序.魔女と十の悲宝
ハイファンタジー、どんっ!
昔むかし、魔女は言いました。
完璧な人間は、誰よりも苦痛を背負う者だと。
人よりも見える世界が広いから、誰よりも困窮する。一人で生きていては、余計に苦しむだけだから、他者に分け与える事で初めて重荷を無くし、自由になれます。
魔女は皆から愛されていました。
国王様からも信頼され、兵士達は魔女に敬礼します。自分を蔑ろにしない人々に、魔女もまた彼等を愛しました。
その想いから始まって、苦しむ人が少なくて済む様にと、心から願って特別な物を十個も作りました。
一つひとつが神様の加護を授かった様な宝物。国王様はこれを喜び、王国の宝物として重宝しました。十人の兵士に分配して、それぞれが別々に役立つ途を与えました。
宝物は直ぐに国を支え、人々はより幸せな日々を過ごしました。魔女もみんなの笑顔を喜び、兵士達と共に国を守りました。
けれども、ある兵士が言いました。
『十の宝物を一つにしたら、どうなるのか』――と。
十の兵士は話し合います。
魔女もそんなことを考えてはいませんでした。作っている時は、ただ皆の幸せだけを願っていたので、魔女にもわかりませんでした。
この疑問が十の兵士の胸で大きくなり、やがて城の中から国の外まで噂は広がり、興味を持った色々な国が襲って来ました。
それから平和な国から、笑顔は消えました。
そして、遂にある事件で国は終わってしまいます。
燃える城の中で、魔女は十の宝物を抱いて静かに眠りました。
次回から本編です。