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血の君主

  森の中、俺の目の前で浅黒い肌と、銀色に輝く美しい髪をたなびかせながら、ビオラは両手を重ね、それを口に付けて喉を鳴らしながら飲み干していた。

  口から一筋の赤い液体が垂れ、それが彼女の胸に滴って彼女の美しく艶のある肌を汚す。

  その姿は何処か色香をまとい、とても扇情的で見ている此方が恥ずかしくなる。

  しかも、彼女の飲んでいるものがものなのでさらに羞恥心が加速してしまう。

  赤い液体が彼女の肌を汚すと、とてつもない背徳感が胸に去来し、何故か優越感が沸き起こる。

 

  彼女が飲んでいるのは俺の血だ。何故かビオラが俺の血を飲ませてくれと言ってきたのである。

  最初は疑問に思ってしまった。まさかダークエルフは吸血鬼と同じ血を吸うのかと驚いてしまった。

  しかし、どうやら違うようで、彼女曰く、儀式に必要なことらしい。

  仕方ないので、俺は自分の左腕を切って鮮血を出すと、彼女が手で受け止め、飲み始めた。

  因みに、何故左腕なのかというと、右腕から出た血は毒性を持つのだ。

  デヴィル種の血は毒性を持つため、デヴィル種の特徴を持つ右半身の血は毒となる。

  どんな肉体構造をしているのかと自分自身に言いたくなるが、どうやら出る場所の問題らしく、左半身で血を出すと無害となるのだ。


「ん……ん……ん……」


「…………」


  駄目だ。なんだこの状況、色々とヤバい。

  ビオラがこくこくと俺の血を飲む。何故か美味しそうに。てか、美味しそうというよりも気持ち良さそうに?

  やっぱ吸血鬼なんじゃないかな?


「……ぷはぁ……」


「…………」


  ビオラは血を飲み終わると惚けた表情になる。

  う~ん。何か反応がないぞ。こうなんかないのかね。ご馳走さまでしたとか。いや、違うな。

  取り敢えず、何故俺の血を飲んだのか聞かねばならないだろう。きっと重要な意味があると思うんだが。


「っ!? きた! …………アーク様」


「? ビオラ? っ!?」


  突如ビオラと何かが繋がった感覚が去来する。

  これはなんだ? 一体何が…………。けど、この感覚は以前も感じたような気がする。

  そうだ、アイビーから助け出された時にこの感覚が……。

 

「アーク様。私、ビオラ・オルクスはアーク・サファイア様に忠誠を誓います。偉大なる御力、血の盟主(ブラッドモナーク)の元、我が力をお使い下さいませ」


「……これ……は…………そうか……そういうことか……いいだろう……お前に力を授ける。その代価にお前の力は俺の力となる。我と共に歩もう我が配下よ」


「有りがたき幸せ」


  俺の中に眠っていた特異能力(シンギュラアビリティ)の効果が脳に流れ込んでくる。

  血の盟主(ブラッドモナーク)。俺の血を飲んだ者が俺に忠誠を誓い、それを受諾することで飲んだ者のステータスを大幅に引き上げ、俺は忠誠を誓った者の数だけステータスが上昇する。

  また、俺に従う意志がある者が俺の血を見たり、匂いを嗅ぐと血を飲みたくなる衝動に駈られるようだ。

  忠誠を誓う者が多いだけ強くなる能力か。正に王の能力と言ったところだな。


  どうやらビオラが血の盟主(ブラッドモナーク)覚醒の引き金になってくれたようだ。


  いやまさか、俺に特異能力(シンギュラアビリティ)があろうとは。これならば魔族領に戻って奴に借りを返せるやもしれないな。

  特異能力(シンギュラアビリティ)はこの世界における正にチートの権現。

  非常に強力な能力を持つことが多く、特異能力に目覚めた者はすべからく歴史に名を残している。

  とはいえ、所有者は非常に少ないうえ、どんな能力を持っているのか本人すらも分からずに生涯を閉じることが多い。

  故に特異能力を持つ者が現れれば大騒ぎになる。下手したら国を揺るがす程の騒動になるだろう。


「…………では、行こう。奴等に俺達の力を見せつけに」


「はい」


  この力があれば奴を倒せるだろう。

  勿論、油断はしないよう、気を引き締め、準備を整えて挑む。

 

