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天使と悪魔の伝説~外伝~  作者: 弥生遼
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外伝Ⅱ 妖花~その11~

 カップナプル邸に踏み込むと、衛兵隊長は指示を飛ばした。

 「俺は陛下を捜す。五名だけでいい。副長は残りを率いて地下室を制圧しろ」

 命じられると副長は敬礼だけをして十数名ほどの部下を率いて地下への階段を下りていった。

 「ザーレンツ様達は私と」

 「承知」

 隊長を先頭にワグナス達は邸宅の中を駆け出した。どこで宴席が行われているかは事前に教えられているので迷うことはなかった。

 「衛兵である!火急の用件につき罷り通る!手向かいする者は身分の如何を問わず叩き切る!」

 隊長はそう喚きたてて宴席の場へ向かった。カップナプル邸に従事している者達のほとんどは主君の策謀を知らぬのだろう。手向かいすることなく、呆然とワグナス達を見送った。


 その頃、宴席は外の騒動を知らず恙無く進行していた。この宴席のためにコン・カップナプルはほぼ全財産をつぎ込んでおり、帝国全土から金をかけて集めた美食美酒はロートン二世の舌を楽しませた。

 当初、カップナプル邸へのお成りに対して気乗りしなかったロートン二世も、贅を尽くしたコンのもてなしに満足し、上機嫌になっていた。それは同じく招かれたカザイン・ゲートウェンも同様であった。

 『これで上手くいく……』

 上座の皇帝を見ながらコンはほくそ笑んだ。ロートン二世は楽しげに杯を乾かし、酌をする美女の胸元を覗いて鼻の下を伸ばしていた。

 問題はその皇帝に寄り添うように立っている衛兵二人である。彼らは食事もせず酒も飲まず、表情ひとつ変えず皇帝の傍にいる。手筈どおり家宰が毒見のふりをして皇帝に近づければ事は成功するだろうが、家宰は間違いなく二人の衛兵に殺されるだろう。あるいはコン自身も殺されるかもしれない。しかし、その間に見届け役が地下室に走り、待機している兵をこの宴席の場に入れる。そしてカザインも討ち取る。それでコンの復讐はなるのであった。

 『そろそろか……』

 コンが厨房の方に目をやると、大皿に肉を載せた家宰が姿を現した。帝国中を探して手に入れた最高級の牛肉である。

 「カービンソンの最上級の牛肉でございます。ぜひ陛下に召し上がっていただきたく取り寄せました」

 コンがそう紹介した。

 「ほう。カービンソンな」

 ロートン二世の喉が上下に動いた。この肉の中に皇帝を刺す短刀が仕込まれている。家宰が皇帝の面前まで運び、毒見をするとみせかけて短刀を取り出し皇帝を刺す。そうなるはずであった。しかし、コンの思惑は外からの喧騒によって頓挫した。

 「ご無礼致す!」

 衛兵隊長が扉を乱暴に開け放ち乱入してきた。すかさず皇帝の傍にいた二人の衛兵が皇帝の前に立ち塞がった。

 「何事か?」

 「この邸宅には地下室があり、多数の兵が潜んでおります。すぐにご退出……」

 衛兵隊長が言い終わらないうちであった。家宰は皿を投げ出すと、短刀を握り皇帝へと向かっていった。

 「お覚悟を!」

 ロートン二世の傍に控えていた衛兵のひとりが家宰を取り押さえようとした。彼の不幸は、油断をして帯剣していないことであった。それでも短刀を握った老臣など腕力で捻り潰せると思っただろう。家宰が突き出した短刀が腕をかすっても気にせず、家宰を殴り倒そうとした。

 しかし、次の瞬間、衛兵の視界は大きく歪み、力なく倒れた。口から泡を吹いていたが、もうこの衛兵がそのことを知ることはなかった。

 「毒だ……」

 ロートン二世が呻いた。その事実が衆人の動きを鈍くした。大勢で囲めば容易く家宰を取り押さえることができるだろうが、そのためには毒の犠牲になることを覚悟しなければならない。

 だが、ワグナスは違った。躊躇うことなく家宰に向かっていった。

 「賊が!」

 家宰はわずかに迷った。ワグナスを相手にすべきか、それとも無視してロートン二世に向けて突進すべきか。その迷いが家宰の動きを止めてしまった。ワグナスは短刀を握っている家宰の右手を切り落とすと、剣を捨てて家宰に当身を食らわせた。家宰を殺さず捕らえるつもりであった。

 「カップナプル伯を捕らえよ!」

 ワグナスが叫び、衛兵隊長達はようやく動いた。ワグナスの意図は明白であった。この皇帝暗殺未遂事件がカップナプル伯の単独で行ったことなのか、それとも黒幕がいるのかを聞き出すためであった。

 しかし、家宰はワグナスに取り押さえられた状態で舌を噛み切っており、コン・カップナプルもワグナス達が踏み込んだ段階で事が破れたと悟り、毒を仰いですでに死亡していた。

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