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美しき姫

「…………で、どうしたらいいんだ?」


  透明な結晶体の前で俺は胡座をかいて考えこむ。

  結晶体の中には手をクロスして眠る美しきダークエルフの女性。

  生まれたままの姿なため、眼福である。

  まさしく一つの芸術の極みと言っても過言でないその姿。

  残念なのは腕をクロスしているため、男のユートピアが見えないことか。腕が沈んでやがるぜ、恐ろしい。

  しかし、下のエルドラド、或いは逆黄金の聖三角が丸見えなので構わないか。うん、見ていて飽きない。


  さて、問題はこれをどうしたらいいのかということだ。

  まず、彼女は生きているのかという点だが、それが分からない。

  まぁ、こんな結晶体に入れられているのだから死んでいるか、或いは仮死状態かのどちらかなのだとは思う。

  まぁ、最悪どっかの好事家が死体のコレクションをここに保管して忘れ去られた可能性もある。

  珍しい生き物の死体を保管するという趣味は何処の世界にもあるのだ。

  彼女はダークエルフ。千年前に滅んだ絶滅種。その道のコレクターからしたら、とんでもないお宝だろうな。

  多分、闇市場に流したらかなりの金額になる。それこそ、当分遊んで暮らせるほどに。


「……さて、これが死体ならこのまま安置しておくのがいいのかね…………いや、あるいは弔ったほうが……」


  とはいえ、こんな一糸纏わぬ姿で保管されているなんて、女性としては屈辱だろう。

  まじまじと見ていた俺が言うのもなんだがな。


  勝手に売り捌くのは正直気が引ける。それに金なんて俺には不用だ。

  あったところで使うことが出来ない。

  死んでいるならやはり弔うのが一番か?


「……でも、本人が保管を望んだら別だしな…………死人に口なしってのはこのことだな」


  もし死んでいれば最早本人の願いなど分かりようもない。故に遺されたモノの在り方を決めるのは生きている他人でしかない。


「……って、別に気を遣う必要はないよな」


  ちょっと哲学的な事を考えてみたが、正直どうでもいいか。

  うじうじ考えるくらいなら、取り敢えず彼女を解放して、生きているならばよし、死んでいるならば弔うだけだ。

  正直、長い間森にとじ込もっていたので話し相手が欲しかったからな。


「とりま、罠がないか見とくか」


  眼の視角情報を切り替えて、魔素の流れを見ながら変な所がないか確認を始める。

  因みに、魔族の種族にもよるが、基本的に魔族は魔素を視角的或いは感覚として見ることが出来る。

  あと、天族もだが。


  で、人間は特異体質か、訓練された者を除いて基本的に見ることが出来ない。うーんやっぱ人間は残念だな。


「……なんか濃度の濃い魔素を纏ってるな……この結晶体……それに、結晶体を乗せている台座に術式が組み込まれているのか……なんの術式か分からないが……」


  恐らく触れる、または近寄ることで発動するのだとは思うが、どういったものか分からないのが厄介だ。


「……あぁ……どうしよ…………うん、後ろを見よう」


  触れないなら見るしかない。取り敢えず前は堪能したので後ろを見なければ。きっと芸術的な形をしてるだろう。

  紳士な諸兄なら俺の気持ちも分かるはず。


「……うん? なんか書かれてるな……」


  後ろに回りこむと、台座に文字が刻まれてあった。ライトの魔法で照らすと、少しばかり埃を被ってはいるがなんとか読み取れる。


「……ここにダークエルフの至宝であり王族であるアビスエルフの姫を封印す。名はビオラ・オルクス。ダークエルフが再興の希望なり…………か……」


  うーん…………なんか色々と面倒なことに巻き込まれそうだな。でも話し相手が欲しいし……。


「……まず、アビスエルフってなんぞ? 」


  アビスエルフという存在は聞いたことがない。この文面からするとダークエルフ関連なのだろうけども……。


「……いや、待てよ…………確かエルフの上位種であるハイエルフに対応するように、ダークエルフにも上位種がいるって聞いたな。まさか、それがアビスエルフってやつか」


  その可能性はあるかもしれない。

  ダークエルフは千年前に滅び、それに関連する資料は残っていないのだ。意図的に消されたように。

 

「……封印されているってことは、台座の術式が封印を維持しているのか。ならこの術式を壊せば……」


  と思って思い留まる。

  不用意に触るのは危険だ。

  もし、彼女を守る為に防御魔法が仕掛けられていたら痛い思いをするのは俺だし、彼女が危険な輩の手に渡らないように彼女自身を殺す魔法が仕掛けられてる可能性も大いにある。


