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「高い高ーい」
両手で抱えられ、きゃっきゃっと喜ぶ幼女。
上空約100mで行われたその行為は文字通り高い高いだった。
初フライト以来、どうも空を飛ぶのがお気に入りらしく、
家に置いていこうとするとぐずるのだ。
そんな様子も可愛らしいのだが、セーレは甘々なので結局背負い鞄のようなものを担いで中に入れている。
当然ながら育児などというものを悪魔が知るはずも無く、
配達の傍らで異世界へと飛び、子供連れの親を観察したり、
本を売っている店に行って立ち読みしたりする。
翼付の馬は目立つので町の外に置いて行くのだが、
当の本人の顔や服装が目立つので実はあまり意味がない。
どこかの王子様かしら?などと頬を染める女性の客や店員はセーレが読んでいる本を見て子持ちかよ!と悔しそうにしつつも、苦戦する父親像を想像してがんばれ!と応援していたりする。
もしセーレがうっかりソロモンのいた国で同じことをしていたら、良くてコスプレイヤー扱いでネット上に流され、最悪の場合は変体扱いで職質をされていたであろう。
蛇足だが、基本的に物理的に干渉できないはずの悪魔が本を読めるのか?という疑問に対し、魔神クラスの悪魔であれば力技で可能。霊体である自身を濃縮に次ぐ濃縮を行い、物理的に影響が出てしまうまで無理やり圧縮するのである。
つまりごり☆押しだ。
「ふむ、育児と言っても奥が深い。正直甘く見ていた…おっと、もうすぐお昼寝が終る時間だな」
慌てて本を元の位置に戻すと町の外に出て愛馬に跨る。
2時間もの立ち読みに普段の店主であればはたきを持って近くでパタパタして間接的に『カ・エ・レ!』のメッセージを送るのだが、セーレがいると、それを見におば…お姉さん方から若い子まで客足が増えるので黙らざるを得ない。
「くそ!爆発しろ!」
そんな台詞が聞こえてきて、
セーレは今まで自分がいた本屋で何があったのだろうと首を傾げることになる。
「人間の世界も物騒なんだな…」
そんなことを繰り返し、あやし方などを覚えたりしたが、
いい加減衣服を整えてやらねばならない。
いつまでも布を巻きつけているのは流石にどうかと思うしな。
アスモダイ様あたりに頼めば作ってくれないかな?
ダメだな。アスモダイ様が共感してくれるとは限らないし、あの外見を見たら彼女はまず泣くだろう。
「そうだな、それは最後の手段だ。まずは自分で何とかしてみよう」
悪魔は肉体を休める必要はないので、
寝る間を惜しんで、というのは正しくないかもしれないが、それでも時間を惜しんで服飾に従事したのは間違いない。
「うん、俺才能ないわ」
そこにあったのはバラバラに4つ穴が開いた元生地であったものだ。
「模様とかはともかく、服の形くらいにはなると思ってた…」
セーレはがっくりと肩を落とした。
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