  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄


「ち! どこいきやがったよ!」


「あまりどんどん進まないでください! 待ち伏せされてるかもしれません!」


「ざけんな! 止まってたら回復されて逃げられんぞ! 折角の金がよ!」


「でも……せめてルルカさん達が目覚めてからでも……」


「あの役立たず共が起きるのを待ってたら日が暮れる!」


「だからってただ置いてくるなんて……」


「眠らされる奴等が悪い!」


  周囲に設置式魔方陣をセットし、諸々の準備を整えてから草むらの中で待っているとベルスと魔法使いの女が歩いてきた。

  ベルスは苛立っているようで、乱雑に剣を振るって草を刈りながら進む。

  片や魔法使いの女は不安そうな表情でベルスに随伴している。目には不満の色が見えており、女を置いてきたことを避難しているようだ。

  だが、ベルスの性格はよく知っている、自分の失態は自分の責任だと切り捨て、二人を放置してここまで来たのだろう。


「……だからって……」


  もし自分が眠らされていたらと想像したのだろう、顔色が青くなっていく。

  だが、同じ女ならば残れば良かっただろうにな。

  恐らくはそこまで仲がいいわけではないのか。或いはベルスという有望な男の取り合いから、あの二人が消えてくれれば御の字と考えてるやもしれない。


「まったく、相変わらずだな、ベルス」


「っ!? 出やがったな! アーク!」


「く! 穢れた落とし子!」

 

