキークォーツ家の者として死ねる。
あぁ、でも……。
「……死にたくない……」
涙が溢れて止まらない。死を覚悟しても死にたくない。誰か助けてと願う。
「……いやだよぅ……死にたくないよぅ……だれかぁ……」
助かりたいと思ってしまえばもう止まらない。恐怖と後悔が止めどなく溢れて私の心を締め付けてくる。
身体中が震えて止まらず、心臓は激しく鼓動を繰り返す。
視線は地面を見つめるしかない。見上げるなど到底出来ない。
だって、見上げればそこには死が顎を開けて迫っているのだから。
「……なんだ、鬼族か…………いやなんでここに居るん? て、今はそれどころじゃないな。ホーリーリストリクト」
「え?」
「ガ!?」
突如男の子の声が聞こえたと思ったらドラゴンが光りの鎖に捕まっていた。
上を見上げればそこには二色の翼をはためかせる救いの権現が飛んでいた。顔は幼いながらも整い、あまりの美しさに心が震える。
まるで光りと闇という相反する存在を奇跡的に両立させたそのお姿。
混沌を体現せしその姿は一つの芸術のよう。これが至高の存在と言わずしてなんというのだろう。
先ほどは恐怖で震えていたのに、今は歓喜で震えが止まらない。
その美貌を見つめればさらに心臓は高鳴り、最早制御など出来ようはずもない。
「動きを止めてしまえばジャバウォックも恐るるに足らんな。潰れろ、ダークネスアームズ」
「ギャウ!」
空間から闇の腕が現れてドラゴンを握り潰した。
あれは闇属性の上級魔法、ダークネスアームズ。闇の腕を自由に操って物理的に潰す魔法。
とても硬いし、力も凄いから使われたら兎に角その場から離れろってお父様が教えてくれたなぁ。
それよりも、驚くべきは彼が無詠唱でホーリーリストリクトとダークネスアームズを使ったこと。
しかも無詠唱でドラゴンを滅ぼすほどの威力。明らかにこの方は強大なお力を持つお方だ。
「……やはり魔法の威力が上がっている? だがステータスは上がっていないぞ……ウ~ム、分からん……」
「あ、あの……」
「うん? あ、すまんな無視してしまったか。ところで、何故鬼族の子供がこんなところに?」
「色々とありまして…………それよりも、ボク……我が身を貴方様にお捧げします。偉大なる我が救世主様。どうかお側にお仕えさせてください」
「…………へ?」
決めた。ボクはこの方と共に生きよう。片手間にドラゴンを滅ぼす偉大なるお方。
強大な力を持つお方に仕えるのが鬼族の至高の喜びなのだから。
それに顔がめっちゃ好みです! 惚れました!