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絶対常識マニュアル  作者: 宮沢弘
絶対常識マニュアル
2/14

1−2: 絶対常識マニュアル搭載探査機

 まぁ、それはそれとして。

 絶対常識マニュアルを搭載した探査機は、私たちが住む、この宇宙の、この銀河の、この恒星系の、この惑星にもやって来た。

 ところで、ルソダワZドオムケゴ‐AAZ2H274N‐A448EA95F宇宙のエタトフリバ72チモ‐F46L25BY5銀河に属するダケカエヒハパバハ星人は、探査においてある問題に頭を悩ましていた。絶対常識マニュアル・フィールドの持続時間は、もちろん課題を残していたが、問題はそこではなかった。探査機は、恒星か惑星にぶつかってばかりだった。そうでない場合は、物理定数や物理法則がルソダワZドオムケゴ‐AAZ2H274N‐A448EA95F宇宙とはあまりに違い、絶対常識マニュアル・フィールドもさして役に立たなかった。

 物理学者は知らなかったのだが――なにせ、物理学者も数学者も常識に疎いのだから――、絶対常識マニュアルにはこのような記述があった:

|   探査とは、対象をおおむね離れたところから対象を調べることをいう。


 そして、このような記述もあった:

|   探査機とは、対象を探査する機器のことであり、対象に近づく方が常識的によりよい探査結果が得られる。加えて、探査機は故障したり壊れるのが常識である。


 というわけで、ルソダワZドオムケゴ‐AAZ2H274N‐A448EA95F宇宙以外に送り出された探査機は絶対常識マニュアル効果により、常識的に、まずはノーマル・マターの近くに現れるのだった。この宇宙であれば、ノーマル・マターは構成要素の5%である。他の宇宙であっても、ルソダワZドオムケゴ‐AAZ2H274N‐A448EA95F宇宙にそこそこ似ているのであれば、1%から15%ほどである。ではあっても、とにかく探査機は恒星や惑星に落ちたりぶつかっていた。

 ルソダワZドオムケゴ‐AAZ2H274N‐A448EA95F宇宙の物理学者も頭を悩ましていたが、地球に住む動植物も、別の問題に頭を悩ましていた。というのも、寒かったからだ。寒さから来る乾燥も問題だった。気にしていなかったのは、クマムシくらいのものだった。

 クマムシは困っていなかったが、探査機の到着――あるいは墜落――により、ホモ・サピエンスはさらに頭を悩ますこととなった。というのも、探査機が着陸――あるいは激突――したのは、ピナクル・ポイントから北に数kmの場所だった。と言っても実感はわかないかもしれないが、15万年ほど昔のことだったといえば、常識的にわかるだろう。つまり、探査機がピナクル・ポイントを直撃していてもおかしくはなかった。そうなっていれば、ホモ・サピエンスはその時点で消えていただろう。

 なお、絶対常識マニュアルには生命の尊重であるとか知性を持った者を尊重するであるというようなことは書かれていなかった。シFヤルグFヤゼカフ星の絶対常識マニュアル出版社でも、そういう事柄の記述について議論はされていたが、その議論はいつも罵り合いになり、一人か二人が病院へ、そして五人ほどが葬式の主役になるのが常だった。

 だから、探査機がピナクル・ポイントからすこし外れたのも、あるいはすぐ近くに墜落――あるいは激突――したのは、偶然だった。

 だが、これらはどれも、ルソダワZドオムケゴ‐AAZ2H274N‐A448EA95F宇宙の物理学者が頭を悩ましていた別の問題――現在、人類がマーフィーの法則と呼んでいるもの――の結果だったのかもしれない。なにせ、絶対常識マニュアルには――常識的に考えればすぐにわかるように――、マーフィーの法則とよく似た記述があったからだ。

 もちろん、ピナクル・ポイントでホモ・サピエンスが頭を悩ましていたのは、寒かったからだけではなかった。生活に使える物資を探しに出ていた、仲間たちがいつまで待っても帰って来なかったからだ。出かけていたグループのほとんどが探査機の墜落の巻き添えを食ったことなどわかるはずもないし、巻き添えを食ったのが求められていた物資をだいたい集め終わったころだったこともわかるはずがないし、ピナクル・ポイントに残った人数は二千人ほどで、スペースに余裕ができたり、食料をとる量がすくなくなって、むしろその面では喜んでいた。帰って来なかったから頭を悩ましていたというのは、期待していた物資が届かなかったからだった。

 ところで、この宇宙は偶然にもルソダワZドオムケゴ‐AAZ2H274N‐A448EA95F宇宙ととてもよく似ていた。絶対常識マニュアル・フィールドが必要ないほどに、よく似ていた。そのため、巻き添えをまぬがれた人が、探査機の残骸から絶対常識マニュアルを見つけ出し、中身を見ることができるほどだった。

 シFヤルグFヤゼカフ星の絶対常識マニュアル出版社はこのような事態を想定していたわけではなかったが、絶対常識マニュアルにはこのような記述があった:

|   絶対常識マニュアルは、著作権者の許可なく複製、改竄、紛失、汚損することはできない。


 先の学生がなぜハックできたのかと言えば、数学科の学生であり、常識がなかったためだ。このことは、絶対常識マニュアルにもこうある:

|   常識的に、理論系の研究者や研究者の卵には、常識が欠けている。


 もう一つ。シFヤルグFヤゼカフ星の絶対常識マニュアル出版社は、販売部数にも気を使っていた。絶対常識マニュアルにはこのような記述がある:

|   絶対常識マニュアルは、言葉を使う者であれば誰でも読める。常識的に、販売戦略上、そうでない理由は存在しない。


 この文言は絶対常識マニュアルと名を改めた時に加えられた。それにより、三十億人いた翻訳者が職を失ったかというと、そんなことはなかった。なにしろ誰にでも読めることが常識なのだ。読めないという種族がいたら、沽券に関わる。だから、絶対常識マニュアル出版社はそこに大金を投じることは辞さない。どっちにしろ雇っていたのだし、これまでに3回あった実力行使に比べれば、結局安上がりだったからだ。

 この文言が加えられた時に、絶対常識マニュアル効果に気づいてもよかったという声もあるが、研究者は常識に欠けているのだから気にしなかったし、一般的には誰もこの文言を気にしなかった。

 というわけで、生き残った三人は絶対常識マニュアルを手に、ピナクル・ポイントへと帰って行った。

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