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天使と悪魔の伝説~外伝~  作者: 弥生遼
18/89

外伝Ⅰ 朝霧の記~その18~

 ナガレンツ領に戻ると、スレスはツエンを次席家老に再度任命した。

 ツエンが次席家老になったのは戦場に赴く際の臨時的処理であり、戦争が終わると本来なら消滅する役職であった。しかし、スレスはツエンの才覚を認め、ツエン主導で領内の改革を推し進めるため次席家老に任命したのであった。

 これノイエン・スチルスは当然であるかのように噛み付いてきた。

 『かようなこと、ナガレンツ始まって以来の異常事態だ!罪を問われ謹慎していた者が次席とはいえ家老職に就くとは!』

 ノイエンは喚き立てたが、彼が姑息なのはこのことをスレスや老公に直言するのではなく、他の家臣達に言い触らしたことであった。家臣団からツエン排斥の空気を作ろうとしたのだ。

 だが、意外なところからツエンを援護する動きが起こった。ノイエンの息子ウイニ・スチルスであった。

 『ガーランド殿の改革、まことに結構ではないか!』

 そのように周囲の者と語らい、ツエンの推し進める改革を支持した。

 ウイニは今年で二十三歳となり、領主であるスレスと同年代であった。頭脳明晰で体躯にも優れた俊英である。権門の出であることを多少鼻にかけるところはあるが、そのことで人を不快にさせない陽気さがあり、領内での人望は厚かった。家臣達からは、

 『若きスレス様に若きウイニ様がおればナガレンツは安泰である』

 と誉めそやし、将来に期待していた。ツエンも見所のある若者だと思っていたが、やや異なる見方もしていた。

 『確かに聡明であるが、やや軽薄なところがある。私の改革に賛成なのも、目新しいことが実績を得ているからであり、真の意味での経世済民の精神があるわけではない』

 現在ウイニは家老補佐という役職についている。父であるノイエンの秘書のような仕事をしており、これまで行政の仕事をしたことがなかった。そのため実際に政治や経済が動いている現場を知らず、文字や数字上でしか政論を語っていなかった。そのことをツエンは危惧していた。

 『いずれ行政官として地方にでも派遣させれば変わるであろう』

 ツエンは自分がナガレンツ領の政治を総攬するようになれば、ウイニに修行のつもりで地方の民政監理官にするつもりであった。

 だが、時代はそれほど悠長には流れなかった。皇帝と教会の争乱の後、時代はツエンが予測したとおり乱世を迎えた。帝国各地で内紛、反乱が続発し、ツエンが考えていたよりも速い速度で乱世が進行しつつあった。

 その中で最大なのは、コーラルヘブン領とエストヘブン領の反乱であった。エストハウス家のお家騒動のため皇帝直轄地となっていた両領で民衆が蜂起し、大将軍率いる圧倒的多数の皇帝軍を撃ち破ったのである。この時点ではその反乱の首謀者がサラサ・ビーロスであることをツエンは知らなかった。

 この反乱に対し、皇帝ジギアスは二万の大軍を擁し、反乱鎮圧に向った。

 『我が領も兵を出すべきではないか?』

 という議論が領内で噴出した。因みに皇帝から出兵要請があったわけではなく、自発的意思によるものであった。そのためか、そう主張した者達も強い意思があってのことではなく、皇帝へのご機嫌伺い程度の軽い気持ちであった。決断を下すべきスレスも、皇帝からの要請がない以上、腰を上げるべきかどうか明瞭な判断がつかずに時間だけが過ぎた。

 『早々に出兵すべきです!勝ち馬に乗り遅れてしまいます!』

 激しく主張したのはノイエンぐらいなものであったが、時を置かずして、皇帝軍がエイリー川付近で大敗北したという報せがもたらされた。この時になってツエンはサラサ・ビーロスの名を反乱軍の首謀者として知るのであった。

 『あのサラサ・ビーロスか……』

 ツエンはただ驚くだけであった。利発で只ならぬ少女だと思っていたが、まさかこれほど大それたことを成すとは思っていなかった。

 ナガレンツ領内が騒然となったのは言うまでもない。すぐにでも兵を出し皇帝陛下をお助けしようと言い出す者もおれば、今しばらく様子を見るべきではないかと慎重論を唱える者もいた。

 そこへ皇帝から出兵要請が来たのである。ジギアスは再度、エストブルク領に兵を進めることを決意し、諸侯に出兵を求めたのである。

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