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天使と悪魔の伝説~外伝~  作者: 弥生遼
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外伝Ⅱ 妖花~その42~

 話はやや戻る。

 ワグナスによって軍を粉砕されたレオンナルドは惨めなばかりの敗走を続けた。途中、敵方であるオルスラン・フランネルに発見されたものの、見逃してもらいなんとか虎口を脱した。しかし、安全圏であるイマン領領都まではまだ遠く離れていた。

 敵は本格的な軍単位での追撃はしていないが、首謀者である自分の探索は続けているらしい。そうなると街道は使えないので、山道を行くしかない。レオンナルドの供回りはテイン以外にも一人いたが、その一人は道にはぐれたのか見当たらなくなっていた。

 「テイン、すまなかったな。俺のせいでこんな目に遭って」

 敗走中、レオンナルドが何度も言った台詞である。

 「気にしてねえぜ、レオ兄。畑耕しているよりも十二倍楽しいぜ」

 テインはこの困難な状況においての悲観的なところは一切なかった。むしろ困難を楽しんでいる風でもあった。

 テインの明るさはありがたかったが、レオンナルド自身は不安の塊の中にいた。

 『俺はこれからどうなるのか?』

 考えるだけで不安で頭がもげそうであった。レオンナルドが皇帝に対して反乱を起こしたのは変えようのない事実であった。勝てば官軍であるが、負ければ賊軍である。敗北したレオンナルドは朝敵となったのである。ここで逃れたとしても、現王朝がある限りはレオンナルドは罪人として一生追われるのである。

 『俺ほどの男がここで終わるのか!』

 耐え難い屈辱であった。凡庸な皇帝が帝位にあり続け、才気あふれる自分が歴史に埋没する。考えるだけでもおぞましかった。

 『しかし、現実は逃亡者か。爺の言うことを聞いていればよかった』

 今頃はネブラは必死になって自分のことを捜しているだろう。彼に見つけてもらうのを今は祈るばかりであった。


 夜になり、レオンナルドとテインは洞穴を見つけて、そこで一夜を明かすことにした。

 連日の逃走生活に精神的にも体力的に限界であった。二人とも硬い地面の下でもあっても、横になればすぐに寝入ってしまった。

 どれほど眠ったであろうか。緊迫した状況であるにも関わらず、レオンナルドは熟睡してしまった。が、唐突に目を覚ました。

 「何だ……」

 外はまだ暗い。テインは隣で熟睡している。自らもまた眠ろうとした時、洞穴の入口付近に人気を感じた。一人の男が暗い目でじっとレオンナルドを見下ろしていた。

 レオンナルドはすぐさま剣を引き寄せた。一方で眠りこけているテインを足で蹴飛ばしたが、起きる気配はなかった。

 「よせよせ。気持ちよさそうに眠っている奴を起こすのは無粋というものだ」

 「何者だ!追っ手か!」

 レオンナルドはわざと大声で言った。しかし、テインは寝息を立てていた。

 「追っ手か……。それならばお前が眠っている間に寝首をかいていただろうよ。なにしろ、レオンナルドの首には賞金がかけられているからな」

 ぞくりとした。今までに感じたことのない恐怖が、レオンナルドの全身を駆け抜けていった。男は、そんなレオンナルドの恐怖を見透かしたかのように鼻で笑った。

 「だが安心し給え。私は地上での金銭や名誉など必要としない」

 男の背後が白く明滅すると、両肩から白い翼が広がった。

 「天使だと……」

 「天界は地上での争乱を好まない。今、地上での争乱と混乱はあの皇帝と宰相で収められまい。収められる新時代の指導者はお前だと考えている」

 これは天界の総意だ、と言ってレオンナルドに小さな水晶のような玉を差し出した。

 「これには膨大な魔力が詰まっている。お前が望めば、敵など一撃のもとに葬り去ることができる。これは使って帝位につけ」

 男天使は水晶を投げた。レオンナルドはそれを両手で受け止めた。

 「信じられぬといった顔をしているな。まぁ、信じられるぬのならそれでもよい。その時はこの世界の片隅で逼塞して死を待つだけだ」

 それはお前が選べ、と言って天使は背を向けた。翼をはためかせ、今にも飛び去ろうとしていた。

 「待て!お前の名前を教えろ!」

 レオンナルドは叫んだ。

 「スロルゼンと言う」

 名前だけを言い残し、男天使は飛び去っていった。

 

 翌日、レオンナルドはネブラの手勢によって保護された。ネブラは主君が生死をかけた逃避行をしていたにもかかわらず、実に落ち着き払っていた。まるでこうなることを予期していたかのようであり、レオンナルドは若干の不気味さを感じながらも、ひとまずは安堵することができた。

 「爺、すまなかった。お前の言うとおりにしていればよかった。許してくれ」

 レオンナルドは素直に謝罪した。

 「いえ。結果としてはこうなりましたが、レオンナルド様が天下に対して己が意思を示されました。そのことこそ、大事としましょう」

 「俺は皇族の一員として逆賊となるのを恐れていた。しかし、今となってはどうでもいい。一時的に朝敵の汚名を被ろうとも、俺はロートンを倒して皇帝になる」

 「よろしい心がけかと思います。しかし、レオンナルド様が朝敵となることはありません。もう少しで仕掛けが成就します」

 それまでお待ちください、とネブラは不適に笑った。

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