#1 偽装
拝啓、クソゲー。クソゲーの定義をあなたに教えます。
「クソみたいに楽しいゲーム」
都内某所、とある高層リゾートマンション。その最上階では妙に根幹の細そうな少年二人が寛いでいた。
『こんにちは、お昼のニュースをお伝え致します。』
そのうちの1人、銃身 賢。華奢な体格だが動けそうな雰囲気を醸し出している。藍色の長い髪と手首に巻いているチェーンのブレスレットが特徴だ。
「ポテチ無くなったから買いに行くわ」
「お前それ何袋目だよ!」
続いて、この派手なツッコミを投入した中肉中背の少年は眼尺 心裕。黒髪を綺麗にセットしている。2人は現在高校一年生だ。学校の帰りに心裕が幼馴染の賢の部屋に訪問しているのだ。
『先日未明、東京都品川区の路上にて女性が倒れているとの通報を受け警察は現在事情を取り調べている状況です。』
「また女性か…。」
結局コンビニへと駆けた賢の不在を機に、心裕はニュースに耳を傾ける。
『不可解事件専門家によると、どうやらVRMMOゲーム機でのトラブルが原因だといいます。皆さんも、特にVRMMOゲームのプレイヤーの方はこのようなトラブルに注意して頂きたいです。』
VRMMOゲーム。仮想現実大規模多人数オンライン(Virtual Reality Massively Multiplayer Online)の略称だ。2019年現在、最も脚光を浴びているこのゲーム形態。その中でも『Tanker Online』、通称TKOがかなりのユーザーを集めている。戦車を主軸としたFPSで、世界ランキング制度やスクワット戦などを備えている。恐らくニュースの事件もこのTKOに関連したものだろう。
「またTKOでなんかあったってさ」
顔に汗を浮かべて帰還した賢を平然な顔で迎える。
「ふーん、バカみたいだな。」
「たしかにVRなんかに金かける意味無いよね」
2人は談笑しつつ、目の前のスマホゲームのログイン画面に目を向けた。
-TKO内、草原地帯スクワット戦-
やけに現実感のあるフルダイブ型VR機器、「アームコア1」。脳と脊髄にプラズマを送り、その信号で麻酔をかけ仮想世界にダイブさせる。現実世界での体は無防備なため、安全な自宅などでのダイブが原則だ。
あるパーティが最初に行動を見せた。
「オイオイ、あそこのKPZ-61さ。初心者じゃね?リスポーン地点から全く動いてないし」
パーティのリーダー、towliが切り出す。
「Female…女子じゃん!さっさと消して住特しようぜ!リーダー!」
「慌てるな、kaz。安全性も重要だ。初心者に見えても初心者じゃないと仮定する。側面に回って攻撃だ。」
「OK。テメェらやるぜ」
と宣言通りtowliのパーティが乗る戦車(82式)は川を渡り、標的のKPZ-61が位置する岩陰へと回った。
一方KPZ-61に乗る女子プレイヤー、meyucaは依然として行動を始めていない。同乗者もいないのだ。
「リーダー、なんかいきなり砲撃ってのも申し訳なくね?ちょい小銃で様子見ってどうよ?」
kazはリーダーの肩を持つ。
「たしかにプレイヤー達の好感度を下げかねない。まずは機関銃でKPZの車体を遇う。やれ。」
「「「「おう!」」」」
予定通り82式は、KPZに向けて機関銃を軽く数発放った。すると、KPZの砲身がそれに反応するように82式の方を向いたのだ。
「ビビったようだな。まぁ初心者の持つ主砲なんて大したことない。そこの岩陰に隠れろ。」
towliの指示によりパーティは前方の岩陰に移動する。リーダーの予測は当たっていたらしく、KPZは主砲から音を上げる。
「へっ!どうせ初期弾丸だろ。KPZだって初期装甲だし!やれるもんならやってみなー!」
しかし、towliの様子が少し変わっている。
「ん?リーダーどったの?」
「終わった。オレらは終わりだ。」
「いやいや、初期弾gn…」
パーティ全員が動揺するのも無理はない。
主砲から上がった音はチャージング、すなわち主砲は超電磁砲だ。フレミングの運動量により、微小な数ミリ弾丸でも音速の約3倍のスピードで放たれる。威力は、
重戦車の装甲を貫通する。
物凄い轟音と共に、岩と82式が破壊される。パーティも全滅だ。因みに、TKO内で死んだプレイヤーはデスエフェクトとして強制的にレベルが低下する。今回の強豪パーティも、全員のレベルが下がりゲームへの影響力を失った。
「あー暑苦しい」
戦車の車体の出入口から、meyucaは外へ上がる。ゲーム内のアバターではあるが、小柄な中学生程度の容姿。暗めの紅色の髪に澄んだ目付きから幼さが滲み出る。
すると、無防備な状態のmeyucaを狙った2人組のパーティが武装した状態で現れる。
「お前はもう現実でも死ぬんだよ」
「死にたくなけりゃ降参しろ」
発言から、彼らはどうやら例の事件の犯人か関与人だろう。ゲーム内での実力も相応のものだととれる。
「M10A2部類か。あなた達、慣れてるね」
meyucaは車上から飛び降りる。
「うるせぇ。ポインターをよく見ろ三下。」
アサルトライフルのポインターは見事にmeyucaの額を照らしている。しかしmeyucaはまったく動揺していない。
「撃つぞ。3、2、1」
1人の方がカウントダウンを始めた。
「0」「0」
その瞬間、別のプレイヤーがサイレンサー付きのスナイパーライフルで2人組を仕留めた。よく見るとそちらも女子だ。Qeeuenというその女子プレイヤーは続けてmeyucaを狙う。
「アバヨ」
「…」
Qeeuenは躊躇なしにスナイパーライフルを放つ。しかしmeyucaは劣らない脅威のスピードでバックステップをして避ける。続けざまに何度も撃たれるが、凄まじいスピードで戦車まで走った。
一方、少し離れた扇状地でもプレイヤー同士の交戦が始まっていた。