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覚悟の復讐

今回でようやく戦闘らしい戦闘になります。で、次回でアークのチート能力覚醒になりますね。

  ベルス達がジャバウォックの討伐証拠たる右手を切断し、金になる部位を剥ぎ取っている間、俺達は奇襲の計画を進める。


「まず厄介なのは魔法使いと弓使いだ。奴等を生かしておいていいことはない」

「はい。特に魔法使いはイレギュラーな事態を引き起こしやすいですからね」


  魔法使いがどんな魔法を使うかなど、見た目では分からない。

  故に、最大限の警戒を払うべき相手であり、出来ることなら最優先で無力化したい存在だ。

  自分自身が魔法使いであるが故、魔法使いという戦力が如何に厄介かよく分かる。

 

  突如地面がえぐれたり、炎が発生したり、氷付けにされたり、さらには状態異常を掛けられることもある。

  どんな攻撃方法を持っているかが分からないというのはそれだけで脅威なのだ。


「あぁ。取り敢えず魔法使いを優先的に潰し、その後に弓使いを潰す。で、ビオラにはあの白い剣を持つ男、ベルスの足止めを頼みたい」


「はい。ですが、あの盾使いの女はよろしいので?」


「多分だが、お前がベルスに向かえばあの盾使いはベルスのサポートに向かうと思う。二体一という不利な状況になると思うが、少しだけ耐えてくれ」


「はい」


  あのパーティーはベルスという男を中心に回っているのだと思う。

  女同士の仲はそこまで良くないようで、実際連中の動きは何処か余所余所しくある。

  ベルスという男を取り合っているのだろう。


  ま、異性関係のトラブルはよくあることだからな。

  連中の様子を見ていると、ベルスに気に入られて美味しい汁を吸いたいという欲望がありありと見てとれる。

 

「で、ベルスの白閃鬼だが、あれは魔装具の類いでな。特殊な能力を持っている」


「そのようですね。剣を振るうと離れた場所が斬られていましたし」


「あぁ。あれは魔力を込めて剣を振るうと好きな場所に斬撃を与える事が出来る。明確に言うと、白い線が走ったらその場所が斬られる」


「なるほど。白い線が出たらその場から離れればいいのですね?」


「理解が早いのは嬉しいね。そういうことだな。白い線は斬撃線ていうんだけど、斬撃線が現れてから斬撃が来るタイミングがかなり速いから気を付けるように。気付いたら直ぐに避けないと手遅れになる。しかも斬撃が走るタイミングを調整出来るんだよ。斬撃線を停滞させておいて好きなタイミングで斬撃を発生させたりも出来るから予想以上に厄介なんだ」


