外伝Ⅱ 妖花~その50 闇~
「失敗に終ったと言うべきかな」
闇から這い出るようなしわがれた男の声が聞こえた。
「確かに失敗よな。まさかこの騒動がこんなに早く終了するとは、いやはや想定外というものだ」
別の男の声もした。先の男と同じようにしわがれていたが、やや声音が高かった。
「想定外……。天使の介入は確かに想定外だ。しかし、それを近くにいて気がつかなかったのか?ネブラスームよ」
ネブラスームと言われた男は心外だと言わんばかりに顔を顰めた。
「あの男はその点ずる賢し。天使から力を下されたのに、それを私に一言も言わなかった。しかも、一度しか使わないとなると、それ以上追求しようがないではないか?それよりも、当初の予定どおりに進めたほうがよかったのではないか?皇帝を篭絡し、さらに悪政を続けさせた方が、帝国はもっと混乱したのではないか?自分の計画が上手くいかないからといって途中で改変されては溜まったものではないぞ、テムレソーン」
ネブラスームの言葉に今度はテムレソーンが顔を顰め、何だと、と声を荒げた。
「やめよ」
凛とした若い女性の声が二人の論争を妨げた。二人は恥じ入るように黙り込み、女の言葉を待った。
「想定外の事態が続いたのは確かだ。それに宰相に近づこうとテムレソーンに言ったのは私だ。落ち度があるとするなら、私の方だ」
女がそう言うと、ネブラスームは恐縮しながら失言でしたと詫びた。
「ネブラスームが天使の介入を見抜けなかったのも責められまい。天使は狡猾だからな」
今度はテムレソーンが恐縮する番であった。
「今回は失敗だったと認めようではないか。これを教訓として時機を待とう。我等にとっては時間は悠久なのだからな」
「姫様がそう仰るなら」
ネブラスームが納得したように言った。テムレソーンも頷いた。
「ネブラスームは引き続き皇帝の近辺にいよ。テムレソーンは帝都に居辛かろう。そうだな……教会に接近せよ。皇帝に匹敵する勢力を作り上げるのだ」
「承知しましたが、姫様はどうなさるおつもりですか?」
「ワグナス・ザーレンツはたぶらかし甲斐のあるいい男だった。ああいう男がまた出現するまで雌伏することにしよう。しばらくはお前達に任せる」
「御意にございます。フィス様……いえ、ソフィスアース様」
ソフィスアースは闇の中で美しく微笑んだ。
『天使と悪魔の伝説~外伝Ⅱ 妖花~』いかがだったでしょうか?毎回のことながら、ここまで長くなるとは思いませんでした。半分ぐらいで終わる予定だったんですけどね。
本編を執筆している当初、いずれはレオンナルドの物語を書きたいと考えていました。この時点では、レオンナルドは後漢の光武帝劉秀、ザーレンツは王莽として描こうと思っていたのですが、本編を書き進むにつれて、『改ざんされた歴史的真実』というテーマに行き着いて、今回のような形を取るようにしました。そして、一番最後は蛇足……とまで行きませんが、最後の最後ぐらいは『天使と悪魔の伝説』らしくしようということでお楽しみいただければと思います。
外伝は一応ここまでとします。気が向いたらまた書こうと思いますので、完結せずに置いておきたいと思います。
次回からは新連載スタートです。ある程度書き溜めていますが、しばらく時間をください。1月中旬ぐらいにアップできればと考えています。




