1−1: 絶対常識マニュアル
オムニバースであるとか、ブレーン・ワールドであるとか、ともかく全体としてはこの宇宙以外にも無数の宇宙がある。ルソダワZドオムケゴ‐AAZ2H274N‐A448EA95F宇宙のエタトフリバ72チモ‐F46L25BY5銀河に属するダケカエヒハパバハ星人は、無数の宇宙の探査に乗り出していた。
ニゲヤピキロアヅセL‐Z225R5SM7‐X9TG62KG4宇宙に到達した探査機は、物理定数と物理法則の違いを絶対常識マニュアル・フィールドによって耐え、観測をはじめた。
絶対常識マニュアル・フィールドについては説明が必要だろう。
「絶対常識マニュアル」は、ルソダワZドオムケゴ‐AAZ2H274N‐A448EA95F宇宙のエタトフリバ72チモ‐F46L25BY5銀河に属するシFヤルグFヤゼカフ星に編集部を置く、絶対常識マニュアル出版社から出版されている。売れているかと言えば、もともとルソダワZドオムケゴ‐AAZ2H274N‐A448EA95F宇宙のエタトフリバ72チモ‐F46L25BY5銀河では3番めに売れていた。
1番売れていたのは、「ヒッチハイクでの銀河の歩き方」という本だった。だが、銀河を超えてヒッチハイクが可能になると、まずタイトルが「ヒッチハイクでのエタトフリバ72チモ‐F46L25BY5銀河の歩き方」に変えられた。可能ではあっても銀河間でのヒッチハイクは、まだ一般的な旅行手段ではなかったので、これでかまわなかった。
しかし、銀河間ヒッチハイクが 流行りだすと、そうも言っていられなかった。まず、タイトルを「ヒッチハイクでのルソダワZドオムケゴ‐AAZ2H274N‐A448EA95F宇宙のエタトフリバ72チモ‐F46L25BY5銀河の歩き方」に変えざるをえなかった。だが、これでは長いし、覚えにくいし、まぁともかく不興だった。
そこで出版社は「ヒッチハイクでのこの宇宙の歩き方」とタイトルを変え、他の銀河についてもお情け程度に記述を加えることにした。
2番めに売れていたのは「大銀河大百科事典」だった。掲載されている記述は正確であり、また厳密なものだった。「ヒッチハイクでのこの宇宙の歩き方」の内容は、多少不正確で、かなり大雑把なものだったが、それでも売れていたのは、実用的であったということもあるが、むしろ「大銀河大百科事典」に挫折する人が多かったからだった。「巻頭辞」が1,000ページあり、その85%が「巻頭辞」の文字、用語、歴史の解説に充てられていた。たとえば、「巻頭辞」は「この大銀河大百科は」と始まっているが、その「こ」の後に括弧書きで、「こ」についての音声学と音韻論的な説明がなされていた。「この」の後にも括弧書きで統語論、意味論的な解説がなされていた。単純に、「読むのが面倒」だった。
そして3番めに売れていたのが「常識マニュアル」だった。「常識マニュアル」は、「ヒッチハイクでのこの宇宙の歩き方」の不十分な記述を補足してくれるという面もあった。とかくところ変われば品変わるというように、エタトフリバ72チモ‐F46L25BY5銀河でも、所により常識は違っていた。想像がつくように、ともかく不便だったし、混乱のもとにもなった。だが、「常識マニュアル」によってなにが常識なのかが示されると、なにが常識なのかは「常識マニュアル」を読めば済む話になった。たとえば、「常識マニュアル」の「ヒッチハイクでのこの宇宙の歩き方」の項目には、こう書いてある:
| あてにするには物足りないが、ともかく役に立つ。ただし、常識的ではない記述が目立つ。
あるいは「大銀河大百科」の項目には、こう書いてある:
| 信用に足るものだが、編纂方針がともかく常識的ではない。
ともかく、長年発行部数3位に甘んじていた「常識マニュアル」だったが、最近になって大刷新を行なった。つまり、タイトルを「常識マニュアル」から「絶対常識マニュアル」に変えたのだ。
これは、発行部数を伸ばしただけではなかった。「絶対常識マニュアル効果」を示す現象が確認されたのだ。原理は未だ不明ではあるが、「絶対常識マニュアル」の記述が変更されると、物理的現象にも影響が表れる。
この「絶対常識マニュアル効果」に注目したのは、物理学者たちだった。というより、他の人々は、そんなことを気にもしなければ、気づきもしなかった。
事の発端は、「絶対常識マニュアル」の配信される内容をハックし、冒頭に「この絶対常識マニュアルの内容は常識ではない。」と書き加えた学生だった。自分の「絶対常識マニュアル」にのみその変更を加えたのは、賢明だった。
その学生は、すぐに確認できることとして、自分の部屋でカップを持ち上げ、手を離した。もちろん、常識的にはカップは落ちるはずだ。だが、その時、カップは落ちなかった。
事はそう簡単には進まなかったが、ともかく「絶対常識マニュアル効果」の可能性は受け入れられた。
だが、その学生のハックの頃から問題となっている事柄がある。つまり、「この絶対常識マニュアルの内容は常識ではない。」という一文は、そもそもその一文が示す対象に含まれているのだろうか。これは「絶対常識マニュアルのパラドックス」と呼ばれている。
それはそれとして、他の宇宙の観測を、どうにかして行ないたいと考える物理学は「絶対常識マニュアル効果」を歓迎した。「絶対常識マニュアル」を探査機に載せておけば、絶対常識マニュアル・フィールドによって探査機が守られ、どれほどの時間かはわからないものの、探査が可能になることに期待した。そして、実際に実験でそれは確認された。
ここから「絶対常識マニュアル」の大躍進が始まった。ともかく、宇宙の数は多い。物理学者の予算の問題はあるものの、予想される発行部数はエタトフリバ72チモ‐F46L25BY5銀河の住人よりも多くを期待できた。
もちろん、シFヤルグFヤゼカフ星の絶対常識マニュアル出版社では、「絶対常識マニュアル」に、「物理学者の絶対常識マニュアルの購入に充てる予算に無制限である。」という一文を加えることが検討された。だが、いまのところその一文は記載されていない。というのも、「絶対常識マニュアル」にはすでに、「なんであれ予算は無制限ではない。」という一文が記載されているからだった。