「……それは……………………そうか、あらかじめ斬撃の場所を指定しておき、その場所に敵が踏み込んだら斬撃を発動させる…………罠としても使えるのですね」


「そのとおり。だからあれは単純に離れた場所を斬るだけではないってことだ」


「…………戦術的な動きが可能ということですか…………あの剣、かなりの価値があるのでは?」


「……ゾイサイト家の宝剣の一つだからな……」


「ゾイサイト家…………伍魔皇でサキュバスの魔皇の家ですか……よもやゾイサイト家とお繋がりが?」


「……大した繋がりはないさ…………それよりもやれるか?」


「御期待にお応えいたしましょう」


  ビオラの力強い瞳に頼もしさを感じる。

  俺の事情で彼女を巻き込むのは気が引けるものの、こんな好機を逃したくないのも事実。

  これが上手くいけば彼女の望みであるダークエルフ解放の手助けをしなくてはな。


「では、やろうか」


  俺は決意と覚悟を決めて怨敵を見据える。




  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄


  ベルス達の上空、俺は空高く飛び上がり眼下の奴等を見下ろす。今から連中を狩るために。

  作戦は至ってシンプル。事前に魔方陣を設置し、俺が任意で魔法を発動して奴等の横から攻撃を加え、注意を森の中に反らし、上空から魔法を放って奇襲するというもの。

  そして、混乱している連中の懐にビオラが突撃してベルスとの戦闘を開始してもらい、その間に俺は奇襲で仕留め損ねた奴を潰す。

  出来ることなら最初の魔法で魔法使いを落としたいが、出来なければ上空からの攻撃で仕留めるしかない。

  遠距離攻撃が可能なルルカはその後に倒すでいいだろう。


「さて、そろそろ始めるかな」


  剥ぎ取りも終わりかけているので、やるならば今だろう。遅れてその場から離れられるのは面倒だし、フォーメーションを組まれるとさらに厄介だ。


「……ビオラは大丈夫かね……少し心配だが……信じるしかないか」


  彼女の実力がどれ程のものかまだ把握しきれてはいない。故にどうしても心配になってしまう。

  勿論、先程の戦闘を見る限りでは彼女の腕は確かなのだが。


「……兎に角、奴等は逃がさない」


  まずは設置した魔方陣を起動させようと思う。

  設置式魔方陣はビオラと出会った遺跡にもあったが、あらかじめ魔方陣を何かしらに刻みこんでおき、任意のタイミングで魔素を流して発動するという物だ。

  罠は勿論、奇襲にも使える便利な技術だが、色々と工程があるので設置するのは面倒であるが。


  魔素をリンク先の魔方陣に流すと、木に設置した魔方陣が反応し、四方から魔法の攻撃を開始する。炎の魔法が奴等を襲い、爆発に包まれた。


  使用した魔法はフレイムキャノン。中級の魔法で、大きな炎の砲弾を放つ。

  ゆっくりと魔方陣を刻む時間もないので中級魔法が限界だったのだ。

  で、このフレイムキャノンの威力はまぁ、かなりの物だ。実際、着弾した辺りは爆風で吹き飛んで、炎の熱で木が燃えている。


  因みに、ベルスとルルカは生け捕りを狙っている。他の二人など、どうでもいい。

  理由は情報を聞き出すためだ。ラリーの居場所をな。


  にも関わらずあれだけの威力の魔法を行使しては二人とも死んでしまうのではと思うが、半端な事をして魔法使いを仕留められなければ此方が危険になる。

  それに、ベルスならば恐らくは死なないだろうという判断もあるしな。

  視覚を切り替えて魔素の流れを見てみれば、魔素が正常に流れているのが三名ほどいる。

  これは三人の人間が生きているということを意味しているのだ。

  魔素の量は先程把握しておいたので誰が死んだかは直ぐに分かった。


「……魔法使いは殺せたか…………んでは、さらなる追い討ちといきますか」


  両手を前にかざし、足元に魔方陣を出現させ、術式を組み上げていく。

  魔法には決まった術句という詠唱があり、魔素というエネルギーに指向性を与えて事象へと変化させるのだ。

  例えば今俺の足元に発生している魔方陣も詠唱の一種だし、言葉を口に出して唱えるのも詠唱となる。

  とはいえ、言葉の詠唱は何を発動するかまる分かりで、隠密性がないので戦闘ではまず使われないが。

  ただ、魔方陣を使った詠唱は魔方陣を出現させるために魔素を消費するので、言葉での詠唱にもメリットはある。


