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森の中で出会った者達は

「せやっ!」


  ビオラが俺の与えた槍を横一文字に振り回すと、彼女の周りにいた蛇の魔物を瞬殺してしまう。

  俺が渡した槍は正直拾い物であまりいい物とは言えない。しかし、そんな槍を使いこなしてみせている。

 

  ビオラが倒した魔物はソードパイソン、大きな蛇で、背中に複数の鋭いヒレを持ち、飛び掛かりながらヒレで切りつけてくる。

  中位の魔物だが、群れで現れるため非常に厄介で、油断すると切り刻まれてしまう。


  さて、俺達は地下遺跡から脱出すると、お互いの実力を確認しようとなり、こうしてビオラの戦闘を眺めていたわけだ。

 

  因みに、ビオラの服は俺のアイテムボックスにあった女物の服を着せている。ちょっと所々破けてるけど。理由は秘密。

  若干サイズが合わなくておへそがチラリズムしているのだが、それがまた目を楽しませる。

 

  あと、先に俺が魔物との戦闘を見せている。

  戦い方は剣での白兵戦。しかし、筋力が非力なのでまともな傷を付けることが出来ずに終わった。

  必死に剣を叩き付ける姿を見せたが、何故か微笑ましい 光景を見たような表情をされてしまう。

  結局剣では倒せなかったので魔法で吹き飛ばしてやると、ビオラは大きく驚く。

  なんでも、魔法の威力が凄まじいんだとか。しかも詠唱破棄をしているにも関わらず。


  使った魔法は初級のファイアーボム。丸い火の玉を放って着弾と同時に爆発するというものだ。

  通常ならば成人男性の頭くらいの爆発程度の筈だが、俺のは人を容易く飲み込むほどだ。

  爆風の威力も強いため、離れていても衝撃が伝わる。


  確かに昔使った時に比べれば威力は上がったが、これが普通だと思っていた。

  そもそも、比較対象もいないし、魔法の知識も城に居た頃に習ったものだけ。学習範囲も魔族領の知識や人間との歴史についてなどだ。

  そして、人間領に来て冒険者として活動してバタバタしている内に正体がバレ、こうしてここにいる。

  故に、どうにも一般常識に乏しいのだ。


  そういえば、魔法の威力が上がったのは糞兄貴から脱出した後からだったな。

  理由は分からなかったが、逃亡生活には丁度良かったからあまり深く考えなかった。


「すげぇな。あいつらを一振りで一掃するとは」

「いえ、これくらいのことが出来なければ銀槍姫(ぎんそうき)の名折れです」


「銀槍姫?」


「……皆にそう呼ばれておりました」


「へぇ…………ダークエルフってどちらかというと遠距離戦が得意だと認識してたけど、ビオラは近接戦が得意なのか?」


  前世の知識の所為か、エルフのイメージとしては弓や魔法で遠距離攻撃や支援をメインにするってのが染み付いてんだよなぁ。


「というよりも、ダークエルフは身体能力が高いので接近戦が主体ですよ?」


「あ、そうなんだ」


「はい。ダークエルフは魔法が不得意なので、魔素を簡易な事象に変換させて戦います。そのため、武器や身体に纏わせる程度しか出来ないですし、身体能力の高さも相まって自然と接近戦主体になるんです」


「へぇ~」


「逆にですが、エルフは身体能力は大したことがないので魔法主体になります。弓も扱いますが、その腕前は我等ダークエルフに比べれば劣りますね」


「なるほど」


「ただ、ダークエルフはエルフと違い、肉付きがよいので男性ならばがたいがよく、女性は胸がよく成長するんですよね…………」


「さっきから疑問なんだが、何故胸を寄せる」


  ビオラがさっきから胸を寄せてアピールしてくる。流石にじっと見るわけにもいかず目をそらす。

  しかし、いい谷間だった。うん。


「ふふ、アーク様の反応が初々しくて可愛いもので」


「…………」


  これは弄ばれてるな。

  このやり取りはアイビーを思い出す。よく彼女には弄られていた。

  アイビーは俺が魔族領に居た時支えてくれたサキュバスで、悩ましい身体を見せるだけで男を簡単に虜にしてしまう。

  種族特性も男性を性的に興奮させるというもので、色んな意味でサキュバスは世の男性にとって天敵である。

 

  ビオラはダークエルフ、いや、アビスエルフなのでサキュバスのような特性はないだろうが、それでも彼女の美しい身体は魅力的だ。

  世の男性がほっとくなど出来ないだろうほどに。

 

  そんな凶悪な身体を見せつけられればいくら理性的な俺でも我慢出来なくなる。

  しかし、流石に彼女に失礼なことは出来ない。折角出来た話し相手を失いたくないから。


「……勘弁してくれ。俺はここで長いこと一人で過ごしてんだから、そんなことされると色々と困る……」


「あら、私のような貧相な身体でもアーク様の気を引けるのですね」


  ビオラは手を口に当てながら笑う。

  いやいや、ビオラの身体で貧相とか、他の女性がそれを聞いたら怒ると思うぞ。

  アイビーよりは控え目だが、それでも十分悩ましい身体つきなんだし。


「…………馬鹿なことしてないで、次の魔物に行こうか。ソードパイソンでは役不足だったからな」


  誰がこんな美女が槍の一振りで魔物を殲滅すると思うよ。あんな華奢な身体の何処にそんな膂力があるのやらと思ったのだが、ステータスというものがあるので見た目など参考にならないんだよな。