  ベルス達はすかさず臨戦体制へと移る。そして、あることに気付いたのか二人揃って辺りを見回し始める。


「ん? どうしたんだ?」


「しらばっくれんな、もう一人はどこだよ!」


「くく! 脳筋のお前も流石に気付くか! ははは!」


「てんめぇ! バカにしてんじゃねぇ!」


  そう、今この場には俺しか居ないのだ。

  実は、ビオラは別の任務を与えてこの場から離れてもらっている。

  まぁ、簡単に言うと後顧の憂いを絶つためにだな。

  盾使いの女は足を切断しているのでそうそう復帰は出来ないが、ルルカは違う。

  あいつは眠らせただけなので、起きたら増援としてここに来るかも知れない。

  さっさと決着をつけるつもりではいるが、最悪の場合を想定するのはやはり大事だからな。


「ははは! ま、その内分かるさ」


「……つ! まさかルルカさん達の所に!」


「はぁ!? てめぇ卑怯だぞ!」


「おいおい、戦術に卑怯なんていうなよ。ガキじゃあるまいし。まず二人を置いて来たお前らが悪いんだろうが」


「くそ! 奇襲なんてクズな戦法をしてくるだけはあるな! どこまでも腐りやがって!」


「……どの口がほざくよ…………もういい。話していると不愉快にさせられそうだ。ここでお前達は潰す」


「はん! はったりもさっきのあれじゃ通用しねぇぞ! おら!」


  ベルスが剣を横に振るうと、俺の体に斬撃線が現れ、一泊置いて斬撃が走る。

  だが、俺の体は一切の傷を負うことはなかった。まるで空を切ったように。


「はぁ!? なんだよお前! 何しやがった!」


「ち! 私もいきます! 近寄らせないでください!」


  魔法使いの女がそういうと足元に魔方陣が現れ、詠唱を開始する。

  ベルスは俺に肉薄しようと即座に俺へと向かい、剣を振るう。

  こうなるとあの剣は厄介である。というのも背後に下がっても斬撃が追撃してくることになるからだ。

  横に避けても同じなので、実に嫌らしい。相手にしてみるとここまで厄介な武器とはな。流石はアイビーの家に伝わる宝具の一つということか。


「……ま、動かすか」


  俺は横に飛んでベルスの縦斬りの一撃を避ける。勿論、そのまま逃がす訳もなく、斬撃を飛ばしてくるのだが。

  俺はその斬撃を避けることなく甘んじて受けると、また傷付けることなく終わる。


「おい! どうなってやがる!」


「なに、白閃鬼の抜け道ってやつさ」


「はぁ!? そんなんあるのかよ!」


  勿論そんなものあるわけないんだがね。

  簡単な話しなんだよ。奴がさっきから斬っているのはただの幻影なんだから。

  闇魔法、イリュージョンフェイクで俺の姿をした幻影を見せているだけ。

  故にいくら斬ろうとも傷などつこうはずもない。

  それに気付かないベルスはやはり脳筋だよな。


「……まさか! あれは……」


「はいはい、君は厄介だから死んでくれ。デスエンブレイス」


  闇の上級魔法、デスエンブレイスで魔法使いの女を仕留める。

  魔法使いの女は事切れ、力なく地面へと倒れ込む。今度こそ確実に仕留めたようで、魔素の流れが止まった。

  今回はこの服を回収させてもらおう。

  今使ったデスエンブレイスは即死魔法で、自分が触れている人間の息の根を止める魔法だ。

  成功させるには触れている必要があるので魔法使いにとっては中々難易度が高い。

  今回のように注意を反らしておくなど、絡めてを使わなければまず役に立たない魔法だ。


「……さて、後はベルスだけか。…………あいつ、この女が死んだことも気付いてないし……」


  視線の先にはベルスが未だ俺の幻影に斬りかかっている姿があった。

  声を荒げて斬り続けるも、結局は幻影、ダメージなど通る筈もない。

  普通なら数度攻撃して幻影だと気付くと思うんだが、あいつは頭に血が上りやすいからな。もう、正常な判断がつかないのだろう。


「アーク様。例の女は確保してきました」


「お、ありがとうビオラ。早かったな」


「はい。以前とは比べ物にならないほどステータスが上がったおかげ速く動けました」


「そうか」


  ビオラが草むらから静かに姿を現して報告してくる。

  血の盟主は本当にチートだな。ステータスが格段に跳ね上がったため、移動速度も以前とは全然違うということなのだろう。

  それに、俺自身もステータスが上がっている。こうして素早く魔法使いの女の背後に回り込めるほどに。

  それに、魔方陣設置の効率も上がったおかげで、短時間で上級の魔法を設置出来るようにもなったしな。


「……うんじゃま、いくかな。ビオラ、危なくなったら頼むぞ」


「はい。お気をつけください」


「あぁ」


  おもむろにアイテムボックスから剣を取り出す。

  俺のステータスが上昇したことでどれほど戦えるようになったのか確認したい。

  で、どれほど上昇したのかというと、こんな感じだな。



 アーク・サファイア


 一四才


 ステータス


 筋力 D

 体力 B

 耐久 D

 敏捷 B

 魔力 A

 魔素量 A




  以前に比べれば肉体的なステータスのランクが一つ上がった。これはとても嬉しいことなのだが、疑問が残る。何故魔力と魔素量の変化がないのかと。

  身体的ステータスが上昇したが魔法に関連するステータスに変化がなく、その理由が分からない。

  まぁ、それはおいおい考えるとして、今はこの上がったステータスでベルスを倒せるか確認せねばな。

 

