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瞳の色に合わせた淡い緑のワンピース、その選択は悪くなかったはずだ。
---腕周りのところが左右で高さが違っていなければ。
---縫い跡が折れ曲がって生地が歪んで否ければ。
---etc,etc…
これでもセーレは頑張ったのだ。
剣を持つ手に針は小さ過ぎるよな。
何はともあれ、彼女に着させようとしてみると、
やはり着心地がいいはずも無く、
「こえ、や~(これ、いやー)」
と目の端に涙を溜めて服を脱いでしまう。
俺の苦労はただの布切れに負けてしまったらしい、と思えば多少悔しくもあるが、しかたないよな。元々やったこともなかったんだし。
服を作るにあたり、情報収集に赴いた人間達ってすごいななんて思ってしまった。
ベッドに体を投げ出して、寝てしまおうと思った。
「くっそ、何でだよ!何で俺はこんなことをしてるんだよ!」
セーレは向かい風にぼやきながら白馬を必死に手繰っていた。
向かう先は黒く、禍々しき城の主、セーレと同じくアマイモンが配下の悪魔、アスモダイのところである。
応接室に案内されたセーレはしばらく待たされ、アスモダイがやってきた。
「おお、セーレ良くぞ来た。いつもお主には世話になっている。」
雄牛、人間、雌山羊の3つの頭に、蛇の尾を持ち、
呼吸に合わせて炎が吐き出される、そんな恐しい外見とは裏腹に挨拶は丁寧であった。
「しかし、お主のほうから訪れるのは珍しいな。配達の頼みでもなければ気ままに空を飛んでいる変わり者が。」
「アスモダイ様、お願いがあります」
「なんだ?どこぞの悪魔にふっかけるのに我が軍団を借り受けたいとかか?」
「私に服飾の技術を授けてください」
アスモダイは外見の恐ろしさ、強大な力を持つのとは裏腹に、喚起(召喚)した者が望めば知識や工芸についての技術を授けてくれるという一風変わった性質を持っていた。
頭を下げるセーレをしばし見下ろしていたかと思えば、
「この馬鹿者がっ!それは人間が我を呼ぶことに成功した時に気分がよければくれてやるおまけのようなものだ。我が王の位、お主が公爵の位と歴然とした身分の差はあれど同じ魔神、隙あらば成り上がってやると虎視眈々と目を光らせているのが我々悪魔というものぞ。それを…」
しかし、セーレの目の意思の強さを感じ取ったアスモダイは何かある、と思った。
「我々は衣服などいらぬ。となれば誰のためにその知識を求める?どうしてもというならばその者を連れて来い。採寸をせねばならぬ、実地で教えてやろう」
このとき、アスモダイは実際に教授してやろうという気はない。
少なからず目をかけていたセーレを誑かした存在を捻り潰してやると物騒なことを考えていた。