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大罪のØ  作者: 夢辺 流離
7/30

い・お・ん

 「それで、姫様のお名前はなんと言われるのだ?」


 そう言われてセーレは動揺した。

悪魔達にとって、“名付け“とは自分の配下を取り立てるということだ。

有象無象の悪魔達から、替えのきかない存在だと認めたのと同義となる。


 それが常識となっていたので、拾った幼女に名前をつけるということに至らなかったセーレは71柱の悪魔達から冷たい目で見られることになったのだった。


 だが、それは更なる波乱の前触れでしかなかったのである。



「私が姫様の名付け親になる!」

「黙れ、お前のセンスでは姫様に申し訳が立たぬわ!」

「何ですって」

「お、やるか?」


 こんなやりとりが至るところで見られ、冥界はその住人たる悪魔もとい魔神達によって崩壊の危機に瀕していたのである。


 “姫様“の存在が魔神達に認知されて以後、冥界はそれまでになく穏やかであった。


“姫様“にそのような様子を見せては教育に悪いという理由で、生前悪事を犯した人間達の魂の浄化という名の“悪魔達のいびり“は彼らの領地から遠ざけられ、過度に残虐だった試練は撤去され、人間達をいびるよりも“姫様“に気にいられたいと自己啓発に勤しむ者が増えたからである。


 後に“冥界の春“と呼ばれることになるのだが、実は人知れず危機が迫っていた時期があったのだった。


 悪魔達のギスギスした空気が漂い、居心地の悪い思いをしていた“姫様“がセーレに声をかけてきたのは冥界対戦がいつ起こってもおかしくない頃だった。


「あおね、なんかピリピリしててやぁ。高い高いしあいの」


 ちょっと涙目の“姫様“と気持ちは同じだったので、“姫様“を抱えて愛馬の元へと向かったのだった。


 魔神達に代わる代わる好かれる“姫様“にとって久々の空は大変気持ちのいいものだったようで、上空300mでの宙返りで風を受けながらキャッキャと大はしゃぎしていた。


「なぁ、どんな名前がいい?」


 ふとそんな言葉が出たのは自分が失態を犯したことも含めて居心地が悪いからだった。

“姫様“自身が望んだのならみんな渋々とは言え受け入れるのではないか。


「なあえー?」


 後ろに振り返り、バランスを崩す“姫様“を慌てて支えながらセーレが応える。


「みんなになんて呼ばれたいかってこと」


 んーと首を傾げて考え込んでしまう“姫様“。


「んっとね、よみやすいなあえがいい」


 そう言われてセーレは苦笑した。

舌ったらずな“姫様“が、高位の魔神の名前をおうむ返しに呼ぶ度に冷や汗を流したからだ。


「呼びやすい名前か……“イオン“とか?」


 ふと思いついた名前を口に出してしまった。


「いおん?いおん。イオン!」


 自分を指指して嬉しそうにする“イオン“を前に言ってみただけ、とは口に出せなくなったセーレ。


「ああ、俺死んだ…」


 気持ちのいい晴れ空の下で、曇った表情の魔神の小さな呟きを聞き取った愛馬が、ため息をつきながらセーレのことを見ていたのであった。



 遊覧を終えて地上に降りたセーレを迎えたのは71対の死線(死を感じさせる視線)。


「イオン。イオン!」


 空気を読まないイオンが自分を指差してそんなことを言えば背筋を冷たいものが走る。


 しかし、爆弾を投下したのがイオンなら、それを解消したのもイオンだった。


「や!ピリピリしてるのや!」


 幼女の涙に世界中どころか異世界各地で恐れられる魔神達が一斉にたじろぐ。


「こあい顔しちゃメっあの!」


 この一言で全員が激☆沈したのだった。


「イオン様か、悪くないんじゃないか?」


「音の響きが綺麗ね」


 とかそんな声が聞こえてくる。

ようやくセーレは息をつけたのだった。


「なぁ、どういう由来なんだ?」



   再度、爆弾は投下されたのだった。


 再び71対の瞳が刺すようにセーレに向けられ、1歩2歩と足が下がり、振り返ると同時に駆け出したセーレは過去最速で愛馬へと跨がり空へとにげたのだった。


「もう勘弁してくれ~」


 そう叫ぶセーレを見送った魔神たち。それは自分たちも名付けたかった彼らのせめてもの仕返しであった。セーレの姿が見えなくなったところで


「見たかあの逃げっぷり、ウケる」

「ざまぁ」


 などと言い合って笑いあっていた。

イオンはよくわからずキョロキョロと辺りを見ていたが、皆が笑っていたので自分も笑い、それを見て魔神たちも喝采したのだった。




「言えるわけないだろ…異世界の言葉を当てて易音いおんなんてさ。絶対殺される」


 遥か上空でうなだれる主人を愛馬だけが無言で寄り添って慰めていた。



 

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