  軽率な行動は控えるべきだな。


「……さっきだっていきなりだったんだ、無用心は寿命を減らすぞ…………でも、いい眺めだ……」


  うん、素晴らしい。アイビーの身体も素晴らしかったが、彼女、ビオラは別のベクトルで素晴らしい。

  身体は大人になりかけといったところで、慎ましやかながらも、出るところはしっかりと出ており美しい。主に胸とお尻が。

  アイビーはもう劣情を誘う肉付きだからな。しかも見ていると襲い掛かってくる。

  …………あれはサキュバスだから仕方ないんだろうが…………でも、俺のパンツの匂いを嗅いでハーハーするのはアウトだ。

  ……ところで、アイビーは無事だろうか……。

  俺を逃げる手引きをしたことがバレてなければいいが……。


「……おっと、感傷に浸っている場合ではないか……どうやったら…………あで!」


  どうやら足元に石が落ちていたようで、それに躓いてしまう。身体がまだ小さいからか、時折転びそうになるんだよな。


「……良かった、支える場所があっ……て…………あ」


  つい近場の壁らしき場所に手を置いて転ぶのを防げたのだが、手を置いた場所が悪かった。

  なんと、結晶体に堂々と触れてしまったのだ。

  と同時に先ほどの魔法陣と同じように身体を調べられたような感覚を覚える。


「……仕方ないよねぇ……咄嗟のことだし、これは仕方ない」


  頼むから何も起こらないで欲しい。そう願いながら結晶体を見つめる。


  しかし、そんな願いも虚しく、結晶体にヒビが入っていく。

  どんどん結晶体全体にヒビが入り、中が見えない程にヒビが行き渡ると、ガラスが割れるような音を立てて砕けた。


  やってしまった。うっかりで取り返しのつかない事をしてしまった。

  あれだけ激しく砕けたのだ、中にいたビオラは助からないかもしれない。


  身体は裂け、四肢は千切れてあの美しい姿は原型を止めずに見るも無惨な姿になってしまっただろう。


  「……あれ?」


  だが、スプラッタな展開にはならずに済むこととなった。

  なにせ、ビオラのキレイなお尻が目の前にあったのだ。五体満足で一切のケガもなくそこに佇んでいた。


「…………私は…………」


  ビオラは疑問の表情で辺りをキョロキョロと見渡す。

  目線が俺の身長よりも高いためか、俺の頭上を視線が通り過ぎていった。なんかへこむ。

  てか、身長デカいな。俺と頭一つ分以上大きい。ん? 俺が小さいだけか? 気のせいだな。


「…………なんで目覚めたのかしら…………支えるべきお方が私を目覚めさせるとお父様が言っていたけど…………」


  どうやら俺に気づいていないようだ。

  まぁ、ここは薄暗いから気付きにくいんだとは思うけどさ。

  でもね、結構近い距離に居るんですよ? 流石に気付いて欲しいです。


「…………あのぅ…………」


「ひゃあぁ!? …………え?」


  あ、ピンクだ。ピンとしてていい形してる。

  俺が声をかけると彼女はビックリして固まってしまう。

  もう、隠すべきところも隠さずに驚きの表情で俺を見つめてくる。

  彼女の瞳は美しい金色で、暗闇の中で輝く黄金のようだ。


「……………特異能力(シンギュラアビリティ)持ち………それよりも可愛い……」


「……へ?」


  今なんて言った? シンギュラアビリティ? 可愛い? 気のせいかな?


「可愛い! 君何歳かな!? このほっぺのぷにぷに具合からして十歳を過ぎたくらいかな?」

「うが! ……えぇ…………」


  いきなり抱きつかれた。いや、抱き寄せられたが正しいか。彼女の胸元に。

  いい匂いがするし、柔らかい。幸せすぎて抵抗出来ないです。

  目の前にはピンク色の突起物があり、頭が興味と困惑で混乱して考えがまとまらない。


「あぁ! なんて可愛いのかしら! 右目は美しく染み渡るようなブルーサファイアに左目は癒されそうなエメラルドグリーン! まるで宝石ね! 見惚れてしまいそう! 」

 

  金色(こんじき)の瞳が俺の目を覗きこんでくる。

  端正な顔が間近に来ると心臓の鼓動が大きくなってしまう。

  しかし、これは決して美女が近くにいるからだけではない。これは、危機感から来ているのもあるはずだ。

  この反応、心当たりがある。以前俺に支えていた女の一人、アイビーもこんな感じだった。


「あぁ! なんて可愛らしいのかしら! やっぱり男の子はいいわ!」


  多分、彼女はショタコンではないか? oh…… ジーザス…………

 

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