#2 対峙
VRMMOゲームでは、個人のステータスが存在する。ただ、今回のようなサバイバルバトルではステータスを隠しての施行。すなわち初心者かどうかは確証できないのだ。
扇状地。先程の戦闘があった中流域の少し北に位置する。そこで2つのパーティの戦車が睨み合っていた。一方はKPZ-ex-61。meyucaの乗っていたKPZ-61の最終形態である。もう一方はLPC-nx43。こちらはTKOオリジナルの中戦車。敢えて言うなら米車の特徴を持つ。
『そこのLPCに告ぐ!我々のプレイヤーレベルの平均は95。世界ランキング100位を切っている。今ここで降参してくれたら次は見逃してやる。』
KPZの放送だ。レベルは100まであり、プレイヤー総数は1億を超える。よって彼らは″自称″トップランカーなのだ。
「兄貴、割とガチっぽいッスよ。KPZも全進化してますし、放送を使える時点で確実にランカーッス。」
LPCのパーティの一員、legweyがリーダーのmienに向けて言う。しかし、
「主砲を放て。躊躇せず乱射しろ。」
「し、しかし…」
「撃たねば死ぬだけだ。」
mienの指示を受けたlegwey達は一気に主砲のトリガーを引く。それに合わせて相手のとてつもない弾幕も動き出す。このままではLPCが破壊されるだろう。しかしmienはある″隠し球″にかけていたのだ。その隠し球は既にKPZの甲板に上っていた。
「もしや…このまま耐えるのが使命ですかね?」
弾幕を喰らっている状態でlegweyはハンドルを切る。
「あぁ。できるだけ時間を稼げ。…奴の戦車への好意に賭けて。」
LPCはそのまま側面に前進した。隠し球の仕事に期待しているようだ。
そして例の隠し球は行動を始めた。
「貴様っ!何者ェ…」
KPZの門番らしき伏兵が現れたが、隠し球のwiseは首を掴んで無力化する。
「…ボクのLPCちゃんに…手ェ出すなよ、三下。」
「テ、テキシュウ…」
伏兵の死にものぐるいの叫びで、中にいた数名の兵士達が一気にwiseにポインターを当てる。
「奇襲兵を撃て!」
兵士達は一斉に射撃を試みた。しかし、wiseはそれを全て回避したのだ。まるでパンチを避けるかのように。
「ランカーさんよ、興ざめだなァ。大人しく死ね」
「二丁ミニガン…?M195…!」
とてつもない爆音で弾丸が掃射される。ただでさえ重いミニガンを、彼は両手に携えている。その割には行動速度が異常に早い。
扇状地、外周。草木が生い茂るこの颯爽とした地域で、エメラルドブルーの髪を流す少年はレッドブルを片手に寝っ転がっていた。戦場であるこのフィールドでの休憩行動はかなりの危険が伴う。フィールドスキャン(プレイヤーの位置が公開されるシステム)が始まる。少年は眠たそうに目を擦りながら辺りを見回す。
「mienか。座れよ」
「奔放だなぁ、お前は。ほらスキャン始まんぞ」
少年wiseの背後に現れた青年mienは少し微笑む。
「残りプレイヤーは19名でパーティはたったの3個。恐らく巨大なパーティがあるんだろうな。」
wiseは慣れた感じで状況を整理する。
「包囲の危険が高い。wiseは別行動をした方がよさそうだな。オレとlegweyはwiseの交戦状況に合わせてLPCを動かす。」
「おっけー」
wiseは軽く会釈をして行動を始める。mienもLPCに戻った。
wiseは川下へと歩いていた。すると、無人の中戦車を発見した。
「…初期型か。乗り捨ては好まねぇな初心者。」
中戦車の甲板に登り、型番を確認する。KPZ-61。既視感のある名称だ。機関銃に手を触れたそのとき、ポインターを受けた。
「ったく、物騒だな」
電磁を帯びた弾丸が放たれる。wiseはシールドで防ぐ。しかし相手は既にwiseの背後にいた。中学生程度の少女だ。
「仕留めた」
相手の少女はビームサーベルを取り出し、回転を利用してwiseの側面を切りつけ…る前にwiseは既に右手首を掴んでいた。
「へぇー。強いなテメェ。スピードが異常だ。」
「…っ」
少女、meyucaはフリーな状態の脚を使ってwiseを蹴飛ばす。wiseはそのままバック転をしつつ着地した。
「テメェ、これのオーナーかァ?大事にしろよー!」
KPZに手を置く。
「…私が…勝てない…?」
「ああ?」
meyucaは焦りを覚えたのか、ぎこちない動きでアサルトライフルに弾丸を装填する。
「掃射!」
と叫びつつ丸腰のwiseに向けて弾丸を文字通り掃射する。しかし標的のwiseは転々と姿を移し、終いにはmeyucaの背後に立っていた。
「くそ!」
「周り見ろ」
「!」
なんと周囲には、数名の伏兵が姿を現したのだ。その中には女子プレイヤーのqeueenもいた。恐らく、全員同じパーティの仲間なのだろう。
「おお?そこのクソ初心者を狙ってたのに、先客様がいらっしゃるとはねぇ。まとめて殺しますか。リアルで。」
qeueenは適当な調子で告げる。そう、例の事件の主犯格はこの女子プレイヤーであるqeueenなのだ。wiseは平然として手を挙げた。
「なにィ?怖くて泣き寝入り?私がそんなネズミ生かすと思うぅぅ?」
qeueenの合図でポインターが一斉にwiseに集まる。
「残念ながら生かされなくとも生きてるんだなァ」
「撃て」
伏兵達のスナイパーライフルによる乱射が開始された。wiseは1人の伏兵の背後に高速で移動する。そして、伏兵を盾にして片手に持ったサブマシンガンで応戦する。meyucaは羨ましそうに傍観していた。
「あら、1人だったわー!流石はスクワット戦の害児ね」
1人残ったqeueenはミニガンに持ち替える。
「そりゃどうも」
「…スクワット戦の害児って…。」
どうやらwiseはそう呼ばれているらしい。
「Wiseの野郎、真っ向勝負を挑もう」
qeueenはミニガンに弾丸を装填した。
「そうだな、遊んでやるぜェ殺人鬼」
wiseも応えるように2丁のサブマシンガンを構えた。