「…………マルチトリガー、ホーリーランス」


  魔法の名前を口に出すと、空中に光の槍が複数出現した。そして、光の槍を一気に下へ向けて放つ。

  勿論殺さないよう、腕を狙って。


  さて、魔法名の前にマルチトリガーだが、これは同じ魔法を複数発動する時に使う詠唱だ。

  本来ならばホーリーランスは一つしか光の槍を出現させないのだが、マルチトリガーとつけて発動したので複数の槍を出現させることが出来たというわけだ。


「…………ち、ベルスとルルカは避けたな」


  魔素の量から第二目標のルルカが避けた事が分かった。ついでにベルスも。

  だが、盾使いの女は反応が遅れたようで、片足を切断されたようだ。


「……ま、あれならなんとかなるか」


  俺の光の槍を確認したようで、ビオラがベルス達へと突撃する。

  現場は煙に包まれているのでベルス達はビオラの接近に気付けていない。

  だが、ビオラはベルス達が何処に居るのか分かる。簡単な話しで、俺と同じで魔素が見えるから。

  ダークエルフとエルフも視覚を切り替えて魔素を見れるのだ。

  やはり人間という種族は劣っているよな。


  ビオラは盾使いに目もくれずにベルス達の所へ向かう。片足を失ったタンクなど恐れるに足らずということか。

  しかし、相手がどんな手段を持っているのか、実は魔法も使えるのではないか、そんな可能性も考慮すべきではある。

  俺は一気に降下してタンクの女の背後に近づき、右手を女の頭に当てた。


「ひっ!? なに!?」


「ハイスリープ」


「あ! …………」


  精神操作系の中級魔法、ハイスリープで女を眠らせる。もしかしたら有用な情報を持っている可能性があるかもと思い。

  眠らせる系の魔法は相手の精神状態によっては不発することもあるんだが、今回のように混乱と怪我をしたことによる恐怖で詠唱破棄をしたハイスリープでも抵抗出来なかったようだな。


「……あぁ、そういえばあの魔法使いの女、ビオラに近い体型だったな…………まぁ、あんなんじゃ使いものにならんか」


  直ぐ近くに黒い塊があり、それに視線を送りながら呟く。

  今ビオラが着ている服はあの体型にあまり合っていないので別のを見つけねばと思っていたのだが、復讐心ですっかりと忘れていた。


「…………で、ビオラは…………へぇ……やるね」


  ビオラとベルスが戦闘を開始しているが、未だ視界が悪いのを利用してベルスを翻弄している。

  ルルカもベルスの援護をしたいようだが、視界が悪いために矢を射ることが出来ずにいた。

  しかもベルスを上手い具合に盾にしているので、ルルカはさらに矢を射ずらくなっている。


  ベルスは兎に角剣を振るい、応戦を心みるが、視界の悪さの所為で狙いを定めらない。

  どうやら上手くいったか。これが俺の望んだ状況である。

  白閃鬼の狙いはあくまで目に見えるところだけ。見えない場所は斬ることが出来ない。

  そうなると今の状況は白閃鬼の性能を発揮することが出来ない最悪な状況となる。

  後は煙の中からヒット&アウェイで奴を突ついていくだけ。

  その間に俺は女達を沈黙させるのだ。こんなふうに。


「……シャドウウイップ」


「!?」


  闇の中級魔法、シャドウウイップでルルカを拘束する。

  シャドウウイップは自身の影から黒い鞭を複数出現させて自由に操り、拘束したり叩いたりすることが出来る便利な魔法だ。

  本当はベルスを拘束したほうがいいのだろうけど、ベルスの筋力なら影の鞭を引きちぎりかねないのでルルカにした。


「久しぶりだなぁ~ルルカ? 」


「!!」


「後で借りは返すからさ、今は寝とけよ。ハイスリープ」


  ルルカの顔に手をかざして眠らせた。

  これで残るはベルスのみ。油断さえしなければ問題なく倒せる筈だな。


「アクアカット!!」


「な!?」


  突如俺の横っ腹に水が飛んで来る。水とはいえ、高圧で発射されたそれは容易く人の体を貫く。

  そして、俺の耐久力は低いので、なんの抵抗もなく水が俺の腹を通り抜けていった。


「残念だったわね! そんな簡単には死なないわ!」


「ち! あれはダミーか!」


  魔法使いの女がいた。無傷で。

  どうやら魔素を遮る何かを使っていたようだな。あの黒い塊、恐らくは咄嗟にジャバウォックの死体の一部でもダミーに使ったのか。

  くそ! やられた! まさか俺の襲撃を予想していたのか!?