「……さて、相変わらずバカだよな。ベルス」


「な! なんでお前がそっちに! こっちのは!」


「幻影だ、バカ」


「そんな! あ! リンシャは!」


「ほらあそこだ。もう死んだよ。お前が騙されてる間にな」


「ウソ……だろ……」


  あり得ないという表情で、亡骸となったリンシャと呼ばれた魔法使いの女を見つめる。

  あれはどっちの表情なんだろうな。仲間が殺されたことへの絶望か、それとも大事な戦力が潰されたことへのガッカリか。

  しかもリンシャの傍にはビオラもいる。ルルカ達がやられたことも想像出来るだろうし、増援が見込めないことも理解したろう。


「ベルス、俺の力がどんなものか確認するためにも、お前には練習台になってもらうからな。いくぞ」


「……はん! お前風情が俺に勝てると思うとか、生意気なんだよ!」


  剣を構えてベルスを見据える。

  俺は一度も剣でベルスに勝ったことはない。ステータスに差が有りすぎて簡単に押し負けてしまうのだ。

  それにあの頃は剣の腕が素人もいいところだったというのもある。

  だが、今ならばステータスも上がり、剣術だって独学とはいえ上達した。

  以前のような一方的にボコられることはないはずだ。


「せや!」


  まずは接近だなとベルスへと駆け出す。勿論接近を許すかとベルスは嘲るような表情で剣を横に無造作に振るうと、斬撃線が俺の首に横に現れる。

  直ぐに上半身を前に倒し、斬撃線よりも姿勢を低くすると、直ぐに俺の上を斬撃が通ったようで、風切り音が聞こえた。

  避けられるのは折り込み済みだと言わんばかりに、ベルスは再度剣を振るおうとしているので、俺は()()で踏み込む。


「な!」


「油断し過ぎ!」


  予想外に早く接近してきたからか、かなり驚いた表情をし、反応が少しばかり遅れた。

  咄嗟に俺の剣を白閃鬼で受けてきたので、俺はベルス懐に入りこみ、肘で腹を強く打ってやる。


「ぐは!」


「すら!」


「ち! 舐めんなよ!」


  後ろによろめいたベルスへ間髪入れず縦斬りを入れるが、再度、白閃鬼で防がれた。


「バカにしやがって! 死にやがれ!」


「く!」


  ベルスは怒りの形相で反撃を開始してくる。

  やはりステータスもだが、体格の差もあるので苦しいものがあるな。

  まず腕の長さでリーチに僅かな差がつく。これは実際、かなりの差に繋がる。

  ステータスの筋力も奴のほうが上で、力で押し負けてしまう。

  俺は耐久が上がっているが、奴の一撃を食らったら致命傷になるのは確実。

  そして、極めつけが剣の性能差。

  俺は普通の鉄で出来た剣に対して奴の剣は魔装具、白閃鬼。ゾイサイト家で宝剣として保管されていたものだ。

  決定的に不利だというのは誰からの目にも明らかだな。

  奴自体の斬撃の他に白閃鬼の能力も警戒しなくてはいけないのだ、精神がガリガリと削られていく。

  必死に避けてはいるが、防戦一方へとなってしまった。

  う~ん、やはり剣だけではまだ大したことはないのか。とはいえ、前に比べれば格段に良くなったのも事実。

  ベルス相手にやり合えるくらいにはなったからな。

 

「……このままじゃ勝てないか…………ま、どれだけ動けるか分かったし、終わらせるか……」


「なぁ!?」


  周囲に張り巡らした魔方陣を発動させる。

  辺りから無数の光る鎖が出現してベルスの両手足を縛り、大の字で拘束することに成功した。

  使用した魔法はホーリーリストリクト。光の上級魔法で、光りの鎖で拘束するというものだ。

  鎖そのものがかなりの強度で、ベルス程度の力ではまず解除出来ない。

  現に、必死に千切ろうとするが、鎖はじゃらじゃらと音を鳴らすだけで何の影響もない。


  鎖から脱出することが出来ないと悟ったベルスの顔は絶望の色に染まりだす。

  あぁ、この顔が見たかった。やっと復讐が出来る。やっと雪辱を果たせる。


「悔しいか? どうだ、見下してた奴に負けた気分は?」


「こんの卑怯もんがぁぁぁ!!」


「戦略と言ってくれよ。のこのこと罠に進んで来たのは自分だろう? まさか罠を仕掛けるのが悪とか言うなよ? お前だって狩りをする時は罠張ってたろ」


「くっ! くっそぉぉぉぉ!」


「はははは! 無様無様! これは返してもらうぞ!」


「俺のだぞ!」


  ベルスが握っている白閃鬼を取ろうとするが、強く握って離そうとしない。

  ……仕方ないなぁ。


「……し」


  離さないならば無理矢理離すだけだ。

  ベルスの手首を切り落としてやると、血が辺りに飛び散った。

 

「ぎゃああぁぁぁ!!」


「汚い叫び声だな。ちっ、こいつの血で剣が汚れた……」


  アイテムボックスから水筒とタオルを取り出して汚ならしい血を拭う。

  そして、白閃鬼をしっかりと握ってから何度か振るい、周囲の木を斬り倒す。


「あぁ、やはりアイビーがくれたこの剣は素晴らしいな。心なしか、持ち主に戻って嬉しそうだ。なぁ、ベルス、お前もそう思うだろっ!」


「ぎゃあぁ! 痛い痛い痛い!」


  ベルスの右腿を軽く斬る。ちょっとした痛みのはずだが、情けない顔で泣き叫ぶのは哀れだ。

  まったく、先程の威勢は何処にいったのやら。


「さて、お前に聞きたいことがあるんだが、答えてくれるよな?」


「…………はぁ……はぁ……み、見返りは?」


「命だけは許してやる」


「…………ほ、本当にか?」


「…………信じる信じないはお前次第だな」


「…………わ、分かった……頼むから命だけは勘弁してくれ……」

 

  急に態度が大人しくなると何かあるのではと勘ぐってしまいたくもなる。

  だが、こいつに限ってそんな細かな芸当など、出来ないのも知っているしな。

  取り敢えずラリーの居場所を聞いたらゆっくりと嬲って痛め付けてやる。

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