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絶対常識マニュアル  作者: 宮沢弘
絶対常識マニュアル
3/14

1−3: ピナクル・ポイント

 ともかく、ピナクル・ポイントになんとか戻った三人だった。正直、絶対常識マニュアルはすこしばかり重く、持つ手を変えたり、持つ人が交代しながらの帰り道だった。もちろん、探査機の直撃からどうにか被害を受けなかった物――早い話が木っ端微塵になっていなかったり燃えたりしていなかったものだったあったのだ――を掻き集め、それらを持ちながらのことだった。

 絶対常識マニュアルについては、まだ詳しくは書いていなかった。大きさとしてはA4ていどの大きさで、左右見開きに開けるようになっていた。厚さは、閉じた時に2cmほどだった。種類としてはB4ていどの大きさのものも存在するのだが、この地球にめり込んだものはA4ていどの大きさのものだった。大きさについて言えば、大きいといえば大きいし、さほどでもないと言えばさほどでもない。常識的に使いやすい大きさではあった。

 ただ、探査機用の絶対常識マニュアルには、常識的ではない面もあった。それは重さだった。どういう理由からか、絶対常識マニュアル出版社は探査機用の絶対常識マニュアルを大理石仕立てにしていたのだ。正確には、大理石にとてもよく似た何かなのだが。そのため、この三人が持っている絶対常識マニュアルは、3.5kgほどの重さだった。重いといえば重いが、さほどでもないと言えばさほどでもない。常識的に使いやすいかどうかというと、すこしばかりあやしいが。

 もちろん、ルソダワZドオムケゴ‐AAZ2H274N‐A448EA95F宇宙の物理学者は、放射線だとか物理定数や物理法則にすこしでも耐性を持たせようとマニュアル出版社に提案してはいた。鉄などは提案されたものの一例だった。だが、マニュアル出版社は、さび色や鉄色は、マニュアルにはふさわしくないと考え、大理石仕立てとしていた。探査機を送り出す実験の当初に、そもそも探査機の機能する時間に、材質はほとんど関係しないことがわかっていたのも、大理石仕立てにした理由の一つだった。ただ、その当時は、探査機が物理定数の違いに耐え切れず消滅することは考えられていたが、探査機が構成や惑星に墜落しやすいことはわかっていなかった。もし、それがわかっていれば、搭載されるマニュアルは鉄仕立てになっていたかもしれない。

 持てる荷物を持ち、ピナクル・ポイントに戻って来た三人だったが、長老連は三人を見ると溜息をついた。なにしろ、絶対常識マニュアルの他には、すこしばかりの枯れ木を持ち帰っただけだったからだった。

 それでも、帰って来た三人は絶対常識マニュアルを長老連に差し出した。帰って来た三人から話を聞きながら、長老連はマニュアルをすこしばかり読んだ。まず読んだのは、「寒い」という項目だった。そこにはこのような記述があった:

|   体表より体温が多く逃げている状態。暖まった方がいい。あるいは、物体や生物の機能の維持に障害でる温度。暖めた方がいい。



 それを読んだ長老連は「はぁ」と溜息をつき、マニュアルを閉じた。いっそ、海に放り投げようかとも思ったが、なぜかそうしない方がいいように思え、結局長老連が溜まっている場所の近くに置いておくことにした。

 そうして、何万年かが過ぎた。ホモ・サピエンスはピナクル・ポイントからアフリカ全体へ、そして中東、ヨーロッパ、アジアへ、さらには南北米大陸とオーストラリアへと、地球のあらゆる陸地へと広がって行った。

 ところで絶対常識マニュアルの内容だが、人類にはあまり役に立たなかった。というのも、なにしろ、それはルソダワZドオムケゴ‐AAZ2H274N‐A448EA95F宇宙の、それもほとんどがエタトフリバ72チモ‐F46L25BY5銀河の常識だったからだった。加えて言うなら、人類がそれらの常識に相当するようなものを持つ前だったからでもあった。まったく持っていなかったわけではないが、大した量の常識をもっているわけでもなかった。

 だから、人類史上においていつどこで絶対常識マニュアルが打ち捨てられていたとしても不思議ではなかった。ただ、代を重ねてもただなんとなく誰かが持っていた。

 そんなわけで、人類の誰かが常に持っていた絶対常識マニュアルだったが、歴史に登場するのは、もうすこし後のこととなる。

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