悪魔達のトップ
「イオン様、起きてください。朝ですよ」
鈴がなるような声で話しかけられて、まだ眠たげな様子は隠しきれなかったが、モゾモゾと布団からはい出たのは幼女である。
「ふぁい~えはる(ウェパル)~おあよ(おはよ)~」
舌足らずな朝の挨拶に頬を緩めながらウェパルは目覚まし用の紅茶を煎れる。
その格好は所謂メイド服(生地がしっかりした本格的なやつ)である。
「本日のお召し物はいかがなさいますか?」
そう言って見やすいように並べられたのは2種類の服だった。
一方は白いフリルで飾られた可愛らしいワンピースで、シンプルな作りだったが、とても丁寧に縫製されていて、無論生地も上等であり、上等な服であると見ればわかる。
もう片方は緑色のグラデーションがかったTシャツにベージュ地に茶色の飾り紐のついたホットパンツだった。正直、ワンピースの方に比べればそれほど出来がいいというわけではないが、ワンピースの方が出来が良すぎるというだけで、着用になんの差し支えはない。
そして、イオンが選んだのは……
ホットパンとTシャツだった。
「ばんざーい、してください」
ウェパルの言うがままに万歳したイオンはそのまま服を脱がされ選んだ服を着せられる。
「自分ええきるのに…」
とちょっとふて腐れたように言うイオンだが、ウェパルは全く動じることなく、むしろ嬉しそうに笑いながらイオンのパジャマを剥いで着替えさせていく。
「遊びに行ってくるー
」
着替え終わるや否や、ふて腐れた様子もどこへやら勢いよく部屋を飛び出すイオン。
「行ってらっしゃい」
ウェパルは胸の前まで上げた手を小さく振りながらその様子を見守っていた。
その部屋を出た先、イオンが走っていった方向とは逆側に二柱の魔神がいた。
一方は王位のアスモダイ、あらゆる工芸を極めている。
もう片方はグレモリ。
地位は公爵で、数少ない女性の姿で人々に認識されている魔神。編み上げのサンダルを履き、白地のチャイナドレスのような服の上から革製のコルセットベルトをつけており、頭部はつばがないベレー帽のようだが、少し深めの、変わった被り物をしている。濃紺の生地で金の刺繍で蔦や花が縫い取られている。
「おい、ウェパルのやつを買収したんじゃないだろうな」
そんな声が聞こえてきて、グレモリは不快そうに表情を歪めた。
「どう考えても俺の用意したワンピースの方がいい出来だったはずだ」
それはその通りだった。グレモリが用意したのは異世界の店で売っていたモノを部下に買いに行かせただけのものだ。
「くそ、インチキをしていようがいまいがイオンが選ぶ服を作って見せるからな。覚えていろ」
そう言って自分に背を向けたアスモダイに伝えようかと思った
。
姫様は、基本の色さえかわいい好みにあったものなら後は動きやすい服の方が好きなんだよ。
しかしその言葉は声になることはなかった。明日はまだ私の準備した服を着てもらえそうだ、と微笑みながら。
ーーー全悪魔はイオン、と呼ばれた幼女にすっかり魅了されていたのだった。