「あん!? てめぇはアークか! よくも闇討ちなんて卑怯なマネしてくれたな! ぶっ殺す!」


「ちぃ!」


  俺の胴体を横に斬撃線が走り、俺は翼を出して空に逃げる。

  なんとか難を逃れるが、上に逃げれば白閃鬼のいい的で、連続で斬撃線が俺を仕留めようと出現していく。

  必死に逃げ回るしか出来ない。下手に魔法を唱えようものなら直ぐにでも首を斬りにくるだろう。

  そうでなくとも魔法使いの女が生きていたのだ、形勢は一気にこちらの不利に傾いている。下手な事が出来ない。


「くそ! くそくそくそ! 失敗だ!」


  自分自身に悪態をつく。

  油断しないと言っておきながらこの体たらく。復讐に判断を鈍らされた部分もあり、明らかに俺の判断ミスだ。


「くっそ! しま! つあ!?」


  俺の右の黒い翼が斬られ、飛び続けることが出来なくなり、俺は森の中へ落下してしまう。

  木の枝を折りながら減速していき、草むらへと落ちたのでなんとか生き残った。

  だが、所々枝で斬られてしまいかなりの手傷を負ってしまう。


「はぁ……はぁ……ビオラは……」


  ビオラと離れてしまった。

  一応不足の事態が発生したら逃げるように言っておいたが、大丈夫だろうか。

  俺が巻き込んでしまったことで彼女に何かあったら申し訳ない。


「アーク様! ご無事で!? 」


「!? ビオラ! お前も無事か!」


「はい! 申し訳ありません……御期待に添えなくて……」


「いや、俺のミスだ。お前はよくやってくれたよ」


「……アーク様……」


  ビオラが草むらから飛び出してきた。どうやら落下した俺を追いかけてきてくれたようで、彼女は傷らしい傷はない。

  安心感に胸を撫で下ろすが、直ぐに気を引き締める。

  近くにはベルス達がいるのだ、急いでここを離れなければと。


「ぐ!」


「アーク様!」


「ち……足を捻ったか……」


  どうやら落下時に足をやったようで立ち上がろうとすると激痛が走った。

  折れてはいないが、ヒビが入っている可能性もあるな。これでは歩くのもままならず、逃げるのは無理だ。

  種族特性で自然回復があるので少しすれば傷も癒えるだろうが、その間にベルス達がここまで来る可能性がある。


「……ビオラ、俺を置いて逃げろ。奴等は俺を探してここに来ている。俺を捕まえればお前を追うのは後になるはずだ」


「!? そんな! それはなりません! 必ずや貴方様を御守りします!」


「……この状況では難しいだろ。俺は走れないし飛べない。もう逃げられん」


「……そんな……」


「だから俺を置いて逃げろ。逃げて君の願いを果たせ」


「っ!?」


  俺の個人的な復讐のために彼女の一族再興の願いを絶やす訳にはいかない。

  追い詰められたのであれば、これ以上彼女を巻き込む必要はないよな。


「…………これは…………そうか……そういうことか……」


「ほら、早くいけ。奴等が来る前に。君の姿を奴等が見たら君も追われる立場になるから」


  彼女はアビスエルフ。見た目ではダークエルフと判断されるだろう。

  人間に見つかれば彼女が追いかけられることになるのは明確だ。その希少価値故に。

  今すぐにでも逃げなくてはいけないのだ。


「……アーク様……お願いが御座います」


「早く逃げろ……」


「承諾しかねます。どうか私のお願いを聞いてください」


  何故逃げない。このままでは彼女も危ないというのに。それにお願いとはなんだ?

  直に死ぬであろう俺になんの願いがあるのだ?


「…………なんだ?」


「貴方様の血を飲ませてください」


「はへ?」


  突拍子もない彼女の言葉に思わず変な声が出てしまった。

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