5
「俺を、一人にしないでくれ……俺は、お前がいないと生きていけない」
三年間。
俺は生きていなかった。
生きながらに死を望んでいた。
愛華に逢える方法を探していた。
「大丈夫。貴人さんは強いから。私がいなくても立派に生きていける」
俺は大きく首を振った。
「無理だよ。俺は強くない。また、愛華を失ったら今度こそ俺は――」
小さな子供みたいにグズると、頭の上に手が置かれた。
ゆっくりと髪を撫でていく。
この手は、この温かさは愛華の手だ。
ずっと見つめ続けて、誰よりも大切に思っていた人の手を間違えるわけがない。
「ごめんなさい。嘘つきな私を……約束を守れない私を」
悲しくて、辛くて、嬉しくて。
愛華の言葉が冷え切った心に染み込んでくる。
「あなたの傍にいられない私を、許してください」
触れられない体が俺を包み込んだ。
困ったとき、悩んだとき、いつもそうやって励ましてくれた。
何度勇気づけられただろう。
俺は強い人間ではなかった。
愛華を失って気づかされた。
俺には愛華が必要なのだと。
「これは、夢なのか?」
「そうかもしれませんね」
でも、と愛華は言う。
「今日はクリスマスです。こんな奇跡があってもいいですよね?」
「ああ、そうだな」
「私の我侭が叶っても、いいですよね?」
俺たちは泣いていた。
愛華から離れたくない。
ずっと、傍にいたい。
愛華は決して言葉にはしなかった。
言ったところでその願いは叶わないから。
だから、俺たちは心の中で言い合った。
泣きながら、離れたくない、と叫んでいた。
「貴人さんには大切な人がいますよ。その人のこと、ちゃんと見ていてあげてください」
涙は止めどなく流れ続ける。
視界で歪む愛華を捉え続けていた。
「どういう、ことだよ?」
「周りに目を向けてください。貴人さんと同じく苦しんでいる人がいるんです。その人を助けてください」
「そんな余裕、あるわけないだろ」
先のことなんて考えたくない。
愛華のいない世界なんて想像したくない。
「もし、泣かせたら私は悲しいです。もしかしたら嫌いに、なってしまうかもしれません」
すっと、愛華が距離を空けた。
「嵌めてくれますか?」
いつの間にか愛華の手には紺色の箱が握られていた。
落とさないように、上着のポケットに締まった小さな箱だった。
愛華の思い出と一緒に、箪笥の奥底に仕舞いこんでいた大切だった過去の物。
毎年、クリスマスの日だけは持ち歩いていた。
あの日、愛華が帰ってきたら渡そうって思って準備していた。
結婚しようって、言うつもりだった。
あの日の心残り。
その一つを今、叶えよう。
この奇跡の中で。
「愛しています」
愛華が言う。
その言葉だけで心が満たされていく。
「俺も愛してる。世界中の誰よりも」
その言葉を最後に、愛華は幸せそうな笑顔と涙を残して消えていった。
呆気なく、また、俺の前から消えてしまった。
「もし、生まれ変わったら、もう一度、あなたに会いたいです」
最後にその言葉が耳に残った。
俺は声もなく泣き続けた。