#4 偏評
「オイオイオイオイ、やるってのか?醒花ちゃんよ」
女性はナイフを構えた。
「ごちゃごちゃうっせェ。独りでに喋るインコが」
「その体でどうするってんの?チビ。ここはVRじゃないんでちゅよグハァ!」
「遅せェな。そのノッポは飾り?」
なんと、醒花が先制攻撃をした上にスピードまでもが勝るのだ。やはり何かイレギュラーが存在する。
「図に乗るなクソガキ!」
女性はそのまま醒花の首を掴み、壁に押し付ける。
「…へっへっへ、手間かけるな。チビ。」
醒花は思うように抵抗できなかった。
「僕は痛いのが嫌いだからね。後はよろしく」
醒花の様子がまた変わった。
「許してください」
醒花の言葉に、女性は首を傾げた。
「お前さっきの威勢はどうしたんだ?オラ!」
醒花はそろそろ限界を迎えそうだ。
「死んじまうな。とりま離す?」
「あの」
また別の、男性の声だ。声の主はパジャマ姿の青年だった。
「おっ?なんだぁ?恋人?」
女性は笑顔で首を掴んでいた手を離す。くはぁ、となんとか醒花は呼吸を取り戻した。
「妹に何してくれてるんです?おねえさん」
そう、この青年は醒花の兄の冥李だ。先程の騒ぎを聞いて確認に来たのだろう。
「用済みですよ。ではまた」
と女性は軽く去っていった。依然として醒花はその場で座ったままである。
「どうせお前のことだから、ほっとけとか言うんだろ。んじゃまた、気をつけろよ!」
「…」
冥李はそう言い残し部屋に戻った。醒花も立ち上がって部屋に戻る。そしてベッドに転がっているアームコアを装着し、仰向けに倒れる。
「アームコア、起動。」
モノリスヒルズ郊外、喫茶店アルス。個人経営のカフェで、VRながらその絶妙なテイストに釣られてかなりの人気を誇る。オーナーは既に勤務を開始していた。
「いらっしゃい!二ーちゃん」
「普通にワイズでいいよ。てか今日はミエンくんきてないのかー。」
少年、wiseは仲の良いオーナーと共に朝の談笑をするのが日課である。
「お、そうそう。聞いたか?昨日の草原地帯でのスクワット戦に現れた新参のこと。あまりにも強すぎてランカーのチームに勧誘されまくったらしいぜ?ん?どったのワイズ」
「その新参がいるんだよ、あそこに」
たしかに店の看板に書かれたメニューを眺めているのは、ビームサーベルとレールガンを構えた小さい少女だった。
「お、女の子…?」
meyucaに見蕩れて呆然と立っているオーナーを後目に、wiseはその少女の元へと歩く。少女、meyucaはwiseに気づくと若干焦ったのか頬を赤くする。
「どうしたの?何か昨日と様子が違うじゃん」
meyucaはそれを聞いて少し微笑んだ。
「べ、別に何もないよ!ちょっと寝不足でね…」
「モノリスヒルズでナンパされまくったのか」
「そうじゃない!」
wiseはサラッと図星を突く。
オーナーとwiseとmeyucaは何かの拍子に辻褄が合ったようで、3人がけの円いテーブル席につく。
「いやぁー2人が知り合いだったとは意外だな。」
オーナーは少しにやける。
「オーナーさん!エスプレッソ1つ」
「はいよ!」
meyucaのギャップ萌えを狙ったようなチョイスに動揺することもなく、オーナーは丁寧にコーヒーを挽く。
「ね、パーティ入れてっ!ソロはナンパされるし」
meyucaは唐突にそう告げる。
「美園組にか?まぁ入団条件は特にないからいいけど、ムキムキリーダーとウィッス系後輩キャラとスクワット戦のガイジしかいないよ?いいの?」
「入りたい。ちゃんと仕事する!」
wiseの呆れ顔とmeyucaの期待の眼差しが飛び交う中、オーナーの自家製エスプレッソがテーブルに置かれる。
「だいぶ客足が増えてきたようだ。それじゃ仕事に戻るとしよう。」
「頑張れよ!今日はリアルで休日だから賑わうぜ」
「おう!」
オーナーは元気に職場に戻った。
モノリスヒルズの隣町、ベイサイド•タウン。港町だ。その路地裏の一角。二人のギャングが駄弁っていた。
「聞いたか?82式が初心者に葬られた話。」
ギャング1はその82式のパーティと連携をとっているらしい。
「わりぃが興味ねぇ。そいつがメスなら話は別だがな」
「マジでメスガキなんだよ。ちっこくて可愛いらしい。」
ギャング2の顔色が変わる。
「そいつ、どこにいたんだ?」
「草原」
ギャング1は笑って答える。
モノリスヒルズ東部、とある女子会会場。
「最近現れた新参の女子プのこと知ってる?」
qeueenは隣にいた女子高生プレイヤーに話しかけた。
「あれっしょ?『草原のシェパード』って呼ばれてる中学生?」
「超知ってんじゃん。最終的にスクワット戦のガイジのグルと組んでドン勝したらしいわ」
すると、女子高生プレイヤーは立ち上がる。
「草原のシェパード…タイマンしてやる!」
qeueenと女子高生プレイヤーmykiは手を合わせた。
ロケーションは戻り、喫茶店アルス。meyucaの希望により、wiseは美園組の拠点まで案内することとなった。
「ここがボク達の拠点の部屋。入るよ」
「うん!」
wiseはノックしてドアを開ける。既にmienはダイブしていたようだ。相変わらず呑気にNPC(VRMMO内でプログラムとして作られた擬人。そのリアルさは、人間として見てしまうほどだ。)とチェスをして遊んでいた。mienはwiseに気づくと、
「新入り?」
とmeyucaの方を見る。
「新入生です!1ヶ月ぐらいソロ続きで、パーティには慣れてないですが…」
「草原のシェパードだな。期待してるぜ」
そう、mienは既にmeyucaを知っていたのだ。
「そう呼ばれてます…!」
meyucaは少し恥ずかしそうに言う。
新しいメンバーが加わった美園組は、朝の間に戦務分業を決めそれぞれのステータスを改て確認した。meyucaはwiseと同じく敵戦車襲撃を基本とする。戦闘の序盤はLPCに籠り、慎重に行動する。
「ワイズくん、あのさ。」
「なんだよ」
meyucaは部屋の外で手招きをした。
「手慣らしにモンスターの狩猟に行かない?」
すると、wiseはサブマシンガンを担ぐ。
「興ざめだぜェ。」