復讐の終わり
「さて、次はこいつだな」
ベルスの尋問を終えて一段落した後、次はルルカを見ながら、どう攻めるか考える。彼女は両手足をロープで縛られ、口にはロープを噛まされるように回され、喋れないようにされていた。
口のロープは涎で汚れていて、とても汚ならしい。後であのロープは破棄せねばな。
「……起こしますか?」
「そうだね。ちんたら時間を掛けているのも無駄な気がするし」
正直尋問そのものが無駄なんだがな。俺の魔法には記憶を読み取ることが出来るものがある。
それを使えば尋問の必要は一切ない。ただ、それでは俺が過去に受けた屈辱は晴れない。
故にわざわざ拷問をして溜飲を下げていた。
「分かりました。ほら、起きろ」
「ぐべ! がほっがほっ!」
槍の石突きでルルカの腹部を叩くと乙女にあるまじき声を出して咳き込む。
ロープを噛んでいるため、上手く咳き込めず苦しそうだな。まぁ、吐瀉物がなかっただけよしとするか。
にしても、ビオラさんは容赦ないな。怒らすと怖いタイプかもしれん。
「ビオラ、口のロープを取ってくれ」
「はい……せいっ」
「ひいぃぃぃ!」
俺の指示を聞くとビオラは槍の穂先を地面に突き立ててロープを切断した。
うん、ビオラってやっぱり情け容赦ないよね。
「やぁルルカ。久しぶりだね。元気そうでなによりだよ」
「ア、ア、ア、アーク…………ひっ! ベルス!?」
「うん? あぁ、あいつはちょっと五月蝿くてね。少し黙ってもらったよ。ま、永遠にだけど」
「うそ、い、い、いや……」
ルルカは動かなくなったベルスを見て怯え出す。
ホーリーリストリクトに縛られたままなので端から見たら猟奇的状況だな。
そんな趣味はないんだが……。
ベルスの体にはいくつかの裂傷があり、手の指はぐにゃぐにゃと折れ曲がり、耳は片方無くなってそこから血を垂れ流している。あ、耳は斬る気がなかったんだよ。頬を軽く斬ろうと思ったらあいつ大袈裟に動いてしまって思わず斬ってしまった。
本当はもう少し痛め付けたかったんだが、途中で飽きてしまったんだよな。
もともと加虐趣味はあまりないので、拷問が楽しめなかったのがいけない。
「……取り敢えず、お前が素直に話してくれれば命は助かる。あいつは言うことを聞かないからああなったんだ」
「…………わ、わ、分かった……分かったから許してぇ……」
俺にした仕打ちを考えれば、殺されてもおかしくないのは自分がよく分かってるのだろう、かなり怯えている。
必死に懇願するようなその目は恐怖に染まりきり、後悔の念を感じているようだ。ただ、なにに対して後悔しているのかは分からないが。
「んじゃま、まずはラリーが何処にいるかだな」
さて、あまり拷問は楽しくなかったが、それでもこいつが苦しむ顔を見るのはありだな。
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「ま、ま、待ってよ! 命は助かるっていったじゃない!」
「あぁ、そう言ったな」
「な、な、なら、た、助けてよ!」
ひとしきりの尋問が終わってそろそろ片付けようとしていた所でルルカに命乞いをされる。
彼女を適当な切り株にロープでくくりつけ、それから爪を順番に剥いだり、太股に剣をゆっくりと刺しこんでいったり、手の指を一本ずつ手の甲に向けて曲げてやったりというところでもういいかとなった。
正直、奴等にやられた仕打ちの半分にも満たないのだが、俺自身がこいつの叫び声に飽きてしまったのだ。
「…………はぁ…………お前達が俺にしたことを考えたら助ける訳ないだろ? そもそも、お前を生かして返したら討伐隊を送りこんでくるだろうし」
「そ、そんな! お願い! 何でもする! この身体を好きに抱かせるから!」
「…………」
うっわ、勘弁してくれよ。
こいつは色んな冒険者と関係持ってんだよなぁ。狙う男は大体そこそこ頭角を表した奴で、大方その男が有名になったらそいつの元にいくためだろう。
兎に角見境がないんだよ。しかも、上手い具合にその事を隠してるから達が悪い。
以前のパーティーだってそのことを知っているのは俺だけだったし。
だから好きに抱いていいと言われてもお断りしたい。だって、どんな病気を持ってるか分からないから。
自ら毒壺に足を踏み入れるのは蛮勇のすることだ。それに、こいつで卒業したくないし。
「ね! 悪くないでしょ! ほら、私の体って男受けいいし!」
まぁ、確かに身体はいいよ。男の劣情を刺激する魅力的な身体つきだ。
それでもこんな緩い女はちょっと勘弁だな。俺にだって選ぶ権利くらいはあるだろ。
「……この女。アーク様になんて失礼な! 貴様のようなゴミ虫を抱くなど! アーク様を侮辱しているのですか!」
「がは! いだい!」
「ビオラ、そこまで。死んでしまう」
ルルカの言葉に激昂したビオラが蹴りを腹に入れる。そこそこの力を入れていたようで、鈍い音が響いた。
下手をすると今ので死ぬ可能性もあるぞ。
「申し訳ありません。あまりに失礼な事をこの虫が……」
「少し落ちつくんだ。こいつが死んだらどうする」
「まさかアーク様!」
ビオラが驚いた表情で俺に詰め寄る。どうしたのだろう、何かすんごく心配そうな顔をしているな。
俺なんかしたか?