「ですね。上位の魔物を探しましょう」


  ビオラからの了解を得て、俺達は森の深域へと進む。

  とはいえ、あまり深くまでは行かない。何せ強大な魔物が住み着いているから。


  奥にいるのはゲイザーと呼ばれる化け物で、最上位の魔物であり、この森の主だ。

  巨大な目玉を魔物にしたような存在で、幾つかの触手を生やし、触手の先端にも小さな目玉が付いている。

  本体の大きな目玉に見つめられると石化させてくるので危険だ。


  ゲイザーは兎に角厄介だ。不用意に近付くと、本体の目玉に睨まれ石にされて終わり。ならば本体の目から隠れればいいと思うが、触手に付いている目玉に見られると、呪いを与えてくる。

  この呪い、受ければ三日三晩身体中に激痛が走って絶命するという厄介なもので、出会ったら即逃げている。

  奴の視界に入ること事態が危険だからな。


  で、もう一つヤバいのがいる。そいつの名前はジャバウォック。

  見た目は三メートルほどの不細工な二足歩行のドラゴンだが、実際はドラゴンとは別の生物である。

  一応上位の魔物でたるが、取り敢えず、兎にも角にも頭部が気持ち悪い。特徴としては魚のような顔をしていて出っ歯。目が大きくギョロギョロとカメレオンのように動く。

  手足は細長く爪は鋭い、背中にはコウモリのような翼を生やしている。

  獲物を探している時は空を飛び、見つけると空から降りて、細長い手足を生かし、森の中で俊敏に動く。

  とても獰猛で食欲旺盛。目についた生き物は殺して食べるか、食べ切れない場合は保存するという生態だ。

  さらに、しつこい性格で、一度獲物を見つけると執拗に追い回して追い詰めていく。まぁ、生存競争もあるから必死なんだとは思う。


  俺の身体能力では逃げるので精一杯でとてもではないが倒すことなど出来ない。

  機敏に動くので魔法を当てづらく、モタモタしているとサクッと殺られてしまう。

  俺の紙耐久ではジャバウォックにちょっと叩かれただけでぽっくりいくのだ。

  あまりにリスキーで倒しても食べられる訳ではなくメリットは一切ないのでさっさと逃げている。


「あの、不躾な質問ですが、何故アーク様はこの森に籠ってらっしゃったのですか?」


  暫く進んでいると、ビオラが話題を振ってくる。何故俺がここにあるのか確かに気になるよな。


「…………俺は半分魔族だ」


「はい、それは見て分かります」


「そして、もう半分は天族なんだよ」


「えぇ、それも分かりますけど」


「こんな姿が人の目についたらどうなる?」


「それは………………あぁ、なるほど……」


  どうやら合点がいったようだ。

  今も昔も人間の考えは変わらないってことか。

  本当、人間は救いようがない奴が多すぎる。こっちに転生して肉体が人間じゃなくなったからか、その考えが顕著になった。

  魔族領で学んだ歴史上での人間達の愚行もあるが。


「……俺という存在を許せないんだろう。半魔半天だと分かった瞬間の奴等の反応は凄まじかったぞ」


「…………それでこの森に追いやられたと……」


「あぁ。魔族領に戻るのも危険だったから、ここに居るしかなかったんだよ」


「人間ども……」


  ビオラの表情が怖い。

  そういえば、ダークエルフは人間とエルフの罠に嵌まってオークにされたっていってたな。

  同胞をあの醜い化け物に変えられたのだ、やはり憎いのだろう。


「……でも、人間達に追いやられたおかげでビオラに会えたし、悪いことだけではなかったけど」


「……アーク様……」


  少しばかり和ませようと思って言ってみたが、キザったらし過ぎたかな。

  まぁ、彼女の表情をを見るに成功したんだろうけど……。何故か抱き締められている。

  嬉しいのは分かるが、リアクションがオーバーすぎると思う。


「……かわえぇぇ……」


  なんか呟いてるし。やはりビオラはショタコンなのだろうか?

  少々、いや、かなり不安になってきてる。もし俺の予想が当たって、深い業を背負っているなら今後の付き合いを考えなくては。

 

「ぎゃはははは! やっぱ俺様は強いよなぁ!」


「きゃあぁぁ! 凄いです! ベルス様!」


「っ!?」


  ふと、聞き覚えがある声が耳に届き、女の声で憎い人間の名前を呼ぶ。

  俺はビオラから離れ、まさかと思いながらも声の聞こえた方向に視線を送る。

  だが葉っぱや木が邪魔で視界が悪い。

  ならばと俺は慎重に歩みを進めていく。確認しなくてはいけないのだ。

  もし本当にベルスならば、俺は奴を…………。


「はん! かのジャバウォックもこんなもんか! 」


「まさか悪名高いジャバウォックを一人で倒すなんて、流石です!」


「ふふ! 流石は私のベルスね!」


「もう! ルルカさん、独り占めはよくないですよ!」


「そうですよ!」


「ははは! 大丈夫だぞ! お前ら三人共相手してやるならな! 」


  木の影から顔を半分出して覗くと、男は首を切断されたジャバウォックの身体の上にあがり、誇らしげな表情を晒していた。

  そして、ジャバウォックを囲むように三人の女達が男に称賛を送る。

  この四人組のうち二人は見知った顔で、俺がこの森に落ち延びる原因となった奴等で、元パーティーメンバーのベルスとルルカ、憎悪の対象がそこにいた。

 

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