「まさかこのような汚ならしい女を!」
「へ? あぁ……違うぞ」
まさか俺がこいつの提案を受けたと思ったのか。そんな馬鹿なことあり得ないのにな。
「では!」
「こいつを殺すのは俺だぞ? 俺の獲物を横取りしないでくれってことだよ」
「は!! も、申し訳ありませんでした!」
ビオラが察したようで、俺から離れて地面に膝を付いて最敬礼をしてくる。
気のせいではないよな。主従契約してからさらに堅苦しくなったような。もう少しフランクにして欲しいんだが。
いや、抱きついて欲しいとは思ってないよ。あの温もりと感触が恋しいなんて思ってないからね。
「構わないよ。さて、ということで、ルルカ、お前はここで死んでもらおうか」
「ちょ! まっ、まってよ! お願いだから助けて! 誰にもこの事は言わない! 貴方がここに居たなんて言わないから! いっそのこと、貴方はこの森に居なかったって報告するし! だからお願い!」
「……それを信じろと?」
「私達、同じパーティーの仲間じゃない! ね! 少しくらい信じてくれても!」
「お前をどう信じろという? お前が俺にしたことはなんだ?」
「そ、それは…………で、でも、し、仕方ないでしょ! あそこで変に声を出せば何をされるか分からなかったし…………ネメシアのように…………それに、生きてるからいいじゃない!」
なんだと? こいつ、そんな認識なのか? ふざけてるな。もし、こいつが本気で思っているなら上等だ、もっと苦しませてやる。
「生きてるから……? ……人の体を的にして、拾った人の剣の試し切りでズタズタにしたり、鈍器でボコボコにしても生きてるならいいのか?」
「ひっ!」
「身体が再生するのをいいことに好き勝手してくれたよな? あの痛みは忘れてない」
「そ、そ、それはベルス達が…………」
「お前だって矢の的にしてくれたろ? いいだろう。死なない程度に苦痛と絶望を味あわせてやるからな。殺してくれと懇願するほどの」
「あぁ……お願い……許して……」
最早慈悲を掛ける気もない。拷問は飽きたが怒りは頂点に達している。泣き叫ぼうが許しを乞おうがやめない。
それからはルルカの絶叫と懺悔の言葉が森の中を響き渡った。
それでも俺は手加減することなく責め続ける。彼女の反応がなくなるまで。
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ルルカにひとしきり拷問を終えて、怒りが収まってきたので、生きている間に彼女の記憶を読み取ってから止めをさした。
彼女の記憶ではラリーとネメシアの二人は別のパーティーを組んで活動しているようだ。
問題は居場所なのだが、どうやら俺達が活動拠点としていたジルリカの街に止まっているようで、手間が省けて助かった。
で、ラリーのパーティーについてだが、ラリーをリーダーにして、奴隷三人の四人パーティーを組んでいる。
そう、ネメシアも奴隷にされているのだ。
どういう経緯なのかはよく分からないが、ネメシアは俺を庇っていたので、その関連だろうというのがベルスとルルカの考えのようだな。
「……さて、取り敢えず俺のねぐらにいくとしようか。もう時期日が傾く。暗くなればゲイザーやジャバウォックの活動が活発になるからな」
「そうですね。少しお疲れのようですし」
「…………今日は色々あったからな……」
本当に今日は色んなことがあって、ちょっと疲れてしまったな。
ビオラを発見してダークエルフの真実を知って驚愕し、ベルス達に再会して復讐を果たし、実は俺にチート能力の特異能力があると分かった。
中々激動の一日で、疲れるのは当然か。
だが、どれも良いことばかりだったのはなんとも嬉しいものだ。
未来への展望も開けたのが最も有難い。この能力を生かせばあの糞兄貴にも怯えずに済みそうだな。
リンシャの死体から服を剥ぎ取り、ベルスとルルカの拘束を解除して使えそうな装備を全て取ってからその場を離れる。
あとは勝手に魔物達が処分してくれるだろう。魔物達からしたら幸運だな。感謝して襲ってくるのを控えて貰いたいが、それが通用するなら苦労しないか。
それと、盾使いの女だが、ビオラは簀巻きにして放置してきたのだとか。
その為、もし脱出されて逃げられたらと思い、確認の為に見に行くと、鎧と盾だけを残して消えていた。あと、小さな骨と大量の血痕も。
ま、魔物が蔓延る森に簀巻きで放置すればそうなるよな。ビオラさん、結構恐ろしいことをしますね。
あ、鎧と盾は回収させて頂きました。
ひとしきりやるべきことを終えてとある岩場に到着する。
ここは水源から離れているので魔物などがあまり近付かない場所で、この森の中では比較的安全な場所だ。
で、岩場の間、洞窟のようになっている場所に入っていくと家具等を揃えた空間に出る。
ここが俺のねぐら。セーフティゾーンで、俺が必死に作った家だ。
周囲には侵入者対策に魔方陣を複数設置しており、決められたルートを通らねば魔法の餌食となる。
それに、魔物避けに軽めの闇属性の幻影魔法を周囲に掛けているのでまずこのエリアに入ってくることはない。
入って来ても岩しかなく、何のメリットもないのだ。
「ここは…………アーク様が?」
「あぁ、俺が天然の空洞を利用して一から作った。ちょっと……いやかなり杜撰な作りの椅子とかだが、我慢してくれ」
ほぼ手作りの自作なので椅子はガタガタしている。それに、俺の体型に合わせた物ばかりなのでビオラには少々小さいのだ。
テーブルも然りで、やはりビオラには少しばかり小さい。これは使う者が俺しか居ないことが原因。
ま、俺一人しか居ないから仕方ないよね。
さて、既に日は暮れ始めているので、朝までここで過ごすしかないのだが、問題がある。
ベッドが一つなのだ。もう一度言おう、ベッドが一つしかないのだ。
これは由々しき事態である。良い予感…………いや、嫌な予感しかない。多分、十中八九俺の予想したむふふな……いや、危険な展開が待ち受けているに違いない。
さて、どうしたものか…………。
「あ、適当に今晩お召し上がる物をお作りしますね」
「え、あ、お願いします」
考えてる最中に声を掛けられたので敬語で返してしまった。ちょっと心臓がバクバクいって痛い。
「ふふ、敬語なんてどうなさったんですか?」
「い、いや、なんでもない」
俺の動揺を知ってか知らずか、置いてあった食材を持って外へ料理をしにいく。
空洞内部で火を起こすのは色々と危ないと思って、外で料理などを行っていた。
ここへ来る途中でその事を話していたので、彼女も外へいき、調理場として使っていた場所へ疲れて向かったのだろう。
さて、目下の問題である寝床をどうするか。
俺が床で寝ると言ったら絶対反対するだろう。だからと言ってビオラを床で眠らせる訳にはいかない。
そうなればどうなるか。もう分かりきっている。共に寝るという選択肢だ。
とはいえ、女性と一緒に寝るのは鳴れている。似たような状況が有って、アイビーとも共に寝たことがあるから。
てか、自分の寝床があってもあいつはくるけど。
人肌が恋しかったので、一緒に寝るのはありだが、如何せん年頃の女の子と男だ。何かあってはいけない。
ビオラが戻ってくるまでに打開策を考えねば。
結局二人で同じベッドに寝ました。いい匂いで色々と危なかったです。